「幻滅」が生んだ白鵬の取り口批判

「幻滅」が生んだ白鵬の取り口批判

  • 時事通信社
  • 更新日:2018/01/14
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多くの見物客で埋まる観客席=14日、東京・両国国技館

◇大相撲の観客は優しい

今年の初場所は初日が14日と遅かったが、それでも館内には着物姿の女性もいて、1年初めの場所は新年らしい雰囲気で始まった、九州場所が元日馬富士の傷害事件で大揺れに揺れた後の12月4日に始まった前売りは完売。場所前には式守伊之助のセクハラ問題が起きたが、この日は満員札止めとなった。

続々と詰めかける観客に交じって、テレビ解説のために場所入りした元横綱の北の富士勝昭さんは「今はまだいいとしても、影響はじわじわ出てくる。今場所でいい相撲を取って、問題が続かなければいいが」と心配そうに話した。

退職する伊之助については「恥ずかしくて続けられないだろう。毎日土俵へ上がってテレビにも映る。セクハラのような問題は、その後、何をしたってそういう目で見られる。お客さんを幻滅させちゃったら駄目だよ」と突き放した。

前日、伊之助の処分を決め、記者会見で深々と頭を下げた八角理事長(元横綱北勝海)。初場所に新たな決意で臨む気持ちを表したかったのか、協会あいさつで伊之助の不祥事に触れなかった。館内からは「ちゃんと謝れ」「何か(言うことが)あるだろう」などの声も飛んだが、多くは奮起を促す声援だった。「理事長頑張れ」の声援も多く、八角理事長は「やはり温かいね」としみじみ話した。

同じ光景は過去にもある。例えば2007年、朝青龍がサッカー騒動で出場停止処分を受け、代わって師匠の高砂親方(元大関朝潮)が優勝杯返還のため土俵に上がった時も、厳しい声に交じって「親方頑張れ」の大きな声が聞こえた。

これが甲子園球場あたりだったらどうか。スポーツの応援や観戦風景にはそれぞれに伝統や風土があって様子が異なり、大相撲の観客は優しい。「観戦」とともに「見物」の趣もあるため、激しいヤジや手拍子が他の観客の興をそいで無粋に聞こえるのも、大相撲独特の雰囲気だ。「ただ、それに甘えてはいけない」と厳しい表情で話した理事長。全てはこれからに懸かっている。

◇「注文」に応えた白星発進

そんな初日の結びに、一連の騒動で渦中の一人だった白鵬が土俵へ上がった。元日馬富士の暴行現場にいて早く止めなかったとして無給で出場する場所。さらに横綱審議委員会(北村正任委員長=毎日新聞社名誉顧問)から張り手とかち上げに対する批判を受け、場所前に改善の意向も漏らしていた。この日は恒例の横審委員本場所総見でもあった。

突進してくる新鋭・阿武咲に対し、張り差しもかち上げも封印して右差し、左上手を狙って立ったがどちらも果たせなかった。とっさに体を開き、左で手繰って振ると、阿武咲は土俵を飛び出した。北村委員長の「ほっとした」との感想を伝え聞いた白鵬は「どういう意味ですかね」と苦笑。報道陣から、横審の「注文」に応えた相撲で白星を挙げたことでは、と説明を受け、「私もほっとしました」と笑って切り返した。

横審の張り手、かち上げ批判には専門家の間に異論もある。そもそも禁じ手ではないし、古くは前田山のように張り手が武器だった横綱もいる。かち上げが強烈だったのは北の湖。立ち合いに顔を張って得意の差し手を狙う張り差しは、多くの力士が使う。白鵬だけに禁じるのはおかしい、というものだ。

かつての白鵬は、朝青龍と違って優等生的な振る舞いが多く、一人横綱になってからもしっかりと土俵を支えてきた。しかも正攻法で負けにくい、泰然とした取り口。それが、いつしか言動も取り口も変わっていった。多くのファンがその変貌に幻滅を感じたことが、本来は禁じ手ではない取り口の批判にもつながったと見える。

貴乃花親方の父である初代貴ノ花は、立ち合いに変化して勝った時、観客席から「貴ノ花でも変わるんだ」という声が聞こえたという。それ以来、あの細い体で立ち合いに変わるまいと決めた。観客が誰に何を望むか、それに応えられるか。政界では「法的には問題ない」が最近の決まり文句だが、観客を幻滅させることは、競技規則だけではない、観客との目に見えない約束を破ることになる。

白鵬は「自分のやれることをやるだけ。あとは皆さんが決めることじゃないかな」と静かに話した。適応能力が並外れた力士だから、この日も快勝ではないとはいえ、余裕はあった。徐々に感覚をつかめば、白星は重ねられるかもしれない。ただ、最近の荒っぽい取り口は衰えを補うためでもあった。今後14日間で、つい張り手やかち上げが出る可能性はある。その時に他の力士がどうするか。張り手やかち上げは脇が空くので、相手に差されたり潜られたりする危険もあるが、これまで他の力士はつけ込めなかった。また簡単に41度目の優勝を許せば、それもまたファンの幻滅を招く。

「百年の恋も一日で冷める」という。不祥事の連続からようやく回復した相撲人気だが、今の観客の多くは、百年どころかまだ数年の「恋人」にすぎない。(時事ドットコム編集部)(2018/01/14-21:45)

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