武蔵小杉が騒然、タワマンで下水道がパンク......台風19号で露呈した「デベロッパーの“売り逃げ”商法」

武蔵小杉が騒然、タワマンで下水道がパンク......台風19号で露呈した「デベロッパーの“売り逃げ”商法」

  • 文春オンライン
  • 更新日:2019/10/17

10月12日に伊豆半島に上陸した台風19号は、史上稀に見る勢力を保ちながら関東地方から東北地方を縦断していった。今回の台風の特徴は被害が甲信越地方など広範囲に及んだことであり、大型化する台風やゲリラ豪雨の頻発からは世界の気象変動がのっぴきならないレベルに来ていることを感じざるを得ない。

【写真】駅前は大規模冠水……台風19号の影響で電気が消えた武蔵小杉のタワマン

豪雨による水害が中心だった台風19号

また、9月に来襲した台風15号では強風による被害が多かったのに対して、今回の台風がもたらした被害の多くが、長時間に及んだ豪雨による水害が中心だったことも特筆される。なかでも千曲川をはじめとする一級河川の氾濫は、広域に甚大な被害を及ぼすに至った。

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千曲川の氾濫は大きな被害をもたらした ©AFLO

被害を受けた多くの住宅はこうした河川の流域にあった。日本は古来、自然災害の多い国である。国土が狭く急峻な山地が多いために、河川が短く急流であることが原因だ。こうした国土に住むということは、つねに台風や地震といった自然災害と戦い続けなければならないことを意味する。

東京には107もの河川が存在する

東京のブランド住宅地のほとんどは高台にある。古くからのブランド住宅地は武蔵野台地と呼ばれる江戸城(現在の皇居)の西側に形成された。現在の番町、麹町から四谷、牛込付近がその代表だ。また外様大名の多くが武家屋敷を構えた本郷、小石川、麻布、六本木、青山などでは、邸宅の多くが地盤の良い高台に位置していた。

東京は河川が多く、現在、一級河川として多摩川水系、利根川水系、荒川水系、鶴見川水系という4つの水系がある。この水系を中心に92の一級河川が展開し、これに二級河川を含めると都内にはなんと107もの河川が存在し、その延長距離は857kmにも及んでいる。

東京のブランド住宅地の多くが実はこの河川流域を避けて高台に発達していることは、まさに「台風や地震との戦い」を避けようとする人々の知恵だったのである。

さて翻って現代。住宅地はどんどん郊外部に拡張され、大量の住宅が供給されてきた。そのいっぽうで、土地がありさえすれば、その地の歴史を顧みることなくただひたすらに住宅を作り続けてきた感は否めない。

一級河川などの流域はもともと地盤が軟弱なところが多いうえに、洪水などの災害が繰り返し起こっている。立派な建物を建てたところで、川の増水や氾濫を防ぐことはできない。2015年、デベロッパーが分譲した横浜市のマンションで、杭の一部が地盤に届いていないことがわかり建替え騒ぎとなったことは記憶に新しいが、このマンションの敷地も実は鶴見川の氾濫原だったことはあまり知られていない。

「なんちゃって4階建てマンション」が抱えるリスク

今回の台風で川崎市高津区にある4階建てマンションの1階部分が水没し、住民の男性1名が亡くなったという。現場の詳細はわからないが、思い出されるエピソードがある。マンション業界では開発のために取得した土地の上に、なるべく多くの住戸を確保した建物を造りたいと考える。だがそれぞれの土地には用途地域から容積率、建蔽率など様々な規制があり、その範囲内で建物を建設する必要がある。とりわけ住居地域などで苦労するのが、建物の高さ規制だ。

街を歩くとときたま、1階部分が半地下のようになっているマンションを見かけることがあると思うが、実はこうしたマンションの多くが、高さ規制10メートルの土地に建っている。その規制の範囲内では、普通に建設すると3階建てが限界だ。だが、地面を掘って1階を半地下にすれば、4階建てにできるのである。

世の中にはこうして建てられた「なんちゃって4階建てマンション」が数多く存在する。ところが、こうしたマンションはあたりまえだが水害が生じた場合、なす術がない。私の知り合いが勤めるデベロッパーでも以前、こうしたマンションを建設分譲したところ、数年後に台風による被害で水没しそうになり、土嚢を持って駆け付けた……などというエピソードがあるそうだ。そのデベロッパーでは現在、こうした“潜水艦マンション”は、その時の教訓で企画しなくなっているという。

タワマンの街「武蔵小杉」の大規模冠水

また今回話題となったのがタワマンの街、川崎市中原区の武蔵小杉で大規模な冠水があったことだ。武蔵小杉という場所はもともとNECをはじめとした大中小の工場がひしめく場所だった。多摩川にも近く、ハザードマップなどでも水害の危険性が高いと指摘されている。古くから川崎や横浜に住んでいる住民からみると、武蔵小杉は決して良い印象がある街ではなかった。

ところが産業構造が変わり、工場の多くがアジアなど他地域に脱出すると、その跡地にデベロッパーが続々とタワマンを建設する。95年に建った武蔵小杉タワープレイスを皮切りに、今では数多くのタワマンが林立する街へと変貌を遂げ、SUUMO調査の「住みたい街ランキング」でも上位を占める常連になっている。

ところが今回の台風ではJR横須賀線の武蔵小杉駅改札口が水没、駅前ロータリーはJR駅前のみならず東横線側でも冠水し、一時は水位が成人の胸の高さにまで及んだとの報告もある。こうした状況下、ネットでは一部のタワマンで地下部分に浸水が起こり、マンション内のトイレの使用を当面禁止する張り紙が出たとの話が拡散され、騒然となったという。

人口の急膨張でインフラの整備が追い付いていない

この騒動は一時、多摩川の氾濫によるものとされたが、事実はやや異なるようで、大量の雨水が下水管に流れ込んだために処理しきれなくなり冠水した、というのが原因のようだ。

武蔵小杉では短期間の間に大量のタワマンが供給されたため、川崎市中原区は20年前には人口が19万5000人だったのに対し、現在は26万1000人に膨張している。そのため、区によれば社会インフラの整備が追い付いていないという。

たとえば急増する児童に小学校の整備が追い付かない、JR横須賀線の武蔵小杉駅は毎朝駅に入場する通勤通学客で長蛇の列ができるなどといった事態が、既に何度も報道されてきている。そして今回の水害は下水道整備が追い付いていないという実態も浮かび上がらせた。

タワマンは広い敷地といえども、容積率いっぱいで地上40階程度に聳え立っているために、1棟当たりに居住する住民の数は半端ない。その下水道には、1棟あたり数百戸の住民が使う上下水が大量に流れ込むため、雨水の処理が間に合っていないのだ。これは個々のマンションの問題というよりも、短期間に急速に発展してしまった武蔵小杉という街の宿命ともいえよう。

デベロッパーの「売り逃げ」を防ぐために

東京都江東区では総戸数30戸以上のマンション建設にあたっては、開発業者に公共施設整備協力金を依頼している。江東区は東京都心に通うサラリーマンの居住エリアとして大量のマンション建設が行われてきたが、住民の増加に伴って小中学校の整備が追い付かなくなるなどしたために、社会インフラの整備を目的にこの制度を導入している。

寄付金という建前だが、30戸を超える部分の住戸については1戸当たり125万円の負担を求めており、多くの業者が負担し、学校や公共施設の整備などに充当している。

今後は武蔵小杉に限らず、タワマンなどの高層建築物に対しては社会インフラ負担金を求めていくべきなのではないだろうか。デベロッパーはマンションを建設、分譲してしまえばあとは「売り逃げ」するのが基本的な行動パターンだ。武蔵小杉はその典型で、デベロッパーが各社勝手に分譲し、その後の面倒を見ていないことが、殺風景で彩に欠ける街並みを生んでいるばかりか、今回のような水害の一因になっているのではないかと考えられる。

社会インフラの整備を旧住民だけでなく開発業者や新住民たちにも応分に負担させることで、社会全体での安心、安全な街づくりになる。今回の台風災害で得た教訓を新たな防災の考え方に活かしていきたいものだ。

(牧野 知弘)

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