自動車大国ドイツでまもなく「ディーゼル」が消える(かもしれない)

自動車大国ドイツでまもなく「ディーゼル」が消える(かもしれない)

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/09/15
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電気自動車ブームは突然やってくる?

なぜ、こうなってしまうのだろう。

ドイツでは近い将来、皆が先を争って電気自動車を買うようになるといったシナリオが、まことしやかに作り上げられている。ドイツの政治家には、脱原発、難民問題などに見られるように、極端から極端に振れる傾向がままあるのだが、今回もそれなのだろうか?

現在、ドイツで走っている車の3台に1台はディーゼル車だ(ちなみにEU全体でのディーゼル車の割合は53%、日本はわずか2%)。圧倒的な人気を誇っていたそのディーゼル車が、2年前の排ガス値改ざんスキャンダルの後、たちまち悪の権化になってしまった。とりわけ、スキャンダル震源地であるVW(フォルクスワーゲン)の信用失墜は激しい。国民も大いに失望した。

ところが、そのあとの展開がすごい。あれよ、あれよという間に、「ディーゼル車もガソリン車もダメ。これからは電気自動車だ!」という高らかな声があがり始めた。緑の党はとくに張り切っており、「(ディーゼルによる)大気汚染は、騙された消費者の健康や、環境に負担をかける(ホーフライター氏)」と、ディーゼル車をこの世から無くすことを切望している。

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〔PHOTO〕gettyimages

張り切る政治家はSPDにも多い。7月末、ヘンドリクス環境大臣(SPD)はテレビカメラの前で、横に立ったVWの社長を、「経営ミス」、「信用失墜」、「馬鹿げた行為」という言葉で面罵したうえ、「電気自動車の普及は、ドイツもEUも遅れている。だから、割り当て制が必要」といい始めた。

これは簡単に言えば、政治の力によって、一定数の電気自動車を市場に強制的に押し込むことを意味する。まさに社会主義における計画経済の発想だ。

実はドイツの電気自動車礼賛は、今に始まったことではない。ドイツ政府は2009年、2020年までに100万台の電気自動車を普及させるという遠大な計画を立てた。最初から大きく疑問符のついた計画だった。

電気自動車は、休暇などで長距離を走る機会の多いドイツ人にとっては、走行距離に不安がある。しかも価格が高いため、普及は進まなかったのだが、ドイツ政府はなかなか計画を見直さず、2012年にはメルケル首相が、「まだ8年ある」と豪語していた。

無責任野党である緑の党の主張はさらに過激で、「目標100万台は生ぬるい、200万台にするべきだ!」。ちなみに、その時点で登録されていたドイツの電気自動車はたったの4500台だった。

その後も、電気自動車は伸び悩み、困ったドイツ政府は、2016年7月から電気自動車に4000ユーロ、プラグイン・ハイブリッド車には3000ユーロの現ナマ支給を始めた。お金の出所は税金と自動車メーカーが折半(ただし、自主参加の自動車メーカーだけ)。

ただ、これだけの補助金がついても売れ行きは依然として伸びず、現在登録されているのは電気自動車が3.4万台、プラグイン・ハイブリッドが2.1万台ほどだという(ING Diba)。乗用車全体の0.1%だ。

ガブリエル副首相は以前から、「電動自転車を数に入れなければ、2020年までに100万台は達成できない」と、非現実的な目標を皮肉っており、先月8月になってようやくメルケル首相もそれを認めた。ただし、「電気自動車ブームは、スマホブームのように突然訪れるかもしれない」とまだ希望を捨てない。

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〔PHOTO〕gettyimages

肝心の「電気」をどうするのか

電気自動車推進は世界的傾向だ。ノルウェーやオランダ、スウェーデン、フランス、イギリスなどが熱心だし、EUでも、2025年から電気自動車の普及割り当てを定めようという動きがある。

EUの産業委員会のエリザベータ・ビエンコフスカ委員(ポーランド人)は、7月のEU議会で、「ディーゼル車は我々が想像しているよりもずっと早く消え去ると確信を持った」と述べた。

一方、大気汚染が深刻な中国でも、電気自動車には期待がかかっている。2025年までに登録車の5分の1を電気自動車かプラグイン・ハイブリッド車にするという目標が掲げられており、外国の自動車メーカーに技術開発を促す法律も整備し始めた。

拍車をかけられたルノーや日産、あるいは、フォードやゼネラル・モーターズが、現地での電気自動車の開発を進めている。ドイツのメーカーが電気自動車につんのめっているのもそのせいだろう。

いずれにしても、中国が買ってくれなければ、売り上げは激減する。どこの自動車メーカーも、中国でのシェアを確保することに必死だ。

ただ、中国にしてもドイツにしても、あるいはイギリスにしても、電気自動車の普及に関しては大きなネックがある。電気自動車が走るためには、当然のことながら電気が必要だ。それをどこから調達するかということだ。

ドイツは、2022年の脱原発を目指して原発を減らしつつあり、その穴埋めのため、火力発電が増え(エネルギーミックスにおける石炭と褐炭の割合は計45%)、すでにCO2値が悪化している。供給に大きく波のある再エネ電気が増えたことで、送電系統の負担も高まっているし、今後、政府の意思によって電気自動車が増えていけば、充電設備も追いつかない。

9月10日、第2テレビのオンラインニュースは「電気自動車がドイツの送電線を限界に」としてこの問題を取り上げた。無策のまま電気自動車を売り続ければ、発送電は破綻しかねない。

イギリスも同じで、9月8日のニューズウィーク日本版が、「9月1日、英国が、ガソリン車やディーゼル車の新規販売禁止に伴い発生するだろう電力不足を防ぐためには、巨額の資金を投じ、新たな発電所、電力供給ネットワーク、そして電気自動車充電スポットなどの整備を図る必要がある」と書いた。

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〔PHOTO〕gettyimages

電気の需要が減る夜間に充電できれば良いが、太陽光は夜間に発電はできない。また、駐車場にコンセントが必要なのに、ドイツの多くの車は夜は路上に停まっている。原発ゼロになるはずの22年は、もう目前に迫っているが、解決策はまだ何もない。ドイツ政府のエネルギー政策は矛盾が多い。

問題山積みは中国も同じで、現在すごい勢いで原発を建設中だが(1年に2基の割合で新設の原発が稼働)、まだ発電の8割を火力に負っている(火力も続々建設中)。もちろん、電気自動車推進は長い目で見れば有意義だが、目下のところは、エコどころか、そのまま大気汚染の拡大に繋がる可能性が高い。

ドイツも中国も、そして日本も、ノルウェーのように一年中、夜も昼も、豊富な水力電気が有り余っている国とは一緒にできない。さらに言うなら、ノルウェーのように極端な寒冷地では、どの車もガレージを持っている。充電設備の完備は可能だ。

メルケル首相は、100年後を考えて、ドイツを電気自動車の先進国にするのだと言っていたが、目標としては正しい。将来、ガソリン車が消えていくのは時代の趨勢だし、これから蓄電などあらゆるテクノロジーも進化して、電気自動車の利便性は向上していくだろう。

ただ、ドイツは、自動車産業で発展してきた国だ。今、ここで一気にガソリン車、ディーゼル車を手放すメリットは少ない。ディーゼル車の排気ガス中の窒素酸化物を浄化する技術はすでにあるし、ガソリン車のC02だって、ひと昔前に比べたらずっと減っている。本来なら、これらをさらに改善しながら、無理なく電気自動車へ移行していった方が良いのではないかと思うのだが……。

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