米国の田舎で独り勝ち、その企業はなぜ強い?

米国の田舎で独り勝ち、その企業はなぜ強い?

  • WSJ日本版
  • 更新日:2017/12/07
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【イブンズビル(米テネシー州)】この地域のダラー・ゼネラルの店舗は田舎の幹線道路沿いにある。周りは農地だ。広さ約690平方メートルの店舗には新鮮な肉も野菜も果物もない。それでもエディー・ワトソンさんにとって必要なものはほとんど何でもそろっている。

シャワーカーテンに朝食用シリアル、トイレットペーパー、プラスチック製のおもちゃ、迷彩柄の靴下。都市近郊にチェーン展開するドラッグストアのような品揃えだ。壁際の冷蔵庫やフリーザーには牛乳や卵、冷凍ピザが収まっている。

多くの商品は小ぶりのボトルや小袋で販売されており、この先にあるウォルマートのスーパーセンターより安く買える。レジは2台あるが、学校や仕事が終わって混雑する時間帯を除けば、そこに立つ係は1人だけだ。

「こっちのほうが近いだけ」。建設作業員として働く53歳のワトソンさんはチキンスープの缶詰、クラッカー、調理済みの薄切り肉、トイレットペーパーを買い物かごに入れた。「みんな、ここをイブンズビルのウォルマートと呼んでいる」

低所得の顧客にとって命綱

この店舗を含め、ダラー・ゼネラルは来年までにテネシー州レイ郡に3店舗の出店を予定している。レイ郡では政府から食料支援を受ける人の割合が2割超と全国平均を上回り、失業率も州内で最悪だ。

ダラー・ゼネラルが事業を拡大しているのは米国の田舎が苦しんでいるからだ。財布のひもが固い買い物客にとって便利な場所に店舗を構える同社は、米国で最も利益率の高い小売業者の一つであると同時に、他の大手チェーンストアに無視された低所得の顧客にとって命綱でもある。

直近の事業年度で見ると、1万4000店舗を展開するダラー・ゼネラルは百貨店大手メイシーズより少ない売上高で2倍以上の利益を上げた。時価総額は220億ドル(約2兆4000億円)と、売上高が5倍も大きい国内スーパー大手クローガーをも上回る。

売上高の伸びはハイペースでの出店に頼っている。出店から少なくとも1年が経過した店舗で見ると、昨年は27年連続の増収だった。

多くの大手小売業者が店舗閉鎖を進めているが、ダラー・ゼネラルの幹部は小規模コミュニティ―を中心にさらに数千の出店を計画していると語った。

ダラー・ゼネラルの幹部によると、田舎が困れば困るほど、同社にとって活躍の場が増えるという。テネシー州グッドレッツビルにある本社でインタビューに応じた最高経営責任者(CEO)のトッド・バソス氏は「米国経済は当社の中核的な顧客を生み出し続けている」と語った。

バソス氏によると、5年前にはおそらく同社の顧客層ではなかった地域が今では顧客となり、こうした地域への出店を進めている。

ダラー・ゼネラルが狙う顧客層は年収4万ドル以下の世帯だ。一方、最大のライバルであるダラー・ツリーは都市周辺に店舗を展開し、全ての商品を1ドルで販売している。2015年には、ダラー・ツリーは都市部に店舗を展開する同業のファミリー・ダラー・ストアーズを買収した。

企業関係者やアナリストによると、こうした低価格市場には、比較的経済力のある顧客を狙うアマゾンなどは手を出さないという。

バソスCEOによると、ダラー・ゼネラルの一般的な顧客は、食料棚や冷蔵庫を見て、「あと何日かでケチャップが終わるから、何本か注文しよう」と考えるようなことはしない。「前の晩の夕食のときにケチャップを使い切って、仕事の行きか帰りに1本買う」のが同社の中心的な顧客だという。

迷彩柄が人気を集める訳

迷彩柄の人気は証明済みだ。ダラー・ゼネラルは今年、迷彩服のブランド、モッシー・オークのドッグフードの独占販売業者になった。イブンズビル店のマネージャー、ジャスティン・レイ氏は「ノーブランドの迷彩柄でも人気がある」と言う。店にはおしゃぶりやペット用おもちゃといった迷彩柄の商品が並ぶ。

コカ・コーラは今年の春、ダラー・ゼネラル向けに「Service Member」(軍人)や「Military Spouse」(軍人の配偶者)などのラベルをつけた製品を開発した。ダラー・ゼネラルで買い物をする人には軍とつながりのある人が多いからだ。2012年にはたばこの販売も始めた。それから数年して、CVSヘルスやコストコ・ホールセールはたばこ販売の段階的廃止に動いた。

ダラー・ゼネラルの価格は何十年も前から5セント刻みだ。買い物客がどのくらいの支払いになるか計算しやすいからだ。バソスCEOいわく、「買い物客はレジで恥ずかしい思いをしたくないものだ」。バソス氏はドラッグストアチェーンのエッカード・ドラッグのアシスタントマネージャーとして小売業界に入り、同社で幹部を務めたあと、2008年にダラー・ゼネラルに入社した。

多くの人気ブランドの商品は価格が10ドルを下回るように少量パックで販売されている。こうすることでコストコなど倉庫型のチェーンストアでまとめ売りされている商品より一商品あたりの利益は大きくなる。

低価格商品は買い物客にとって、金銭的な意味でもなくてはならないものであることが多い。テネシー州ナッシュビルにあるダラー・ゼネラルでマネージャーをしているデイモン・リドリー氏は、手持ちの数ドルで兄弟の夕食を用意する子どもの世話をすることがあると話す。店のマネージャーというより「支援活動のマネージャーと言ったほうがいいかもしれない」と語った。

ダラー・ゼネラルはケンタッキー州の田舎に暮らしていた創業者たちが1955年に始めた。田舎になじむのはそのせいだ。ウォルマートの店舗が3000店を突破した2000年の初め、ある戦略が浮上した。2003年から2007年までCEOを務めたデービッド・パーデューによると「われわれはウォルマートのいないところに出店した」。

「ウォルマートの店舗から40マイル(約46キロ)離れ、地元の人たちのニーズを満たすことができる場所」(パーデュー氏)に店を開いたのだ。同氏は現在、連邦議会上院議員(ジョージア州選出)として活動している。

必要最小限の場所で創意工夫

ダラー・ゼネラルのほとんどの店舗は直営ではない。不動産・店舗開発担当のシニア・バイスプレジデント、ダン・ニーザー氏によると、同社は主に、必要最小限の仕様に合わせて建てられた店舗をリースしている。同社関係者によると、平均的なスーパーを出店するには数百万ドルかかるが、ダラー・ゼネラルの出店コストは平均25万ドルだ。

冷凍・冷蔵食品を売るために冷蔵セクションを追加し始めると、不動産部門は他のセクションの支出を切り詰めて対応した。ニーザー氏いわく「私たちのチームは創意工夫に富んでいる」。

低価格チェーンが流行したのは不況がきっかけだった。ウォルマートはウォルマート・エクスプレスの名前で田舎を中心に100を超える店舗を出店した。同社はその後、エクスプレスの店舗を閉鎖し、昨年、そのうち数十店舗をダラー・ゼネラルに売却した。

ダラー・ゼネラルの経営陣は2012年、都市部を重視する方針を表明した。成長の行き詰まりを懸念する投資家をなだめるためだった。当時のリック・ドレイリングCEOはこの年、投資家との会議の場で「成長の機会を求めて都市部を強化する」と述べた。

ところが、田舎の買い物客の需要は強く、事業の中心はこれまでと同じく、人口が少ない地域だった。2013年には郵便局や教会への近さなどのデータを考慮し、出店方針を練り直した。ドレイリングCEOは2014年、「小さな町や田舎の市場のチャンスが最も大きく改善した」として、1万4000の出店先を決めたとアナリストらに説明した。

2015年、都市部に店舗展開するファミリー・ダラーの買収合戦に敗北すると、ダラー・ゼネラルは田舎への出店を加速することに決めた。

ダラー・ゼネラルはその後、数百の小規模店舗を出店。バソスCEOによると、店舗はバスケットボール・コートの大きさで、1000世帯未満の地域でも利益を出せるという。

それでもいつか都会を制覇したいという夢は捨ててはいない。ダラー・ゼネラルは今年、ニューヨークのブルックリンやシカゴなど都市部の店舗を含む322店舗を投資会社から買い取った。ダラー・ツリーがファミリー・ダラー買収に当たって反トラスト当局の承認を得るために手放した店舗だ。バソスCEOはそうした店舗について、貴重な実験の場だと語った。

ダラー・ゼネラルの広報担当者によると、都市部と周辺地域の店舗が全体に占める割合はこの2年でわずかに低下し、3割を切っている。

売れ筋はソーセージ缶や冷凍ピザ

ダラー・ゼネラルがテネシー州の東側の州境に近いレイ郡に出店したのは1965年。同社にとって48番目の店だった。1980年にはレイ郡に2店舗目が開店し、1998年にはもう一店舗が追加された。レイ郡は、地元教師が進化論を教えたとして起訴され、1925年に裁判(スコープス裁判、モンキー裁判とも呼ばれる)に発展した場所として知られる。

昨年、写真現像用の化学物質を製造していた富士フイルムホールディングスの子会社とダイキン工業傘下のエアコンメーカーが工場を閉鎖し、約700人分の雇用が失われた。工場閉鎖を受けて1月にはレイ郡の失業率が10.2%に上昇した。10月には5.4%に低下したが、それでもテネシー州では最悪の水準だ。

今秋、フィンランドのタイヤメーカー、ノキアンタイヤがレイ郡で工場建設に着手した。ホテルが開業し、レストランも数軒、新たに商売を始めた。「しかし事業を拡大している小売業者はダラー・ゼネラルだけ」とリア郡経済・地域開発グループのトップ、デニス・タムリン氏は言う。

昨年のイブンズビル店出店に続き、ダラー・ゼネラルはそこから近いグレイスビルにも店を開いた。道を渡ったところにあるグレイスビル・マーケット・アンド・デリには「街で一番安いビールとたばこ」の宣伝の文字が並ぶ。建物は今にも崩れそうだ。

イブンズビル店もグレイスビル店も、さらに来年開店予定の店舗もレイ郡の郡庁所在地デイトンに向かう道沿いにある。7250人の人口を抱えるデイトンには、ウォルマートと複数の食料品店、それにダラー・ツリーがある。

イブンズビル店ではほとんどの客はその日に必要な商品を買いに週に数回、買い物に訪れる。16キロほど離れたところで育ったというマネージャーのレイ氏によると、一番の売れ筋はウインナーソーセージの缶詰や冷凍ピザなど。客は香りの強い洗剤を好む。

ダラー・ゼネラルの広報担当者によると、イブンズビル店の今年の売上高は現時点で前年比17%増だという。

ある平日、ジャッキー・ブキャナンさん(51)はクラフツマン製の深緑色の乗用芝刈り機に乗って店にやってきた。シャンプーと芝刈り機のキャブレターのクリーナーを買うためだ。「ちょうど1マイル(約1.6キロ)先に住んでいる」と言うブキャナンさん。今は失業中だ。

子どもが帰宅して食べるおやつを買いに来たロビン・スウィフトさん(48)は言う。「小さい町で他に選択肢はない」

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