「公安が強盗に入る」と批難された非合法捜査のやり口

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/08/13

極左過激派やオウム真理教事件など、昭和から平成にかけて日本を揺るがせた大事件の「裏側」で活動してきた公安捜査官・古川原一彦。その古川原が死の直前に明かした、公安警察の内幕やルール無視の大胆な捜査手法から、激動の時代に生きたひとりの捜査官の生きざまに迫ります。長年、古川原と交流を持ち、警察やインテリジェンスの世界を取材し続けてきた作家・竹内明氏が知られざる公安警察の実像に迫る連続ルポ、第4回(前回までの内容はこちら)。

「これ、お前じゃないだろうな」

自らの手で逮捕した連続企業爆破事件の容疑者・佐々木規夫を超法規的措置で釈放され、日本赤軍を追うことを誓った古川原一彦に、再びチャンスが巡ってきた。所轄勤務などを経て、警部補として公安部公安一課に復帰したのである。

担当は調査第一。「黒ヘル」と呼ばれたノンセクト急進派グループの「追及」が任務だった。追及とは、尾行、張り込みによって、非公然アジトを暴くことである。

当時の公安警察では、テロを防ぐという名目で、盗聴、侵入などといった法を逸脱した非合法捜査が、暗黙の了解のもと行われていたという。無論、古川原も突っ走っていた。

「おい、古川原!ちょっと来い」

公安一課の大部屋に、上司の管理官の怒鳴り声が響いた。

「なんですか?」

「これ、お前じゃねえだろうな」

管理官はデスクに「人民新聞」のコピーを投げた。

<公安が強盗に入る>

大きな見出しが躍っている。

古川原は記事を手にとって顔をしかめた。人民新聞は大阪にある新左翼系の新聞で、日本赤軍と関係が近いとされていた。ある女性活動家の家に公安捜査員が侵入したことを暴いた記事だった。

古川原は軽く舌打ちしてこう言った。

「馬鹿な警察官がいるものですね。警視庁はこんなドジなことはいたしませんよ。どこかの県警がやったのでしょう」

「そうか。警察庁には古川原ではないと報告を上げておくぞ。わかったな」

管理官の声を背中に聞きながら、古川原は素知らぬ顔でデスクに戻り、後輩に目配せした。

CIAに眠り薬を借りようと…

数週間前のことだ。古川原は日本赤軍を支援している女性活動家の視察をしていた。この活動家は、目黒駅近くの戸建てに住んでいた。150坪の敷地に2棟。一棟には大家の老夫婦が住んでおり、もう一棟の二階建てが貸家だった。女性活動家は貸家部分の2階に住んでいた。

敷地は高さ3メートルの板塀で囲まれていた。女性活動家は、その裏口の潜り戸を開けると、いつも奇妙な行動をとった。素早く左右を確認し、誰かが歩いていると中に戻ってしまう。通行人がいないときに飛び出し、目黒駅に向けて猛スピードで走るのだ。

「これは公安の尾行を巻くための点検だった。俺も駅伝選手だったから走れば追いつくのだが、走って尾行すればバレてしまう。だから、目黒駅に尾行要員を待たせて張り込ませていた」(古川原)

駅に着いた後も、点検は激しかった。電車が到着しても乗り込まないのだ。何度も電車をやり過ごしている間に、ホームにいる尾行要員を確認する。尾行要員の顔が次々と割られていき、ついには尾行そのものを断念せざるを得なかった。

だが、これで諦める古川原ではなかった。アメリカ大使館に行き、顔見知りのCIA駐在員を呼び出して頼み込んだ。

「あんたらが使う眠り薬みたいなものはないのか? スプレーで吹きかけて眠らせるような薬が欲しいんだ」

するとCIAの男は言った。

「古川原さん、あなたが追っている○○に使うつもりですか」

CIAの男は活動家の名前を言い当てた。

「なんで知っているんだ」

「薬があるかどうかは調べてみます」

しかし、思いつきでやった突拍子もない行動はすぐにバレてしまった。

警視庁本部に戻ると、いきなり遣いがやってきて、「公安部長がお呼びです」と言った。部長室にいくと、公安部長が顔を真っ赤にして怒鳴った。

「お前、CIAに何を頼みやがった。二度とアメ大(アメリカ大使館)に行くんじゃねえ」

目的のためには手段を選ばない。古川原の悪名は公安部内に轟くことになった。

「最近、泥棒が多いんですよ」

それでも、古川原は次なる悪知恵を働かせた。窃盗事件を捜査中の「泥棒担当の刑事」と名乗って、活動家に部屋を貸している大家のところに通い始めたのだ。何度も通いつめ、活動家のことを聞き出した。

無論、大家の老人は借主が、日本赤軍の関係者であることなど知る由もない。若い女性に部屋を貸しているという認識しかなかった。

だが、この聞き込みで、女性活動家が長期外出している時には、大家が代わって郵便受けから新聞を抜いていることや、女性活動家が電気を常につけっぱなしにして外出することを知った。古川原は大家の老人に言った。

「最近、この辺りで泥棒が多いんです。彼らはどこからか合鍵を作って、盗みに入るそうなんだ。おたくの鍵もどこかでコピーされているかもしれない。近くの交番に泥棒が持っていた合鍵のリストがあるので照会してきてあげますよ。あ、そうそう。賃貸の部屋に入居されている方の鍵も見てきてあげます」

こうしてまんまと大家から合鍵を受け取り、近くの鍵屋に走った。当然、女性活動家の部屋の合鍵も作った。

この頃には、古川原は大家の日課も把握していた。夕方4時になると散歩に出かけるのだ。数日後の午後3時50分に再訪し、「泥棒に合鍵は作られていなかった」と安心させ、他愛もない話をした。すぐに大家がそわそわし始める。散歩の時間だ。

「ああ、散歩の時間でしたね。行ってらっしゃい。私は庭の立派な木でも見てから帰ります」

大家を送り出すと、古川原は外で待機する後輩を呼んだ。

「おい、やるぞ」

女性活動家の部屋は、敷地内にある二世帯住宅、その2階部分だ。

午後4時、大家も活動家もいない。古川原は堂々と玄関の鍵を開けた。玄関は1階の部屋と共用で、1階の住人も留守だった。

「靴を持って行くぞ」

後輩と二人、靴を手に持ち、古川原は忍び足で階段を登った。

(つづく)

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