「ホロコーストはなかった」 嘘はどうやって事実に格上げされるのか?

「ホロコーストはなかった」 嘘はどうやって事実に格上げされるのか?

  • THE PAGE
  • 更新日:2017/12/11
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『否定と肯定』(C)DENIAL FILM, LLC AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2016

米国のユダヤ人歴史学者デボラ・E・リップシュタット氏は2000年、英国の歴史家デイヴィッド・アーヴィング氏に名誉棄損で訴えられた。「ナチスによるホロコースト(ユダヤ人虐殺)はなかった」と声高らかに訴えるアーヴィング氏の「意見」とも「嘘」ともとれる主張を、リップシュタット氏が自著『ホロコーストの真実』で批判したからだ。

舞台は米国ではなく、英国の法廷へ。英国では起訴された者が出廷を拒むと有罪になる。それは、同時に「ホロコーストはなかった」を認めることになる。リップシュタット氏には、法廷で闘うしか選択肢はなかった。

「ホロコーストはあったのか? なかったのか?」世界中が注目したユダヤ人歴史学者VSホロコースト否定論者の前代未聞の法廷対決を描いた映画『否定と肯定』が8日より公開される。その原作となる回顧録を記したデボラ・E・リップシュタット氏が10月下旬に来日し、裁判前後の心情と「嘘」が「事実」に捻じ曲げられるプロセス、そして私たちは嘘の情報にどう立ち向かっていけばいいのかを聞いた。

デボラ・E・リップシュタット氏、裁判を経て、人物としての私は変わらなかったが、使えるツールが増えた

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デボラ・E・リップシュタット氏

同作でレイチェル・ワイズの演じたリップシュタット氏は、確固とした信念を貫き、疑問や疑念があれば一片も残さずクリアにしてから、前に突き進む強さを持ったカッコいい女性だった。実際に対面したリップシュタット氏は、そのイメージに加え、おおらかで飾らず包容力が感じられる女性だった。そんな強いイメージのリップシュタット氏だが、実際に訴えられたとき、そして裁判にはどのような気持ちで臨んだのだろうか?

「裁判中よりも最初がとても不安でした。何が起こるかわからないし、どう闘うかも自分で見えていなかったし、だれを弁護士にするかもわからなかったし、迷子のようなどうしていいかわからないような気持ちでした。怖かったあの時と今、ここに座っている私は、全然違う世界にいるような感じです」

あれからもう17年。裁判を終えて、リップシュタット氏の中で何か大きな変化はあったのだろうか? その問いに対しては、意外にも「とくに変わってはいない」という答えがあった。しかし、得たものはあったという。

「あえていうなら、私の使えるツールが増えたことですね。より大きな、つまり多くの方に語りかけられるような、より大きなメガホンを与えられたそんな気がします。人物としての私は変わっていなくて、でも今、こうしてあなたに私にとって大切なことを話せるようになりました」

「嘘」はどうやって「事実」に歪められていくのか?

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『否定と肯定』(C)DENIAL FILM, LLC AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2016

多くの被害者や目撃者が存在する中で、「ホロコースト否定論」は、「地球は平ら」だと主張するのに等しい。しかし、アーヴィング氏の主張は多くの人々のみならず、大手メディアも「正しいかもしれない」と信じた。なぜそのような事態が起こってしまったのだろうか?

「この裁判の前は『見解』と『事実』しかないと思っていました。しかし、今では私の中では、その2つのほかに『嘘』もあるということを知りました」

ホロコースト否定論者の手口は、初めは「嘘」を「斬新な見解」や「型破りな見解」として、議論の必要性を訴え、その後それを「事実」に歪めてしまう、という。

「“ナチスはそれほど悪ではなく、連合軍はそれほど善でもなかった。そして、ユダヤ人に起きたことは自業自得だ”、と結論にしてしまうのです」

「嘘」が「見解」を越えて「事実」に格上げされていくプロセスを聞いて、背筋が寒くなるような気がした。

今はネットで誰もが「嘘」や「見解」をSNSなどで発信できる時代になっている。身近に転がり、しかも恐ろしい速さで拡散する「事実」と見せかけられた「嘘」があるとしたら、それをどう見破っていけばいいのだろうか?

「じつは私も『嘘』に惑わされたことがあります。私が好ましく思っていなかった右翼政治家が人種差別発言をしているという投稿をフェイスブックで見つけたんです。自分の主張を補うような都合のいい情報だったので、うっかりツイートしそうになってしまったのですが、そこで一旦、立ち止まって、これが事実ならほかのメディアでも記事になっているはずと考えました」

後でじっくり調べてみると、誰も知らないようなそのメディアだけが、発信している情報だったという。

「自分にとって都合のいい情報こそ、疑念を持って出典を精査することが大切です。自動車やカメラなど高価な買い物をする消費者のように振る舞うとよいでしょう」

いともたやすく「嘘」が「事実」に格上げされるという現実を、まずは認識しておくことが重要だ。

■デボラ・E・リップシュタット
1947年生まれ。米・ジョージア州エモリー大学教授。現代ユダヤ史、ホロコースト学を教える。主な著書に『ホロコーストの真実 大量虐殺否定者たちの嘘ともくろみ』(恒友出版)、『否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い』(ハーパーコリンズ・ジャパン)、『アイヒマン裁判』(原題:The Eichmann Trial)などがある。

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『否定と肯定』(C)DENIAL FILM, LLC AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2016

『否定と肯定』12月8日(金)、TOHOシネマズ シャンテ 他全国ロードショー配給:ツイン (C)DENIAL FILM, LLC AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2016

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