不倫の現場から生まれた江戸の流行語

不倫の現場から生まれた江戸の流行語

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  • 更新日:2017/11/13
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イラスト/フォトライブラリー『江戸の性事情』(ベスト新書)が好評を博す、永井義男氏による寄稿。

寛政のころ、頭のめぐりの悪い、あるいは話の通じない男を「権七」といった。
『梅翁随筆』に拠ると、この「権七」という流行語には、つぎのような由来があった。

深川八幡町に、権七という魚の行商人が住んでいた。
かねてより権七の女房は仕立屋の男と密通していたが、ちょうど男を引き込んでいるところに、権七が帰ってきた。
あまりに突然の帰宅だったため、男を逃がすひまはない。そこで、女房は男を押入の中にひそませ、「お腹がすいたら食べな」とささやき、そばにあった赤飯を渡した。

家の中の様子がおかしいのに気づき、権七があちこちを見てまわる。
無言のまま、押入の襖をあけた。中にひそんでいた男は女房が胡麻塩をくれるのだと勘違いして、赤飯を盛った盆を差し出す。
「間男、見つけたぞ。てめえ、ただではおかない」
権七は男を引きずり出すと、手にしていた出刃包丁で刺し殺した。

男が刺殺されたのを見て、女房も観念して、西に向かって両手を合わせ、目をつぶって、
「とてもこの世では添われぬ悪縁。せめて同じ露と消えて、あの世で添いましょう」
と、唱えている。
カッとなって間男を刺し殺した権七は、もちろん女房も殺すつもりだった。ところが、両手を合わせている女房を見ると、どうしても手を下せない。

騒ぎを聞きつけ、近所の人が集まってきた。状況を知ると、近所の人が言った。
「間男を殺してしまったのなら、もう七両二分で内済(示談)にすることはできない。ここはいさぎよく女房を殺し、密通を成敗したとお奉行所に届け出るしかない」
ところが、権七は、
「女房は一緒に殺され、あの世で男と添うつもりだ。そんなことさせるもんか」
と、女房を殺そうとしない。

なおも近所の人が言った。
「男だけ殺して女房を生かしておいては、密通の成敗にはならない。このままでは、おまえさんは人殺しになるよ」
何を思ったのか、権七はその場から逃げ出し、そのまま行方知れずになった。以来、愚か者を権七と呼ぶようになったという。

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