大和証券に学ぶ、タレマネ最前線

  • ITmedia ビジネスオンライン
  • 更新日:2016/12/01
No image

全社員型タレントマネジメントの時代へ

読者の皆さんは、「タレントマネジメント」という言葉を聞いて何をイメージされるだろうか。

タレントマネジメントという言葉は、もともと1997年、マッキンゼーによる「War for Talent」の出版以降、主に実務家の世界で広く一般化してきた言葉だが、今日に至るまで学問的には確立した定義はなく、世界各地で幅広い捉え方がなされてきた。

実務家間における最近までの共通の理解としては、「欧米企業に端を発した、育成・活用・リテンション(離職防止)を通じて、『優秀な人材』に自社の発展・成長に継続的に貢献してもらうための企業からの働きかけ」ということになるだろう。より具体的には、「リーダーとしてポテンシャルのある人材を特定し、ストレッチアサインメントや育成投資の優先配分により、チャンスと成長の機会を提供して、高いエンゲージメントを実現しながら彼らの最大限の貢献を引き出す」というものだ。

しかし、ここ数年、日本企業において、そうしたタレントマネジメントのスタイルに変化が見られている。それは、一部の優秀者層を対象にした「リーダー型タレントマネジメント」から、社員全員を対象にした「全社員型タレントマネジメント」へのシフトである。

その背景には、まず人手不足の深刻化や就業価値観の多様化(転職の一般化など)といった働き手の変化が挙げられる。日本の生産年齢人口に当たる15〜64歳の人口は、4年前の2012年から約420万人減少し、10年後の2026年には現在からさらに約560万人が減少する見込みとなっている。また、個人の働き方も変化している。1社で勤め上げることが普通と考えられていた時代から、自分の働きがいやライフスタイルに合わせて転職することが当たり前の時代になってきた。こうした個人側の変化によって、今まで以上に人材の採用が難しくなる中、「今いる社員全員の戦力化と活用」が求められている。

さらに、ビジネス環境の変化も大きく影響している。現場で働く社員一人ひとりの創造性や提供するサービス価値が企業の競争優位を左右する重要な鍵になるという認識が経営や人事の間に広まってきた。過去の成功を支えた知識やスキルを基準にした評価のモノサシでは特定し得ない「イノベーション人材」の育成・確保が、より重要性を増してきている。

このように働く人と組織を取り巻く環境変化の中で、いかに今いる社員全員に高いモチベーションを持って、イノベーティブに戦略的課題に挑戦し続けてもらうかが喫緊の課題となっている。

今回我々が実施した日本企業24社を対象にした「タレントマネジメントサーベイ2016」(詳しくは機関誌HITO vol.10「全員を光らせろ!〜タレントマネジメントの潮流」)でも、過去業績だけに依拠するのではなく、将来の貢献可能性を測るコンピテンシーの導入や市場価値を測る外部アセスメントの導入、個人の自律的なキャリア形成を前提とした適所適材の人材配置、そして過去の業務ノウハウやプロセスを押し付けるのではない、「個」のエンゲージメントを引き出す仕組みが、日本企業のタレントマネジメントの特徴として浮かび上がってきた。

全社員型タレントマネジメントを特徴づける3つのトレンド

(1)将来の貢献可能性を重視したアセスメントへ

(2)個の見える化を前提としたキャリア自立の促進支援へ

(3)個を引き出すマネジメントへ

それでは、「全社員型タレントマネジメント」を志向する日本企業では、具体的にどのような取り組みが行われているのだろうか。本記事では、全2回にわたって、先進的な日本企業のタレントマネジメントをご紹介する。

前編となる今回は、3つのトレンドの中でもとりわけ「全社員型タレントマネジメント」の実現に不可欠な「個人のキャリア自立」に着目し、キャリア自立を促す先進的な事例として、大和証券グループ本社の取り組みをご紹介する。

大和証券グループ本社に学ぶタレントマネジメント最前線

大和証券グループ本社は、全社員の自発的なキャリア開発を促すタレントマネジメントの仕組みづくりに取り組んできた。その特徴は、個人のキャリア自立を促す多様な学習機会の提供と、それを評価報酬制度と連動させる一連の仕組みにある。

多様な学習機会と評価報酬制度の連動

同社では、2005年から資格取得や研修受講をポイント制にし、ポイント獲得数を昇格時の必要要件としている。

こうした取り組みの狙いについて、板屋篤人事部長は、「当初は多くの社員から驚きと反発の声が上がった。しかし、5年後、10年後のビジネスを見据えると、従来の証券会社で求められてきたマーケットの知識だけでは不十分で、必要な知識・スキルは広がっていく。若手に限らず、ベテラン社員を含めて新しい知識・スキルを自発的に身につけてほしいと考えた」と語る。

しかし、いくら会社側が研修の受講や資格取得を奨励しても、社員にキャリア意識や自ら学ぼうとする姿勢がなければ、絵に描いた餅に終わる。同社では、社員が自らのキャリアを主体的に考え、学ぶ姿勢を持つためにユニークな取り組みを行っている。

例えば、2015年からスタートした「ライセンス認定制度」。企業がベテラン層の活躍を積極的に支援していくこれからの時代、65歳まで皆が働くとすると、45歳はキャリアの折り返し点。しかし、現実は45歳を超えてくると急激に学習意欲が落ちてくることが社内調査で分かった。そのため、45歳以降に取得した資格・研修および勤務実績をポイント化し、一定基準をクリアすればライセンス認定し、55歳以降の処遇を優遇することで、もう一段の学習意欲を引き出す仕組みだ。60歳以降の再雇用後についても、認定者は優遇される仕組みとなっている。このポイントは、45歳までに取得した資格や受講した研修も加算される。この層に向けた約30種類のeラーニングも用意し、随時コンテンツの拡充もしている。第1回目となる2016年度は、152名のライセンス認定者が誕生した。

人事施策の積極的な情報開示

こうした人事施策が全社員に活用されるために、情報開示にも積極的だ。

例えば、2007年から作成している「キャリアデザインブック」。各部門の紹介や転向・登用制度、海外MBA留学制度の応募時期、昇格の時期やそれに必要な資格ポイント、ライセンス認定制度の内容など、人事制度や教育研修制度などの詳細が余すところなく掲載されている。

当初、全ての情報を社員に開示することに対して、人事部内でも賛否両論があったという。

しかし、板屋人事部長は「全員に常にチャンスがあり、一人ひとりが少しずつ何かを目指している状態を作りたい。そんな思いから、社員本人のキャリア選択を促すため、会社からは必要条件を提示し、支援策として研修や資格補助制度などを充実させてきた」と語る。

こうした取り組みが奏功し、今では社員のキャリア意識や学ぶ意欲は着実に高まってきている。

例えば、2005年当時、CFP資格(CFPは日本FP協会の登録商標。サーティファイドファイナンシャルプランナー)を持っている社員は約190名だったが、今では600名を超えているという。証券アナリスト資格保有者やTOEICの高得点者も増えているが、顕著な変化はビジネススキル研修受講者の増加だ。約5年前は1回の募集に対して500名程度の応募だったのに対して、今では1700名以上の応募があり、年間で延べ3000人を超えるまでになっているそうだ。さらに、当初は若い課長代理クラスの応募が多かったが、今では入社3年目から50代までの幅広い社員が応募しているという。

こうした現状に対して、板屋人事部長は、「現在の仕事や、どういうキャリアを歩んでいきたいかを自分で考えて選ぶことが自律的なキャリア形成につながると考えている。もちろん昇格のために必要だからという思いもあるだろうが、キャリアを意識して自ら学ぶカルチャーが定着してきていると感じている。ただし、まだまだやれることがあると思っているので、社員の成長意欲を促す取り組みに積極的にチャレンジしていきたい」と語る。

タレントマネジメントシステムによる個の見える化と適所適材

社員一人ひとりの学習履歴は、人材情報のデータベース上で管理されている。

「以前は人事担当者ごとの情報に依存し、他の人は把握できていない状況でした。しかし、当社には約9000人の社員がいて、全員を把握するには限界がある。システムの導入によってすべての情報が『見える化』され、個人データを見ながら一人ひとりの社員を把握し、どういう仕事に適性があるのかについて、組織として考えられるようになった」(板屋人事部長)

2008年に導入された同システムには、社員個々の過去から現在までの人事評価、自己申告書の内容や人事異動の履歴、また多面評価結果や保有している資格、受講した研修などの情報が蓄積されており、今では人事異動にも積極的に活用されている。

以上、大和証券グループ本社の先進的な事例を手掛かりに、「全社員型タレントマネジメント」の実現に不可欠な「個人のキャリア自立」を形成・促進するためのヒントを探ってきた。そのポイントをまとめると以下のとおりである。

大和証券グループ本社に学ぶ「個人のキャリア自立」を形成・促進する3つのポイント

(1)全社員に対して、多様な学習機会を提供する

(2)個人の学習成果を評価報酬制度と連動させることで、主体的かつ継続的にキャリア形成する仕組みをつくる

(3)そうした仕組みを全社員に対して積極的に情報開示することで、「全社員」のキャリア自立を促す

後編では、「個人のキャリア自立」を前提とし、全社員の活躍を促すための育成および適所適材の先進事例として、サントリーホールディングスの取り組みをご紹介する。

著者プロフィール:

株式会社パーソル総合研究所 副社長執行役員 兼 リサーチ部部長 機関誌HITO編集長

櫻井 功

日本の都市銀行(現メガバンク)において、17年間、国内支店、国際金融部門、大企業営業部門、人事部門、米国現地法人等を経験したのち、GE、シスコシステムズ、HSBCの人事リーダーポジションを歴任。直近では大手リテールチェーンの人事担当役員として、人事制度改革並びにそれを通じた風土改革プロジェクトをリードし、IPO実現に寄与。2016年5月より現職。

パーソル総合研究所とは

アジア・パシフィック地域最大級の総合人材サービス会社であるパーソルグループのシンクタンク・コンサルティングサービスを提供する総合研究機関。戦略的人事の実現に向けて、膨大な人事戦略にまつわるデータを見える化するタレントマネジメントシステムHITO-Talentを提供している。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

経済カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
ユニクロで名字変えバイトしていたジャーナリスト、潜入ルポ発表後にいつも通り出勤 解雇を言い渡される
ユニクロ潜入記者 横田氏解雇される
借金10兆円超え、孫正義とみずほ銀行の「見果てぬ夢」
安全性の違いに驚きの声! アメリカ産対メキシコ産の日本車が正面衝突
ユニクロに1年潜入取材してみた!
  • このエントリーをはてなブックマークに追加