日本のアナログ保活は時代遅れ  自治体は手作業で入力、トリプルチェック

日本のアナログ保活は時代遅れ 自治体は手作業で入力、トリプルチェック

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  • 更新日:2017/11/14
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働く親たちを苦しめる保活。実は自治体職員も企業も保育者たちも、隠れた負担を強いられていた (※写真はイメージ)

保活中の親にとって、落ち着かない日が続く時期だ。自治体に認可保育園の入園申込書を提出し、審査結果を待つ。そこで内定しなければ、認可外の保育園を当たらなければならない。だが、その申込書を受け取る自治体職員にも、これから膨大な作業が待っていることを知っているだろうか。

手書きの書類から、エクセルなどのソフトに1人1人のデータを手入力して、二重、三重にチェックをする。当然ミスは起きてしまう。日本や海外の保育行政に詳しい日本総合研究所主任研究員の池本美香さんは「電子化されていない保育行政は親だけでなく、自治体も企業も多くのコストを負担している」と指摘する。保育行政のどこに無駄があるのか、解説する。

*  *  *

なぜ「保活」が大変なのでしょうか。まず親は、園探しの段階で情報収集の大変さに驚きます。

どこにどんな園があるのかを知りたくても、市町村からは認可施設の情報しか提供されないケースも多く、認可外施設の情報は都道府県から集めなくてはなりません。国は企業主導型保育事業で7万人の受け皿確保を目指しますが、これも認可外施設なので、地域住民が利用できる枠がどこにどの程度あるかという情報も、市町村から提供されない可能性もあります。

認可と認可外、認定こども園、幼稚園の預かり保育、小規模保育、企業主導型など、保育の種類が多く、何がどう違うのかもよくわかりません。園を選ぶ基準も、対象年齢や保育時間といった基本的な情報に限定されがちで、ホームページのない園もあるので、細かなことは電話で問い合わせたり、足を運んで聞くしかありません。この見学すら予約が取れない園もあり、実際に見学できたところで、園選びに関する知識がないため、何を基準に選んだらよいのか悩む人もいるほどです。

■隠れた自治体の負担

認可保育所は基本的に自治体に申込み、誰がどの園に入るのかを自治体が調整して決めますが、親たちがこうした苦労を乗り越えて申し込みを終えた後、各自治体では入園審査を担当する職員たちの苦労が始まります。誰を優先させるかについて、各自治体で細かな基準を定め、その基準に沿って振り分けますが、申込みの書類には複数の希望園が書かれており、それをミスなく入力するだけでも膨大な作業となります。併せて提出される勤務先が発行する勤務証明書と、保育所の利用時間が合ってるかもチェックしなければなりません。申し込みの多い自治体では相当の業務量が発生しているはずですが、そのコストはほとんど把握されていません。実際に、待機児童数で毎年上位に入る東京都内のある自治体の担当者は「入園審査時期はものすごく大変だが、業務量などは把握できない」と話していました。

近年、自治体の業務負担は増大する一方です。認定こども園、地域型保育事業など、新たな分類が増えていることに加え、多くの自治体で施設の数も利用者の数も増えているからです。

2015年度にスタートした「子ども・子育て支援新制度」では、保育が必要であることを自治体が認定し、親に支給認定証を交付する業務も新たに加わりました。しかし、自治体からは「支給認定証を親が使用する機会はほとんどないため、親・自治体それぞれの負担の軽減の観点から任意交付にしてほしい」という要望が、昨年、内閣府地方分権改革推進室の提案募集に寄せられています。

前述のとおり、親への情報提供が十分でないため、その分自治体職員は、住民の問い合わせや苦情への対応にも時間を取られています。新制度のスタート時には、「あまりに制度が複雑すぎて、自治体として住民に制度の説明が難しい」との声も聞きました。複雑な制度を理解するための時間や、制度を説明するための時間も、自治体の見えないコストとなっているのです。

さらに国は自治体に対して、保育施設の質を確保するために、年に一度は実地検査を行うことを求めています。しかし、実際にどうするかは自治体に任されているため、自治体ごとに監査の方法や結果の公表について検討しなければなりません。施設数が増えれば、その分監査業務が膨らみます。

自治体業務の効率化に向けた取り組みも一部にはありますが、十分に効果を発揮していません。国は新制度の施行状況を一元的に管理するために、3億7202万円かけて市町村、都道府県、国の間で情報を共有する「子ども・子育て支援全国総合システム」を構築し、2015年4月より運用しています。ですが、先月24日に公表された調査では、調査した173市区町のうち、すべてについて最新の情報を登録しているのは、支給認定管理システムで26%、施設等管理システムで13%にとどまっていました。

本来はここに登録された情報を国が分析し、新制度のさらなる充実に活用したり、施設を選ぶ親に最新の情報を公表したり、自治体が国への補助金申請等の事務を効率的に行えるようにするはずでした。しかし、データが表計算ソフトに対応していないPDF形式であったり、都道府県が紙での交付申請を求めるなどの実態があり、自治体の事務は効率化されていないそうです。

■ICT化の遅れで企業も園も手間

ICT化が進んでいないことによる負担は、親の勤め先や保育園にも及びます。保育が必要だということを示す親の勤務証明書について0歳児だけを考えてみても、今年4月の時点で保育園に在籍する0歳児が15万人なので、単純に夫婦2人分として30万枚近くの証明書発行業務が企業に生じたことになります。

保育園においても、子どものお昼寝中に連絡帳を手書きしたり、おたよりをつくったり、写真販売で親から渡された代金を確認したりと事務作業が結構あります。親との連絡や写真の販売などは、ICTの活用で効率化が可能になりつつありますが、欠席や遅刻は電話対応で、あまり進んでいません。

園と行政との間でも、効率化の余地があります。新制度では、市町村が給付対象施設を監査しますが、保育所を認可するのは都道府県であり、保育所から見ると両者がチェックに訪れることになり対応業務が増えました。また、広域で保育所を展開する事業者からは、自治体ごとに監査で求められる書類が異なり、紙での提出を求められることに不満の声も聞きます。

■財政難をきっかけに効率化

<ニュージーランドの例>

こうしてみると、わが国の保育制度や保育現場は無駄や非効率があまりに多いのです。新制度の検討でも、今の待機児童対策でも、「財源の有効活用」や「事務の効率化」という視点が非常に弱いといえます。これと対照的なのは、1980年代後半に大規模な保育制度改革を行ったニュージーランドです。

国が財政難であったことから、改革の目的として、保育の質の改善、女性の就業促進に加えて、行政コストの削減が強く意識されました。そのため、まずは幼稚園と保育所の所管省庁を教育省に一元化し、指針や法律も一本化され、補助金も施設の種類にかかわらず利用時間当たりの補助金レートを定めて給付する疑似バウチャーシステムが導入されました。国の教育評価機関(Education Review Office(ERO))が定期的にすべての施設を訪問して、評価結果を施設ごとにウェブ上で公表するようになり、その情報が親の保育所選びに役立っています。国のリードでICTの活用が進み、今では各園と教育省がオンラインでつながり、子どもには入園と同時に全国生徒番号(National Student Number(NS))も付与されています。国は保育の最新の実態を把握でき、その分析を通じて政策の評価や改善が行われているのです。

親と園とのコミュニケーションを改善するために、スマートフォンで撮影した写真やコメントを、パスワードの入力で閲覧できるシステムも普及しています。2011年にスタートした「Storypark」は、保育施設(親が運営する小規模センターを除く)の50%以上で利用されており、今では世界23か国で利用されています。親への情報提供も効果的で、教育省の親向けのウェブサイトでは、保育施設の種類、保育施設の選び方、保育施設に対して不満があるときの対処方法、親の保育施設とのかかわり方など、親として知りたい情報がコンパクトに整理されています。保育施設を探すサイトや、各保育施設の評価レポートが読めるサイトにもリンクが貼られています。

■保育効率化の兆し

日本でも、保育効率化の動きが少しずつ出てきています。園レベルで、ICTを園児の情報管理、親との情報共有、写真等の申し込みや集金などに活用する動きのほか、自治体の保育業務効率化の動きも出てきました。たとえば、町田市(東京都)では、入園の際の利用調整にあたって、パソコン上で入園の必要性の高さを表す指数の順に並べ替え、各園の募集定員の枠に振り分ける自動選考システムで行うようになりました。これによって、概ね1週間かけていた作業が効率化され、4日削減することができたそうです。親にとっても、ホームページの保育所一覧から、保育理念や園庭の有無、駐車スペースやベビーカー置き場の有無、アレルギーへの対応、購入する必要がある物など、知りたい情報をまとめた「施設情報」を開くことができるほか、「保育料シミュレーション」のサイトで、収入などを入力すると、保育料の概算が確認できます。今月からは、各園のページから福祉サービス第三者評価結果のページにもリンクされました。

また、駅近くで増える待機児童解消のため、バスでの送迎により、環境に恵まれた郊外の園を有効活用したり、定員に余裕のある保育施設で、学童の一時預かりができるようにするなど、既存施設の有効活用も図られています。町田市は保育業務を見える化し、他の自治体と業務プロセスやサービス水準を比較し、外部委託化やICT化も含め、効果的な業務プロセスを確立することを目指しています。

今年9月27日、安倍首相は保育所の整備や教育無償化に向けて、企業からの拠出金を3000億円増やすよう経済界に要請しました。保育所の待機児童数は今年4月時点で2万6千人。待機児童の存在は、女性の就業を抑制し、子どもの貧困や少子化にもつながるため、国が保育所整備に力を入れていることは評価できます。しかし、企業に拠出金を求めるより前に、今の保育制度で予算が有効に使われているのかどうかの点検が必要です。

国は、保育効率化の取り組みを普及させていくべきであり、さらにより根本的な問題として、保育を内閣府、厚生労働省、文部科学省の3省庁で所管したり、保育の必要性が認定されなければ入園できないしくみなど、非効率な制度設計自体の見直しにも取り組むべきです。多くの国では保育の省庁は一元化され、親の就労の有無に関係なく、すべての子どもに保育を受ける権利が付与されているのです。

(文/日本総研主任研究員・池本美香)

参考文献:池本美香「ニュージーランドの保育におけるICTの活用とわが国への示唆」日本総研『JRIレビュー』2017 Vol.6, No.45/池本美香「幼児教育・保育の現場から見た『こども保険』の問題点と改革の方向性」日本総研『リサーチ・フォーカス』No.2017-009

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