本物のヤクルトファンに学ぶ「負けても怒らない」精神

本物のヤクルトファンに学ぶ「負けても怒らない」精神

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/08/11
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神宮球場にぶらりと立ち寄って、気楽に観戦できるだけで十分。1勝が見られればラッキーだ―。なぜかアンチが少ないスワローズ。その理由は、温かくチームを見守るファンが多いからかもしれない。

「東京のいい子」が応援する

「ヤクルトの選手は、一生懸命闘う選手が多いですね。負けても悪態をつくことはありません。ではどうするかというと、素直に落ち込んでいる。そういった選手の姿を見ると、『なんとかしてやりたい』と思い、かえって応援に熱が入るんです。

選手一人ひとりから『哀愁』が漂っているところがヤクルトのいちばんの魅力ですね。

今年の戦力や順位について、いろいろな見方をするファンがいると思いますが、どれだけ負けが続いていても淡々と応援するのがヤクルトファンのあるべき姿のひとつだと思います」

このようにヤクルトへの思いを語るのは、ファン歴30年以上の脚本家・ジェームス三木氏だ。

5月末からは10連敗、さらに7月頭からは14連敗。優勝はもちろん、クライマックスシリーズ進出の可能性もとうに消えた。

だが不思議なことに、この球団には過激な批判やヤジを飛ばすファンが少ない。苦しい時期を温かく見守る、「大人」のファンがたくさんいるのだ。

国鉄時代からのスワローズファンという映画監督の崔洋一氏も次のように語る。

「僕がスワローズのファンになったのは小学生のときです。やっぱり400勝エース、金田正一の存在が大きかった。でも好きになったとはいえ、国鉄は弱くて、平気で首位と40ゲーム差くらい開いてしまうこともあったね。

当時の東京の学校では、クラスの男の子の8割以上は巨人ファンなわけだけど、判官贔屓なところがある僕としては『東京のいい子が応援するのは巨人じゃなくてスワローズだ』と思っていた。

言ってみれば負け惜しみなんだけど、だからこそ負ければより応援したくなったんだよね」

そもそも、ヤクルトは巨人やソフトバンクのように、資金力が豊富な常勝チームではない。たしかに'90年代、野村克也監督が築き上げた「ID野球」黄金期は強かった。

さらに古田敦也や宮本慎也ら「野村チルドレン」が主力として活躍し、日本一を勝ち取った'01年、そして山田哲人がトリプルスリーを達成しチームを牽引した'15年の優勝も記憶に新しい。

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Photo by GettyImages 山田哲人

だがあくまで、本物のヤクルトファンの認識は「弱い球団」なのだ。Bクラスは'50年の2リーグ制以降48回、最下位は15回、12年連続Bクラスだったこともあった。16連敗のセ・リーグ記録を打ち立てたのは、他ならぬ'70年のヤクルトアトムズである。強かった時期は決して長くない。

負けるのが好きな球団というわけではもちろんない。むしろ、乏しい資金力のなか、国鉄、サンケイ、ヤクルトと親会社の変遷を遂げながらも、スワローズはセ・リーグを70年近く戦い抜いてきた。

巨人・阪神らに虐げられてきた暗黒の歴史もぐっと呑み込んでいるからこそ、本当のファンはこのチームを長く愛し続けられるのだ。

人生、負けることもある

'80年代のスワローズをよく知る、ニッポン放送の煙山光紀アナウンサーは語る。

「僕は'78年、高1の時にヤクルトが初優勝を決めた時のチームが大好きになり、ファンになりました。そのまま日本一になったところまではよかったのですが、翌年は開幕から8連敗し、いきなり最下位。

シーズン中に広岡達朗監督が辞任した時は、布団にくるまって悔し泣きをした覚えがあります(笑)。でも、それ以来は『たまに巨人に勝ってくれればいいな』と気楽に応援するようになりました。

以来ヤクルトは5回日本一になっていますが、ジャブジャブお金を使って戦力を揃え、日本一をかっさらったことは一度もありません。今持っている戦力のなかで、知恵を使い、いろんな方法で勝つ。

今年は例年以上に苦しんでいますが、山田の打順を替えてみたり、ストッパーを試行錯誤したりと、むしろボロボロのなかでよくやっているな、という気持ちで見ていますよ」

そんな懐の広いファンが多いスワローズだが、7月7日の広島戦で「事件」が起こった。5点リードの9回表、新守護神に指名された「ライアン」小川泰弘が大炎上。逆転負けを喫したのだ。

これに怒った一部のファンは、ダッグアウトから引き揚げる真中満監督に心無いヤジをぶつけた。彼らのフラストレーションはこれに収まらず、神宮クラブハウスの入り口を取り囲み、真中監督に謝罪を要求し、警備員が制止する一触即発の状況となった。

だがこのような暴動騒ぎが起こるのは珍しい。

ヤクルトファンで画家・タレントの城戸真亜子氏は今回の騒動について次のように語る。

「負けが続くのは残念ですが、だからといって暴動騒ぎを起こすようでは、ヤクルトファンらしくないですね。

私自身、ヤクルト戦を現実に置き換えて『人生、負けることがあるのは当然』と思って応援しています。ケガ人が早く一軍に戻ってくることを祈り、その間に若手が来シーズンに繋がる活躍をすることを期待する。連敗しているときこそ応援するのが真のファンのプライドです」

14連敗という長いトンネルから抜け出したのは7月22日の阪神戦でのこと。それから4日後、26日の中日戦には、借金続きのチーム状況にもかかわらずレフトスタンドまでヤクルトファンが詰めかけた。

そんななか、一時は10点差まで開いた試合をひっくり返し、2夜連続のサヨナラ勝ちを収めたのだ。

ドラマティックな幕引きとなったが、阪神ファンのように狂喜乱舞はせず、粛々と勝利を噛み締める。

「他の球団だと、監督が名指しで選手を批判しますが、ヤクルトの首脳陣は選手をかばう。甘やかしているわけではなく、選手といい距離感が取れているのだと思います。

これはファンとの距離感にも言えますね。優勝した時も、一緒にまとまって、チームを勝たせるために応援するというより、バラバラに楽しんでいます。

スタンドでは東京音頭で揃いの雨傘を持って踊っているように見えますが、強制されることなく、みんな思い思いに野球観戦しているだけなんですよ」(前出・煙山氏)

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Photo by iStock

東京音頭に合わせ、ビニール傘片手に気ままに踊る姿は、まさしく自由なヤクルトファンのスタンスを象徴している。

静かに応援していた女性ファンが、得点が入るとカバンからおもむろに傘を取り出して淡々と振り、ひとしきり終わるとカバンにしまう。そんな光景を目にするのも神宮球場ならではだ。

外野スタンドでも、応援団から「こういう動きを全員でしろ」と言われるだとか、そういった決まり事は特にない。

村上春樹も愛する神宮球場

神宮球場というホームも、他のチームにはない独特なファン層が形成される一因だろう。神宮球場には、阪神甲子園はもとより、いま一大旋風を巻き起こしている広島のように、熱狂的な地元ヤクルトファンが連日詰めかけたりはしない。

神宮球場ではペナントレース中も高校野球や六大学野球が開催され、その試合後にヤクルト戦が開催されることもある。他のプロの本拠地ではあまり考えられないことだ。

さらに近隣には一般人がプレーする草野球場もあり、どことなくのどかな雰囲気を醸し出している。熱心なヤクルトファンとして知られる村上春樹氏も、神宮の外野席でヤクルト戦を観戦中、小説家になることを思い立ち、『風の歌を聴け』が生まれたとのエピソードもある。

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Photo by GettyImages 村上春樹

巨人が本拠地を置く東京ドームとはそう遠くない距離にあるのに、まったく異なる空気感が神宮にはある。前出・城戸氏は「神宮球場の雰囲気が特に気に入っている」と言う。

「私は渋谷区にある小学校に通っていたので、神宮球場は小さいころから身近な存在に感じていました。東京ドームとは違って、神宮の杜に囲まれてちょっと洗練されている。夏場は涼しい風が吹き抜け、『都会のオアシス』のような清涼感がありますよね。

ヤクルトの選手たちも、野球少年がそのままプロになったような、朴訥な印象があって応援したくなるんです」

プロ野球という派手な世界のなかで、スワローズの選手たちは純粋に大好きな野球に向き合っているとファンは感じているのだ。

前出・崔氏も神宮球場が持つ魅力を次のように語る。

「実はスワローズの本拠地はもともと後楽園球場だったんだけど、国鉄時代の'64年に神宮球場に移した。

後楽園球場は'72年まで競輪場が隣にあって、酔っ払いや怪しいオジサンがあたりをうろついていたので、女性や子供は近寄りがたい雰囲気があったんですよ。

一方で神宮球場は緑が豊かな球場で、誰にでも開かれた空間にある。このこともあって、ますますスワローズという球団に惹かれるようになったね」

たとえ弱くても、野蛮なヤジを飛ばしたりしない。ファンがチームを信じているからこそ、時としてめざましい栄冠をつかむこともある。

'01年にスワローズを日本一に導き、「ファンのみなさま、おめでとうございます!」との名言を残した若松勉元監督は次のように語る。

「神宮という土地柄もあるかもしれないけど、基本的にヤクルトのファンは大人しい人が多いのかもしれないね。監督時代、もちろん厳しいことを言われることもあったけど、負けが込んだときに励みになる声援をくれるファンもたくさんいた。

だから連敗中、真中監督にグラウンドで会ったときには『ここで頑張んないとだめだよ。選手も監督の顔を見たらわかるから、自分に負けちゃだめ、耐えなさいよ』とアドバイスしましたね。

真中監督はポーカーフェイスでグラウンドに出るけど、根は明るいやつですから」

一勝二敗で御の字だ

'80年代、Bクラス9回と低迷したヤクルト。苦しい時期を正捕手として支えた八重樫幸雄氏もこう語る。

「プレーボールが掛かってからの神宮球場の空気は、後楽園球場や東京ドーム、甲子園とは違いましたね。チームを勝たせるために応援するファンばかりではなかった気がします。

『お父さんが国鉄で働いてたから』とか『ちょっと野球観戦したいな』という感覚で球場に来る人が多かった。

でも、ここぞという時に叱咤激励してくれるファンもいました。ファンと選手のあいだに高い敷居はなくて、みんな同じ『仲間』っていう雰囲気がヤクルトには昔からありましたね」

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Photo by GettyImages

前出・崔氏も「ヤクルトにはクラブチーム的な雰囲気を感じる」と言う。

「選手に対する強烈なヤジとか批判は白眼視するような風潮が神宮球場にはあるね。同じ東京に本拠地を置く巨人はみんなの憧れの的で、選手はファンの『代弁者』。

うがち過ぎかもしれないけど、巨人を応援するために東京ドームに集まることは、ちょっと自己満足なところがあるんじゃないかと感じてしまいます。

一方でスワローズとそのファンはクラブチーム的で距離が近く、だからこそ本物の東京ローカルっぽさがあるんですよね。これは国鉄、そしてサンケイ時代から変わらないと思います」

前出・煙山氏も「試合を見ているだけで楽しい」と話す。

「'80年代に監督を務めた関根潤三さんは『一勝二敗の勝者論』という本を出しています。その中で関根さんは『人生、一勝二敗で御の字だ』と語っていて、『それでは優勝できないんじゃないか』と思うところもありますが、素晴らしい人生観ですよね。

スワローズは勝ちにあんまりガツガツしないファンが大半ですから、今回のように暴動騒ぎを起こす人も本当に少数派なのでしょう。なにしろ12球団で唯一と言っていいぐらい、ユルい気持ちで試合観戦に行けるチームですから」

試合結果に過度な期待をすることなく、「一勝二敗で御の字」の精神でチームを見守っていく。これが本物のスワローズファンの「野球哲学」なのだ。

「週刊現代」2017年8月12日号より

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