無実の強姦罪で恋人が逮捕され...『ビール・ストリートの恋人たち』監督インタビュー

無実の強姦罪で恋人が逮捕され...『ビール・ストリートの恋人たち』監督インタビュー

  • 日刊SPA!
  • 更新日:2019/02/21

2017年度のアカデミー賞までバリー・ジェンキンスの名を知る者は少なかっただろう。同年、アフリカ系アメリカ人だけのキャスト・監督・脚本による作品長編『ムーンライト』(2016年)で作品賞を史上初受賞し、アカデミー賞の歴史を変える偉業を成し遂げたジェンキンス監督。

そんな彼の最新作『ビール・ストリートの恋人たち』が2月22日に公開される。アフリカ系アメリカ人文学の金字塔であるジェイムズ・ボールドウィンの同名小説を映画化した本作は、前作同様、非常に繊細で美しいビジュアルとサウンドで展開しながらも、アフリカ系アメリカ人が1970年代に直面した“社会的不正義”について問題提起する傑作だ。折りしも2019年度のアカデミー賞で3部門ノミネートを果たし受賞が期待されるなか、バリー・ジェンキンス監督にインタビューを行った。

★あらすじ

1970年代のニューヨーク、19歳のティッシュ(キキ・レイン)と、22歳の恋人ファニー(ステファン・ジェームス)の物語。ティッシュの妊娠がわかったとき、ファニーは留置所にいた。小さな諍(いさか)いで白人警官の恨みを買って、無実の強姦罪で逮捕されていたのだ。ティッシュは、ファニーを救い出すべく奔走する。

◆「純愛」と「社会的不正義」の2つの声

――本作はニューヨークに住むアフリカ系アメリカ人の若いカップルの純愛を描いた物語です。原作と映画では、家族や恋人同士の“純愛”と、アフリカ系アメリカ人が直面する“社会的不正義”という2つの声が描かれています。この2つの声を美しいラブストーリーとして語ることは難しかったのでは?

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バリー・ジェンキンス監督(以下ジェンキンス監督):アフリカ系アメリカ人が受けた“不正義”を、怒りや苦しみからではなく、19歳のティッシュの視点――純愛や純粋性をなにがなんでも守ろうとする懸命さ――から描きました。この物語のテーマは社会的不正義というよりは、「社会的状況によって、純愛や純粋性がどのように崩壊していくか」ということで、登場人物の人間性も語りたかった。そもそも、ティッシュは怒りや苦しみを感じるには若すぎるしね(笑)。

――美しいシーンのなかにも、胸が張り裂けるような恐怖や悲劇を感じました。

ジェンキンス監督:トラウマや恐怖に関しては、恐ろしいイメージを観客に押し付けるのではなく、あえて美しいビジュアルとサウンドで見せることで、ティッシュが抱く家族、恋人や新しい命への愛にどっぷりと浸ってもらいたかった。そうすれば、社会的不正義により引き起こされた悲劇が、より一層観客の心に迫るのではないかと思ったんです。

ティッシュがファニーと初めて結ばれるシーンがありますよね? あの瞬間、彼女は人生で初めて愛し愛されることを知る。物語で描かれる悲劇よりも、このシーンにこそ、ボールドウィンの本当のメッセージが込められていると思います。

◆ソウルメイトは存在するのか?

――本作のストーリーは時系列に語られず、時空を超えてシーンが展開します。そのアプローチがおもしろいなと思ったのですが。

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ジェンキンス監督:『ムーンライト』のように、本作にも複雑なプロットや物語性はなく、それよりも主人公がどのように感じるかを重点的に表現しました。人間ってA→B→Cのように順番に物事を考えませんよね? 色々な想いがあちこちに飛びます。そんなふうに主人公の浮遊する意識を表したかったんです。

――ティッシュとファニーがお互いを見つめ合い、触れ合うシーンはとても官能的で二人がソウルメイト(魂の片割れ同士)だとひしひしと伝わりました。監督はソウルメイトの存在を信じますか?

ジェンキンス監督:興味深いトピックですよね(笑)。ソウルメイトは信じていますが、ソウルメイトが最終的に結ばれることは難しいと思っています。だって、私たちの住む社会は複雑になりすぎて、ソウルメイト同士が結婚してハッピーエンドになるというのはかなりレアなんじゃないかな。

だからこそ、ボールドウィンの小説に強く惹かれたんです。ティッシュとファニーは幼馴染ですが、幼馴染と結婚したなんていう人は、今どき本当に珍しいですよね。

◆原作と異なるエンディング

――珍しくアフリカ系アメリカ人の女性の視点で描かれていますが、男性である監督にとって女性視点で語ることは難しかったのでは?

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ジェンキンス監督:もちろんです。だからこの作品では、女優たちに自由に演じてもらいました。そもそも役者は演じるキャラクターに自分を投影しなければいけないので、彼らがもつ疑問や質問に対しては、監督としてできるだけオープンに対応するようにしています。

――小説と映画、両方とも曖昧な終わり方ですが、全く異なる曖昧さですよね。映画のラストはどのように決めたのですか?

ジェンキンス監督:小説のほうが映画よりも、より曖昧だと思います。小説をそのまま映画化しても、実際に役者が演じると登場人物も原作から少し離れていくんですよね。なので、撮影していくうちに、映画ではもっと希望のある終わり方にしたくなったんです。原作のエンディングにも希望を見出すことができますが、登場人物に関してはそれほど希望が感じられない……。

――確かに、小説のエンディングは色いろな角度で解釈できます。

ジェンキンス監督:そう、小説は実に様々に解釈できるので、フランクもファニーも死んでしまったという解釈をする人もいるんですが、その形で映画を結んだら、生まれてくる子供には父親も祖父もいなくなり、ティッシュやファニーが希望を失ってしまう。でもそれでは、キキやステファンが息を吹き込んだティッシュとファニーに失礼なんじゃないか――。映画の終わり方は、小説の終わり方を否定しているわけではなく、もう少し希望の方向へ寄せました。

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◆マイノリティの活躍がめざましいハリウッド

――『ムーンライト』はアカデミー賞の歴史を変えましたが、最近では『クレイジー・リッチ』(2018年)や『search/サーチ』(2018年)、『ブラックパンサー』(2018年)などマイノリティをオールキャストにした映画が話題になりました。ハリウッドでのこういったムーブメントに対してどう思いますか?

ジェンキンス監督:『search/サーチ』はインド系アメリカ人が監督し、韓国系アメリカ人をキャストに迎えた興味深い映画ですよね。100万ドルの予算でアメリカ国内だけで約2600万ドルもの売り上げを叩き出しました。

これらの作品は数年前なら、「絶対誰も観に行かないよ」と言われてしまったと思います。ところが、この3作品は合わせて22億ドルも世界で稼ぎ出したんですよ! 最高じゃないですか!? なにか素晴らしいことがハリウッドで起こっているとポジティブに考えています。

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バリー・ジェンキンス監督 ©︎Yoshiyuki Uchibori

――来るアカデミー賞でも助演女優賞、脚色賞、作曲賞と3部門でノミネートされていますが、2017年に『ムーンライト』でオスカーを受賞したことは、作品づくりに影響したりしていますか?

ジェンキンス監督:ハハハ、それは全くありませんね。映画作りに対する姿勢にオスカーは全然影響していません。例えば、本作には「白人ってのは、ありゃ悪魔の化身だ」というセリフがありますが、もし本当に映画賞がたくさんが欲しいなら、こんなセリフは絶対に映画に盛り込みませんよ!(笑)。

もちろん、今年度のアカデミー賞で3部門のノミネートを受けたことは光栄だし、『ムーンライト』のオスカー受賞により、「自分が進む道は映画を作ることだ」と実感できたことは嬉しかったですが、映画制作に関しては映画賞は関係ありません。

→次ページ映画を作るモチベーションは?

◆映画は人と人をコネクトする手段

――映画を作るモチベーションはどこから来るのですか?

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©︎Yoshiyuki Uchibori

ジェンキンス監督:こうやってこの場で君たちと話すこともモチベーションのひとつです。私は小さな街で生まれ、恵まれた環境には育ちませんでした。それなのに、映画を作ることで自分の世界観が広がる……。東京に来て、自分の物語を様々な人たちと共有しコネクトする……。

でもね、本当のことを言うと、私はほかに何もできないんですよ!(笑) 話すことと映画を作ることしかね!(笑)あ、美味しいコーヒーを淹れるのは得意だけど(笑)。

そうは言っても、私にもかなりダークな部分があって。「人生とはなにか?」なんて答えのないことを問い続けたりするわけです。でも、映画を作り始めてから、なんて言うんだろう、人生への問いかけに少し近づいていっている気がしますね。

――監督にとって映画とは何ですか?

ジェンキンス監督:今でもその答えを探しています!(笑) 人生のステージによって、その答えは変わるかな。子供の頃は素晴らしい体験をさせてくれるもの、学生の頃は人生そのもの。学生の頃は本当にたくさん映画を観ました。

考えてもみてください。『ムーンライト』の子供がウォン・カーウァイやクレール・ドニの世界に入ってしまった。まさかいつか自分がフィルムメーカーとして東京に来て、君たちと自分の世界を共有する日が来るなんて、想像もしませんでしたよ。

そう考えると、映画は人と人をコネクトする手段だと思います。現代はSNSによって世界が狭くなり人と簡単に繋がれるようにも思えますが、私たちはなぜか人と距離を置いてしまいがちです。映画は、そんな“人と人の距離”を壊してくれるものかもしれませんね。

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(取材・文/此花さくや)

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