いよいよ出場!満身創痍の王者・羽生結弦にかけたい言葉

いよいよ出場!満身創痍の王者・羽生結弦にかけたい言葉

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/02/14
No image

これまでのどの負傷よりも深刻

連覇を目指す平昌オリンピックシーズン。五輪本番に向けて一試合一試合、磨きをかけていく羽生結弦を見られるかと思いきや、10月のロシア杯以降、全く彼の姿を見ることなく平昌五輪が開幕してしまうとは思いもよらなかった。

2月11日、ついに羽生は平昌入り。現地で久しぶりの滑りを見せる以前、彼の五輪2連覇をめぐってふたつの意見が出ている。

No image

photo by gettyimages

「1月まで練習ができなかったとなると、かんたんなケガではない。平昌本番まで時間もなかったし、実戦の機会もなかった。さすがの羽生でも、連覇は厳しいのではないか」

メディアでもたびたび発信されている、悲観的な見方。やはり60数年も成し遂げられずに来た「五輪連覇」とは、並大抵のものではないのだろう。人々は改めて、彼の目指していたものの大きさ、困難さを思う。

しかし、もうひとつ。

「いや、羽生ならばやってくれるのではないか」

「ケガという大きすぎるアクシデントを経たからこそ、あの男はやり遂げる」

根強い意見として、そんな期待を寄せる声は大きい。

冷静に考えれば、やはり羽生の五輪連覇はとても難しいだろう。

彼はケガの多い選手として知られており、15‐16年には左足靭帯損傷、14‐15年には右足首の捻挫など、負傷を抱えたままシーズンを送ることも多かった。さらに遡れば、初めて世界選手権に出場した11‐12年も公式練習中に右足首の靭帯を傷め、翌12‐13年も左膝を故障。他にも腰、関節など大きく報じられていない負傷、身体の痛みも数多くあるという。

よくこんな身体で五輪チャンピオンに、世界チャンピオンになれたものだ、と感心してしまうくらい、満身創痍だ。

そんな彼だが、グランプリファイナルの優勝が4度もあるため、毎シーズン王者となっている印象が大きい。しかし実際にシーズン最大のタイトル、五輪や世界選手権がとれた年は、13‐14のソチ五輪シーズンと、3年ぶりに世界チャンピオンとなった16-17シーズンの2年。この2年はいずれも身体の調子が比較的よく、大きな痛みを抱えることなく乗り切ったシーズンだ。

ケガを乗り越えてでも勝利をつかむ、というイメージがある羽生だが、シーズン最大のタイトルを取るためには、やはり万全の体調が必須条件になるだろう。

にもかかわらず、今シーズンのケガ、右足関節外側靱帯の損傷は、おそらくこれまでのどの負傷よりも深刻だ。ケガをかかえたシーズンであっても、彼はこれまで、今季ほど多くの試合を欠場することはなかった。

羽生結弦は、たとえチャンピオンシリーズなどの小さな試合でも、よほどのことがなければ欠場を選ばない。2014年のフィンランディア杯を腰痛で欠場した時も、小さな試合ながら羽生初戦ということで、テレビの中継が予定されていた。そんな盛り上がりに、自分の欠場で水を差してしまったことを、彼は大いに気にしていたという。

本人の意思で「休む」「出ない」という決断はない

フィギュアスケートのシーズンは、長い。選手は一番大事な試合に向けて調整するため、ケガの症状がそれほど重くなくとも欠場するケースは多い。しかし羽生の場合、本人の意思で「休む」「出ない」という決断はまずないのだ。彼が欠場するということは、羽生本人にはどうしようもないほど負傷が重いか、ドクターストップがかかってしまったときかだ。

だからNHK杯も全日本選手権も、大事を取っての欠場では決してなかった。彼自身はどんなに出たがったかしれないが、とても出場できる状態ではなかったのだろう。

やはり現在の男子シングルを席巻する、多種類、多回数4回転の負荷は、大きすぎるのだ。

たとえば日本男子の後輩、宇野昌磨は、今シーズン4回転の成功率を上げるため、3回転のフリップや3回転ループの練習を重ねているという。4回転を何度も跳ぶ練習は身体に負担になるため、やりすぎない。その代わり3回転をたくさん跳んでフリップやループの感覚を身体に叩き込み、本番ではその感覚で4回転を跳ぶ、というのだ。跳ばない練習――そんなものが必要になるくらい、4回転は彼らの身体を大きくむしばむ。

現役時代に4回転トウループを跳んでいたあるコーチは、昨今、4回転フリップやルッツを跳ぶ選手たちの身体が特に心配だ、と語っている。

「トウループ1種類でも、身体への影響は大変なものでした。踏切足である左足への負荷は、特にすごい。現在、ルッツ、フリップを跳ぶ選手たちは、その負荷を右足にもかけていることになります。両足で4回転を跳ぶなど、いったいどれだけの負担になるのか……」

No image

photo by gettyimages

羽生が2016年に成功した4回転ループ。羽生がこのジャンプに挑戦したのは、新しいジャンプを身につけたい意欲も大きかっただろうが、実は前シーズンに傷めた左足を使う4回転トウループをなるべく跳ばずに済ますために、サルコウともう1種類、別の種類の4回転を手に入れたかったためでもあった。

当時は4回転3本でも十分世界チャンピオンになれていたから、サルコウとループで3本の4回転を跳べば、トウループを跳ばずにすむ。16年の時点で、既にそこまで左足は悲鳴を上げていたのだ。

しかし時代はすすみ、2種類3本の4回転ではもう若い選手に後れを取るほどになってしまう。そこで彼は、右足を踏切に使う4回転ルッツに挑んでしまった。結果、招いたのは、NHK杯前の負傷。左足に続き、右足までも4回転に捧げてしまったようなものだ。

ここまでの身体で、さらにはロシア杯から4ヵ月も実戦から離れての、いきなりのオリンピック。五輪連覇などほんとうに難しい、と考えるのが普通だ。

羽生ブームのきっかけは「流血の2014年中国杯」

冷静に、現実的に、ここまでマイナス要因を並べても、まだこう思う人はいるだろう。

「それでも、羽生結弦ならすべてを超えて、やってくれるのではないか」

そんな意見が不思議なほど多いのは、なぜか?

現在の羽生結弦ブームが起きた頃のことを、少し思い出してみたい。

No image

photo by gettyimages

羽生ブームが爆発したのは、いつか。実は4年前のソチオリンピック時ではない。確かにソチ五輪では大きな話題になり、たくさんの熱狂的なファンも付いたが、一般的にはまだ五輪メダリストのひとりとして見られるにとどまっていた。

この時点では、現在ほど強く、国民的な関心が寄せられる対象ではなかったのだ。その証左に、2014年の中国杯。羽生結弦の、オリンピック後初のグランプリシリーズとなる中国杯に、日本からは新聞(一般紙)が3社、通信社が1社しか取材に来ていなかった。現在なら羽生が出るとなれば、どんな小さな試合でも、どんなに遠く離れた開催地であっても、ほぼすべてのスポーツ紙の記者が集合するのだが。

しかしスポーツ紙が1紙も取材に来なかった試合を、フリー翌日、すべてのスポーツ紙が一面で報じることとなる。あの、6分間練習での他選手との衝突、その後、流血しながらフリーを滑走したシーンが、あまりにも衝撃的だったのだ。

あの中国杯での事故後も、羽生は休むことなく滑り続けた。NHK杯出場、グランプリファイナル進出、ファイナルでの優勝……一連の流れの後、羽生はただの五輪金メダリストではなくなっていた。常に大きく扱い、特別に追いかけなければならない浅田真央並みの存在に、彼はソチ五輪ではなく、流血の中国杯をきっかけになってしまったのだ。

そこから彼がドラマを作り続けてきたのは、周知のとおりだ。

翌15‐16シーズンには、 NHK杯、グランプリファイナルと世界歴代最高得点を連続して更新。世界選手権では公式練習で他選手とニアミスし、声を荒げるというアクシデントもあった。五輪のプレシーズンである17年世界選手権では、ショートプログラムで5位と出遅れながらもフリーで4回転4本を成功し、奇跡的な逆転優勝も果たした。

あの中国杯から後、ドラマ、ハプニング、奇跡……そんなものが、常に羽生結弦にはついて回っている。いや、そんなことはソチ前からだよ、と、彼を長く見ている人は言うだろう。

シニア2年目の2011年、ホームリンクが被災した夏、何十回というアイスショー出演を練習に代えて歩んだ、復活への過程。

同じく2011年の中国杯を4位でスタートしてしまい、次戦は1位をとらければファイナルに進めない、という状況でのロシア杯で、まさかのグランプリ初優勝。

2012年世界選手権、右足首靭帯を負傷してショートプログラム7位に沈みながら渾身のフリーを滑り、初出場にして初の世界選手権メダル獲得。

さらに2013年の世界選手権でも、右足首の痛みに顔をゆがめながらほぼすべてのジャンプを成功させ、日本のソチ五輪出場枠3に大貢献する総合4位。

モスクワの奇跡、ニースの奇跡、ロンドンの奇跡……などといちいち呼びたいようなミラクルを、彼は五輪を制する前からずっと見せ続けてきたのだ。

そんな男なのだから、「羽生結弦なら、もしや」と多くの人が思ってしまうのも、無理はない。

二連覇を期待される五輪シーズンの、NHK杯でのケガ。それすらも、何かしら劇的なものの前触れに見えてしまう。この男なら、何かあるだろう、何かやってくれるだろう、と。まるで神がかり的な存在感に浮かされてしまったように。

「こうなったら、2連覇してもらいたい」

羽生結弦ファンでなくとも、ものすごいドラマを、奇跡を見たいという人も多いだろう。

「絶対に、やってくれるはず」

そう信じるファンの声も高い。しかし、羽生結弦とはいえ、人間だ。その精神力も、アスリートとしての力も凄まじいが、やはり彼は人間だ。できないこともある。間違えることもある。ここはひとつ、冷静に見守ろう、と言いたいのだが……そう書きつつ、「でも、この人ならやりかねない」――筆者自身も、そう思ってしまいそうになる。

「滑りたい」という純粋な気持ちと、大きな責任感

2月11日、羽生結弦は現地・平昌入りした。

ケガを押しての出場で思い出すのは、4年前、ソチ五輪のロシア代表、エフゲニー・プルシェンコのことだ。彼は団体戦はフル出場したものの、個人戦の直前練習で患部を傷めてしまう。そして、「このまま滑ったら身体に障害が残ってしまう」と言い残し、滑走を取りやめたのだ。

しかし羽生結弦に、もし同じような事態が起こったら? この男は「身体が壊れてもやる!」と言ってしまうだろう。平昌に入ったからには、何が起きても最後まで押し切って滑りきるつもりだろう。そんなことになるのが、今はいちばん怖い。

衝突事故があった中国杯の時も、グランプリシリーズ程度であそこまで無理をするなど、海外の選手から見れば考えられないことだった。たぶん彼には、「滑りたい」という純粋な気持ちと同時に、「自分がファイナルに出なければいけない」という大きな責任感があった。

グランプリファイナルのために、放送局がどれだけの仕込みをしているかを、彼は考えた。自分の存在がどれだけたくさんの人を動かしているかも、彼はよくわかっていたのだ。それであんな、考えられないような無茶をしてしまった。

そんな責任感、誰かの期待に応えたい、という気持ちの強さは、羽生がここまで大きくなる以前から持っていたものでもある。シニアに上がったばかりのころだろうか。あるアイスショーに出演したところ、客席が半分ほどしか埋まらなかったことがある(信じられないかもしれないが、彼にもそんな時代があったのだ!)。その時彼は主催者に対し、「僕が満席にできなくてごめんなさい」と謝ったという。

それほど彼は、若いころから自分が滑ることの影響を考える選手だった。彼が様々な奇跡を起こしてしまう、何かしら「やってしまう」根底には、彼自身の「やりたい」「勝ちたい」気持ちももちろんあるが、「期待に応えなければ!」そんな思いも大きかったはずだ。

No image

photo by gettyimages

「羽生が出なかったとしたら、平昌五輪そのものの価値が50%減でしょう」

ある放送局の記者は言った。

「羽生君なら、絶対にやってくれる」

ファンも、そんな言葉を放つ。

報道は、連日連夜「羽生、金メダルへ」「二連覇へ」という言葉ばかりが躍っている。

こんな雰囲気は、誰よりも羽生結弦自身が強く感じているはずだ。

オリンピックともなれば、純粋に彼を応援する声ばかりではない。お金の匂いのする期待も、彼は十分すぎるほど背負っている。彼のスケートが好きなわけではなく、ただ好奇心で金メダルが見たいだけ、さらにはオリンピックという舞台で何かアクシデントが見たいだけ、そんな人々だって多い。

誰よりも敏感に空気を読んでしまう羽生は、平昌でもきっと、無理をしてしまうだろう。

一瞬の栄光ではなく、長く競技で滑る姿を見ていたい

しかしもし、負傷からの回復が万全でない状態で、現在の4回転競争のただなかへ彼が飛び込んでしまったら? ジャンプの回数や種類を自ら制限できればいいが、それをしなかったら?

彼の身体への負担は相当なものになってしまうだろうし、もし勝てたとしても、万全な身体でいられるだろうか。ここで無理をして、とんでもなく後遺症が残ったら? 選手生命が絶たれるようなことになったら?

そんなエースの姿は、やはり見たくない。

たとえ2連覇という偉業を成し遂げたとしても、そこで羽生結弦というスケーターが力尽きてしまうのならば、五輪など出場しないほうがましだ。

彼はまだ、23歳。一瞬の栄光ではなく、もっともっと長く競技で滑る姿を見ていたい選手ではないだろうか。

No image

photo by gettyimages

今シーズン前半、30歳になるセルゲイ・ボロノフ(ロシア)やアレクセイ・ビチェンコ(イスラエル)らが4回転ジャンプを跳び、かつ、それぞれの個性を存分に表現しているのを見て。

彼らのように健やかに滑り続けて、30歳で競技を戦う羽生結弦の姿を見てみたい、と思った。4年後の北京オリンピック、彼は27歳。8年後のオリンピックは、31歳。その年まで彼を見られるのだとしたら、こんなに素晴らしいことはない。そこまで十分競技を続けられるはずの選手が、まだ23歳で壊れてしまっていいはずがない。

しかも平昌五輪後には、4回転に得点が偏りすぎてしまった現在の採点方法も大きく見直される予定だ。ルール変更後、現在懸念されている選手の低年齢化にも歯止めがかかるかもしれない。より芸術性が重視されるルールにもなるだろう。そこからの羽生結弦をこそ、見たくはないだろうか。

今の彼は、4回転を跳ぶことにいちばんのプライオリティを置いているかもしれない。スケーティングやジャンプの質は一級品だが、音楽の表現や演技力という点では、まだまだ彼には大きなのびしろがある。フィギュアスケートの競技性で頂点に立ったとしても、芸術性ではまだまだ上を目指しきっていない選手だ。

しかし本来の羽生結弦は、アーティスティックスケーターの極北にあったジョニー・ウィアー(アメリカ)に憧れ、エンターティナーの鑑だったフィリップ・キャンデロロ(フランス)の40歳を過ぎた演技に涙を流したような選手だ。

10代のころは「アスリートよりもアーティストでありたい」とよく語っていたことも思い出す。23歳という年齢は、精神的にも成熟し、技術だけに頼らないスケートに本格的に移行していける時期にもあたる。「第2次4回転時代」が終わりを告げるかもしれない平昌後、「第2期羽生結弦」こそ、見てみたいのだ。

そのためにも平昌五輪、何よりも無事で乗り切ってほしい、と願う。

ケガ明けの彼にとって、史上空前の4回転バトルとなるだろう今大会は、あまりにも酷だ。4回転2回ぐらいならば十分見せられるはずの個々の持ち味、音楽性、そしてスケーティング技術を、4回、5回という数の4回転を跳びながら見せるのは、痛みを抱えていない選手にとっても至難の業だ。

もし本気で羽生がこの修羅場を勝ち抜こうとしたら、あらゆるものを捨ててでもジャンプに集中することになってしまうだろう。そこで見せてしまう「ジャンプだけの羽生」で、彼の競技人生が終わってしまうことだけは、なんとしても避けてほしい。

ほっておくと、ただでさえ無茶をする男なのだ。「この先の羽生結弦」のために、今回はとにかく、無理はしないこと、させないこと。「連覇を期待」でも「がんばれ!」でもなく、「無理をするな!」。それこそが今の彼にかけるべき言葉ではないだろうか。

ここまで尋常ではない努力をしてきた彼に、ほんとうはこの舞台でこそ「がんばれ!」と言いたい。大きな奇跡を見たい、とも思う。「彼ならばきっとやってくれる」、とも、思いたい。

でも、それが彼を追い込むことにならなってしまわないように。必要以上に彼をがんばらせることに、ならないように。

平昌での演技が、彼にとって最高の演技にも最後の演技にもならないように。ここが羽生結弦にとって、フィギュアスケーターとして真の頂点への道の、ひとつの通過点になるように。

今大会の彼には、もう「連覇」「金メダル」などという期待をかけることなく――できるだけ静かに、冷静に、見守っていきたい。

No image

いつもリンクで涙を流していた泣き虫少年は、 世界にその名を知られるトップスケーターへと成長した。 宇野昌磨20歳、星を掴む舞台、平昌へ――。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

フィギュアスケートカテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
またも衣装はだけ、フランス組あわやのアクシデント
羽生選手、連日各局の取材攻め 失礼な質問を逆手に名を上げたアナウンサーとは
宮原メダル射程!帰って来たミスパーフェクト 3位に2・93点差
羽生結弦の「ある行動」に称賛続々! ファンが感動した「心遣い」とは
フィギュア・アイスダンスの韓国ペア、衣装はだけるハプニング<平昌五輪>
  • このエントリーをはてなブックマークに追加