眩しすぎる言葉にヘトヘト...。偉人の「絶望名言」こそ背中を押してくれる

眩しすぎる言葉にヘトヘト...。偉人の「絶望名言」こそ背中を押してくれる

  • ダ・ヴィンチニュース
  • 更新日:2019/01/12
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『NHKラジオ深夜便 絶望名言』(頭木弘樹+NHK〈ラジオ深夜便〉制作班/飛鳥新社)

NHKラジオの長寿番組「ラジオ深夜便」の中に、月イチで40分ほど放送している「絶望名言」というコーナーがある。カフカやドストエフスキー、太宰治など文豪たちの残した、絶望がただよいつつも不思議と勇気づけられるような言葉を紹介する内容だ。

あわせて読みたい:絶望があるから、希望がある――太宰治が生んだ“絶望名言”

コーナー立ち上げのきっかけになったのは、大学3年生の時に難病の潰瘍性大腸炎を発症してから幾度かの入院や自宅療養を経て13年間の闘病生活を送り、現在は文学紹介者として活躍する頭木弘樹さんの著書『絶望名人カフカの人生論』(飛鳥新社・新潮社で文庫化)であった。

そして先ごろ、頭木さんとコーナーを担当するアナウンサー・川野一宇さんの掛け合いを活字で再現した書籍『NHKラジオ深夜便 絶望名言』(飛鳥新社)が刊行された。深夜ラジオならではの空気感も味わえる1冊であるが、本書から、人気コーナーの記念すべき第1回放送「カフカ」の話を紹介してみたい。

◎無能、あらゆる点で、しかも完璧に。

一般的な名言といえば、背中を押してくれるような言葉が思い出される。パッと思い浮かべる限りでも「あきらめずにいれば夢はかなう」とか「明るい気持ちでいれば、幸せなことしか起きない」といった、素晴らしい言葉が浮かんでくるかもしれない。

しかし時として、素晴らしい言葉は「ちょっとまぶしすぎることもある」と頭木さんは話す。失恋した時には失恋ソングを聴く。悲しい時には悲しい曲を聴くといったように、状況によっては「絶望的な言葉のほうが心にしみて、逆に救いになる時」もあるということだ。

頭木さんがそれを実感したのは、自分自身の難病が発覚してからだった。当時、作家のフランツ・カフカが残した以下の一節に感動したと振り返っている。

ぼくは人生に必要な能力を、なにひとつ備えておらず、ただ人間的な弱みしか持っていない。無能、あらゆる点で、しかも完璧に。

この「絶望名言」が「一番好き」とコーナー内で紹介していた頭木さん。難病を患ったことが判明し医師から「もう一生就職も進学もできず、親にずっと面倒を見てもらうしかない」と言われたあとに、自分が「完璧に無能な状態になってしまった」と実感したことで、この言葉に感動したと振り返っている。

◎生きることは、たえずわき道にそれていくこと

コーナーでは毎回、ひとりの文豪による「絶望名言」をいくつか紹介している。例えば、以下の一節も頭木さんが選んだカフカの言葉だ。

生きることは、たえずわき道にそれていくことだ。本当はどこに向かうはずだったのか、振り返ってみることさえ許されない。

本書の解説によれば、カフカが37歳ぐらいの頃に残したという絶望名言である。彼は、このような短い言葉を創作ノートなどにたくさん書いていたというが、頭木さんはその魅力について「日本で言えば俳句とか和歌のように、なにか深くて広がりがあっていい」と語る。

カフカがこの一節を綴った当時、彼はおそらく悩んでいた。本来は作家になりたかったのに、サラリーマンを続けなければならない自分。そして、結婚をしたくとも三度にわたり婚約を解消した過去を背負いながら「進みたい道に進めない人生を歩んでいるという意識があった」はずだと本書では述べられている。

それを受けて、頭木さんがこの一節に惹かれたのは難病が判明して「本来生きるはずだった自分の人生の道から外れて、わき道にそれてしまった」という共感をおぼえたからだと振り返っている。そして、この一節と出会った当時「本来の人生を失ったという意識が、やっぱり非常に苦しかった」と回想している。

◎うまくできるのは、倒れたままでいること

落ち込む時は、とことん落ち込んだ方がいいという人もいる。おそらくカフカも人生をそのように俯瞰していたのかもしれない。コーナー内で紹介された次の一節は、とことん絶望を味わうような名言である。

将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。

この一節は、カフカが初めての婚約者に向けて書いたとされる言葉だ。そんなタイミングで、これからの生活に後ろ向きな言葉を送ったことに驚きを隠せないが、本書によれば、当時の彼は勤めている役所で出世したばかりでありながら、不思議にもこの一節を書き残したのだそうだ。

一方で、頭木さんがこの一説に巡り合ったのはまさに病床に伏していたとき。本当に「ベッドで倒れていたまま」だったからと心に響いた理由を語っているが、順風満帆そうにみえるカフカが残した言葉だからこそ「誰にでも共感できるはずのもの」だと話している。

カフカの没後に残された日記や手紙をみると、順調にサラリーマンとして出世し、恋人や友人がいながらも彼がどこか孤独や不安を感じていたのが分かるという。平凡といわれる人生だとしても、いつか倒れるときが来るかもしれない。そうなった時に、前を向くばかりではなく「生きていくしかない」ことに気が付くのもまた人生であると感じさせてくれる話だ。

本書では、カフカのほかにも、ドストエフスキー、ゲーテ、太宰治、芥川龍之介らが残した絶望名言が紹介されている。

キレイな言葉が悪いとはいわない。しかし、どうしても自分が絶望したとき、眩しすぎる言葉が苦しく感じる瞬間もある。不安を少しでも拭い去りたいとき、あきらめもにじむ「絶望名言」はきっとみなさんの背中を押してくれるはずだ。

文=カネコシュウヘイ

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