電通の「働き方改革」では長時間残業が減らない本当の理由

電通の「働き方改革」では長時間残業が減らない本当の理由

  • ハーバー・ビジネス・オンライン
  • 更新日:2017/10/13
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こんにちは、産業医の武神健之です。

社会問題となった電通過労自殺事件から1年が経ちました。この間、政府はいわゆる「働き方改革」を推進してきたわけですが、企業における「働き方」は、どのように変わったのでしょうか?

私は、これまで産業医として1万人の働く人たちを面談してましたが、昨今の長時間残業の議論では、ワークライフバランスを実現できるとは思っていません。今回はその理由をお話します。

◆電通式「働き方改革」は素晴らしい。けど……

今年7月、電通は「労働環境改革基本計画」を発表しました。その内容はおおよそ以下の4点に集約されます。

・法令遵守・コンプライアンスの徹底
・三六協定違反、ハラスメント、過重労働の3つのゼロの達成
・2年後の総労働時間を80%まで削減
・新たに生み出された20%の時間で「心身のコンディション向上」「日々の生活充実」「多様な体験・学習」を支援して社員一人ひとりの成長を促す

働環境改善や過労死防止の観点で、電通の「労働環境改革基本計画」は非常に素晴らしい内容です。しかし朝日新聞の取材に、電通の元常務が「いずれも机上の空論であり、仕事の中身を変えない限りは、現場は今までどおりの仕事の仕方を変えない」と厳しいコメントをしているように、このトップダウン的な方法だけでは不十分だと感じます。

◆長時間労働を減らしても働き方は改善しない!?

みなさんに考えていただきたいのが、そもそも長時間労働を減らしたら、本当にワークライフバランスが実現するのかという点です。

仮に社員の労働時間を80%に減らしたら、新たに生み出された時間で、社員一人ひとりの自己成長が促せるのでしょうか。

私は「No」だと考えます。

なぜなら、長時間労働で病気になる人もいれば、ならない人もいます。少ない残業で病気になる人もいれば、ならない人もいます(長時間労働を肯定しているわけではありません)。

絶対的な長時間労働は健康を害する確率を高めますが、短時間でも病気になるし、長時間でも大丈夫なこともあります。そこには労働時間の長短では説明しきれない要素があるのです。

◆長時間残業が本当に違法か、どうか

長時間労働は「違法」「悪だからゼロにすべき」というのは正論です。しかし、会社に規制を作らせるだけでは、やる気のある人を否定し、新たな時間外労働を生み出す恐れがあります。長時間労働が違法かどうかは、議論の対象ではありますが、その解決策を念頭においてみると論点がずれていきます。

長時間労働の根本的な原因は、会社や部署で異なります。長時間労働を減らしたい、働き方改革をしたいという目的は同一でも、方法論や実現可能性などは本当に異なります。

長時間労働を減らすためには、企業の部署ごとで具体的対策をたてて実践し、成果のあった取り組み事例を社員で共有し、一部修正して他部署で実施してというような、地道なサイクルしかないです。

これは、長時間労働や働き方改革を、違法残業やリスクマネジメントしてではなく、素直な気持ちからそう思える一人ひとりの参加なくしてはなし得ないことです。ボトムアップ形式の対策を、トップが認めることこそが、働き方を改革し、結果として長時間労働が減らすことに繋がるのではないでしょうか。

◆大切なのは働く時間だけでなく疲労度

産業医としては、過労死や過労による病気になるには「疲労度」が大きく左右すると感じています。

疲労感は主体的な感覚なので、取り扱いが難しいです。それよりも、数字化できて客観的で比べやすい「時間」という基準が、使われているのが多いというのが実情ではないでしょうか。

一方で昨今、耳にする機会が増えた「違法残業」という言葉があります。これは働き方とは別の問題です。違法残業はむしろ企業ガバナンスの問題です。言ってみれば、日産自動車におけるの無資格者の恒常的検査体制や、神戸製鋼所における製品偽装にも通じるものがあります。

そして、その時間や違法性という、理解しやすい言葉に社会の関心が向きすぎてしまっているのではないでしょうか。

大切なのは、長時間労働や疲労を生み出している働き方なのです。

では、働き方とは何でしょうか。

◆働き方=やりがいx裁量権

一般的に働き方とは、通常の定時勤務のほかに(長時間を含む)労働時間、フレックス勤務の種類、短縮勤務、そのほか育児休暇や介護休暇などを指します。その根底には大きく2つの要素があります。

それは「やりがい」と「裁量権(コントロール度)」です。

やりがいとは、一人ひとりの社員が仕事で自己成長を感じているか、職場からの評価を感じているか。時にはなぜ自分がその職場で働いているのか、その意味を認識しているかということです。

新入社員は、自分の成長を日々実感できるので、働いても比較的疲労が溜まりにくいといわれています。ベテランであっても周囲の評価が感じられている場合は大丈夫です。

また、就職先や転職先が、タフな労働環境でも、なぜ自分がそこに職を求めたのか明確なら耐えられます。一方、あまり考えずになんとなくその会社に就職(転職)した人ほど、早くに潰れてしまう傾向があります。

2つめの要素である裁量権とは、職場におけるコントロールの度合いのことです。自分が決めたり、選ぶことができる範囲が大きい人ほど、疲労度は少ない傾向にあります。

どの仕事を同僚や部下に任せて、自分は何に集中するかを選択できる人、自己決定権が大きい人は、遅くまで働いても、ストレス度は少ない傾向にあります。仕事相手を選べる人、フリーデスク制で苦手な人からは離れて座ることのできる人も職場における心の疲労度は少ないです。

◆会社だけでなく個々の社員の意識改革も必要

つまり働き方とは、会社だけでなく、社会的関心、さらに社員一人ひとりの関心といったもう一段階が必要でしょう。

一人ひとり社員にも意識改革を求めるべき余地がまだあります。電通の新しい計画からも、この視点は感じることはできませんでした。

電通を働き方改革の単なるスケープゴートにすることなく、ほかの会社も、長時間労働という社会的な問題を自社の問題として、それぞれの労働環境の改善を計画してほしいものです。

それ以上に大切なのは、会社の改善計画作成にとどまることなく、社員一人ひとりが自分たちの働き方を見直すことが、今本当は求められているのです。

<TEXT/武神健之>

【武神健之】
たけがみ けんじ◯医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書―上司のための「みる・きく・はなす」技術』(きずな出版)、『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』(産学社)、共著に『産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある

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