大阪の熾烈な百貨店競争に「庶民派百貨店」はどう挑む?――全面リニューアルした「阪神梅田本店」を徹底解剖(2)

大阪の熾烈な百貨店競争に「庶民派百貨店」はどう挑む?――全面リニューアルした「阪神梅田本店」を徹底解剖(2)

  • ハーバービジネスオンライン
  • 更新日:2018/06/13
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新装なった「阪神梅田本店」の夜景。窓が印象的だ

前回の記事「デパ地下で「せんべろ」も――全面リニューアルした「阪神梅田本店」を徹底解剖」では、6月1日に第1期新装オープンを迎えた「阪神梅田本店」(大阪市北区)について、地階「スナックパーク」を中心に、生まれ変わった同店の魅力と新たな顧客獲得のための取り組みを紹介した。今回は地階から上層階の様子についてリポートしてみよう。

大阪の百貨店業界が抱える問題

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各百貨店の増床計画発表後、僅か4年で閉店した「そごう心斎橋本店」。現在は大丸心斎橋店北館となっているが、2021年には同館にパルコも出店する予定

さて、地階から上層階へと上がる前に、ここで大阪の百貨店業界が抱える大きな課題「オーバーストア問題」について触れなければならない。

大阪では、2005年のそごう心斎橋本店開店以降、百貨店の増床・開店が相次いでおり、とくに2011年の高島屋大阪店(本店)、大丸梅田店(うめだみせ)の増床、JR大阪三越伊勢丹の開店、そして2012年の阪急うめだ本店の建替全面開店により、百貨店の売場面積が5割ほど増加することとなった。

当時、オーバーストアによる過当競争状態となった大阪の状況は「2011年問題」とも称されたほどで、熾烈な競争に敗れて僅か4年で閉店に追い込まれた「JR大阪三越伊勢丹」、「そごう心斎橋本店」の話題は全国ニュースでも大きく取り上げられた。

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大阪市周辺の主な百貨店・都市型商業施設の動き(2005年以降)

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図:大阪市に本店を置いていた百貨店6店舗の売場面積推移。これ以外にも大丸梅田店などが増床開店している(作成・都市商業研究所)

「インバウンドに頼らない」阪神の戦略は?

オーバーストア状態となった大阪の百貨店業界だが、そうしたなか、売り上げを支えているのがインバウンド需要だ。

例えば、関西国際空港へのアクセス駅である南海なんば駅に出店する高島屋大阪店(本店)の2017年度の免税売上高は約240億円で、3年前の約5倍にも伸びており、これは全売上高(1414億円)の2割弱にも達する。もちろん、免税対象外品でも外国人による消費は伸びているといい、同店は66年ぶりに高島屋全店において売り上げ首位となった。

また、大丸心斎橋店(しんさいばしみせ、本店)では、南館に大型免税店「ラオックス」が出店しており、こちらも多くの外国人客が訪れる人気スポットとなっている。

しかし、こうしたインバウンド需要を存分に享受できているのは、観光地要素の強い大阪ミナミ(心斎橋・難波・天王寺の各エリア)の百貨店で、キタ(梅田エリア)の百貨店は引き続き地元民が顧客の中心だ。

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66年ぶりに高島屋で売り上げ首位となった高島屋大阪店。関空へのアクセス駅である南海なんば駅に出店する

阪神梅田本店もキタに立地することから、ミナミの各百貨店ほどインバウンド客の比率が高いわけではない。新・阪神百貨店が想定する主な顧客もあくまで「地元客」であるといい、そのうち今回とくに目指したのが「地元・梅田で働く30代から40代のOL」(なかでも阪急阪神百貨店が「西梅田OL」と呼ぶ働く女性層)を新規に取り込み、日常的に来店してもらうことだという。

これまでの阪神百貨店は、永年のライバルであった阪急百貨店に比べると顧客の年齢層も高めで、どこかほのぼのとした雰囲気を感じさせられる売場も多く、地階ではサンダル履きで談笑をする大阪マダムたちの姿も見られた。一方で、周辺のオフィスで勤務する「西梅田OL」は、徒歩圏にある阪急百貨店や阪急系列のファッションビル、そしてJRの大阪駅ビル「ルクア」などで買い物することが多かった。

こうしたOL層の取り込みを目指した改革の象徴と言えるのが、食品売場を大幅に拡大し、これまで婦人雑貨などが販売されていた1階の大部分も食品館としたことだ。1階には新たに人気のベーカリーを集めた「パンワールド」や、約400種類のワインが試飲できる「リカーワールド」が展開されたほか、アメリカ初のハンバーガーレストラン「Shake Shack」の関西初店舗も開設された。

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人気チェーンの関西初店舗を1階に配置、若年層やビジネスマン・OLを取り込む(Shake Shack)

この「パンワールド」は、時期によってテナントが変わる催事形態の店舗が多いことも特徴。「食パンのセレクトショップ」は、1週間あたり約30のベーカリーから日替わりで毎日15種類の食パンが並ぶなど、日々の変化が楽しめるコーナーとなっており、「毎日来店したくなる」売場づくりがなされている。

取材に応じた同店の販売促進部ゼネラルマネージャー・松下直昭氏(以下、松下GM)によると、こうした「日替わり」売場も阪神の特徴の1つであるといい、同店のコンセプト「毎日が幸せになる百貨店」を象徴したものだという。

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日替わり・週替わりで話題のパンが登場する「パンワールド」

阪神は「日常に特化」で棲み分け

さて、ここで気になるのは、グループ企業となった「阪急百貨店」との棲み分けだ。

阪神梅田本店の向かいにある阪急うめだ本店は、阪神に比べてOL世代の顧客が多いことが特徴であり、阪神が取り組む顧客拡大の対象層と一致する。

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阪急うめだ本店

そこで、阪神百貨店が棲み分けのために取り組んだのが「日常への特化」だ。

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取材に応じる阪神販売促進部ゼネラルマネージャーの松下直昭さん。「日常への特化」に取り組んだという

4階婦人服売場では、これまで百貨店に出店していなかった「コストパフォーマンスの高いテナント」(松下GM談)を新たに誘致。また、2階ではハンドメイドアクセサリーを取り扱うほか、まもなく梅雨の時季に入ることもあり個性豊かな「ビニール傘」200種類を展開するなど、各所で上質でありながら百貨店にしては手軽な「日常使いできる上等品」の品揃えを強化している。これらはOLをターゲットに据えつつも「庶民派」として親しまれた阪神だからこそできた売場とも言える。

松下GMによると、建て替え第1期棟のうち4分の1が2021年秋の全面開業に向けた「テストマーケティング」要素を持った売場であるといい、各フロアの窓際に設けられたテラススペースでは今回の「ビニール傘」のような「挑戦的な」期間限定商品や期間限定イベントの展開を数多く実施する計画だという。

「限定」という言葉を聞くと、売場を毎日チェックしたくなるOLも少なくないであろう。百貨店といえば、通常「たまにしか行かない」という人も多いと思われるが、このように、食品・ファッション・ライフスタイルなどあらゆる分野において「日常的に」「頻繁に」来店したくなる仕掛けが多く取り入れられているのが新・阪神梅田本店の一番の特徴であるといえる。

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各階に設けられた「テラス」では個性的な期間限定売場も多く展開される

また、阪神百貨店が従来から得意としてきた骨董品売場においても「こっとう女子」に向けて関西発のライフスタイル情報誌「SAVY」とコラボした商品提案を行うなど、若年層へ向けたアプローチが行われていることもおもしろい。

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阪神が得意としてきた骨董品売場にも若者をターゲットとしたコーナーが

なお、近年「顧客層の拡大」「若年層の取り込み」を掲げる多くの百貨店では、いわゆる「ファストファッション」などの大型専門店を導入する例も少なくないが、そうした店舗はJR大阪駅ビル「ルクア」など徒歩圏の大型商業施設に出店しているということもあり、阪神梅田本店では導入されていない。こうした面を見ても、同店がライバル店と対峙するような真っ向勝負を挑む訳ではなく、阪急百貨店のみならず地域における商業施設ごとの棲み分けに配慮された、梅田エリア全体の価値を高めるような売場構成となっていることが伺える。

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OLにも人気の大阪駅ビル「ルクア」。写真の「ルクア1100」は旧「三越伊勢丹」部分にあたり、ファストファッション「フォーエバー21」や大型書店「蔦屋書店」などが出店する

阪急、阪神とともに「梅田全体の価値向上」に

阪神電鉄は現在、旧・阪神本店西側部分の建替工事を進めており、今回開業した部分と合わせて2022年春に「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」として全館グランドオープンする予定だ。なお、百貨店部分は2021年秋に全面開業し、高層階はオフィスとなる。

さらに、2022年には阪急うめだ本店が入っている梅田阪急ビルを「大阪梅田ツインタワーズ・ノース」に改称、両ビルを「大阪梅田ツインタワーズ」と総称する予定で、阪急・阪神の更なる連携が図られることになる。

H2Oリテイリング広報によると、阪急うめだ本店では、阪神との棲み分けを図るべく今後さらなる「非日常性」「ラグジュアリー性」の提案、高感度ファッションの充実、そしてインバウンド需要の取り組みを目指すとしている。とくに、催事については、阪急ならではの「グローバルで通用する魅力あるスペシャリティコンテンツ」の開発を進めているという。

かつては「ビジネス街」「歓楽街」という印象が強かった大阪キタ・梅田エリアであるが、1990年代からの再開発により、その姿は大きく変わることとなった。

今後、梅田エリアでは2019年に「ヨドバシ梅田タワー」が竣工するほか、今年夏には梅田貨物駅跡地を再開発する「うめきた2期」の事業者も決定する予定だ。

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鉄道用地の再開発により2001年に開店した「ヨドバシカメラマルチメディア梅田」。現在同社で最も売り上げが多い店舗となっており、隣接して新館「ヨドバシタワー」の建設も進められている

そうしたなか、日常生活を豊かにすることを目指す「阪神百貨店」と、上質なカルチャーを提案して非日常の極みを目指す「阪急百貨店」という、永年ライバル関係にあった百貨店同士の連携は、梅田エリア全体の価値を高め、梅田を国内外から多くの客を集める「一大文化拠点」へと成長させる一端を担うことに繋がるであろう。

再開発で生まれ変わる梅田の街と、街とともに成長していく2つの百貨店の今後が楽しみだ。

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近く再開発が開始される貨物駅跡地の「うめきた2期」地区。JR大阪駅に隣接するが、現在は更地のままだ

<取材・撮影/淡川雄太 文/淡川雄太 若杉優貴(都市商業研究所)>

都市商業研究所

若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken

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