「反物質」も生成、 雷雲は核反応の舞台だった!

「反物質」も生成、 雷雲は核反応の舞台だった!

  • JBpress
  • 更新日:2017/12/06
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雷が発生するとき、その中で何が起きているのだろうか。

先日2017年11月23日、京都大学の榎戸輝揚(えのと・てるあき)特定准教授らのグループが、雷にともなう放射線の発生を検出したと発表しました(https://www.nature.com/articles/nature24630)。

雷といえば誰でも知ってるお馴染の自然現象ですが、あのどんがらぴっしゃんによって、雷雲内で「ガンマ線」やら「放射性の原子核」やら「中性子」やら「陽電子」などが作られているというのです。

雷さまがそんなエキゾチックな「物」を生成しているとは意外です。一体何が起きているのでしょう。

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雷ってなんだっけ

雷は、大規模な摩擦電気です。

猫の毛皮を下敷きでこすったり、セーターを脱ぎ着すると、ぱちぱち放電が起きますが、あれと原理は同じです。手で下敷きやセーターを動かす代わりに、気流が雷雲を動かし、雷雲の中の氷の粒がこすれ合い、巨大な電気エネルギーを発生させます。その電圧は数千万Vになります。

空気は本来絶縁体ですが、大きな電圧が狭い領域にかかると、無理矢理電流が流れます。電荷を持つ電子という粒子が空気の中をかきわけて走り、空気分子に激しく衝突し、分子から電子を揺さぶり落とします。揺さぶり落ちた電子はこれもまた電圧の中で加速されて走り出し、電流に加わります。電流は熱を生み、光と音を発します。

これが放電、すなわち猫の毛皮のぱちぱちやセーターのちくちくや雷のどんがらぴっしゃんの発生機構です。

雷は天然の粒子加速器

雷が発生すると、電子が高電圧の中で加速されるので、これは一種の「粒子加速器」といえます。

粒子加速器というのは、小さな粒子を光速近くまで加速して、(その後大抵の場合は)衝突させる実験装置です。

そういう装置で人類は新しい元素を合成したり、日常存在しない核子や中間子を作ったり、レプトンやクォークやヒッグス粒子といった素粒子を見つけたり、原子核物理学や素粒子物理学の知識を広げてきました。

そうすると雷がどんがらぴっしゃんやってる時も、そうした人工の装置のように、奇妙な粒子が生成したり消滅したりしているのでしょうか。

普通に考えると「そんな莫迦な」ですが、「いや意外にやってるかも」という意見が、1990年代に雷雲由来のガンマ線が発見されたことで盛り上がって参りました。

ガンマ線とは、エネルギーが高くて放射線に分類される電磁波です。

人工衛星にガンマ線検出器を積んで地表を観測したところ、雷雲の位置からガンマ線がきらめくのが観測されたのです。

雷という粒子加速器の中で高速に加速された電子がガンマ線を放射することが分かったのです。

GROWTHプロジェクト

雷がガンマ線を放射すると、どんな反応が大気中で起きるでしょうか。

この問題を解くため、榎戸特定准教授、東京大学の和田有希氏と古田禄大氏、中澤知洋講師、湯浅孝行博士、日本原子力研究開発機構の土屋晴文研究副主幹、北海道大学佐藤光輝講師らの研究グループは、雷雲を放射線検出器で観測しました。「冬季雷雲ガンマ線観測(Gamma-Ray Observation of Winter Thunderclouds; GROWTH)プロジェクト」です。筆者の個人的に存じている顔がちらほら混じっています。

グループは放射線モニターを開発し、日本海沿岸に設置して、冬の遠雷がやってくるのを待ちました。一時期、科学研究費の枠に採択されず、クラウドファンディングから資金を得ることもありました。

今回発表の成果は、新潟県の柏崎刈羽原子力発電所に設置した検出器が2017年02月06日17時34分06秒に捉えた雷イベントです。

データには、雷にともなうガンマ線と、それに続いて、中性子の核反応および陽電子に由来する信号が記録されていました。

これにより、雷雲の中で起きている核反応が明らかとなったのです。

どんがらぴっしゃんの核反応

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雷で起きる原子核反応(光核反応)と、放出されるガンマ線。(出典:京都大学プレスリリース

雷が起きると電子がばりばり走ってガンマ線を放射します。ガンマ線は大気分子にぶち当たります。大気に含まれる「窒素14」の原子核はガンマ線と「光核反応」を起こし、「中性子」を1個放出して「窒素13」に変わります(上の図)。

(*配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図版をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51774

大気中に放出された中性子は数十ミリ秒で減速し、大気中の他の原子核に吸収されます。この際、新たにガンマ線が出ることもあります。

窒素13の方は、半減期10分で崩壊し、炭素13という原子核に変わります。この崩壊の際、「陽電子」が飛び出(ることがあり)ます。

陽電子とは何でしょうか。陽電子は、私たちの身近な物質に材料として大量に含まれている電子とそっくりですが、電子はマイナスの電荷を持つのに対し、陽電子の電荷はプラスです。

このように、質量など他の性質はそっくりなのに、電荷が違う粒子は「反粒子」と呼ばれます。陽電子は電子の反粒子です。「反物質」と呼ばれることもあります。

雷がどんがらぴっしゃんと落ちる時、実はガンマ線が放射され高速中性子が飛び出し、放射性元素が生成し、反物質までも生じていたのです。

今後は雷を見る目も変わります

そんな代物が雷雲の中に生じるといっても、いったいどれほどの量でしょうか。

1回の落雷イベントで、ガンマ線が窒素14の原子核に衝突することによって生じる窒素13と中性子は、それぞれ4×1012個ほどと見積られています。

窒素13の原子核が4×1012個と言われても、多いんだか少ないんだか判断に困りますが、これは質量に換算すると約1000万分の1g、放射能に換算すると67億Bq(ベクレル)です。(やはり判断に困るでしょうか。)

今後は稲妻を見たり雷鳴が轟くのを聞いたときには、そこで窒素13と中性子が4×1012個生じていると思ってください。

そして雷雲はその後10分にわたって、陽電子を放射し続けるのです。もしもガンマ線が目に見えたら、雷雲が陽電子の消滅線でぼうっと光るのが見えるでしょう。

それにしても、雷雲のような見慣れた身近な物が、このような核反応の舞台となっているとは、意外で驚きです。

榎戸准教授(当時は学生)から、雷による核反応の話を初めて聞いたときには、ホンマかいなと思ったものですが、こういう見事なデータを見せられると信じるしかありません。

疑ってどうもすみません。この場を借りてお詫びします。

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