"日大出身”、"ゆとり世代”の作家が問いかける「ブラック部活問題」

"日大出身”、"ゆとり世代”の作家が問いかける「ブラック部活問題」

  • 文春オンライン
  • 更新日:2018/06/24

『拝啓、本が売れません』が話題の“ゆとり世代の新人作家”額賀澪さん。最新作で「部活」をテーマにした彼女は、実は日大出身。ブラック部活問題と日大タックル問題について、思いを語る。※前編[『拝啓、本が売れません』が話題の作家の最新作は売れるのか?]より続く

【写真】日大のOGでもある作家・額賀澪さん

――7月13日には単行本『風に恋う』が発売になります。

額賀 はい、私の10冊目の単行本ということで、初心に返るというか、デビュー作の『屋上のウインドノーツ』と同じ吹奏楽を題材にしつつ、年齢差のある二人の主人公の話を書こうと思いました。

「全日本吹奏楽コンクール」という吹奏楽の甲子園を目指す現役の高校生とそのコーチの話です。現役の高校生は一度、燃え尽き症候群で吹奏楽の道を諦めたという経緯があります。コーチの方は高校時代に全国大会に行き人生のゴールデンタイムを過ごしたのに、社会人になってからはパッとしない生活をしている。二人が出会い、全日本コンクールを目指していく。その中で二人は何を思って、どう変わっていくのか……という物語です。

担当の編集者から「王道のコンクールものをやりませんか」と言われたのは、去年の1月で、ちょうど恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』が直木賞を取り、本屋大賞はどうだろうと話していた時期でした。だから、まずは『蜜蜂と遠雷』を読むところから始めたのですが、読めば読むほど私の選択肢の幅が狭まっていきました(笑)。でも読んでよかったと思います。この1年間ずっと私のパソコンの横に置いてありました。ノートパソコンの横にドンッて置いて。あんま読まないようにしていましたけど。

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©文藝春秋

――それは、なぜ?

額賀 たとえば、音の描写や演奏のシーンをどう表現しようかって思ったときに手にとって、すごく良い表現を見つけちゃったときに「あ~見つけちゃった……」ってなるじゃないですか(笑)。それはもう使えないし、使えないけどめちゃくちゃ良い表現だなーって思いながら書き進めないといけないなんて、辛いですよ。開かないようにブックバンドで縛って留めていました。

――『拝啓、本が売れません』に『風に恋う』の第1章を収録したことは、効果がありましたか?

額賀 そうですね、「いいところで終わっていて、先が気になるので本出たら買いますね」という声をいただいています。それに、SNSで紹介すると、「楽しみです」という反響がいつもより多いです。普段から私の本を読んでくださっている人の中には「あえて読まないでおきます」とわざわざ伝えてくださった方もいました。

そういうリアクションが、『風に恋う』の発売の2カ月~3カ月前の、ちょうど最後のひとふんばりというタイミングで聞こえたのがすごく良かったです。「がんばんなきゃな」と思いました。「この本はまだ発売になっていないけど、もう読者がいるんだから」と。余計な描写は削ってちょっとでも薄くしてやろうと思って削りに削りましたし、書き出しから書き替えましたし。

あのタックル問題に憤る自分に気づいて驚いた

――世間的にはちょうど中学高校のブラック部活問題が話題になり、日大アメフト部の反則プレーをきっかけに体育会的な一側面が批判を浴びていますが、そうした時代背景が反映されているのでしょうか。

額賀 ブラック部活は、由々しき問題だと思います。私はアメフト部が問題になった日大のOGで、同じ学科の大先輩には林真理子さんや吉本ばななさん、群ようこさんなどがいらっしゃいます。卒業生の多くは、「日芸」はともかく、日大に対する母校愛はあまり無いと思って生きてきた人が多いと思うんですが、あのタックル問題に憤る自分に気づいて、「結構(母校愛が)あったんだな」と驚いています。

『風に恋う』の取材で、箱根駅伝で活躍した中央大学陸上競技部の舟津彰馬選手や、進学校である越谷北高校吹奏楽部の部員達に話を聞いて、「今の若い子、なんてちゃんとしてるんだ!」って驚いたんです。部活はもちろん、勉強もとても頑張っているし、将来のこともちゃんと考えている。日大の怪我をさせてしまったアメフト選手も、あんなにちゃんと記者会見ができる、負傷した関学の選手のマスコミ対応も立派で、ちゃんとしていないのはむしろ大人の方。多分、一連の日大の騒動には、「一つの大学の不祥事」では収まらない、社会が抱えるさまざまな問題が凝縮されている。だからこそ、ワイドショーのトップニュースになったんですよね。

――高校部活はたった3年間なのに、その後の人生の価値観を左右するところがありますよね。ちょっと、不思議です。

額賀 社会が部活に重きを置きすぎですよね。「部活すばらしい!」と神聖視する人たちが大勢いて、その人たちと今の感覚が釣り合っていないのかなと思います。

最近は部活動も、週○日は必ず休みにするとか、夏休み中も○日はちゃんと休みにするとか、勉強や将来のこともちゃんと考える心のゆとりを持ちながら部活を頑張りましょう、という動きが活発になっています。これって、ゆとり教育と考え方が凄く近いと思うんです。「ゆとり教育は失敗だった」と考えている人達は、きっと「ゆとり部活なんてけしからん!」と憤慨しているでしょうね。

私は『拝啓、本が売れません』で書いた通りゆとり世代ですし、今となってはゆとり教育に感謝しているんです。私はゆとり世代だったから小説家を目指したし、小説家になれたんだと思っているので。

吹奏楽でもスポーツでも何でも、「何かに夢中になって、目標に向かって必死になること」が人間を大きくすると思います。でもそれは「それ以外のものを排除してまでやらないといけないもの」じゃない。人生はそんなブラック企業みたいなものじゃない。ましてや今の高校生なんて、考えないといけないことややらなきゃいけないことが膨大にあるんですよ。そこには、個人の状況や、将来の目標に合わせた選択肢があっていいはずなんです。「部活を頑張る」も選択肢の一つだし、「それ以外のものを頑張る」のだって選択肢の一つ。「頑張らない」って選択肢だってあっていい。頑張りたい人は頑張りたいものを頑張ればいい。そこに正しいも正しくないもないし、自分と違う人を排除する必要だってない。

でも、それを受け入らられない人もいる。頑張ること=正義だと、部活動を神聖視してしまうのはとても危険だと私は思います。それで追い詰められている生徒や保護者もいるでしょうし、辛い思いをしている教員だってたくさんいるわけです。

吹奏楽部はブラックか

――部活をテーマにした青春小説や青春漫画の書き手にとっては、とても大きな問題ですね。

額賀 「吹奏楽部はブラックだ!」という意見やニュースを、この数年でよく聞くようになりました。『風に恋う』を書く上でも、かなりチェックしましたね。一方的な意見だなと思うものもあれば、思わず頷いてしまうものもありました。それを「私達のやってきたことをブラックと言うなんてけしからん」と一方的にはねつけるだけでは、何も解決しないと思うんです。吹奏楽のみならず、その分野や競技を愛しているからこそ、抱えた問題と向き合わないといけない。「これまでずっとこうだったから」「こうしないと結果を出せないんだ」と向き合うことを拒絶し続けたらどうなるか。日大のタックル問題は、ある意味その答えだと思います。

日大のタックル問題が発生したのは5月で、すでに『風に恋う』の原稿はほぼほぼできあがっていたのですが、一連の報道を見ながら、最後の最後に手を加えました。

また、プルーフ(作品を発売前に書店やメディアの人に読んでもらうためにゲラ段階の原稿を簡易印刷製本したもの)の表紙に、最初は「『高校時代が一番輝いていた』なんて言う大人になるなよ」というコピーを入れていたんですが、今回の日大の騒動を見て「俺は、ブラック部活に洗脳された馬鹿な高校生のなれの果てですか」という作中の言葉に入れ替えました。

『風に恋う』は、青春吹奏楽小説です。これまで私が書いてきた作品の中で一番のものが書けたと思っています。吹奏楽の楽しさとか切なさとか、一つのことに懸命に打ち込む高校生の姿だとか、私が好きな青春小説の要素を余すことなく詰め込みました。しかし同時にこれは、青春小説を書いているゆとり世代の作家としての、日本の部活動とか、日本人の働き方、頑張り方に対するメッセージだと思っています。

ブラック部活、やりがい搾取が問題になっている時代だからこそ、「今読まないといけない小説だ」と思っていただけたら嬉しいです。

(「文春オンライン」編集部)

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