「消費税率引き上げ」の是非などは、2年後に考えればいい

「消費税率引き上げ」の是非などは、2年後に考えればいい

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/10/12
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真の争点は「北朝鮮有事」のはずだが…

衆議院選が公示され、いよいよ本格的な選挙戦に突入した。北朝鮮有事に備えた安全保障体制(及びその先にある憲法改正)と消費税率の引き上げ(とその使途を巡る議論)が争点になっている。

公示までに野党の勢力図がめまぐるしく変わったことが微妙に影響しているのだろうか、ここへ来て選挙の争点が「安全保障」ではなく、「消費税率引き上げ」問題に移っているような気がする。

筆者は、与党の消費税率引き上げについては反対の立場で、これについては当コラムでも再三言及してきたが、筆者が普段、比較的親しくさせていただいている識者の方は、口をそろえて「真の争点は、北朝鮮有事に対する対応であり、消費税率引き上げの話は大した問題ではない」とおっしゃっている。

筆者もその話を聞いて、なるほどと思ったが、このところのメディアの報道をみる限り、消費税率引き上げの是非がますます主要争点としてクローズアップされているように感じる。これは、「打倒安倍政権」の一番手として、小池百合子東京都知事率いる「希望の党」が台頭してきたためであろう。

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〔PHOTO〕gettyimages

ライバルが前原誠司代表の民進党であれば、消費増税を財源とした社会保障の充実という公約は争点になりえなかったはずだが、希望の党は、安全保障政策と憲法改正の公約が、一般有権者にとっては、政権与党とほぼ同じであるため、「安倍vs.小池」の対立軸を作り出したいメディアにとっては、公約が異なる消費税問題を争点にしないと盛り上がらないということが強く影響しているのだろう。

今回の選挙戦では、自民公明の政権与党は、次の消費税率引き上げ(2019年10月)は予定通り行う代わりに、それによって得られた税収増分の多くを子育てや教育といった主に若年世代への再分配に使うという公約を掲げている。

一方、野党は、消費税率引き上げは凍結し、少なくとも景気の回復を待ってから改めて検討すべしとしている。

従来は、安倍首相を中心に政権与党が消費税率引き上げを見送る一方、野党は財政規律が失われるとして、安倍政権の消費税率引き上げ延期を批判してきた。このように、消費税率引き上げを巡る与野党の立場はすっかり逆転してしまったようにみえる。

もっとも安倍首相、及び菅官房長官は、「リーマンショック級の(経済)危機が起きれば、消費税率の引き上げを見送ることもあり得る」旨の発言を行っており、政府与党も2019年10月の消費税率引き上げは必ずしも規定路線ではないことを強調している。

ただし、選挙戦では、消費税率引き上げの是非よりも、むしろ、それを財源とした再分配(特に世代間に公平な)政策の重要性を強調している。

子育て世帯は「負担増」になる

そこで、直近(9月時点)の家計調査を元に、年収、及び年齢階層別の消費のシェア(二人以上の世帯)を計算すると図表1、2のようになる。

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年収別にみると、年収550~600万円の階層までで、年齢別にみると、55~59歳までで、消費支出のシェアが50%となる。

子供が大学を卒業して社会人になれば一応、子育てを卒業できるとすれば、ちょうど55~59歳、会社員の年収であれば中間管理職に近いポジションなので550~600万円までが「子育て世帯」に相当すると考えてもよいだろう(もしかすると、平均年収はもっと低いかもしれない)。

各世帯にとって、消費税は事実上、消費額に応じて負担することになるので、5兆円超の消費税率引き上げ分の増収のうち約2兆円を充てるという政府与党の子育て・教育支援案が実施されると仮定すると、子育て世帯にとってはネットで「負担増」になる懸念がある(消費税負担が再分配で支給される子育て支援金よりも多くなる懸念)。

さらに、現在の消費水準は、前回2014年4月の消費税率引き上げ時の落ち込みをいまだにカバーできていない。しかも、足元で、雇用の回復は続いているものの、消費支出は再び減速傾向で推移している(図表3)。

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従って、これも多くの与党支持の識者が指摘していることだが、約2年後のイベントであり不確実性が高い消費税率引き上げ問題を、わざわざ今回の衆院選の争点にする必要はなかったのではないかと考える(逆にこれを争点にされる状況になったということは、誰が選挙参謀なのかはわからないが、戦術ミスではなかったかと考える)。

そして、このような今回の与党の公約に対し、「裏切られた」という気持ちから、消費税率引き上げの凍結を前面に打ち出してきた「希望の党」へと支持政党を変える「騒ぎ」がネットを中心に起こったことは記憶に新しい。

「公約」だけに期待すると…

ところで、「希望の党」の政権公約だが、なかなか興味深い。消費税率引き上げの凍結の他、各種政府支出の削減(議員定数や報酬削減から公的機関の民営化などを含む)、そして、「BI(ベーシック・インカム:国民の最低限の生活費の保障)」の導入、「内部留保課税」など、一般国民が拍手喝采しそうなメニューがずらりと並んでいる。

個別の政策メニューの中には、筆者も賛意を示したいものがいくつもあるし、上に言及した主要な政策メニューも「内部留保課税」を除けば賛同したいものばかりである。

だが、問題点もある。まずは、これらの政策を「正しい工程表」なしに実行してしまうと「合成の誤謬」に陥ってしまい、デフレに逆戻りするか、結局実現できずに改悪されてしまうというリスクがあるのではないかという点である。

例えば、消費税率引き上げをデフレ脱却まで凍結するのは正しい判断だが、同時に政府支出を大幅に削減し、それによって財政赤字の拡大を回避しようとすると、景気自体が収縮してしまう懸念がある。

筆者個人の考えでは、所得の再分配だけではなく、公共投資にも、災害対策や都市のインフラ整備など早急に実施する必要がある政府支出は多く存在すると考える(ひょっとしたら防衛費などもそれに相当するかもしれない)。

それら必要な歳出拡大を積極的に実施すれば、短期的に財政赤字が拡大するかもしれない。だが、それで日本経済が完全にデフレを克服できるのであれば、デフレ脱却後に歳出項目の見直し等の財政再建策を改めて考えればよいのではないか。

だが、先に「歳出削減ありき」であれば、民主党時代の「事業仕分け」のような、後に安全保障、科学技術、防災などに禍根を残すような、国力を弱める歳出削減になりかねない。また、筆者の私見では、「BI」の導入はデフレ克服策とは別物であると考えるが、財源や導入時期を含め、検討する課題が山ほどあるのではなかろうか。

「12のゼロ」についてはあえて言及しないが、希望の党の公約をみると、政権交代直前の旧民主党に近いものを感じる。「公約」だけに期待して政権運営を任せると、日本経済が破滅寸前にまで追い込まれる可能性がある、というのが旧民主党政権の教訓であり、その苦い記憶はまだ多くの国民に残っていると思う。

よって、希望の党には、政策遂行の「Credibility(信頼性)」が欲しいところである。

重要なのは「金融政策」に対するスタンス

また、「内部留保課税」については、二重課税というテクニカルな問題を除いても、それによって、企業経営者が従業員の給与を引き上げるインセンティブを得るとは考えにくい。

筆者は、企業の内部留保は、将来の事業環境の悪化に備えるための資金的バッファーであり、将来の事業環境、ひいては、日本経済の期待成長率がまだまだ低いことの裏返しであると考える。

「期待成長率の停滞」という根本的な問題の解決なしに、内部留保に課税した場合、せいぜい配当が増え、株価の上昇が見込める環境になるかもしれないが、これは、それこそ、「持てる者と持たざる者の格差」を拡大させるだけで、再分配政策としては失敗する可能性が高い。

また、内部留保課税によって、将来のリスクに対するバッファーが縮小すれば、企業は一転、雇用を削減させるかもしれない。「内部留保課税」は、企業と家計が対立する経済主体であるかのような発想であり、家計を支える世帯主の多くが、勤労者として企業に属している点を軽視しすぎているのではなかろうか。

さらにいえば、現在の日本経済にとって、重要なのは、金融政策に対するスタンスである。

政府与党は明確には言及していないが、安倍政権での実績がある。安倍政権が存続するのであれば、消費税率引き上げによって、2年後以降の金融政策と財政政策のポリシーミックスに問題なしとはいえないが、金融政策については、少なくとも現状のスタンスの維持が期待できる。

一方、希望の党も、現状の金融政策スタンスを維持することに言及している。ただ、そこに至るまでに紆余曲折があった。

当初は、「金融・財政政策への過度の依存から脱する」とされていたが、これは、素直に読めば、「現行の金融政策を転換させ、『出口政策』へ舵を切る」ことを意味する。直近の「金融政策は現状維持」の公約が実現すればよいが、実際に希望の党が政権のイニシアティブをとった場合(誰が首相になるのかがわからないが)の政策の「Credibility」がやはりいまひとつ不透明である。

希望の党も「反安倍」を掲げているので、来年3月の日銀の新体制発足に際しては、現政権の金融政策を必ずしも支持しない人物が日銀総裁になる可能性も否定できない。さすがにすぐに「出口政策」に移行しないとしても、日本経済が十分にデフレからの脱却を果たす前に拙速な出口政策を行ってしまうリスクは、少なくとも(現政権が維持されると仮定した場合の)自公政権よりも高いと考える。

いわゆる他の「リベラル政党」の経済政策については、筆者はまったく支持できないので言及はしないが、与党にも希望の党にも、その経済政策には一抹の不安を感じざるを得ない。

特に、いずれの政党が政権を担うにせよ、緊縮財政への圧力が高まることを懸念する。それをどう抑えて、デフレ脱却を優先させるかが日本経済復活の鍵となると思うのだが。

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