移籍1年目で初のふたケタ勝利。榎田大樹はなぜ西武で開花したのか

移籍1年目で初のふたケタ勝利。榎田大樹はなぜ西武で開花したのか

  • Sportiva
  • 更新日:2018/10/17

阪神タイガースに2010年ドラフト1位で指名されてから8年――。今年32歳になった左腕投手の榎田大樹にとって、自身初めて達成したふたケタ勝利は「1回なくした目標」だった。

「チームは変わりましたけど、阪神でできなかったことがここ(西武)でできたのは、自分のプロ人生としてはよかったのかなと思います」

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阪神から移籍した今季、11勝4敗という好成績を残した榎田大樹

人生は、先が見えないから苦しく、同時に面白い。今季開幕2週間前に阪神からトレードされたこの左腕が、10年ぶりの日本シリーズ出場を目指す埼玉西武ライオンズのクライマックスシリーズ(CS)突破のカギを握るひとりになるとは、誰が予想できただろうか。

榎田の野球人生が好転するきっかけは、トレード前にさかのぼる。昨年11月、阪神の矢野燿大二軍監督から動作解析の先生を紹介されたことが始まりだった。

「そこからいろいろできることをやろうと思って、歯の治療やいろんなことをやっていきました。(東京ガス時代の同期の)楽天の美馬(学)と一緒に練習していくなかで、『身体の使い方を教えてくれる先生がいるよ』と言ってもらえて。そこで身体を見てもらって、次の日にキャッチボールしたとき、すごく変わったというか。それを実感できたので、1月の自主トレで3日間でしたけど、練習に参加してみようかなと」

ソフトバンクの千賀滉大や石川柊太(しゅうた)が飛躍のきっかけを掴んだ、福岡県の鴻江(こうのえ)スポーツアカデミーの門を榎田も叩いた(関連記事『逆転優勝を狙うホークス。好調な千賀と石川を支えるトレーナーの教え』)。猫背型か、反り腰型かで身体の使い方を区別する鴻江寿治トレーナーの方法論は、榎田の常識を覆すものだった。

「今までは投げる際、『身体が突っ込むな』と教わることが多かったけど、逆に先生は『左ピッチャーは突っ込んでいい』と。左ピッチャーは結局、突っ込まないと投げられないので、『右半身で出ていきなさい』とよく言われます。今まで教わってきたことと全然違うので、『突っ込んでいいんだ』と思ったときに噛み合ったというか」

軸足で立ち、体重を残したまま逆足を前に移動させながら投げるのが、以前のイメージだった。右投手はそれでいいが、人間の身体には右側に重い肝臓があり、重心が右に寄りやすいため、左投手は「突っ込まないと投げられない」。榎田はこの理屈を知ったことで、投球のメカニズムがうまく機能するようになった。

「僕の場合、いかに力を入れないというか。よく言われるのが、『勝手に腕が振られるくらいの力でボールを投げなさい』と。(足で蹴ることで)地面からの反発力を得て、腕が勝手に振られてくれるというイメージで今はいます。右足が地面に着いたときに、(動きが)止まった反動で身体が回って、でんでん太鼓のようなイメージでボールが勝手に走ってくれるというか」

3月17日、埼玉県所沢市で入団会見に出席した榎田は、「このオフはボールのキレを意識してきました」と語った。いわゆる左の技巧派投手は、新天地でブルペンに入り、実戦マウンドに上ると、「もしかすると、これかもしれない」という好感触を掴んだ。

「それこそプロに入って1、2年目に近い球の質かなと。昔ほどスピードは出ていないですけど、ボールの軌道、キレ、バッターの反応はそれに近いものなのかなと感じました」

数値で表現すると、去年までは100%の力で腕を振ることで、100%のボールを投げようとしていた。それが今年は80%の力で腕を振る意識に変えると、100%のボールを投げられるようになった。

球速140キロ前後のストレートの球質がよくなると、変化球にも相乗効果が生まれた。阪神時代にケガをしたことがきっかけで覚えたチェンジアップや、「どうすれば一軍で活躍できるか」と模索して習得したカットボールも活きるようになった。そうして今季10勝目を飾った9月19日の日本ハム戦後、報道陣に囲まれた榎田は自身の飛躍についてこう話している。

「基本ができたプラス、阪神で7年間やってきたことが枝になり、そこに付け加えられて、今は結果が出ているのかなと思います」

ニレ科エノキ属の落葉広葉樹であるエノキの木は、枝が多く、曲がりくねって伸びていくという特徴がある。榎田は長く険しい道を一歩ずつ、時間をかけて歩みを進めながら、多くの枝をつけて大木となった。

「名は体を表す」――。このことわざをまさに体現できた裏には、思考の筋道を立てて考えていることがある。

たとえば今季飛躍した要因について、榎田は鴻江アカデミーで身体の使い方を学んだことが「すべてではない」と言い切る。それはあくまで一因で、そのほかにも動作解析や、さまざまなきっかけがある。冒頭で述べた歯の治療もそのひとつだ。

「右を噛みやすくて、『どうしても力んで前に突っ込む』と言われていました。噛むことで右への力が強くなるから、前に突っ込むのが早くなって。それが(歯の治療で)治ったからこそバランスがよくなり、鴻江先生の言っていた動きもできるようになったのかなと思います」

多様な枝を増やし、それぞれの枝を伸ばしながら、榎田は新天地の西武で多和田真三郎(16勝5敗)、菊池雄星(14勝4敗)に続く勝ち星(11勝4敗)を残した。先発3番手として首脳陣の信頼を勝ち取り、CSファイナルステージでは第3戦で起用されることが予想される。

2戦目までの星勘定は神のみぞ知るが、短期決戦で榎田が背負う役割は大きい。2本柱が順調に勝てば王手、仮にひとつでも落としていれば、その後の流れを大きく左右する一戦になるからだ。

果たして初めての登板となるCSで、ペナントレースのように安定感のある投球を見せることはできるか。じっくりと時間をかけながら野球人生を切り開いた左腕が、檜舞台に上る。

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