北海道、捕獲した年10万頭のエゾシカの処分問題が深刻...シカを原料に“魔法の薬”製造

北海道、捕獲した年10万頭のエゾシカの処分問題が深刻...シカを原料に“魔法の薬”製造

  • Business Journal
  • 更新日:2019/08/23
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エゾシカ

この数年、高級レストランでもジビエを提供する店が増え「ジビエブーム到来」などといわれているが、その陰には切実な害獣問題があるのだ。ジビエのひとつとしてエゾシカが人気だが、このエゾシカは北海道では「害獣」であり多くの農家が頭を抱えている。

エゾシカは通常、森林などに生息するが、繁殖力が高く個体数は増える一方で、その結果、人間の生活域まで分布域を拡大し、人々の生活を脅かしている。北海道庁の環境生活部環境局生物多様性保全課では、エゾシカ対策グループを発足し、捕獲等による個体数の管理や捕獲個体の有効活用推進などを行っている。

北海道におけるエゾシカの捕獲数は、平成22年から毎年10万頭を超える。ジビエブームとはいえ、それほどの数のエゾシカをすべて食肉として利用することは難しい。捕獲されたエゾシカの処理には莫大な費用がかかっていた。

しかし、このエゾシカから製造する和漢成分に着目し、生薬素材への利用を考えた人物がいる。それは、北海道鹿美健(ろくびけん)株式会社の代表取締役で薬学博士でもある鄭権(ていけん)氏だ。エゾシカを原料とした生薬素材とその製造に至るまでの軌跡を聞いた。

アキョウとロクキョウ

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鄭権氏

鄭権氏は、これまで多くの美容、健康増進のためのサプリメントの開発、製造に携わってきた。そのなかでも「アキョウ(阿膠)」と呼ばれる和漢成分にこだわり、飲んだ人が良さを実感できるサプリメントの製造に尽力してきた。日本ではあまり聞き慣れないアキョウだが、日本でもいくつかの漢方薬に含まれており、補血•止血作用をもち婦人科系の疾患に処方されることも多い。

「アキョウは、中国では、その昔、宮廷妃が美と健康を保つ魔法の薬として飲んでいたといわれています。アキョウには豊富なミネラル、ビタミン、アミノ酸、コンドロイチンなどが含まれ、現在も多くの中国人がアンチエイジングや健康増進のため飲んでいます。しかしながら、中国でもアキョウは価格が高騰し、容易には入手困難な状況です」(鄭権氏)

価格が高騰した理由は、その原料にある。

「アキョウとはロバの皮から抽出される和漢素材です。中国ではロバが稀少となり、大変高価なものとなっています。私たちは、品質と安全性が保証された本物のアキョウを、より多くの皆様にお届けできるように商品の開発・製造を続けていましたが、ある時、北海道のエゾシカの害獣問題を知り、驚愕しました。シカは貴重な和漢原料。特にエゾシカからつくる和漢成分、ロクキョウ(鹿膠)は、アキョウにも負けない効果が期待できます」(同)

鄭権氏は北海道に向かったが、すぐには理解を得られず、地元の協力を得るために歩き回った。半年かかって1軒の民家を借り、エゾシカを原料に和漢成分の抽出を試みた。

「膠職人が何年も修行してようやく習得する技術ですので、試作はたやすくはありませんでした。試行錯誤の末、完全とはいきませんでしたが、工場の設備と膠職人の専門の技術があればできると確信しました」(同)

北海道の廃校を工場に

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廃校を利用した工場

年間10万頭以上のエゾシカが捕獲され廃棄されている現状は、鄭権氏にしてみればまさに宝を捨てるようなものだった。エゾシカを和漢原料として利用できれば、北海道のエゾシカによる害獣問題も同時に解決できると考えた鄭権氏は、まず工場としてつかえる場所を探した。

「工場とする場所を探して奔走すること1年以上。廃校となった新ひだか町東静内の旧静内第二中校舎を利活用する企画案を街が募集していることを知りました。『これだ!』と思い、すぐさま応募しました」(同)

その結果、見事に企画案が採用され、2018年2月より、和漢成分ロクキョウの開発・製造を開始した。しかし、北海道での開発製造には多くの苦労があったという。

「廃校を工場として使えるように整備するのも、スタッフと私で行いました。寝袋で廃校に寝泊まりしたのですが、その寒さは想像以上でした。水道管が凍って破裂したこともあります。原料調達のため、1日500キロあまりを7~8時間かけて運転。数日で数千キロを走破することもありました。鹿は大きくて重く、力仕事でいつもヘトヘト。原料の新鮮さを保つため、施設ごとに大容量冷凍庫が必要です。電気工事をして、冷凍コンテナの運搬にもクレーン車を用意して、結果、多額の費用が発生しました」(同)

また、エゾシカを原料としてその和漢成分を取り出すには、熟練した技術者の存在が不可欠だった。

「中国から技術者を呼びましたが、そのビザがなかなか下りず、大変苦労しました。膠職人の技能を説明することが難しく、書類を何度もつくり直し、最終的には法務省での審議を受けて、許可が下りました」(同)

ロクキョウを取り出し、高品質の和漢素材をつくりたいという熱意が勝り、工場は軌道に乗り始め、廃校の利活用と害獣問題の解決にもつながる鄭権氏の取り組みは、道内外から大きな注目を浴びている。

工場として稼働し始めた現在、鄭権氏にはさらなる構想があるという。

「今後、エゾシカを原料とする和漢素材の製造工場として規模を広げ、道内での雇用拡大など地域貢献ができればと考えています。エゾシカの問題を解決するために行動を起こす、道内すべての人がヒーローだと私は考えています。私は、和漢素材づくりを通してパワーを送り、そういったヒーローの皆さんが元気に働けるようサポートしたいと思っています」(同)

そう話す鄭権氏は、エゾシカを利活用し、和漢素材で多くの人を健康にすることで、人々を誰かのヒーローにしていくことだろう。
(文=道明寺美清/ライター)

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