まずは政府に規制されるまで突っ走る中国ベンチャー

まずは政府に規制されるまで突っ走る中国ベンチャー

  • JBpress
  • 更新日:2017/08/11
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「回家吃飯」は料理の達人が得意料理を調理・配達してくれるシェアリングサービス。中国の法律に反する疑いがあるが、ビジネスは急拡大している(写真はイメージ)

前回は、中国ベンチャー市場を読み解く上での第5のキーワードとして、「ハイリスク・ハイリターンな投資環境」を扱った。平均寿命3年未満、新卒起業失敗率95%、年間創業440万社の中でAラウンドに到達するのが1600社、Cラウンドに至ってはわずか200社という「ハイリスクな環境」である反面、今でもホームランディールが日々誕生し、投資家を惹きつけて止まない「ハイリターンな環境」であることをご紹介した。

また、併せて中国ベンチャー企業の3つの代表的「失敗パターン」として

・「マクロの読み違え」:イスがない・早すぎる
・「組織を拡大しすぎて自滅」:資金調達できない時期に逆回転
・「マネジメントの分裂・中核人材流出」:日の浅い新設チーム・CEOが富を配分しない

についても考察を加えてみた。

(前回の記事)「ある日、業界ごと消滅する中国ベンチャーのリスク
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50643

最後のキーワードとなる今回は、「政府の放任と規制の適切な調和」として、政府がどのように勃興する新規市場の舵取りを行い、ベンチャー育成と秩序維持に向き合っているかについて、実例を元に掘り下げてみたい。

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中国ベンチャー市場を読み解く6つのキーワード

(出所: Legend Capitalとの討議よりDI作成)

中国ベンチャー市場を読み解く6つのキーワード (6)政府の放任と規制の適切な調和

□(事例1)オンライン動画サイト
:市場形成・主要プレイヤー登場の「3年後」に規制を開始

まず1つめの例は、古典的な事例として、オンライン動画サイトを見てみよう。2005年2月のYouTube誕生によって、中国でもオンライン動画サイトが注目を浴び始めていた。GoogleによるYouTube買収(2006年10月)と前後するように、中国でも多くのコピーキャットが生まれ、その数は4000社(!)にも達していたと言われている。当然、この4000社各社が適切なコンテンツ管理を行うとは到底考えられず、実際に非正規コンテンツも市場に大量に蔓延していた。当時の業界はまさにカオスだったと言えるだろう。

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YouTube登場後に、数多くのオンライン動画サイトがローンチ

(出所: Legend Capital提供資料)

しかし、2008年4月になって、満を持して政府が動き出す。中国当局(新聞出版広電総局)が、誰もが参入可能であったオンライン動画サイト事業に、「ネットワーク視聴許可証」(信息网络传播视听节目许可证)というライセンスを導入し、許可制事業に転換することとなった。ちょうどYouku(優酷)、Tudou(土豆)など先行者が市場をリードし始め、インターネット大手Baidu(百度)、Sina(新浪)、SOHU(捜狐)などの進出が一巡した、市場形成の「3年後」のタイミングである。

以後、政府から様々な通達が企業に対して行われているが、現在では大手プレイヤーは10社弱にまで集約されており、彼らさえ遵守すれば、業界全体の秩序が保たれるようになっている。

市場黎明期に4000社、しかも”やんちゃ”なベンチャー企業を全て管理するのは、中国政府といえども実質的に不可能。そこで、市場がある程度形成され、業界をリードできる有力企業が数社出現した時点で、規制をかける。最初の3年間は、中途半端な政府介入で競争・淘汰が遅れるくらいなら、「一切口出しはしないので、まず徹底的にビジネスベースでやり合ってくれ」、というところだろう。まさにドラスティックな「放任と規制」である。最大の勝ち組となったYouku、Tudouは、今でこそアリババの傘下入りを果たしたものの、出自は政府背景でも大手ネット系でもない、純粋な独立系ベンチャーであったことも付言しておこう。

なお、誤解のないように触れておくと、政府の規制が入った後も、基本的に各プレイヤーを駆り立てているものは、ビジネスベースの動機がメインと言っても差し支えない。中国ではここ数年で正規版コンテンツの配信が大きく進んだ。一例として、2015年の日本のアニメコンテンツ373作品のうち、80%近い289作品が中国で正規版配信されている。完全に0とまでは言えないが、海賊版も著しく減少した。

この背景には、政府方針というよりは、海外上場に伴う取引所・投資家からのガバナンス強化のプレッシャーや、大手同士の版権争奪競争・叩き合いで海賊版排除が進んでいったことがある。今では中国大手企業は、他社版権を正規入手して海賊版を排除するだけでなく、自社でIP(知的財産)を創出して利益を上げるフェーズにまで来ている。筆者(板谷)自身も、中国コンテンツ業界に7年近く関わっているが、その急激な変貌ぶりには驚くばかりである。

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日本のアニメコンテンツは80%近くが正規版として配信済

(出所: DI分析)

□(事例2)配車アプリ
:市場形成・主要プレイヤー登場の「5年後」に規制を開始

もう1つ、比較的最近の例として、配車アプリを見てみよう。こちらも、2010年6月にサンフランシスコでUberが誕生してから、数多くのコピーキャットが中国で生まれた。

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Uber登場後に、中国内で同様のサービスが数多く誕生

(出所: Legend Capital提供資料)

当初はオンライン動画サイト同様に、有象無象のプレイヤーが参入していたが、次第に滴滴出行(Didi)のような巨大プレイヤーが誕生してくると、既存業界との摩擦も加速していく。タクシー運転手が配車アプリのハイヤー車両を破壊する事件も起き、メディアも中央政府の放任を批判的に報じ始めるようになっていた。

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滴滴出行(Didi)登場による既存業界とメディアからの反応

(出所: Legend Capital提供資料)

結局、中国政府は、有力プレイヤーがほぼ滴滴出行1社(シェア80%超)に絞られた、市場形成の「5年後」に規制適用に動き出した。

具体的には、サービス改善と安全性向上のための制度として、2016年11月に「インターネットタクシー経営サービス管理規定(网络预约出租汽车经营服务管理暂行办法)」を導入。

その中で、ドライバー側の規制として「営業都市の戸籍保持」「免許取得3年以上、無犯罪」、車両側の規制として「営業都市の現地登録車」「運行記録装置・GPS・緊急通報装置の常設」「60km未満走行、8年未満」といった条件を付与していった。特に、「営業都市での戸籍保持・車両登録」はハードルが高く、当時上海で滴滴に登録していた41万ドライバーのうち、該当者が3%しかいないということも大きく報じられた。これも、ドラスティックな規制をかけるのであれば、少数の絞られたターゲット企業に対して行う方が効率的、という政府の意図が垣間見える。

□(事例3)シェアリングエコノミー
:サービス開始2年以上だが規制なし(いずれ適用されると予想)

最後の事例として、まだ規制適用に至っていない、最新の事例を見てみよう。シェアリングエコノミーがその代表である。

2014年10月に始まった「回家吃飯」は、自家製料理の販売プラットフォームである。料理の達人が、自分が作れる食品をプラットフォームに上げ、決められた時間に調理・配達してくれるサービスだ。「キッチン共有」のコンセプトで、新たなシェアリングエコノミーモデルに位置付けられている。北京、上海、広州、深セン、杭州などの大都市でサービスを実施しており、利用客数は100万を突破。創業チームにはアリババ、京東、テンセント、百度といった大手ネット企業の出身者を擁する。

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いまだ放任状態にある「キッチン共有プラットフォーム」の「回家吃飯」

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しかし、この「回家吃飯」にもアキレス腱が存在する。中国では、食品関連業を営むためには食品安全法に基づいた「餐饮许可证」が必要であるが、このサービスではその管理がなされていない。実際に、既に2016年3月には、北京の監督当局がメディアを通じ、「回家吃飯」のように個人のキッチンで調理・販売する行為は違法であることを明らかにしてしまっている。

ただ、ここからが中国のベンチャー業界の面白いところである。同社は監督局の違法意見表明にもかかわらず、2016年7月には1600万ドル(約18億円)のBラウンド資金調達に成功している。業界関係者も「違法とはいえ、実際に調査・検挙がまだ行われてはいない。多くの人が商売しているがまだ何も問題は無い」とメディアに語っている。

市場が完全に形成されるまでは、政府としてはまだ「放任」フェーズのため、まずは行けるところまで突っ走るべき、逆に言うと規制対象になるくらい大手にならないと意味がない、という暗黙のルールが存在していることがここでも見て取れる。

同様に、日本を含む海外進出で話題のシェアリング自転車(コネクテッドバイク)についても、全く同じことが言えるだろう。レンタルした自転車を「どこでも乗り捨て放題」というのは、日本人からするとまさに放任状態そのものに見えるが、次第にmobike(テンセント系)とOfo(アリババ系)に集約されてきている中、いつかは何かしらかの規制が適用されるものと予想される。

□外資に特別に不利な市場?

最後に「規制」というトピックを扱っている以上、「外資規制」、特に「国内産業保護」の視点についても触れざるを得ないだろう。ただし、このトピックだけで数回の記事になってしまうため、ポイントのみ絞ってお伝えする。

筆者の基本的なスタンスとしては、「国内産業保護」の視点は確かに存在するし、実際に外資が活動できない/しにくい領域が存在するのも認めるが、一方で2点強調しておきたい。

1点目は、「国内産業保護」と思われている文脈でも、実際は、半分が「言論統制」の文脈、半分が「自由競争の結果」であるケースが多いということだ。Facebookは「アラブの春」、LINEは香港独立機運といった、中国政府の支配を脅かす象徴的イベントによって遮断されているし、Googleが遮断されたのも、百度を助けるためでなく、中国政府の検閲を受け入れなかったからである。「結果的に規制されているのだから変わらないじゃないか」という声ももっともであるし、中国の言論統制を支持する意図はないが、念のためお伝えしておく。

また、Amazon、eBayはそもそも規制下になかったが、純粋な競争の結果、アリババに後塵を拝している。滴滴出行(Didi)とUber Chinaも同様にして、滴滴に軍配が上がっている。さらに言うと、仮にFacebook、LINEが規制されていなかったとして、テンセントを凌駕する存在になれていたかというと、果たしてどうだろうか?

2点目は、一方で、中国独自の「言論統制」の影響下にある産業を除けば、自由競争下にあり、外資の独壇場である市場も意外なほど多いということである。特に一般消費財分野における欧米系ブランドのプレゼンスは極めて大きく、広告業界ではいまだにバジェットの70%が欧米ブランドからの発注とも言われている。日系企業も、自動車のように「国内産業保護」からジョイントベンチャーの設立を強いられている分野も一部あるものの、高付加価値な家電(デジタルカメラ・空気清浄機)や消費財(化粧品・おむつ・菓子類)、産業分野(先端医療機器・ケミカル・ロボット等)で善戦しており、白物家電・スマートフォン等で苦戦を強いられているのは、中国固有の問題というよりは、時代の趨勢であろう。

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中国ベンチャー市場を読み解く6つのキーワード:まとめ

これまで連載の前半として、急成長する中国ベンチャー市場を読み解く「6つのキーワード」をご紹介してきた。下の図は「6つのキーワード」を構成するキーワードを整理したものである。興味ある読者は、各回記事にて詳細をご覧いただきたい(バックナンバーはこちらから)。

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中国ベンチャー市場を読み解く6つのキーワード:まとめ

(出所: Legend Capitalとの討議をベースにDI作成)

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さて、次回からは、連載の後編として、主に「日本企業への示唆」を目的として、「中国と日本のベンチャー業界の関わりの歴史」から始まり、「中国で活躍する海外・日系ベンチャー」「中国から学ぶ日系大企業・ベンチャー」について、事例やインタビューも交えながらご紹介していきたいと思う。

最後に

◎ドリームインキュベータ・板谷より

先日、本連載内容をベースに、ベンチャーイベント(BDash Camp札幌2017)の中国セッションに登壇させていただきました。そこで実感したのが、イベント全体を通じ、思いのほか中国成長市場に関心が高まっていることです。特にライブコマース、仮想通貨、といった新たな潮流を扱うセッションでは、中国というキーワード抜きには語れないようになってきています。

次回からの連載後半では、そうした中国発イノベーションを取り込んでいる日本企業の事例や、果敢に中国成長市場に向き合うベンチャーの事例・インタビューをご紹介していきます。引き続き、ご笑覧下さい。

◎Legend Capital・朴より

中国ベンチャー市場における政府のスタンスについても、何回かにわたって触れてきました。ただ、やはり大事なことは、政府の意思・政策・支援は「触媒」にはなり得るが、「最大要因にはなりえない」ということ。エコシステムの好循環と成長は、実に様々な要因から成立しています。

本連載ではそれを6つに整理しましたが、実は枠組み自体は、他業界に通じる点があると思います。近年の韓国女子ゴルフ業界の復興劇もその1つです。ここまでの連載前半でも、日本の皆様にも示唆になる部分があれば幸いです。

この記事のまとめ: 中国ベンチャー市場を読み解く6つのキーワード
(6)政府の放任と規制の適切な調和
・3~5年の“放任” → 市場/主要プレイヤー形成後に”規制”

(筆者プロフィール)

板谷 俊輔
ドリームインキュベータ上海 董事兼総経理
東京大学工学部卒業、同大学院新領域創成科学研究科修了後、DIに参画。
北京大学外資企業EMBA。
エンタメ・デジタルメディア・消費財分野を中心に、大企業に対する全社改革(営業・マーケ改革、商品ポートフォリオ再構築、生産・購買コスト削減、組織改革、海外戦略見直し等)から、ベンチャー企業に対するIPO支援(事業計画策定、経営インフラ整備、常駐での営業部門立ち上げ、等)まで従事。現在は、DI上海に董事総経理として駐在し、現地政府・パートナーと連携しながら、日系大企業へのコンサルティングと中国・アジア企業への投資・事業育成を行う。

小川 貴史
ドリームインキュベータ上海 高級創業経理
東京大学工学部卒業後、ドリームインキュベータに参加。
主に、新規事業の戦略策定およびその実行支援に従事。 製造業(自動車/重工/素材)を中心に、IT、商社、エネルギー、医療、エンターテイメント等のクライアントに対し、構想策定(価値創造と提供における新 たな仕組みのデザイン)から、事業モデル/製品/サービスの具体化、組織/運営の仕組みづくり(実現性を担保したヒト・モノ・カネのプロデュース)、試験 /実証的な導入まで、一気通貫の支援を行っている。複数企業による分野横断的な連携や、官民の連携を伴うプロジェクトへの参画多数。

朴焌成 (Joon Sung Park)
Legend Capitalパートナー、エグゼクティブディレクター
韓国延世大学校卒業、慶應義塾大学MBA及び中国长江商学院MBA修了。延世大学在学中には、University of Pennsylvania, Wharton Schoolへの留学経験も持つ。
アクセンチュア東京オフィスを経て、Legend Capitalに参加。Legend CapitalではExecutive DirectorとしてEコマース、インターネットサービス、モバイルアプリケーション、コンシューマーサービス分野での投資を積極的に行う。韓国語、日本語、中国語、英語に堪能。
Legend Capitalは、レノボを含むLegendグループ傘下の中国大手投資ファンドで、ファンド総額は50億米ドルを超える。特にインターネット・モバイル・コンテンツ分野および消費財分野に強みを持ち、350社以上への投資実績がある。日系大手企業のLPも多数。

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