古生物学者が語る 夏休みに博物館・恐竜展の化石鑑賞を10倍楽しむ方法

古生物学者が語る 夏休みに博物館・恐竜展の化石鑑賞を10倍楽しむ方法

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  • 更新日:2017/08/18
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アメリカ自然史博物館で熱心に恐竜の展示に見入る少年。こうした光景は夏休み日本各地の博物館や恐竜展で見られるようだ。(写真:ロイター/アフロ)

夏休み、各地の博物館は親子連れでにぎわっています。そこで催される特別展は、太古の地球からのメッセージを記憶した骨格標本や化石に直に触れる貴重な機会です。自由研究も兼ねて、いつもより科学者目線でこうした展示物を楽しんでみませんか。

古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、化石鑑賞のポイントについてまとめました。

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本物の化石が持つ迫力・魅力

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Image1:白亜紀後期の大型サメScapanorhynchusの歯をアラバマの化石現場で手にする筆者。(2017年7月22日撮影)

この「生物40億年のメッセージ」の連載を通し、私は何とか化石の魅力や古生物研究の醍醐味、生物進化の奥深さなどを読者の方に伝えたいと奮闘してきた。しかし文章と写真や図といったイメージだけでは、どうしても限界があることをよく痛感させられる。どうしても届けられない種類のメッセージというものがある。

それは化石の持つ「本物の迫力」「真の魅力」だ。

こうして言葉に表してみると拙く響くかもしれない。しかし一化石研究者の私にとって、化石が内に秘める偉大なパワーは何よりも捨てがたい。この魅力をどうしたら伝えられるのだろうか?

個人的なエピソードを一つ紹介してみたい。私は実物の化石に触れることを非常に好む。恐竜などの化石標本を調査する時、化石の表面に時々直接指をあててみる。野外調査を行っている時、見つけたばかりの化石を少しの間手の中に収めてみる。研究のためデータなど集めはじめる前に、しばらくの間じっと凝視してみる。時々、化石に少し私から語りかけることさえある(もちろん人目もあるので声には出さないが)。

同業者や他の化石研究者・愛好家の方が、同じようなことをしているのかよく知らない(話題としてとりあげてみたことさえない)。「そんなことして何に役に立つ?」と聞かれると、私は答えに窮してしまう。ただ何かしら自然からのパワーを感じ取ろうとしているのだろうか。サイエンティストとして、細かな情報を逃したくないという心構えのつもりか。ただのげんかつぎなのか。その真意を特に確かめるつもりも、その予定もない。

ただ私からこの記事を読んでくれている方に、一つだけフレンドリーな提案がある。もしどこかでチャンスがあるなら、実物の化石に触ってみてはいかがだろうか。化石を目の前に少しの時間でも、日常の雑事など忘れて見入ってみてはどうだろうか。骨や殻などの細胞によって形成された化石独特のざらざら感。それこそ何千万年、何億年という時を経て骨から岩石の成分へとって変わられた、化石のずしりとした重量感。繊細で一見壊れ易そうな化石骨の数々。どうして長大な時を経ても失われず我々の目の前にきれいに残っているのだろうか?

こうした化石のもつ神秘性(とあえて呼ばせていただく)は、やはり実物を目の前にしてみないと感じ取れないものだろう。目の前の化石が太古の彼方、生命を宿していた当時の状況を想像してみるのも悪くない。

こうした自然と直接交わる時間は、この喧騒につつまれた忙しい現代において、特に貴重なのではないだろうか。週末に山登りやフィッシングなどアウトドアを満喫したり、ペットや盆栽を手元に置いておくのも、根本的に似たような狙いがあるのかもしれない。月並みな言い方だが自然とのつながりを求めて。

夏休み:化石展・自然史博物館へ行ってみよう

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Image2:千葉幕張で2017年夏に開催中の恐竜展の一シーン。(画像提供:ギガ恐竜展2017)

さてお盆も控えて、夏休みもたけなわにさしかかってきたようだ。暑さを逃れるために、何処か遠くの涼しい気候の国で、長期休暇などとる予算も時間もない方。毎日家の中に閉じこもってはパソコンやスマホを抱きかかえ、半冬(夏)眠状態のあなた(他人事ではない)。彼氏・彼女・パートナー・家族のメンバー等々と暇をもてあまし気味という方。

「恐竜展や自然史博物館に足を向けてみてはいかがだろうか?」
化石と接する機会など、普段なかなかない方にとって、夏休みは特に絶好の時間だ。

例えば今年の夏は、千葉市幕張で大きな恐竜展―「ギガ恐竜展2017」―が開催されている。世界各地からさまざまな種類の恐竜やその他の生物グループの化石標本を、一箇所にまとめ展示している。恐竜研究者の私から見てもかなり贅沢な顔ぶれの化石が多数揃えてある。超大型恐竜の全身骨格や最近記載されたばかりの古生物学の最先端をいく化石標本なども見られる。(恐竜展のくわしい情報はこちら(http://giga2017.com/) 参照: http://giga2017.com/。9月3日まで開催中。)

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Image3:イギリス・ロンドンにある大英帝国博物館の恐竜骨格(竜脚類ディプロドクス)。(写真:ロイター/アフロ)

注:私のこの連載記事では、あえて商業的な宣伝は控えることをモットーにしている。しかしこの恐竜展を企画しているスタッフの方と、個人的に直接交流する機会が数年程前にあり、今でもよくメールでやり取りさせて頂いている。これだけの数と質を備えた化石標本を世界各地から集め、一大イベントとしてまとめ上げる、その情熱と企画推進力は化石研究者も顔負けだ。そして世界的に見回してみてもこれだけのスケールの期間限定の化石展は他にほとんどない。そのためとりあえずここでは友情応援ということでご理解願いたい。

幕張までどうしても足を向けることができないという方もいるかもしれない。こうした方に是非尋ねてみたい。日本各地に大小さまざまな自然史・化石博物館が存在することを、はたしてご存知だろうか? 多数の博物館には常設・臨時の化石標本がたくさん展示してある。その地域から見つかる特有の化石の中には、サイエンス的にかなり貴重なものも多数ある。中には来館者の方が直接触れることのできる化石標本も置いてある。

-「化石友の会」(http://www.palaeo-soc-japan.jp/friends/museum.html)編: http://www.palaeo-soc-japan.jp/friends/museum.html
-日本の化石・自然史博物館リスト(http://www.geocities.jp/restingspace2/Database/database.html):http://www.geocities.jp/restingspace2/Database/database.html

もし海外を旅行する予定があれば、滞在予定地近郊の自然史博物館(natural history museumやscience museum)をチェックしてみるのもおすすめだ。日本ではなかなか見られない貴重な化石が多数見られるかもしれない。日本の博物館とはかなり異なるスケールや趣の博物館もたくさんある。(おいしいカフェテリアや大きなギフトショップも当然見逃せない。)

私は研究がてら世界各地の博物館をあちこち訪ねてきたが、各博物館がもつ個性のようなもの、ユニーク性は実に多彩でいつも感心させられる。長い歴史やその風土・街並み・土地柄などから醸(かも)しだされるたたずまい。博物館スタッフが長年に渡りしぼり出し続けてきた創意工夫やユニークなアイデアの数々が、展示の一つ一つにおいて随所に見られる。

大都市にはたいてい(大きな)自然史博物館が、その地域の顔のような存在として(当然)ある。こうした場所を見逃す手はないだろう。丸一日かなり有意義でリラックスした時間を費やすことさえできるはずだ。

化石鑑賞を楽しむコツ

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Image4:化石標本を前に熱心に見入る人々。こうした光景は古今東西、どこの博物館でもよく見かけられる。その楽しみ方は各自さまざまで千差万別。(写真:ロイター/アフロ)

さて化石展示を鑑賞する際のコツ(のようなもの)をここにいくつか、思いつくままに紹介してみたい。こう切り出すと「何だ偉そうに」という声が聞こえてきそうだ。こうした反応はある意味正しい。絵画や彫刻、名作映画など美術作品を鑑賞するのと似たようなもので、それぞれの感性のおもむくまま、あまりあれこれ考えすぎず化石を見て回るのはもちろん大正解だろう。

かなり個人的な例を持ち出して恐縮だが、私が今所属するここ「アラバマ大学自然史博物館(http://almnh.ua.edu/) 」のギャラリーには、最上階の片隅にベンチがいくつかおいてある。来館者や生徒が座って博物館特有のスペースでくつろいだ時間を過ごせる。私の良き友人である博物館スタッフ(注:Mr.トッド氏)が、時々ランチのあと、よこになって昼寝をしている姿など見物することさえできる(見かけたときは触ったりせずそっとしておいてあげて下さい)。きっと大型肉食恐竜アパラチオサウルスに追いかけ回されれていたり、巨大海生首長竜エラズモサウルスと白亜紀の海をのんびり泳いでいる夢でもみているのだろう。こうしたさまざまな化石鑑賞の仕方があるはずだ。

しかし一化石研究者・古生物学者から、化石鑑賞をより楽しめられるようなアイデアをいくつか、思いつくままにここに並べてみたい。こうした情報や記事などを、私はほとんど見かけたことがないような気がする。(私の思い過ごしかもしれない。)

以下5つの具体的なサイエンス上の点に私はよく目を配る。(1)化石の地質年代、(2)出産地、(3)保存状態、(4)生物分類学上の判定、そして(5)進化上の注目点だ。

(1)地質年代:先述したギガ恐竜展2017で見られる超大型恐竜「ルヤンゴサウルス(Ruyangosaurus)」は白亜紀後期(約9400万―1億年前)と推定されている。この時代は恐竜が繁栄した中生代において、比較的古い時代なのかより新しい時代の恐竜のなのかご存知だろうか? より正確な地質年代を知ることで、同じ時代にどのような肉食恐竜がいたのかチェックすることもできる。たくさんの哺乳類や鳥類が、その当時すでに出現していたのだろうか? 大まかにでも「スケール(物差し)」として地質年代を知っていることは、化石標本を鑑賞する際、まず、最初のカギとなるはずだ。

-日本地質学会による地質年代表(日本語版)はこちら(http://www.geosociety.jp/name/content0062.html)を参照:http://www.geosociety.jp/name/content0062.html

(2)出産地:日本国内はもとより世界各地のどの場所から、どのような化石が発見されているのか、注意をはらってみてもいいだろう。ここで一つ重要なのは、恐竜が繁栄した中世代や、それ以前の古生代において、現在我々が使っている世界地図は(以前に紹介した大陸移動のため)まるで役に立たないということだ(こちらの記事の上(https://thepage.jp/detail/20170131-00000010-wordleaf)と下(https://thepage.jp/detail/20170209-00000003-wordleaf)参照)。

例えばペルム紀からジュラ紀初期の長い間、北米とアジアは陸続きだった。初期の恐竜達はかなり長い距離を自由に行き来していたことだろう。インド大陸はジュラ紀(約1億5千年前)から白亜紀末にかけて、太平洋上に孤立していたと考えられている。そのためインドの陸生動植物の化石相は、アフリカやアジア、ヨーロッパ等のものと比べてみても、かなり異なる可能性が高い。(オーストラリア大陸においてカンガルーなど有袋類の哺乳類が独自の進化を遂げたように。)こうした古地理学(Paleogeography)を大まかにでも知っていると、化石の見方もかなりかわってくるはずだ。

-地質年代を通した大陸と海洋の変遷を示した地図は以下の二つのサイトがお勧め(英語版):http://www.scotese.com/Default.htm(http://www.scotese.com/Default.htm);http://www2.nau.edu/rcb7/RCB.html(http://www2.nau.edu/rcb7/RCB.html)

(3)保存状態:展示されている化石の保存状態においても、いろいろと興味深い事実が隠されていることが多い。本物の化石骨か複製なのか鑑識眼を養ってみることもできる(探偵シャーロック・ホームズのように)。複製の場合、色が単調だったり表面がつるつるとしてなめらかな場合が多い。本物の化石骨格や骨でも、ところどころ壊れていたり欠損している部位などあるかもしれない。また化石の色をいろいろ比べてみるのも一興だ(岩石に含まれる鉱物のタイプによるが、太古の堆積環境など示しているケースもある)。骨の表面に肉食恐竜などによってかまれた痕が見つかるかもしれない。

(4)分類学:まず大まかな生物分類グループに目を配っていただきたい。例えば脊椎動物なら魚類、両生類、爬虫類、鳥類、及び哺乳類。次により細かな分類群に注意を向けてみる。爬虫類なら恐竜類なのか、ワニ類、それとも翼竜なのか。もし恐竜なら具体的にどのタイプの恐竜なのか ── 例えば(アパトサウルスのような)竜脚類か、(ティラノサウルスのような)獣脚類なのか。

進化上、竜脚類の中でも幾つか更に細かなグループがある。ルヤンゴサウルスは比較的先進的な竜脚類に分類されている(Sassani & Bivens 2017参照)。(より以前のジュラ紀後半に現れたカマラサウルス、更に古い時代に現れたより原始的なオメイサウルスや、竜脚類の祖先に近いと最近提案されだしたエオラプトル等と比較してみるのも興味深いだろう。)

-Sassani N, Bivens GT. (2017) The Chinese colossus: an evaluation of the phylogeny of Ruyangosaurus giganteus and its implications for titanosaur evolution. PeerJ Preprints 5:e2988v1 https://doi.org/10.7287/peerj.preprints.2988v1

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Image5:化石標本を前に夢中になる少年。こうした光景は古今東西、どこの博物館でもよく見かけられる。その楽しみ方は各自さまざまで千差万別。(写真:YUTAKA/アフロ)

(5)進化:特殊な進化のパターン等をあらかじめ知っておくと、化石の楽しみが倍増すること間違いなしだ。化石の展示場で、簡潔にうまくまとめてある説明や解説は、非常に役に立つ。加えて自分で(特定の種やグループを)ネットやスマホなど使って、気に入った化石の目の前で、素早く検索することもいいアイデアだ。(この21世紀、お互い文明の機器をおおいに享受しましょう。)

例えば体の大きさ時代を通した違い(進化)や食性の変化、四足から二足歩行への変化(その逆のパターンもありえる)など、恐竜においていくつものケースが知られている。こうした進化上の流れをつかんで、骨や骨格の大きさや形の違いを改めて比べてみると、意外な事実が発見できるかもしれない。

特に様々な種類のたくさんの化石が一箇所にまとめて展示してある場合、いくつもの化石種を同時に比較することのできる「大きな特典がある」ことを。改めてここで強調しておきたい。豪華なビュッフェ形式のレストランで、いろいろつまんで味比べ・食べ比べするのがやはり楽しいのと同じだ。

ちなみに化石標本を研究者が調査する時、食べ物や飲み物の持ち込みは厳禁だ。おにぎりをつかんだ手で化石に触ると、水分や食べ物を通して繁殖するバクテリアなどが、直接ダメージを与える可能性があるからだ。マナー違反ということもあるだろう。

私は展示してある恐竜骨格や骨の標本を調査する時、写真を非常にたくさん撮る。デジカメもスマホも両方同時によく用いる。その際、同じ化石標本でも様々な角度で写す。(後から3次元的な感じをつかめるのがベストだ。)大きさを記録として残すため、物差しか代わりになりそうなもの(ペンとか10円玉など)とともに写すこともする(注:あらかじめ許可が要る時もある)。大きな恐竜骨格なら、時々、他の人に頼んですぐそばに立ってもらうこともよくする。

その日のうちに写真はコンピューターにダウンロードして、ファイル名や各フォルダーに分類しておく。必要な時はメモもとっておく。後から「この写真はどの化石標本だったのか?」という、(化石研究者としてはかなりつらい)事態を未然に防ぐため。こうしたプロセスやちょっとした気遣いは、研究者でない方にとっても有効かもしれない。

さて今回はあえて最新の化石研究など取りあげず、夏休みにあわせより身近で役に立ちそうなテーマに焦点を合わせてみた。時々はこうしたテーマについても、機会をみて今後も紹介してみたい。最後に個人的なメモを一つ。一條さん、恐竜展の写真を分けていただいて有難うございました。イベントのご成功をここアラバマより応援させていただきます。

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