インド国軍は世界最大の民主主義国家の守護者 北インド放浪3カ月 第2回

インド国軍は世界最大の民主主義国家の守護者 北インド放浪3カ月 第2回

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  • 更新日:2017/08/13
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(2016.6.18.~9.14 89日間 総費用18万2000円〈航空券含む〉)

インド人の軍隊自慢 インド軍は世界最強?

インド旅行を通じて印象に残ったのはインド人のインド軍自慢である。私の知り得る限り世界中でインド国軍ほど広く強く国民に支持されている軍隊はないように思う。

現代インド社会について批判的な意見を述べるインテリでもインド国軍については肯定的評価であった。

中国国境の秘境湖パンゴンツァに通じる山岳軍用道路を急ぐ軍用トラック

米国の軍事力分析会社Global Firepowerのランキングによるとインド軍は人員(正規軍132万人)では中国に次いで世界第2位、装備を含めた総合力では米国、ロシア、中国に次いで世界第4位となっている。

しかしインド人が強調するのは想定される紛争地域での実戦力であり、実戦になれば中国人民解放軍やパキスタン軍には絶対に負けないと信じている。

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海抜4800メートルのパキスタン国境。双眼鏡でインド国境防衛隊の塹壕や砲台が見える。冬季は氷雪に覆われる零下30度の世界で指呼の距離にあるパキスタン軍陣地と対峙

印パ紛争では山岳地帯の攻防戦でインド軍は極寒の中で一週間食糧なしで自軍陣地を死守したとか、人民解放軍の突然の侵入にも関わらずインド国境警備部隊は十倍の敵を阻止したとか、インド人はそうした英雄伝説を熱く語るのである。

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山岳軍用道路にある国営石油会社IOC(Indian Oil Corp)の標識「次の給油所まで365キロ」

世界最大の民主主義国家

インドは人口大国である。2016年の統計では中国13億8200万人に対して、インドは13億900万人であり数年以内に中国を超える。インド人で英語を普通に話すような人たち(地方の貧困層の人々は大半が英語を解さない)は「インドは世界最大の民主主義国家である」というフレーズを自慢げに口にする。

キナウル渓谷で知り合った医師ガーグ氏は「学校教育ではインド独立の歴史と独立後一貫して民主主義を堅持してきた史実をしっかりと教えています」とインド人の矜持の背景を教えてくれた。共産党独裁中国に対する敵愾心からも「世界最大の民主主義国家」という誇らしいキャッチフレーズが国民の間に浸透しているのであろう。

独立後70年間クーデターのない民主主義国家

第二次世界大戦後アジア・アフリカの旧欧米植民地から多数の独立国家が誕生したが、クーデターが頻発し軍隊や独裁者により民主主義はしばしば放逐されてきた。

インドは民族宗教対立を背景にしたリーダーの暗殺という悲劇は何度か経験したが、1947年の独立以降、70年間自由投票選挙による民主主義体制を堅持してきたのである。広大な国土、巨大な人口、多様な民族・宗教を考えると奇跡のように思われる。

隣国のパキスタンでは首相は暗殺または国外追放されるか軍事クーデターで政権を追われ、独立以来選挙とクーデターの繰り返しであることを鑑みればインドとの対比が鮮明である。

インド軍が民主主義の守護者として支持される背景

7月3日。インド北部ヒマーチャル・プラデーシュ州のサラハンで広大なリンゴ農園を経営する37歳の青年篤志家サンジーンと出会った。「独立後のインド軍は英国支配時代の英国式軍制を範とした。それゆえ独立後もインド軍人は伝統的な英国式文民統制(シビリアン・コントロール)を厳守した。それは独立後のインド士官学校(Military Academy )にも継承された。それゆえインド国軍は民主主義の守護者の立場を守ってきた」と彼は解説した。

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リンゴ農園の当主サンジーン氏37歳。信念と使命感を持った好青年

さらに「インドは多様な民族・宗教がありヒンズー教ではさらにカースト制度の下で複雑な階層に分かれている。しかし軍隊は志願制であり階級制度の下、実力次第で出世が可能だ。それゆえ貧しいが優秀な若者にとり魅力的な組織である。結果的に優秀な若者が集まることになった」とインド社会特有の背景を説明。

「パキスタン・中国という危険な国家と国境を接しているゆえ国民が公正で強い軍を望んでいる。国民の絶対的支持があるから軍人も誇りを持ち規律が維持される」と彼は地政学的な観点も説明した。

ハンサム中尉殿のフレンドリーな広報的対応

7月8日。北インドのキナウル渓谷地方のナコという湖の周囲に村落が広がる風光明媚な小村に投宿。夕刻、揃いのユニフォームとゼッケンをつけたマウンテンバイクに乗った青年たちが続々と到着した。総勢150人くらいであろうか。トラックやジープの伴走車が先に到着していて村の運動場にテントを設営して食事の用意を始めている。

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BRO(陸軍工兵隊の国境道路建設組織)が設置した海抜3200メートルに位置する村外れのヘリパッド

私はナコに来る途中で合流した途上国開発論を専攻するドイツ女子カタリーナ、ヨガのインストラクターのロシア女子エレーナと一緒にマウンテンバイクの選手たちを眺めていた。

到着する選手たちを見守っていた制服が似合うハンサムな青年士官に話を聞くと陸軍の訓練の一環として一週間で山岳地帯を走破する自転車競技であるという。カタリーナとイリーナは興味津々で青年士官を質問攻めにした。

彼は広報官のように丁寧にソフトに質問に回答。曰く、インド陸軍では15歳から士官学校に入り卒業後任官。彼は現在25歳で階級は中尉。このバイクツアーの責任者として引率している。

所属部隊は中国国境近くの最前線の基地に勤務。隊員の士気は高く4000~5000メートルの過酷な山岳地帯でのバイクツアーでも一人の落伍者もいない。

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中国国境の手前50キロ付近に展開されている国境警備部隊の補給基地の一つ

基地では夕食後の自由時間に映画上映がある。ハリウッド映画もあるが比較的に多いのがソ連・ロシアの映画。ソ連時代の映画は第二次大戦や冷戦時代の軍隊・兵士の姿がリアルに描かれており単なるプロパガンダ映画を超える内容であり教育的価値がある。

インド陸軍の喫緊の課題は装備の近代化である。独立後は友好関係にあったソ連からソ連製兵器を導入した。現在でもミグ、スホイという戦闘機からライフル銃に至るまでロシア製またはロシアのライセンス生産である。今後は米国の最新鋭兵器も導入して中国やパキスタンに対抗してゆく方針である・・・等々きれいな英語で金髪女子の好奇心に応えていた。

青年士官の見事なプレゼンを聞いてなぜインド軍が国民に敬愛されているのか得心した。

若手士官が先生? 僻地教育を担う陸軍基地小学校

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インド国軍のキャッチフレーズ「ネバー・ギブアップ」が前線基地の上に掲げられている

7月28日。レーの町から10時間近く四輪駆動車で中印停戦ラインに跨るパンゴン湖まで5000メートルの峠を越えて移動。高度4000メートルを超える渓谷を走っていると小さな村落の隣に陸軍の基地が見えた。

兵舎の一角の屋根に「Army Primary School」とペンキで書かれていた。ドライバーに聞くと近隣に小学校がないので基地司令官が子供たちのために兵舎を利用して小学校を設けたという。兵員輸送車で子供たちの送り迎えもしているという。

インドの僻地医療を支える陸軍

8月16日。インド最北端のラダック地方はインダス河の源流が流れる山岳地帯であり、中国・パキスタン国境に近い軍事的緊張地域でもある。

ラダック地方の中心であるレーの町からローカルバスで6時間かけて有名なチベット仏教僧院アルチ・チョゴスル・ゴンパのあるアルチ村に到着。

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インド陸軍「夏季巡回診療」の告知。アルチ村の診療キャンプまで軍用トラックが送迎する

村の雑貨屋の掲示板に「陸軍医療キャンプ」(Army Medical Camp)と書かれたポスターが貼られていた。8月末に一週間村の集会所で陸軍の医療チームが夏季巡回診療を実施すると告知されていた。

宿の主人に聞くとラダック地方の山間部では常設の診療所はなく年に数回の陸軍医療チームの巡回診療を住民は心待ちにしているとのこと。また山岳部では村外れに小さなヘリポートが設けられているが急患が発生すると最寄りの陸軍基地からヘリコプターが派遣されて都市部の施設の整った病院まで緊急輸送するという。

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インド最北ラダック地方の中心の町レーの遠景

軍隊の実態を知るにつけ国民がインド国軍を誇りに思うのは自然な感情なのであろうと理解できた。

⇒第3回に続く

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