明治政府の疑心暗鬼が起こした西南戦争

明治政府の疑心暗鬼が起こした西南戦争

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  • 更新日:2017/12/05

なぜ明治政府に反乱を疑われたのか? 最期まで自決しなかった西郷隆盛の信念とは? 西南戦争と西郷にまつわる謎について、鹿児島大学名誉教授で来年のNHK大河ドラマ『西郷どん』の時代考証を担当する原口泉さんにお話を聞いた(雑誌『一個人』2017年12月号「幕末・維新を巡る旅」より)。

◆鹿児島に下野した西郷を多くの士族が慕って来た

西郷が鹿児島に帰ったのは明治6年(1873)11月。それ以後、西郷に同調した薩摩士族が続々と鹿児島に戻ってきた。彼らの扱いに苦慮した鹿児島では、県令の大山綱良(つなよし)の援助もあり、軍事訓練をするための銃隊学校と砲隊学校が設立された。この学校は私学校と呼ばれ銃隊は篠原国幹(こっかん)、砲隊は村田新八が監督を務めた。
「西郷自身は私学校よりも、吉野開墾社の運営に力を注いでいたようです。もともと薩摩武士は優れた屯田兵(とんでんへい)でした。中でも西郷は長く農政に携わってきただけに、開墾事業による人材育成には心血を注いでいました。そして39haあった開墾社の農地では、自らも鍬(くわ)を振るっていました」と原口さん。

そんな西郷を怒らせたのが、明治8年(1875)に起きた江華島(こうかとう)事件であった。これは日本の軍艦が朝鮮の江華島付近で砲撃されたため朝鮮の永宗島(えいそうとう)に上陸。砲台を占領し、守備兵を殺害した事件だ。西郷はこの事件は日本側が仕組んだものだと激しく非難した。
実際、自衛行動だったとする報告書が、後に間違いだったと判明する。西郷の遣韓論を否定しておきながら、汚いやり口で開国を迫った政府が許せなかったのである。

明治政府は廃刀令や家禄の支払い中止などで、武士から誇りと生活の糧を奪っていった。こうした改革に耐えきれなくなった不平士族たちが、各地で反乱を起こす。その皮切りが明治7年(1874)2月に起こった佐賀の乱である。指導者は征韓論問題で下野した江藤新平だ。反乱は1カ月ほどで鎮圧されたが、江藤は捕縛される前に鹿児島に渡り、鰻温泉で湯治中だった西郷に面会。薩摩士族の旗揚げを要請したが断られている。

この佐賀の乱以降、熊本の神風連(しんぷうれん)の乱、福岡の秋月の乱、山口の萩の乱という具合に、不平士族による反乱が勃発している。新政府の要人たちはその都度、人望が厚い上、政府の方針に異を唱えて下野した西郷の動きを気にした。

◆明治政府の疑心暗鬼から西南戦争へとなだれ込む

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「この頃、鹿児島県全体は独立国家の様相を呈していました。さらに国内最大級の火薬工場が国分(こくぶ)にあったことから、西郷には軍事力があると思われていたのです」。

こうした状況を木戸孝允にまで非難された大久保利通は、西郷との訣別を決意。川路利良(かわじとしよし)に対し、鹿児島に密偵を送り込むように指示をした。その際、私学校が「ボウズ(西郷)ヲ、シサツセヨ」という電報を入手する。これは「視察」と「刺殺」というふたつの解釈ができる電文だ。しかも捕らえられた密偵は、これは西郷暗殺計画だと告白する。これに激昂した私学校生徒らは、明治政府が差し押さえようとしていた大量の武器弾薬を奪ってしまう。

「大隅半島に滞在していた西郷は、知らせを聞き“わがこと止む”と口走ったそうです。自分が鹿児島にいれば防げた、そう悔やんだのでしょう。さらに自分が政府に留まり、歯止めをかけるべきだったという思いもあったのでしょう」。

だが事態は西郷の思いとは裏腹に進み、弾薬庫を襲撃する人数は日増しに増えていった。結局、西郷は挙兵やむなしと判断。そして幹部会議の席上「おいの体は差し上げもそ」と発言している。その言葉通り西南戦争で西郷は作戦を立てたり、追い詰められるまで陣頭で指揮を執らなかった。桐野利秋(としあき)らにすべてを任せ、武士としての自分を捨てたのである。さらに最期は形式だけの切腹をせず、腹心の別府晋介に首を斬らせた。
「西郷はかつて月照とともに入水自殺を図りました。そこで生還してからは、自らの命を天に預けた心境だったと思います。だから自決など考えられなかったのです」。

そのカリスマ性ゆえ田家に隠棲することも許されず、明治10年(1877)9月24日、西郷は波乱に満ちた生涯を終えた。

〈雑誌『一個人』2017年12月号「幕末・維新を巡る旅」より構成〉

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