世界経済崩壊がささやかれる中で「株価爆上げ」の可能性を検証する

世界経済崩壊がささやかれる中で「株価爆上げ」の可能性を検証する

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/08/22
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世界経済のポジティブリスク

年初の当コラム(1月10日付)に「2019年世界経済の3大サプライズ」というコラムを書かせていただいた。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59355

今年は、昨年末の世界的な株価の下落を受けて、エコノミストらの経済・市場見通しは慎重なものが圧倒的に多かったことから、「世界経済崩壊」のような「ネガティブリスク」はそれこそ新聞や雑誌を単純に読んでいれば誰でも簡単に思いつくと考えたため、予想外の株価上昇をもたらすような「ポジティブリスク」を3つ指摘させていただいた。

具体的には、(1)FRBの金融政策が緩和方向へ転換、(2)米中貿易戦争の終結、(3)欧州金融危機とそれにともなう財政規律の放棄、であった。

今回は、今年ももう8ヵ月が過ぎようとしている状況で筆者が年初に言及した「3大サプライズ」の実現可能性がどのようになっているかを検討しておきたい。

結論から言うと、まだ実現目前とはいえないまでも、ここにきて、これらの3つのポジティブリスクのうち、(1)のFRBの金融政策が緩和方向へ転換と(3)の欧州金融危機とそれにともなう財政規律の放棄、の実現可能性が高まっているのではないかと考える。

某週刊誌で「世界景気後退リスク」特集が組まれるなど、多くの人が世界的な景気後退を懸念していることが容易に想像されるが、(あえてどことはいわないが)この手の週刊誌が話題に取り上げる場合には既に現実の経済は逆の方向を向きつつあることが多い。

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〔PHOTO〕gettyimages

FRBの金融政策スタンス

そこで、まず、「(1)FRBの金融政策が緩和方向へ転換」について言及する。

1月10日のコラムでは、「あとから振り返って2019年の世界の株式市場が活況であるとするならば、これが実現しなければならないほど重要な要因であると考える」と言及した。それでは、現状のFRBの金融政策はどうか?

FRBは、7月30、31日に開催したFOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%の政策金利引き下げを決めた。これは、確かに金融緩和政策への転換の第一歩だった。

また、1月10日時点で、パウエルFRB議長は、「株価や景気に配慮した慎重な金融政策スタンスをとる用意がある」という発言をしており、その時点でマーケットは、早くも将来の利下げを含む金融政策の転換を織り込みつつあった。

筆者は当時のFRBの金融緩和期待による株高に対し、「現段階では期待が先行し過ぎているのではないかと考える」と指摘しておいた。そこで、1月10日時点の終値を基準に8月20日までのニューヨークダウ工業株30種平均株価のパフォーマンスをみると、8.2%の上昇となっている(S&P500指数でみると11.7%の上昇)。

これは一見すると高そうなパフォーマンスだが、同時期のS&P米国債インデックスが7.6%、米国債とAAAとAA格の社債のインデックスは9.9%の上昇となっており、債券投資と比較した場合の株式投資のリスクを考慮すると、決してよいパフォーマンスではない。

その理由についても、1月10日時点のコラムで指摘した点が現時点においても当てはまっていると考える。念のため、それを再掲すると、以下の通りである。

《(米国の)株価にとって重要なのは、「金利政策(すなわち、利上げをやめる、もしくは小幅の利下げをする)」ではなく、「MBの供給増(FRBのバランスシート縮小の停止、もしくは拡大への転換)」であると考える。

金融危機後の低成長局面において、株価暴落が先導する形での景気悪化は、金利面での金融引締め(中立金利を上回る政策金利)ではなく、マネタリーベース供給量の急激な減少による「流動性収縮」がもたらすものであることは「1937年大不況」の経緯をみればわかることである。

その意味では、直近時点(1月2日)でのマネタリーベースが下げ止まったことが金融政策転換の兆候として評価されたことが年初からの株高につながっている側面があるが、これは過大評価であろう。現時点での株価反騰は、昨年末の急ピッチな下げの反動(ショートカバー)に過ぎず、長続きするか否かはまだ不透明ではなかろうか。

したがって、FRBの金融政策がすでに転換に動いていると考えるのは早計であると考える。》

そこで、ここまでの米国のマネタリーベース残高の推移をみると(図表1)、FRBは確かに昨年末の株価暴落を受けて、今年1月初めにマネタリーベースをわずかに拡大させたが、株価が戻るとすぐに縮小させた。したがって、量の側面からみると、FRBの金融緩和はここまでのところ「フェイク」である。

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また、中期的にみると、FRBが本格的な引締め局面に入った2018年以降、マネタリーベースの縮小が本格化した段階で株価の上昇ペースが著しく鈍化したことがみてとれる。誰も指摘しないことだが、米国株が本格的な上昇トレンドに乗ってくるか否かのポイントは、マネタリーベースではなかろうか。

以上より、米国株が本格的な上昇局面に入っていくかどうかは利下げの回数よりもむしろ、今後のFRBのマネタリーベースの供給を拡大させていくか否かにかかっていると思われる(もちろん、政策金利の引き下げとマネタリーベースの拡大はリンクしている部分もある)。

可能性は高まっている

そこで、もう一度、実際のマネタリーベース残高の動きをみると、5月末を底にマネタリーベース残高は底を打ったようにみえる。

だが、7月のFOMC後の記者会見で、パウエルFRB議長は追加の金融緩和に消極的な姿勢を示しており、FRBの金融政策スタンスが変わり、マネタリーベースが本当に底打ちから拡大に転じていくかはまだ不透明である。

しかし、FRBの金融政策スタンスが転換する可能性は次第に高まっていると考える。

現在、米国景気を支えているのは、堅調な個人消費である。米国の場合、株価や不動産価格が個人消費に与える影響は大きい。これは「資産効果」と呼ばれているものだが、株価や不動産価格の上昇によって、個人(特に富裕層)が保有する金融資産や不動産の価値が高まることで消費センチメントが好転する現象を指す(図表2)。

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さらに、株価の上昇は、株式の新規公開などの「エクイティファイナンス」の意欲を高める。特に、ハイテク企業の資金調達には株式の新規公開が用いられることが多いため、株価の上昇はハイテク投資やそれにともなう技術革新などにも寄与する。

このように株価の動きは米国経済の動きを決定づける重要な要因である。しかも、米国の株価はFRBの金融政策に強く影響を受ける。

これに加え、最近では、ドル高を通じて、製造業の景況観を悪化させつつある。そして、2019年4-6月期のGDP統計では、これまで堅調に推移してきた民間設備投資がついに減少(前期比マイナスの伸び率)するに至った。

つまり、今後は、株安を通じてこれまで堅調だった個人消費や設備投資を悪化させる懸念が生じつつあるということだ。

現在の米国経済は個人消費がかろうじて経済を下支えしている感が強いが、その個人消費が明確に減速すれば、米国経済は来年のリセッション入りを意識せざるを得ない局面に陥るかもしれない。

逆にいえば、このような状況に直面すれば、FRBは利下げだけではなく、量的緩和を含めた積極的な金融緩和に転じざるを得なくなるのではなかろうか。これは、米国株価にとっては上昇要因になりうる(これに加え、トランプ大統領がキャピタルゲイン減税を実施する可能性が浮上してきた)。

世界の経済政策の潮流が変わる

次に、「(3)ユーロ圏の財政拡大政策への転換」を検証する。

まず、大前提として、ユーロ圏諸国は、ユーロ圏加盟の条件として、「単年の財政赤字と政府債務残高をGDP比でそれぞれ3%以内、60%以内に保つ」ことが義務づけられている点に注意する必要がある。これを守れない場合には、緊縮財政によって、財政健全化に努めなければならない。

ところが、多くの加盟国で景気が低迷を続ける中、財政状況が著しく悪化しているため、「景気悪化局面での緊縮財政」がユーロ圏の景気好転の足枷になってきた。

このような状況下、ユーロ圏で指導的立場にあるドイツは景気も堅調で、かつ、財政も健全財政に近かった。このことがユーロ圏でこの財政健全化ルールを厳格に適用させてきた要因である。

だが、このところ、ドイツの景気が急激に失速しつつある。2019年4-6月期の実質GDP成長率が前期比マイナスとなった。これに加え、ドイツ最大の金融機関であるドイツ銀行の経営悪化問題も深刻さを増しつつある。

このように、ドイツ経済が安泰とはいえなくなってきた中、ドイツ政府は、ドイツ経済がリセッションに陥った場合には財政健全化ルールを破り、500億ユーロ程度の財政支出の拡大を行う用意があると言及した。

ドイツ経済のリセッションが先なのか、「大きすぎて潰せない(Too Big to fail)」ドイツ銀行の公的資金投入による救済が先なのかはわからないが、ドイツが財政拡大政策に転じれば、それをきっかけに緊縮財政を強いられてきたユーロ加盟国、もしくは、EU諸国が財政拡大政策に転じる余地が出てくるのではなかろうか。

このようなドイツの財政政策の転換も、具体的なタイミングは読みにくいが、10月に予定されている「Brexit(イギリスのEU離脱)」が欧州経済全体に何らかの悪影響を及ぼす事態になれば、年内にも実施される可能性が出てくると考える。

これに加え、ECB(欧州中央銀行)は現行のマイナス金利政策をさらに拡大させる可能性が高いが、もし、そうであれば、年終盤に、欧米で金融政策と財政政策がともに大幅に緩和されることになる。

従来、景気減速に対する経済政策といえば、金融緩和政策のみであったが、これに財政拡大政策が加わるとなれば、世界の経済政策の潮流が変わることを意味する。

総悲観になると危ない

残る「(2)米中貿易戦争の終結」は、なかなか先が読みづらい。

5月のゴールデンウィーク明けには実現するのではないかと期待されたが、その後、一転、米国側による追加の制裁関税、中国側の農産物輸入停止、と対立は激化しつつある。

といっても、米国にとって農産物の輸出はマクロ経済全体というよりは政治的に重要なファクターであると思われる。農産物の主要な生産地が共和党の支持基盤であるため、場合によっては来年の大統領選の行方を左右しうるからである。

ここまでの米中貿易戦争の状況をみても、これが直接的に米国の株価にネガティブな影響を及ぼしているというよりも、これに関するトランプ大統領の発言が出るとマーケットが勝手に右往左往し、ある一定期間(といっても1週間から2週間程度だが)、相場が乱高下しているに過ぎないのではなかろうか。

そう考えると、「米中貿易戦争の終結」は、これが決まった瞬間には株価を大きく押し上げるが、株価の中長期的な上昇トレンドに大きな影響を与える本質的な要因だとは思えないのである(他の機会に指摘したいと思うが、世界の主要国の貿易統計をみても、米中貿易戦争が、必ずしも直接的に世界貿易に影響を与えているかといわれるとやや疑わしい側面がある)。

***

以上のように、9月以降の世界経済、及び株式市場の動向を考える上で重要な要因のうち、米国FRBの金融政策と欧州の財政政策に変化の兆しが見えつつある点は要注目である。

世間一般の認識が米中貿易戦争の激化やその他の主に地政学的リスクの高まりから悲観・警戒一色になりつつあるが、総悲観になると特にマーケットは往々にして逆に動くことが多々あるので、複眼的に状況を見ておく必要があるのではなかろうか。

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トランプは経済で“大化け”する可能性を秘めている。気鋭のエコノミストが、世界と日本の動向を鋭く予測する!

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