白鵬の「エルボー打ち」は相撲ではない

白鵬の「エルボー打ち」は相撲ではない

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2018/02/14

エルボー打ちは髷つかみ、拳での殴打と同じ悪質度

日馬富士の暴行事件を端緒とした大相撲の問題。ワイドショーや週刊誌などでさまざまな議論が交わされているわけだが、1人のガチガチの相撲ファンとしては「悪評も評判のうち」と思いながらその様子を見ている。そんな中、テレビや雑誌で注目されているという点で群を抜いているのが横綱・白鵬の品格問題である。

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元横綱・日馬富士が不在の優勝額贈呈式。左は横綱・白鵬。(時事通信フォト=写真)

立ち合いで相手の顔を張る、強烈なカチ上げをかます、ときには猫だまし(相手の目前で柏手を打つ)を見せる。そして極めつきはエルボー打ち。これらの取り口が横綱として品格に欠けると、横綱審議委員会や相撲ジャーナリストらから物言いがついた。

横綱が下位力士と対戦するときには、ぐっと力を受け止め相手に相撲を取らせたうえで勝つ。これが横綱相撲だから、積極的な仕掛けは芳しくないというわけだ。しかも下位力士は横綱相手に上記の策を使えない。ルール違反ではないが、横綱の顔を張る力士はいない。だから横綱のやりたい放題になってしまうところにも不公平感がある。

横綱の品格云々という議論が起こるたびに、私はうんざりする。たとえば「エルボー打ちは反則負け」と決めればいいだけの話なのである。

日本相撲協会は相撲興行の主催者だ。責任者の理事長がビシッと決めてしまえばいい。やらないから「横綱の品格」なる曖昧模糊な議論が起こる。協会が断行しない限り、こういった議論は常に繰り返される可能性がある。

九州場所14日目の遠藤戦、白鵬の立ち合い一発のエルボー打ちで勝負あった。遠藤の巧みな相撲に期待していたであろうファンたちのため息がテレビ画面からも聞こえてきたものだ。髷つかみや拳での殴打など、反則負けはいくつかある。それらと比較してもエルボー打ちの悪質度はまったく遜色ない。

相撲は"野蛮"な競技ではない、即刻禁じ手にせよ

世間を納得させる論拠はある。

相撲は大男同士がぶつかり合う野蛮な競技――と思っている方がいたら大間違いだ。人間の身体の特徴を考え抜いた極めてロジカルな格闘技である。

要諦は「重心」。相手の重心を先に上げたほうが勝つ。

突っ張って相手の顎を上げる。廻しを取って絞り上げる。すべて相手の重心を上げる技だ。もろ差し(両手を相手の脇に入れる)が必勝形なのは、やられたほうは両手が使えずに重心が上がってしまうから。まったく力が出ずに負けることを隠語で「バンザイ」と言う。なるほどバンザイは重心が上がりきっている(ちなみに白鵬は九州場所の優勝インタビューでバンザイ三唱をファンに強いた。彼はファンの重心をも上げたのだ!)。

だから力士は重心を低く保つために、ひたすら四股を踏む。摺り足もそうだ。テッポウも必ず下から上に打ちつける。稽古のすべてが自身の重心を低くし、相手の重心を上げるためのものだ。その点、エルボー打ちと混同されやすい「カチ上げ」はまっとうな技だ。カチ上げて相手の上体を起こし、差して廻しを引けば有利な体勢に持ち込める。

つまり「相手の重心を上げる技」以外は正当ではない。顔面を痛打するだけのエルボー打ちは最たるものだから禁じ手にしなくてはいけない。

なにも難しい話ではない。過去にも相撲協会はリーダーシップを発揮し、その手の改革を行っている。1984年の「立ち合い改革」。春日野理事長(元横綱・栃錦)が、それまでしっかりと腰を割らずに手をついていなかった立ち合いを今のように徹底。91年9月場所、その延長で二子山理事長(初代若乃花)が「待った厳禁」にも踏み切った。待ったをした場合、やったほうも相手方も10万円の罰金(十両は5万円)を科せられた(98年9月場所をもって廃止)。やる気があればできるのだ。

ほかにも、自ら重心を上げてしまう「立い合いの変化」なども本来なら禁じるべきだが、とにかく「エルボー打ち」だけは断じて反則にすべきだ。繰り返すが、相撲協会は主催者なのだ。

一連の騒動で相撲協会の対応はほぼ内側を向いている。興行の主催者、その従業員は観客のほうをしっかりと見つめるべきだ。相撲の本来のあり方が、エルボー打ちや変化技をよしとしていないのである。

須藤靖貴
作家
1964年、東京都生まれ。「相撲」の編集部員などを経て、第5回小説新潮長編新人賞を受賞。相撲小説の第一人者。著書に『おれ、力士になる』『消えた大関』『力士ふたたび』など。

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