半導体業界、史上最大の買収劇勃発...巨大独占企業誕生で業界激変か

半導体業界、史上最大の買収劇勃発...巨大独占企業誕生で業界激変か

  • Business Journal
  • 更新日:2017/11/23
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米半導体のブロードコムが11月6日、米クアルコムに総額1300億ドル(約15兆円)の買収を提案した。もしこの買収が成功すれば、半導体産業史上最大のM&A(合併・買収)となり、世界第3位の巨大半導体企業が誕生する。その上、両社とも通信用半導体のトップ企業であるため、世界の同市場を独占することになる。

●まず、アバゴがブロードコムを買収(2015年5月)

この買収劇の端緒は、米ヒューレット・パッカードの半導体部門が独立したアバゴ・テクノロジーが、2015年5月に旧ブロードコムを370億ドル(約4.6兆円)で買収すると発表したことから始まった。

15年の半導体売上高ランキングでは、「半導体の買収王」と称されるホック・タンCEO率いるアバゴが11位(68.9億ドル)であり、自身より売上規模の大きな9位の旧ブロードコム(84.1億ドル)を370億ドルで買収したのである。

このような“小が大を飲み込む”買収は業界では前例がない上に、この買収金額は当時では世界最大だった。さらに、アバゴは“ブロードコム”のほうがネームバリューがあると考え、買収した企業の社名“ブロードコム”を名乗るという異例の措置を取った。そして、新生ブロードコムは、世界ランキング6位に躍り出た。

●クアルコムがNXPを買収(16年10月)

一方、クアルコムは16年10月、オランダNXPセミコンダクターズを470億ドル(約4.9兆円)で買収すると発表した。クアルコムはスマートフォン(スマホ)用プロセッサや通信半導体のトップシェア企業であるが、スマホの成長が鈍化していることに危機感を感じていた。そこで、自動運転車用AI(人工知能)半導体で世界を制することを目論んで、車載半導体のトップシェア企業であるNXPの買収に打って出たのである。

この買収金額470億ドルは、前年のアバゴによるブロードコム買収の370億ドルを上回り、世界最高額を更新した。ただし、この買収は中国と欧州における独占禁止法の審査が終わっておらず、まだ完了していない。

●ブロードコムによるクアルコムへの買収提案(17年11月)

そして今回、新生ブロードコムのホック・タンCEOが、またしても“小が大を飲みこむ”買収を仕掛けてきた。その買収金額は、それまで最大だったクアルコムによるNXP買収の470億ドルの約2.8倍に相当する1300億ドルという、途轍もない金額である。

今年17年は、東芝メモリの2兆円の買収をめぐって、日本中が大騒動した(新生ブロードコムも買収に名乗りを上げていた)。しかし、新生ブロードコムの1300億ドル(15兆円)の前では、それも些細な出来事のように霞んで見えるほどだ。まさか、買収金額のギネス記録を競っているわけではあるまいが、それにしても凄まじい買収である。

16年の半導体売上高ランキングでは、ブロードコムが6位(131.5億ドル)、クアルコムが4位(153.5億ドル)、クアルコムが買収しようとしているNXPが10位(91.8億ドル)である。

もし、これらすべての買収が成功すれば、新々生ブロードコムの半導体売上高は合計で376.8億ドルとなる。すると、台湾TSMC(289.7億ドル)を抜いて、1位インテル(539.7億ドル)、サムスン電子(401.4億ドル)に次ぐ、世界第3位の巨大半導体企業が誕生することになる。

●果たして買収は成功するか?

ただし、問題もある。まず、クアルコムがこの買収提案に賛成していない。クアルコムのポール・ジェイコブス会長は11月13日の声明で「クアルコムのモバイル技術でのリーダーシップと将来の成長性をかんがみると、ブロードコムの提案はクアルコムの企業価値を著しく過小評価している」と難色を示している(11月13日付日本経済新聞より)。そのため、ブロードコムは敵対的買収を仕掛けるかもしれないが、成功するかどうかは不明だ。

次に、各国司法省の独占禁止法の審査が通るかどうかという問題がある。ブロードコムは通信インフラ向けの半導体のトップシェア企業であり、スマホ用の通信半導体などのシェアも高い。一方、クアルコムはスマホ向けの通信用半導体とプロセッサでトップシェアを持つ企業である。

したがって、ブロードコムがクアルコムを買収すると、クラウドに使われる通信半導体とスマホ等の半導体をほぼ独占することになる。要するに、IoTやビッグデータ関連の半導体を独占するということだ。それゆえ、必然的に独占禁止法の審査が非常に厳しくなる。場合によっては、「NO」となるかもしれない。

●15~16年、M&Aの規模が急拡大

10~14年の5年間における世界半導体業界のM&A総額は、平均で1年当たり125億ドル程度だった。ところが、15年以降、突然M&A総額が急拡大した。15年は1072.8億ドル、16年は996.8億ドルと、過去5年間の平均の8倍規模のM&Aが行われるようになった。

M&A総額が急激に増大したのは、大型のM&Aが頻発するようになったからである。100億ドルを超える買収例をあげると、15年では以下のM&Aがあった。

・オランダNXPが、米フリースケールセミコンダクターを118億ドルで買収
・米インテルが、米アルテラを167億ドルで買収
・中国の紫光集団が、米マイクロン・テクノロジーを230億ドルで買収(失敗)
・米デルが、米EMCを670億ドルで買収
・米ウエスタンデジタルが、米サンディスクを190億ドルで買収
・米ラムリサーチが、米KLA-Tencorを106億ドルで買収(失敗)
・中国の紫光集団が、台湾TSMCの25%株式を300億ドルで取得(失敗)
・米グローバルファウンドリーが200億ドルで売却候補となり、サムスン電子、TSMC、クアルコムが名乗りを上げる(その後どうなったか不明)

16年になっても、100億ドルを超える大型M&Aが続いた。

・米アバゴが、米ブロードコムを370億ドルで買収
・ソフトバンクが、英アームを3.3兆円で買収
・米アナログ・デバイセズが、米リニアテクノロジーを148億ドルで買収
・米クアルコムが、オランダNXPを470億ドルで買収すると発表

そして、今年17年、上半期のM&A総額はわずか14.8億ドルで、大規模なM&Aの嵐は止んだかに思えた。ところが、東芝メモリが2.4兆円(211.2億ドル)で米ベインキャピタル率いる「日米韓連合」に売却されることになった。そして、ブロードコムが1300億ドルでクアルコムに買収提案を持ちかけた。これらが実現すれば、17年のM&A総額は1526億ドルと過去最高額を記録することになる。

●なぜ大型M&Aが頻発するか?

かつてのM&Aでは、シナジー効果「1+1=3」を期待した。ところが、昨今のM&Aは「1+1=2」に変化してきている。ビジネスにおいて、「スピード」が最も重要な要因になったからである。

現代のM&Aの狙いは「規模を拡大する」ことと、「手っ取り早く技術を確保する」ことにある。というのは、あらゆる分野で、「1強+その他」という構造が出現している。そして、その分野の1強だけが利益を総取りする構図が構成されている。

ビジネスチャンスが到来したとき、技術をゼロから開発する時間はない。そのため、そのビジネスにおいて「1強」になるためには、技術を持っている企業を買収するか、合併・提携することが唯一の解となったのである。

逆に言えば、スピードが極めて重要になった現代ビジネスにおいては、何もしないことは、「その他」になるリスクを負うということである。半導体とIT産業では、PCからスマホを経由して、IoT、AI、ビッグデータなどが、テクノロジードライバーになってきた。そのパラダイムシフトにともなって、核となる技術、ビジネス構造、産業構造などが大きく変化している。

この変化に対応し「1強」になるために、大型M&Aが頻発しているといえるだろう。そして、変化に対応できない企業は早晩、淘汰されることになる。一つの技術、部品、製品に着目すれば、最も早くデファクト・スタンダードを制することができるかどうかが、「1強」と「その他」を分かつ分岐点となる。そのため、今後も大型M&Aが頻発する時代が続くといえるだろう。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

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