ボルボXC60 社運を懸けた新世代アーキテクチャの完成

ボルボXC60 社運を懸けた新世代アーキテクチャの完成

  • ITmedia ビジネスオンライン
  • 更新日:2017/11/13
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10月16日、ボルボはミッドサイズSUVであるXC60をフルモデルチェンジして発売した。先代XC60は2008年のジュネーブモーターショーでデビュー。09年に日本市場に投入され、量産車として日本で初めて完全停止する自動ブレーキを搭載したクルマだった。なぜ輸入車が最初に国に認可されたのかと不思議に思うだろう。実は、ボルボは日本での自動ブレーキの認可に大きく貢献しているのだ。

XC60はボルボの全モデルの内販売台数で3分の1を占めるベストセラーモデル。慎重なモデルチェンジが行われた

当時の国土交通省は、「事故の責任が曖昧(あいまい)になる」あるいは「運転に注意を払わなくなって危険」と当然のように自動ブレーキの認可に抵抗した。ボルボは母国の役人や、英国の保険会社などから幾度もエキスパートを連れて来日し、国交省に対して詳細な統計を基に辛抱強く「自動ブレーキが事故削減に有意であること」の説得を続けた。そして、ようやく完全停止する自動ブレーキの認可を取り付けたのである。

当時それだけ抵抗した国交省も、今や「スイッチ1つで自動運転」という過剰表現のCMキャッチに対してすら「自動運転の進歩を阻害する恐れのある規制や指導を行わない」と言っているらしいので、この10年の変化に驚く。

ベストセラーのモデルチェンジ

さて、先代XC60はデビューして10年という古参だが、ここ数年、販売台数で見てもボルボの30%を占めるベストセラーである。驚くべきことに、モデル末期の現在でも販売数は微増し続けているという。10年間静かに微増し続けてきた結果、昨年の販売台数はデビュー時の2倍に達しているという。屋台骨となるベストセラーモデルのフルモデルチェンジは、ボルボにとってまさに正念場である。

ボルボは1999年にフォード傘下となり、以後、リンカーン、アストンマーチン、ジャガー、ランドローバーとともにフォード・プレミアム・オートモーティブ・グループに属していたが、リーマン・ショックでフォードの財政が悪化し、10年に中国の浙江吉利控股集団に売却された。

幸いなことに、スウェーデン第2の都市であるイエテボリの本社機能は温存され、開発も含めて従来の枠組みを継続することができた。しかしながら、他のフォード離脱組と同じく、フォードから受けていたエンジン、シャシーなどの基本コンポーネンツの供給を断たれ、独自で再構築する必要に迫られた。

ボルボは年販50万台ほどの小規模自動車会社で、モデルラインアップも多くはないが、上下の幅はそれなりにある。下はCセグメントのV40から、上は大型SUVのXC90まで。車両重量で言えば1.5トンから2.7トンまでのクルマを作らねばならない。シャシーにしろエンジンにしろそれぞれに適したバリエーションが必要だ。

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XC90でスタートした新しいデザイン文法を引き継ぎつつ、より軽快感を加えたデザインとなっている

しかし、ゼロから開発するには、エンジンにせよシャシーにせよ膨大なコストを要する大仕事であり、ボルボの規模でフルラインアップすべてを一気に刷新するなど、本来正気の沙汰ではない。

ボルボは決死の覚悟でアーキテクチャを検討し、全長・全幅・全高にフレキシビリティを持つ2つのシャシーを企画した。その第1弾が60/70/90シリーズ用のスケーラブル・シャシー「SPA(Scalable Product Architecture)」である。

シャシーの骨盤にあたるフロントバルクヘッド部をコアに、長さ・幅・高さを可変にすることでボルボラインアップの4分の3をカバーする。残る40シリーズに向けては別の新世代シャシー「CMA(Compact Modular Architecture)」がすでにスタンバイしており、国内導入は18年中盤とアナウンスされている。

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全長・全幅・全高のすべてを可変にしたスケーラブルシャシー「SPA」。1つのシャシーで90/70/60の3シリーズをカバーする

新世代シャシーの熟成

エンジンはDrive-Eと呼ばれるコンポーネンツ型システムを採用し、全モデル共用の4気筒。ブロックを共有するガソリンとディーゼルの2種類を基本に、ターボ、ツインターボ、スーパーチャージャー、ハイブリッドと各種の追加デバイスを組み合わせることで車両重量とグレード別動力性能への対応を図っている。なお、このほかにコンパクト用の3気筒モデルを開発中である。

さて、すでにドライブトレーンについてはデビュー時からそこそこの完成度を見せていた。ディーゼルターボモデルの低速域に残されたラグでドライバビリティに少しネガがあったことを除けば、ブランニューのパワートレインシリーズとしては完成度が高かった。

しかし、シャシーはもう少し生煮えだった感がある。XC90でデビューしたSPAシャシーは高剛性と後突安全性に高い資質を見せつけたが、足回り全体の高周波域でのダンピング不足からくるピリピリした微振動と、直進安定性の不足、パワステのセルフアライニングトルクの不自然さといった問題点が残っていた。

直進安定性は、トヨタ自動車の先代までのプリウスのような、舵が効かずに漂流するタイプではなかったが、逆に路面の不整を拾ってチョロチョロと進路を変えたがる神経質な感じで、特に商品的に穏やかな高速巡航性能が重要なXC90にとっては影響が大きかった。パワステのセルフアライニングトルクもモーターによる反力が盛り過ぎで、操作時に反力の立ち上がりが唐突かつ強過ぎた。

という具合に、熟成不足だったにも関わらず、XC90は商業的に成功を収めた。ボルボ自身も社運が懸かったベストセラーのXC60ではSPAシャシーのセッティングを一気に詰めて、今度こそデビュー時から商業的にだけでなく、商品的にも成功させたいと考えているはずである。

そんなわけで筆者にとっても期待と不安が共に大きいXC60はどうだったか?

結論から言えば、その仕上がりは予想を超えて良かった。ボルボのスタッフは「XC90もすでに年次改良を受けて良くなっています」と説明しているので、それもいずれ試してみたいと思うが、試乗してみると、XC60はデビュー時のXC90が抱えていた諸問題をしっかり解決してきた。ピリピリした微振動も、直進安定性に見受けられた神経質さも消えていた。パワステもずいぶんと自然になった。

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スカンジナビアデザインをうたう内装には流木をイメージしたウッドが採用される

印象として、とても透明感のある澄んだ乗り心地でスッキリしている。かつてのボルボに感じた、暖かみや厚みをあまり感じなくなった代わりに、良い意味で線は細く精密度が上がり、硬質になり、精度感が上がった。運転していてキリキリとした感じでなく、ミネラルウォーターのような自然な感じに仕上がっている。これが新世代シャシーの目指したところだったのかと腹落ちした。ボルボの新たなスタンダードである。

この乗り心地はパワートレインやハンドリングの仕上がりも含めた総合的な話で、各要素の向かう方向がうまく統率されている。エンジニアが相当に頑張ったことがヒシヒシと伝わる。

ボルボのコアコンピタンス

特筆すべきはシートの出来で、これは90シリーズに採用されているものと同一だ。恐らく現在市販されているクルマのシートで最上級の1つと言えるだろう。

まずクルマのシートとして最も重要な運転姿勢の保持能力が高く、保持の仕方も洗練されている。座って快適なのに姿勢が正しい。疲れない。基本性能の高さが非凡である。恐らくコスト的にも60シリーズへの投入はハードルが高かったはずである。それを実現したことは高く評価したい。

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追突時にドライバーがシートバックをスロープにしてルーフに頭をぶつける事故を防ぐため、2段階のアクションで乗員保護をする新型シート

XC90の時にも書いたが、このシートには基本性能を妨げないまま、革新的な安全装備が2つ追加されている。1つは脊髄保護機能である。近年、衝突安全対策がより重視されるようになり、自動車事故での身体損傷のうち、頭部と胸部に関するリスクが大きく引き下げられた。

代わって統計で目立ってきたのが脊髄の損傷で、居眠りや衝突によって道路を逸脱したクルマが土手などで跳ね上げられ、離陸して飛んだ後に着地するとき、垂直方向の強い加速度が発生して脊髄を圧迫損傷する。脊髄損傷は半身不随など深刻な後遺症の元になる。これを軽減しようというわけである。具体的にはシートフレームの一部にクラッシャブル構造を持つプレートを挟み、もしもの時にはこのプレートがつぶれることで衝撃を吸収する。

もう1つは追突安全の機能だ。追突事故の際、クルマは玉突きの的球のように急激に前方へ加速させられる。搭乗者の体は慣性で静止し続けようとするが、シートバックはその体を一気に前に押し出そうとするのだ。この際にシートバックは必ず後傾しているので、体を持ち上げるスロープの役目を果たし、搭乗者の体を持ち上げ、搭乗者は天井に頭を打ち、これによって頭部や頚部に損傷を生じる可能性が高まる。

XC60のシートでは、追突された時にシートバックの下方、つまり腰側のみが後退し、まずスロープの後傾角を減らす。こうして初期の体の浮き上がりモーションを防いだ後に、衝撃吸収のためにリクライニング方向に倒れるのである。

基本性能と革新的改良が同時になされたシートという意味で、これは極めて高く評価できる。

ユーザーがボルボに期待するのは安全である。その意味でボルボはそこにおいて他社の追随を許さない技術がなくてはならない。それをよく理解して、現実の製品に落とし込んでいると言える。

フォード傘下を離れて以降、ボルボが7年の歳月をかけて決死で押し進めてきた新世代コンポーネンツは一通りの完成を見た。XC90の登場時点では少し不安だったSPAシャシーもXC60ではっきりと完成形を提示して、不安を払拭した。存続を懸けた技術開発を成功させたという意味で、ボルボは今危険な橋を渡りきったと言えるだろう。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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