母の自殺、メンヘラ、心霊、寺の鐘...負の力を創作エネルギーに昇華する「岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」がヤバすぎる!

母の自殺、メンヘラ、心霊、寺の鐘...負の力を創作エネルギーに昇華する「岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」がヤバすぎる!

  • TOCANA
  • 更新日:2018/04/07
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「今年の最優秀、岡本太郎賞の受賞者は“さいあく”さんです」

岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)の授賞式で審査員長の椹木野衣氏の言葉に一瞬、会場内が戸惑った。“さいあく”さんとは、アーティストの「さいあくななちゃん」のこと、乙女チックな衣装が似合う女の子が壇上にのぼり、受賞の盾を受け取ると拍手が響いた。

「彼女は“さいあく”と罵られたことを逆手にとってその名を名乗り、創作を続けていこうと思ったそうです。さいあくを最高に転ずることも岡本太郎が提唱したことであり、負の力もまた新しい芸術創作のための大きな原動力になり得ます」と、椹木氏は評した。

さいあくななちゃん《芸術はロックンロールだ》

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さいあくななちゃん《芸術はロックンロールだ》

毎年恒例、TARO賞こと岡本太郎現代芸術賞展が開催中(クリックすると展示情報に飛びます)である(4月15日まで)。これは「芸術は爆発だ」という名言で知られる岡本太郎の精神を継ぎ、自由な視点と発想で現代社会に鋭いメッセージを突きつけるアーティストを発掘かつ応援しようと設立された公募展。1997年から始まり、今回で21回を迎え、応募総数558点のなかから、ずば抜けた26名(組)のアーティストが入選を果たしている。

賞歴、学歴、年齢を問わず、美術ジャンルも超えて、応募できるところが特徴で、これまでも無名の若いアーティストが入選・入賞を果たすことでデビューをしており、若手作家の登竜門といえる。

「これまで“さいあく”といわれることがいっぱいあって、自由ってなんだよって思ってた。わたしは苦しいときも絵を描くし、生きているから絵を描くし、すごく息苦しいんですよ」と、さいあくななちゃんは投げやりに語る。

「でも、わたしはロックが大好きで、音楽がいつも自分を助けてくれた。ロックは現実に対する不満を歌っているのに、なんでそんな不満をそのまま言っちゃだめなんだろう。わたしはロックみたいに絵を描き続けたい」

そんな彼女のお気に入りはエレファントカシマシという。少女マンガ風の作品だが、その表情にはどこか反抗的なところもみえる。

「わたしが描いている女の子は自画像じゃない。心の中にいて、わたしの言えないモヤモヤを代わりに言ってくれる。だから、毎日何枚も何枚も絵を描き続けている」

今回の展示は、約5年間、一日も休まずに描き続けた作品を壁面に集約したもの。ピンクを基調に埋め尽くされた展示空間は、ネガティブなパワーが作り出す言い知れぬ磁場が働いている。

毎年行われるTARO賞の醍醐味は、優秀な作品に賞を与えるだけでなく、年ごとに優れた応募作品の中から“ある共通要素”を抽出し、TARO賞展そのものが時代を映す展示となるように工夫されているところにある。つまり、入選作品をセレクトする過程で年ごとの展示を特徴づけるようなキュレーションも意識されている。

そして、今年のテーマといえるのは「負のパワー」、さいあくななちゃんしかり、作家自身の現実との葛藤が創作へと結びつき、過剰さを伴って展示全体を支配している。

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弓指寛治《Oの慰霊》

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弓指寛治《Oの慰霊》

岡本敏子賞を受賞したのは、2015年の母の自殺を創作の原動力にしてきたという弓指(ゆみさし)寛治。今回の作品では80年代に飛び降り自殺して社会現象になった人気アイドルOをテーマに、そびえ立つビル、慰霊に集まったファン、上空を舞う鳥たちなどを描いた。弓指にとって、自死した母の棺桶に入れたものが自ら描いた鳥の絵だったことから、鳥は自殺者の彷徨う霊を象徴し、床や壁をびっしりと覆うのは、2015年の日本の自殺者数と同じ21764羽の鳥たちが描かれた絵馬のような木片である。

「自殺について調べていくと、アイドルOの話は必ず登場します。その死の直後には、後追い自殺が多発して社会問題にもなったほど。毎年4月8日昼12時になると、彼女が飛び降りた場所に集まってきて花を手向けることがずっと続いています。生身の人間がいなくなっても、死者との対話は、その人を思ったり、考えたりすることでずっと続くものなんですよね」

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弓指寛治

そう弓指はいう。彼の作品には、展示空間の中央に部分的にレンガが置かれた道が作られている。観客はそこに足を踏み入れ、絵画作品の間近にまで入っていけるが、そのレンガの道こそ、アイドルOの飛び降りた場所の再現である。作品に込められたものはかなり重いが、弓指は作品制作を通じて、自分が母の死を昇華していることこそ見て欲しいという。

「病気や事故で死んだのなら納得がいく。でも、自殺だと、あのとき、こうすれば良かったという思いに囚われ、他人にも話せないから自分の中に押し込めてしまうんです。でも、僕みたいに身内の自殺を芸術作品に昇華することができることを知れば、みんなもっと楽になってくれるんじゃないかと思います」

この1年ひたすら作品制作に費やしてきたという弓指、受賞の喜びの笑顔が背負ったものを克服してきたことを教えてくれる。

特別賞は、市川ヂュン、冨安由真、ユゥキユキが受賞した。

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市川ヂュン《白い鐘》

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市川ヂュン《白い鐘》

市川は、捨てられたアルミの空き缶1万5千個を溶かして得られた200キロのアルミニウムで鐘を作り、その鐘の音で見捨てられた物や人々を鎮魂する。

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冨安由真《in-between》

冨安は、扉で出入りする洋間の小部屋を作り、その中に入るとテレビが点いたり、電話が鳴ったりするポルターガイスト現象を経験できるという擬似的心霊体験を作品化した。

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ユゥキユキ《ユキテラス大御神 天岩戸伝説》

ユゥキは、天の岩戸をモチーフに自らアマテラスのコスプレで作品内に入り、観客が賽銭箱に何かを入れると登場して、古代神話とキャラクターのイメージを重ね合わせる。どの作品も、どこか「見えない世界」に繋がろうと手を伸ばしているようだ。

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Ichiko Funai

他の入選作品も見てみよう。汚染をテーマに映像インスタレーションを見せるパリ在住のichiko Funai。

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木暮 奈津子

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ワタリドリ計画

くらげちゃんと名付けた海の生き物をモチーフとした人形700体を床に並べる木暮奈津子、スマートフォンを用いて和紙に神秘的な版画を施した橋本悠希、有刺鉄線の中に等身大の上半身だけの日本人像が並ぶ村上力、子供時代から大人になってからまでの創作物を自宅の部屋に見立てて陳列する室井悠輔、10年間に渡って日本全国を旅して展示活動も続けてきた女性2人組のワタリドリ計画など、どの作品も物量の多さと密度の濃さで圧倒してくる。それでも、今年のTARO賞の作品に共通するのは、ネガティブなものを創作を通じて跳ね返していこうという熱量だろう。

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○△□(まるさんかくしかく)

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黒木 重雄 黒宮 菜菜 橋本 悠希

現在の日本は、震災や長引く経済低迷を経て、国家として建て直すため、国民個々の幸福がないがしろにされているようにもみえる。そんな状況にあって、TARO賞の作家たちの悪戦苦闘ぶりは鑑賞者の内面を揺さぶるものになるだろう。そこから生きるための勇気やヒントを読み取り、作家たちはいかにして現実と闘っているのかを見て欲しい。“さいあく”こそが格好いいと思わせてくれる、過剰で濃厚な展示である。
(取材・文=ケロッピー前田)

【展示情報】
第21回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展
2018年2月16日(金) ~ 4月15日(日)
川崎市岡本太郎美術館
開館時間:9:30~17:00(入館は閉館30分前まで)
休館日:月、3/22、3/23

【公式HP】
http://www.taromuseum.jp/

【入選作家(50音順)】
荒川朋子、市川ヂュン、ichiko Funai、大野修平、黒木重雄、黒宮菜菜、木暮奈津子、近藤祐史、さいあくななちゃん、笹田晋平、塩見真由、冨安由真、橋本悠希、藤本りか、文田聖二、細沼凌史、○△□(まるさんかくしかく)、村上力、室井悠輔、矢成光生、ユゥキユキ、弓指寛治、横山信人、

■ケロッピー前田(けろっぴー・まえだ)

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1965年、東京生まれ。千葉大学工学部卒、白夜書房(コアマガジン)を経てフリーランスに。世界のアンダーグラウンドカルチャーを現場レポート、若者向けカルチャー誌『ブブカ』『バースト』『タトゥー・バースト』(ともに白夜書房/コアマガジン)などで活躍し、海外の身体改造の最前線を日本に紹介してきた。近年は、ハッカー、現代アート、陰謀論などのジャンルにおいても海外情報収集能力を駆使した執筆を展開している。前田亮一『今を生き抜くための70年代オカルト』(光文社新書)が話題に。新刊『クレイジートリップ』(三才ブックス)絶賛発売中!
公式twitter:@keroppymaeda

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