海外勝負の決め手は、エンジニア・非言語・雇用創出

海外勝負の決め手は、エンジニア・非言語・雇用創出

  • 週刊アスキー
  • 更新日:2016/11/30

日本のベンチャーには”残念”なところがある。起業から年数が経っても、結局のところ国内、もっと言えば地元にしか市場を展開できていないケースが非常に多いのだ。ある程度のインフラが整い、ビジネス展開するには十分な市場がすでにある日本特有の状況ではあるのだが、シリコンバレーのスタートアップが西海岸だけで商売をしているなんてありえない。グーグルやアマゾンなどのようにビジネスを世界規模にスケールさせる強烈な速度こそ、スタートアップが勝ちあがるために必要となる。

IoTビジネスプラットフォームのソラコム、純日本製ウォッチブランドのKnot、建機取引マーケットプレイスのSORABITO、以上の3社は、国内のスタートアップでありながらすでに海外展開に着手している。いずれも業界で注目を集めるトップランナーだ。

ソラコム玉川憲社長、Knot遠藤弘満社長、SORABITO青木隆幸社長の3人は、11月15日開催のビジネスイベント「経済産業省×ASCII STARTUP 日本発グローバル・ベンチャー公開選考会」に登壇。パネルディスカッション『日本発グローバルスタートアップの戦い方』で海外展開に対する考えを語った。ディスカッションでシェアされた3社3様の知見に学び、これからの時代を生きる方法を見つけたい。

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「日本発グローバルスタートアップの戦い方」トークセッション。(左から)モデレーターの北島幹雄、ソラコム玉川憲氏、Knot遠藤弘満氏、SORABITO青木隆幸氏

日本発のグローバル・ベンチャーは、ないわけではないが、どうやらハードルが高そうだ。だがそのハードルを乗り越えビジネスを展開する3社について、まずは各代表に現状の展開を聞いた。

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モデレーターを務めた北島幹雄(ASCII STARTUP)

ソフトベースの世界規模プラットホーム ソラコム玉川憲社長

ソラコムはモノ向けの通信プラットホームを提供している会社だ。IoTという言葉を聞く人も多いかと思うが、今後さまざまなモノがインターネットにつながり、人工知能で処理されて便利になる。

ここでいう「モノ」とは自動車や自販機やバイクや家電や時計などが含まれてくる。そういうときに最適な通信がまだないため、ソラコムは1日10円から通信できるSIMを販売している。どう実現しているかというと、NTTドコモの基地局を借りて、クラウドで動くソフトウェアを作り、資産をもたないバーチャルキャリアとしてIoTプラットホームを提供している。

グローバル展開ということで2015年9月にサービスインしてから1年が経ち、7月から世界中の携帯キャリアと提携して世界120ヵ国で使えるSIMカードを実証実験キットとして提供開始している。

「ITやスタートアップで使われる『プラットホーム』はもともと"共通基盤"という意味がある。ソフトウェアを使ったビジネスのためコピーしてもコストが増えない共通基盤ビジネスは、世界中で売っている会社のほうが競争力は強くなる。グーグル、アマゾン、フェイスブックなどがあるが、日本からはソフトベースのプラットホームビジネスがいまだ出てこない。ソラコムとしてはそこに取り組みたい」(玉川氏)

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ソラコム玉川憲氏

”日本製”武器にネット通じてアジア展開 Knot遠藤弘満社長

ジャパンクオリティで日本と世界を結ぶ、メイドインジャパンのカスタムメイドウォッチブランドがKnotだ。カスタムメイドといっても、手づくりのクラフトではなく、あくまでもブランドとして量産をかけている。日本国内では実に80年ぶりに生まれた時計ブランドだ。

遠藤社長自身、15年間ウォッチバイヤーとして世界中を飛びまわり、海外メーカーと契約して日本で広めていくことをやってきた。15年間海外に接してきた経験から、メイドインジャパンはアジアを中心に人気があることがわかっていた。「どんな業界もそうかもしれないが、時計業界は特に新規参入が難しい。ユニクロやJINS、Zoffなどが高品質な製品をリーズナブルな価格で提供してきた中、腕時計だけはどんどん高単価になってきた。同時に海外では、『300ドル以下で買えるメイドインジャパンが市場からなくなってしまった』という声を聞くようになった」(遠藤氏)

流通のムダをなくし、高品質な日本製を安く提供できれば海外でも展開できるのではないかという形で始めたのがKnotだ。約8000種類のカスタムオーダーが誰でも楽しめる。ネット販売から始めたが、すでに国内には3店舗の直営店がある。

海外展開については、店舗での体験の場であったり、ウェブサイトを使ったサービスだったり、ビジネスモデルやサービスそのものを海外に輸出していこうという戦略だ。2016年1月には台北に直営店をオープンしている。「海外からも問い合わせをもらっていたが、待ってもらっていた。秋から工場がようやく増えた。この2ヵ月で7ヵ国を回ってきた。2017年度は海外がひとつのマーケットの中心になる年と考えている」

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Knot遠藤弘満氏

建設機械のグローバルプラットフォーム SORABITO青木隆幸社長

SORABITO(ソラビト)は、働く機械、建設機械を中心とした農業機械やフォークリフトを取り扱う売買プラットホーム運営会社。青木社長自身が建設業の家に生まれ、建設機械に触れて育ってきた。

海外挑戦のきっかけは、インターネットに建設機械を登録した際の海外からの問い合わせだ。つきつめて調べると、日本の建機市場は、多くの在庫にあふれ、毎月きちんと法定点検されていてコンディションがいい、世界でもまれな市場だった。だが、実際の建機のオークション会場はアナログで、会場に実物を持っていかなければいけない。購入には、遠方まで行かなければ買えないという状態だった。

同社が手がけているALLSTOCKERは、取引をシンプルにして、品質を保った独自鑑定基準を守り、金融機関とも提携し、安定した高額取引ができるようにした中古建機のECサイトだ。物流会社とも提携して、スタート時点から世界中にも届けられる物流体制を整え事業を展開している。

「海外展開は商習慣や行動意識を徹底的にわかった上で広めていくのが大事。我々の場合、パートナー制度を作ることできちんとフィードバックを得られるようにしている。販売されたあとに使い続けていただかなければいけないためアフターフォローの体制が肝心」

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SORABITO青木隆幸氏

日本発ベンチャーならではのメリットとは

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セッションの後半では、海外展開に関する共通質問について各社が答えた。

――海外展開において重要と考えるポイントは?

ソラコム玉川社長「最後はエンジニアが勝負になる」

「もともと立ち上げるタイミングで海外展開したいと思っていた。理由はいくつもあるが、日本市場はIT業界では全世界で5%以下。ソフトウェアベースのプラットホームビジネスをやったとき、相手はグローバル全体。5%でしか戦えない会社では絶対に体力負けする。海外で勝たないと生き残っていけないというのが直感的にわかっていた。結局は大きな市場を持っているところのほうが同じような開発リソースでも勝てる。最終的には太刀打ちできなくなる」

玉川社長によれば、ソフトウェアは開発力が大事で、ソフトウェアエンジニアの数の勝負になるという。グローバルでプラットホームを提供しているグーグルやアマゾンは資金をエンジニアへの投資として囲っている。アマゾンなら数千人、グーグルなら1~2万人のソフトウェアエンジニアがいる。

「ソラコムの場合は通信を提供しているので法人向けだ。ソラコムを自動車や自販機や建機や時計や家電に組み込むので、事業者のエンジニアで使ってもらいたい人がお客さんになる。だから最初から海外前提だ。会社を作るときにサービスを提供する市場をアメリカにするか日本にするか悩んだくらい」

Knot遠藤社長「メッセージは”非言語”で伝えていく」

アジアは高度成長めざましい。ただ、日本人の給料が倍になったらすごいが、倍になったといっても1万円のお給料が2万円になったという話でしかない。数十万円の腕時計が買えることはなかなかない。日本のメーカーであってもメイドインジャパンの腕時計はわずか。高品質でリーズナブルな腕時計がほしいと思っている消費者はいるにもかかわらず、買えなかった」

海外をメインで考えているので伝え方には気をつかっていると遠藤社長。「MUSUBU Project」という日本の伝統工芸と世界を結ぶコンセプトをKnotでは行っているが、そもそも伝統文化を海外の言葉に乗せて伝えるというのは難しい。

「現在『君の名は。』が大ヒットしているが、組み紐の技術を採り入れた時計のベルトをコレクションとして発売している。組み紐は、"組み紐"でしかなく、説明は難しい。そこですべてのプロダクトでムービーを撮っている。必ず絵で見せていく。これは万国共通」

SORABITO青木社長「アジアに1万人の雇用を生むこと」

「お客さんがもともと日本の建機を求めていた人たちだったのでグローバルなサービスをやろうということではじめた。海外展開においていいなと思う点は、彼らは目の前に仕事があって(建機が)『欲しい』ということが多い。どの国から質問されても迅速に答えたい」

SORABITOの顧客として現在多いのは香港やベトナムだ。言語対応から港までより早く送るための体制を整えている。ポイントは、日本でかつて使われた製品が求められている製品のため、いかに国内から集めるかという点にある。

「利点としては、まとめて取引できるところがある。たとえばベトナムにおいて海外に展開した日系企業と"パートナー制度"をやっている。我々のプラットホームの意義は、現地での雇用が生めること。流通させた建機についての販売、修理・メンテナンスで稼いでもらう。わたしたちはアジアに1万人の雇用を生みたいといっている」

――日本発ならではのメリットは?

ソラコム玉川社長「日本の”消費者”は世界一厳しい」

「日本市場のお客さんは品質に対して非常に厳しい。日本のお客さんがOKといったときそれ以上を求められることはないが、逆にアメリカでできたものを日本にもちこむとクレームがくるということはある。IoTのSIMに関しても同じだ。ソフトなのでかなり細かい点まで良いフィードバックがもらえる。IT産業という意味でいうと、日本の中で世界に展開している企業はほとんどない。ソフトビジネスをやろうとしたとき、売り先の面でも日本だけだと難しい。製造業が強い日本という意味ではIoTで日本がお客さんになる。ITだとないが、製造業だとある分野」

Knot遠藤社長「日本での成功=質の担保になる」

「日本はあらゆる面でマーケットが成熟しているため、日本でうまくいっている・成功しているということが、海外にもっていくとき障害をなくしてくれる役割を担う。売れる・売れない、質がいい・悪いというのは『日本で成功している』ということでクリアできる。ただ内需を整えるには、従業員もいれば家族もいてメシも食えないといけない。そこは日本企業が海外進出できない理由にもなっているとは思うが、内需をしっかりしないと海外展開できないとも言えると思う」

SORABITO青木社長「日本ブランドへの信頼だ」

「アジアでもASEANを中心に展開している中、日本から行くとあたたかく受け入れられる。現地とのパイプがあったこともあるが日本の機械なら間違いないと言われる。これは面白いビジネスになるということで、信頼面でも日本発は強い」

――ブランチ・パートナーは必要か? 国内とのリソース配分はどうするか?

ソラコム玉川社長「売り方は"超ローカル"で攻める」

「製品そのものがソフトで作っているものなので、製品の点ではどこでも同じ。コピーさえすれば使えるという点では超グローバルだ。では日本でつくったものを向こうのアマゾンにもっていけば売れるかというとそうではない。アメリカはアメリカの販売戦略が必要になる。それぞれのエリアにおける売り方は超ローカル、現地採用のアメリカ人が戦略を立ててアメリカで売るという考え方でやっている」

Knot遠藤社長「必要に応じてパートナーを選ぶ」

「扱っているのがファッショングッズなので必要性を感じることもない。中国など、現地のパートナーがいないときついという国はあるが、それ以外は自分たちでやっていけばいい。時代がよくなったなと思うのは、先日、韓国に出張していたとき、こちらが製品について説明する前にFacebookなりInstagramに消費者が情報を上げてくれていたため、逆に向こうから声がかかった。時代背景をつかんでいれば必要に応じてパートナーを選んでいけばいいんじゃないかと思っている」

SORABITO青木社長「地域差をサービスに取り込む」

「リソース配分の問題にもなるが、市場があるからといって一気に攻めてしまっては1つも攻略できないことになってしまう。また日本国内でも商慣習が違うところはあるが、それは他国でも同じ。ベトナムという一ヵ国で考えてしまうとハノイとホーチミン、それぞれの中で異なる。それをサービスに取り入れるのが大事。出張で知るのもアリだが、現地の人とコミュニケーションをとりながら組み入れる。商慣習やサービスをまるっと入れて、仮説検証してよくやっていく。パートナーからは現地の声が瞬時にもらえる。海外で顧客をつかむために自ら行ってはいるが、深く知りたい地域ではとくに役に立つ」

――海外展開の醍醐味を知りたい。いったい何が楽しいのか?

ソラコム玉川社長「海外スタッフと同じ目標が持てるのが楽しい」

「現地3拠点で現地採用している。日本で生まれて日本で育ったが、30歳くらいのときに苦労して留学していた。当時の苦労が実り、日系アメリカ人をふくめて多様性のある海外スタッフをもっている。物理的に同じ場所にはいないが、テレカンファレンスの仕組みで、同じ目標をもって動いているのを感じるのがとても楽しい」

Knot遠藤社長「"実力がすべて"というシンプルなところが好き」

「楽しくてしょうがないというくらい。展開先の国からすると、わたしは外国人だ。縁もしがらみもない、すばらしい製品とサービスをつくってコンシューマーに提供することだけ考えればいい。まがりなりにも20年間腕時計業界でやってきていると本流ではないところでおかしな結果が生まれることが国内ではあった。海外ではすべてが実力というシンプルなところがあり、わたしとしては好きだ」

SORABITO青木社長「トラブルよりも発見が多くて楽しい」

「楽しい、すごく楽しい。やればやるほど発見があるので飽きない。最初はトラブルや問題が日々起きるが、それにも増して発見が多かったり、現地で『よく買ってるよ』と言ってもらえたり、魅力を感じてもらえる。やればやるほど楽しい」

世界との勝負に向けて

日本発のグローバル展開に必要なものは何か。各代表の言葉からうかがえるカギは、課題としての難しさよりも、ビジネスとしての意義にあった。

既存の成功例が当てはまらない前提であっても、世界規模でスケールさせる強みとして日本国内での実績は必ず結びついてくる。海外発での日本人によるスタートアップや成長企業も当然あり、その成長例もあるが、一方国内で培った力を発揮できる分野・商材が、日本をはみ出て、より伸びていくことに期待したい。

すでに準備は万端という3社。最後の質問として、2017年の展開について聞いた。ここからの各社の実際の展開は、ぜひASCIIとしても追い続けていきたい。

「日本で苦労してサービスを発表したとき、市場全体に評価してもらえて『すごいの出たね!』と言ってもらえてうれしかった。それを今度は世界でやっていきたい。3拠点同時多発的に売っていくために、がんばりたい」(ソラコム玉川社長)

「一言で言うと、サービス開発だ。直営店には北は北海道から南は沖縄からお客さんが集まってきてくれている。『オラが村にもKnotギャラリーショップをオープンしてくれ』という声をもらっている。全国にお店を開いたり、吉祥寺の直営店付近には製造工房やアフターサービス拠点を設け、メンテナンスをスピーディーにする。本店ともなると月間来客数のうち30%以上がアジアの方。海の向こうから来なくても買えるぞという状態にしていくのがテーマ」(Knot遠藤社長)

「サービスを立ち上げて11月で1年が経った。海外で狙っているエリアはいくつかあるが、まず国内での供給体制をしっかり作っていきたい」(SORABITO青木社長)

■関連サイト

ソラコム

Knot

SORABITO

経産省「飛躍 Next Enterprise」

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