「最大12万人の兵力を投入」米国の対イラン戦争の計画判明

「最大12万人の兵力を投入」米国の対イラン戦争の計画判明

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  • 更新日:2019/05/16
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アリゾナのデイビス・モンサン空軍基地(Purplexsu/gettyimages)

ペルシャ湾を舞台に米国とイランの対立が激化する中、トランプ政権が検討している「対イラン戦争」の内容の一部が明らかになった。米紙ニューヨーク・タイムズが報じたもので、米国は最大12万人の兵力を投入する計画。ペルシャ湾の石油タンカーや、サウジの石油パイプラインが攻撃される事件も発生、米政府は危険に備えバグダッドの大使館員の一部に撤収命令を出した。

地上侵攻は含まれず

13日付の同紙によると、国防総省の対イラン攻撃計画は何年も前から更新され続けてきたが、今回の新たな計画は政権一の対イラン強硬派であるボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)の指示で、策定された。きっかけはイラン並びにその配下のアラブ人武装組織が中東地域の米軍に攻撃を仕掛ける危険性が高い、との情報があったためだ。計画にはイランが本格的に核開発に乗り出したケースへの対処も含まれている。

計画は9日のホワイトハウスでの安全保障担当者会議で検討された。会議の出席者はボルトン補佐官、シャナハン国防長官代理、ダンフォード統合参謀本部議長、ハスペル中央情報局(CIA)長官、コーツ情報長官らが出席した。まずシャナハン国防長官代理が概要を説明した後、ダンフォード議長が細部を補足したという。

計画の最も重要なポイントは米部隊がイランに侵攻するのかどうかだが、侵攻までは考慮されていない。しかし、最大で12万人もの大兵力を動員することについては、政権上層部の一部に衝撃を与えているという。同紙によると、この新計画の1つ前の計画は「ニトロ・ゼウス」と名付けられていた。

ギリシャ神話のゼウスをもじったこの計画では、サイバー攻撃を発動し、開戦当初の数時間、イランの主要都市やイラン軍部の電力を落とす作戦だった。サイバー攻撃を使うのはできる限り爆撃という手段を回避するためだとされる。だが、この作戦ではイランのコンピューター・システムに浸透しなければならず、またイラン側のサイバーによる反撃のリスクもある。

イランは2012年、米金融市場やラスベガスのカジノなどにサイバー攻撃を仕掛けたことがあり、サイバー技術をさらに磨いているとみられている。またイランの核開発については、イラン核合意に基づいて高濃縮ウランの97%が国外に搬出されており、新たに核爆弾に必要な燃料を生産するには1年以上の期間が必要。米国はこの間に秘密作戦や核施設への攻撃で開発を阻止できると踏んでいるようだ。

イラク戦争とは全く勝手が違う

しかし、イランとの戦争は米国が行ってきたイラク戦争やアフガニスタン戦争とはまるで勝手の違う戦いになるだろう。イランの国力がイラクなどとは比べてはるかに大きいからだ。

人口はイラクが約2500万人だったのに対し、イランは8000万人を超える。中東でも指折りの大国だ。兵力も正規軍、革命防衛隊合わせ、約52万人。バシジと呼ばれる人民動員軍は100万人の動員力を誇っている。国土もイラクの4倍以上あり、民族的にもアラブ人とは違う誇り高いペルシャ人だ。

1979年のシーア派イスラム革命を指摘するまでもなく、宗教心は強い。今でこそ自爆テロは過激派組織「イスラム国」(IS)などスンニ派の代名詞になっているが、元々はシーア派の専売特許だった。イラン・イラク戦争当時、イラク軍が敷いた地雷原をイランの若者軍団がオートバイで「アラー・アクバル」(神は偉大なり)と叫んで突破していったのは記憶に新しい。

決定的なのはイランが弾道ミサイルを保有しているという点だろう。イランの中距離弾道ミサイルの射程は2000キロとされ、宿敵イスラエルに届く距離だ。イランと米国との戦端が開かれた場合、イランはかつてのイラクの独裁者サダム・フセインが湾岸戦争で行ったように、イスラエルやサウジアラビアなどにもミサイル攻撃を仕掛ける可能性がある。中東全域に戦線と混乱を拡大し、懸念した国際社会が米国に圧力を加えることを狙ってのことだ。

何よりもイランがペルシャ湾の出入り口であるホルムズ海峡を封鎖すれば、世界の原油供給量のざっと3割が止まる。同海峡は狭いところで30キロ余りしかない。イラン革命防衛隊のスピードボートが機雷をまくだけで石油タンカーが海峡を通過できなくなってしまう。日本を含め世界経済には大打撃だ。

ドローンの脅威

米国はイラク戦争で約4000人の兵士を失った。うち600人以上はイラン支援のイラク民兵の攻撃によるものだ。「米国が対イラン戦に踏み切る時には“100年戦争”を想定しないといけない。しかし、中東の紛争に巻き込まれることを毛嫌いしているトランプにはそこまでの覚悟はあるまい」(ベイルート筋)。中途半端な攻撃では大国イランとの戦争は成り立たないのだ。

トランプ大統領は13日、イランの神権国家の転覆を求めるのか聞かれ、「何が起きるか見てみよう。イラン人が何かを行えば、それは大きな過ちになるだろう」と述べ、明言を避けた。大統領は最高指導者ハメネイ師ら聖職者が権力を握るイランの体制転換までは求めていないとの見方が一般的。体制転換まで狙っているのはボルトン補佐官らタカ派だけだろう。

だが、こうした政治的な思惑とは別にペルシャ湾の緊張は高まる一方だ。先週末にかけ、ホルムズ海峡付近でサウジの石油タンカー2隻、ノルウェーのタンカーとアラブ首長国連邦(UAE)のタンカーそれぞれ1隻が何者かの攻撃を受け、船体の一部を破壊された。イランは否定しているが、米軍はイランが事件の背後に介在していると疑っている。

タンカーへの攻撃とは別に、サウジアラビアの石油パイプラインが14日、イエメンの反政府勢力フーシ派のドローン(無人機)攻撃を複数回受けた。フーシ派はサウジのイエメンへの侵略に対する報復だとしている。

サウジ当局によると、フーシ派はこれまで140回を超えるドローン攻撃を行っており、時速240キロで1500キロ以上航行できる無人機も開発しているという。フーシ派はイランが支援しているとみられており、米国とイランとの対決がさらにエスカレートすれば、米軍にとってはドローンも大きな脅威になりかねないだろう。

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