「ソユーズ」ロケットの打ち上げ失敗から見える、ロシア宇宙開発の没落 第2回 フレガートが自身の姿勢を勘違い? 複雑かつ難解、しかし"あるある"な原因

「ソユーズ」ロケットの打ち上げ失敗から見える、ロシア宇宙開発の没落 第2回 フレガートが自身の姿勢を勘違い? 複雑かつ難解、しかし"あるある"な原因

  • マイナビニュース
  • 更新日:2017/12/07
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ロシアの国営宇宙企業ロスコスモスは2017年11月28日、極東のヴォストーチュヌィ宇宙基地から、「ソユーズ2.1b」ロケットを打ち上げた。ロケットにはロシアの気象衛星をはじめ、合計19機の衛星が搭載されていた。ロケットは順調に飛行したように見え、ロスコスモスなどは一度「打ち上げ成功」と発表した。ところが、その後一転、衛星を載せたままロケットが墜落し、打ち上げは失敗に終わっていたことが明らかになった。

現在までの調査で、失敗の引き金となったのは「フレガート」と呼ばれる上段ロケットだったと考えられている。はたして、いったいなにが起きたのだろうか。

連載の第1回では、そもそも上段ロケットとはなにか、そしてフレガートとはどんなものなのか、について取り上げた。今回は、現時点で考えられている、複雑かつ難解、しかし"あるある"な、失敗に至るまでのシナリオについて取り上げる。

○事故の顛末

飛行計画によると、ソユーズ2.1bロケットはモスクワ時間11月28日8時41分45秒に、ヴォストーチュヌィ宇宙基地を離昇。赤道に対して約98度傾いた極軌道に向けて飛ぶ。そして第1段や第2段、フェアリングを分離しつつ飛行し、第3段の燃焼終了後、打ち上げから約9分でフレガートと衛星を投入する。このとき機体はまだ弾道軌道にあり、軌道速度は出ていない。

そして第3段から分離の約1分後、フレガートは1回目のエンジン噴射を開始。続いて2回目のエンジン噴射を行い、メテオールM 2-1が目指す軌道に入る。分離後、フレガートは3回目のエンジン噴射を行って軌道を変え、アストロスケールの小型衛星「IDEA OSG 1」を軌道に投入。さらに4回目の噴射を行い、さらに別の軌道に乗り移り、他の18機の小型・超小型衛星を分離、軌道に投入する。

すべての衛星を分離した後、フレガートはさらに姿勢を反転させて逆噴射し、軌道を離脱して地球の大気圏に再突入する。これは、いつまでも宇宙にとどまり、自身がスペース・デブリ(宇宙ゴミ)になってしまわないようにするために行われる処置である。

しかし、実際の飛行では、この中のフレガートの1回目の燃焼の段階でなんらかのトラブルが発生。軌道に到達することなく、地球に墜落したと考えられている。ロスコスモスによると、すでに落下位置はほぼ特定されており、北緯42度、西経38度の北大西洋上だったとされる。ちなみにこのころ、アイスランド付近を飛行中だった旅客機から、火の玉のようなものが見えたという投稿がTwitterなどに上がっており、大気圏に再突入したフレガートと衛星が目撃されたものである可能性が高い。幸いにも被害などは出ていない。

事故後、ロシアの宇宙ファン、そして関係者らも集まるフォーラム・サイト「Novosti-Kosmonavtiki」などを中心に、事故原因についてさまざまな憶測がなされた。

たとえばエンジンが故障していたためではないかという説は、軌道速度を出せなかったということと直接的にリンクするので、いちばん思いつきやすい説である。また、ソユーズ・ロケットからの分離がうまくいかず、姿勢が乱れたり破損するなどして失敗したという説もあった。かつてプログレス補給船の打ち上げで似たような理由で失敗が起きたこともあり、可能性としては十分にあった。また、運悪くスペース・デブリと衝突したという説もあった。

しかし、現時点で有力視されているのは、これらよりも複雑かつ、難解な、しかし地図や3D CGなど、なんらかの座標系のあるものを扱う人、親しみのある人にとっては"あるある"なシナリオである。

○フレガートは自分の姿勢を勘違いした?

ロシアの宇宙開発を専門とする宇宙ジャーナリストのAnatoly Zak氏は、関係者筋からの話として、次のようなシナリオが有力視されていると紹介している。

ほぼすべてのロケットには、自身の姿勢を知るために、ジャイロスコープと呼ばれる計測器が搭載されている。このジャイロからの値をもとに、ロケットに搭載されているコンピューターは自身の姿勢を知り、必要な姿勢制御の指令を出す。

もう少し簡単な言葉でいうと、ロケットはただの尖った円筒形に見えて、実はきちんと上や下、右や左といった方向が決められており、正しい方向に飛ぶためには、まず自分の姿勢を正しく認識する必要があり、その上でエンジンを動かすなどして飛びたい方向に機体を向ける。その姿勢を判断するための基準となる装置がジャイロである。

ソユーズ・ロケットとフレガートは、それぞれ別のジャイロをもっており、なおかつ基準軸に10度の差が設けられていた。

ソユーズ・ロケットは発射台を離昇後、機体のロール軸を回転させて、飛行方位角に向けて機体の姿勢を合わせる。続いて、ソユーズ・ロケットとフレガートのそれぞれのジャイロのシステムも飛行方位角に合わせるため、プラットフォーム(土台)を回転させ、0度の位置に戻す修正を行う。ちなみに最近のロケットでは、ジャイロ、あるいは慣性計測装置(IMU)と呼ばれる装置は固定されていることが多いが、ソユーズ・ロケットやフレガートでは、まだジンバルに乗った機械式のものが使われているという(これはソユーズを輸入して打ち上げているアリアンスペースも認めている)。

これらのジャイロのプラットフォームを0度に合わせる際には、常に最短ルートで回転するように制御される。つまり、たとえばプラス45度のずれがあればマイナス45度分の回転を、あるいはマイナス90度のずれであればプラス90度分といった感じで、時計の針のように一周回するのではなく、最短で0度の位置にたどり着けるように制御される。これが完了すると、ロケットは飛びたい飛行方位角に向けて、正しい姿勢で飛ぶことができる。

従来、バイコヌール宇宙基地、プレセーツク宇宙基地、そして南米仏領ギアナのギアナ宇宙センターからソユーズ/フレガートを打ち上げた場合、この制御の幅はプラス140度からマイナス140度の範囲に収まっていた。つまりプラス140度のずれがあれば、マイナス140度分の回転を、逆にマイナス140度のずれがあればプラス140度分回転して0度に合わせていた。

ところが、ヴォストーチュヌィ宇宙基地から打ち上げた場合、この幅は約174度までになる。そしてヴォストーチュヌィ宇宙基地を離昇したソユーズ・ロケットのジャイロのプラットフォームは、0度に向けて、マイナス174度の回転を実施。これ自体は正しい動きであり、実際にロケットも正常に飛行を続けた。

しかし前述のように、ソユーズ・ロケットとフレガートのジャイロの基準軸には、10度の差があるので、フレガート側のジャイロのプラットフォームは、約184度を0度にしないといけない。184度から0度に角度を変えるときの最短ルートは、184度を引いて0度にする--のではなく、176度を足して360度=0度にすることである。すでに半周の180度を超えているため、そのまま1回転したほうが近いからである。そして、ジャイロのプラットフォームはそのとおりに回転した。

このとき、フレガート側のコンピューターが、この状況をどのように認識、判断をしたのかは明らかではないという。ただ、360度と0度とでは、機体の姿勢位置そのものは同じではあるものの、そこにたどり着くまでの回転方向が異なることから、コンピューターにとっては、このジャイロの動きを間違いだとし、「現在自分は正しい向きから360度ずれている」と認識した可能性がある。

結果的にフレガートのコンピューターは、律儀にも、自身が正しいと信じる360度(=0度)の位置に向けて1回転しなければならないと判断。姿勢制御を行うため、スラスターを噴射した。

しかし、フレガートのメイン・エンジン噴射開始のタイミングはあらかじめプログラムされており、そしてそもそもこうした1回転するなどという制御は予測されていなかったため、およそ60度ほど回転したところでタイマーの時間が来て、エンジンの噴射が始まってしまった。噴射方向が間違っているばかりか、機体が回転しながらエンジンが噴射したこともあって、フレガートは制御不能の状態に陥ったと考えられる。

前述のように、ソユーズの第3段から分離された時点でフレガートは軌道速度には達しておらず、弾道軌道にいた。正常な姿勢で噴射ができなければ、地球を周回する軌道に入ることはできない。そのため、フレガートと搭載されていた衛星は地球に墜落した--というのである。

すでに調査は、なぜこうしたことが起きたのかという、根本の原因を探るところにまで至っている。そしてそこからは、ここ数年のロシアの宇宙開発が直面している危機的状況が、まだ改善していないことが見て取れる。

(次回に続く)

参考

・Soyuz fails to deliver 19 satellites from Vostochny

・Soyuz Users Manual

・https://www.roscosmos.ru/24385/

・https://www.laspace.ru/company/products/launch-vehicles/fregat/

・http://novosti-kosmonavtiki.ru/forum/forum12/topic16159/

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

Webサイトhttp://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info

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