日本がワールドカップで勝つためには何が足りないのか 都並敏史さんに聞く

日本がワールドカップで勝つためには何が足りないのか 都並敏史さんに聞く

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  • 更新日:2017/09/25
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サッカー・ワールドカップは異質な民族が集う世界最大の祝祭である。祝祭では日常の仮面が剥ぎ取られ、本性が明らかになる。各民族の強さや脆が露わになる。サッカー巡礼者の心構えで筆者が訪れた前回ブラジル大会では、日本はまさに脆さが見えた。ロシア大会では是非雪辱を果たしてもらいたいものだ。

そのためのヒントを教示してもらうのに、最も相応しい方は誰か? 思い浮かんだのは、「ブリオベッカ浦安」テクニカル・ディレクターの都並敏史さんだ。日本サッカーの過去・現在を踏まえ、未来像を描き、かつ元代表で日本一の代表ファンでもある。そして、ディエゴ・マラドーナさえ激怒させた狂気の左サイドバックの異名を持つ。

都並敏史さん

美しさは現実の前に敗れる運命なのか

風樹 日本のサッカーは、選手、関係者、ファンを含め、パスを美しく回すのがその流儀だと思っていた節があります。例をあげれば、中田英寿、小野伸二、中村俊輔などの華麗な中盤の選手がそろっていた2006年のドイツ大会、また本田圭佑、長友佑都選手などが「日本のサッカーを見せる!」と意気込んでいた前回2014年のブラジル大会です。いずれも惨敗してしまいました。なぜ、華麗なサッカーがもてはやされてきたのか、またそれが日本的サッカーなのでしょうか?

都並 それは歴史的な経緯があるからです。日本のサッカーはしばらくの間、ブラジルサッカーの影響を強く受けてきた。選手も監督も外人で一番多いのはブラジル人です。ぼくが所属した読売クラブとヴェルディでブラジル人と接してきた結果からいうと、ドゥンガは例外としても、基本的にブラジルは夢のある、個人の能力を全面に押し出すサッカーで、ジーコ監督がまさにそうで、ドイツでは惨敗した。相手を研究して潰すというサッカーではない。ブラジル的なサッカーは力のある個人、組織があって初めて実るものだと最近になって気付いたのではないかと思います。

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ブラジルW杯、コロンビア戦を前にコロンビアサポーターと交流する筆者。「寿司なんて食っちゃまうぞ!」 コロンビアサポーターの合言葉だった

風樹 今はその反省にあるといえるのでしょうか?

都並 もちろん、反省と研究を繰返しながら進んでいる。先日のオーストラリア戦がまさにそうで、全員がコレクティブにハードワークをして、守備をしていく。それでなくては技術レベル、戦術レベルの高い国には勝てないのではないか。ぼくの考えではワールドカップというのは南米、ヨーロッパが互いに切磋琢磨して、戦術や守備を勝つために補ってきた。たとえばブラジルに勝てないからアルゼンチンは守備をどうするかを考えたわけで、日本でも相手を潰してなんぼや、という考えが浸透してきた。

風樹 都並さんは、アルゼンチンのぺケルマン(現コロンビア代表監督)を尊敬していらっしゃるとのことで、2007年に彼が監督をしていたメキシコのトルーカFCまで行って師弟関係を結んでいますが、それはなぜですか?

都並 日本のサッカーに合うのでは? そう思ってアルゼンチンやアルゼンチンサッカーを学んでいるメキシコに勉強に行ったところ、サッカー人生の中で非常に得るところがあったんです。規律がなければ日本人のサッカーのレベルではまだ難しい。これは日本の教育も関係していると思って、日本は先生と生徒みたいな感覚があるじゃないですか。

ぼくは、ずっとブラジルサッカーと触れあってきて、もちろんいい点もあるけど、ヴェルディを離れてアビスパ福岡に所属したときに、パチャメさん(86年メキシコ大会、アルゼンチン優勝時のヘッドコーチ)というアルゼンチン監督の下でプレイしました。この方のサッカーがやけに守備にうるさくて、規律がある。細かく緻密で戦術などを言語化しているんです。でも南米だから攻撃は自由がある。

風樹 それはサルサなどの踊りについてもいえますね。サルサクラブに行くと、日本人は南米の人よりもうまく踊っているといってもいい。でも、やっぱり学習したもので、自由がいまひとつない。意外性に乏しい。「美は乱調にあり」なのに綺麗過ぎる。南米では踊りはもちろん勉強する人もいるけど、基本こどものときから踊るわけですから。

都並 それはそのとおりですね。踊りについていえばサッカーを研究すればするほど、両者の密接な関係が見えてきます。たとえばシュートを打つときのゴールキーパーを前にしてのステップとか。日本の選手は慣れていないから、うまくいかないところがあります。

風樹 とくにカポエラ(奴隷達が練習していた格闘技。舞踏の要素も)は、ブラジルサッカーそのものですね。ゆっくりとした緩慢な動作から急に詐欺のように物凄いスピード技をしかけてくる。

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カポエラはブラジルサッカーそのもの

都並 日本は盆踊りだからなかなかむずかしいけど、でもやはり日本のリズムにあったいいものを作り上げなくてはいけないと思います。

ずる賢さ(マリシア)は学べるか

風樹 随分昔の79年に、マラドーナが世界デビューしたワールドユース日本大会で、たまたまスペインチームの通訳をしていました。日本と対戦したときスペインは苦戦してどうにか1対0で勝ちました。スペインの選手も監督も「日本人は技術もあったし、強さもあったけど、経験とずる賢さが足りない」と言っていました。でも、ずる賢さは学べるものでしょうか?

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(Ziviani/iStock)

都並 教えるようなことはできないですよね。学ぶべきものでもない。日本のスポーツは文部省、学校主導で、フェアプレイの精神で健やかな心身を作って行くものです。マリシアは奨励するものではない。けれども、知っておく必要があります。ワールドカップでは、そういうことをやられるのだから、防御方法を準備しておくべきです。だから海外のチームと試合する意味がある。自分がやるかどうかは個人の価値観です。この日本では必要ない。

風樹 試合の中で、やられたことはありますか?

都並 さんざんやられましたね。審判がいないところで、殴られるなんて始終です。先ほど話したアルゼンチンの監督パチャメさんがぼくに最初に教えてくれたのは、コーナーキックのときのシャツのつかみ方でしたから。たとえば「コーナーキックを蹴る前、審判はディフェンスとオフェンスの駆け引きを見ているから、手はパーで待っていろ。キッカーが蹴る瞬間にグ―に変えろ」って、そこまで教えられましたからね。

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勝利に執着するアルゼンチンサポーター

風樹 アルゼンチンサッカーの精神を具現化しているのは、アトレティコ・マドリード監督のチョーロ(スペイン語ではギャング、泥棒の意味もある)と呼ばれるディエゴ・シメオネですね。98年フランス大会でベッカムを徴発し、わざと蹴らせて退場させ、02年日韓大会ではベッカムがPKを蹴る前に、にやにや笑って握手をもとめたのを思い出します。でも、どんなことをしても勝つという精神を注入されたアトレティコは物凄く強くなった。(参照「アルゼンチンサッカーは憎悪の祭典だった」

都並 日本やブラジルはサッカーをすることが楽しい。でも、アルゼンチン人はサッカーで勝つことが楽しい。勝つことから逆算するから、なんでもありになります。70年代のアルゼンチンは針で太腿を刺したっていいますから。でも、そこまでやったらスポーツにはならない。

風樹 汚い言葉での威嚇とかはどうですか? 2006年のドイツ大会の決勝では、イタリアのマルコ・マテラッツィに侮蔑言葉を浴びせられて、頭突きで仕返しをしたジダンは退場処分になっていますが。

都並 汚い言葉で駆け引きをする、レフリーにイエローを出させる、熱くさせて殴らせる、そんなのはしょっちゅうです。実は、ぼくもやったことがあります。82年にゼロックス・スーパー・サッカーで全日本がマラドーナを擁するボカジュニアズと3試合やったんです。1対1で引き分けた1試合目はマラドーナは本気出していなくて、2試合目は前半2対0で勝っていたので、後半は本気出してきて、3対2で負けました。

3試合目も是非本気になって欲しかったんで、スペイン語の侮蔑言葉、一番汚いのを覚えてマラドーナに浴びせかけたんです(日本では「お前のかーちゃん出べそ」を越える隠語だがここでは書けない)。そうしたら、今のペルーの代表監督リカルド・ガレカ他3人に囲まれて、ぼくは土下座して謝ったんです。でも、そこまでして本気になってもらいたかったんです。

(一同爆笑)

風樹 マラドーナですが、「彼と話しをしたことがある」というのが南米にいるときにぼくが一番誇りにできることです。

都並 ぼくもマラドーナと戦ったときの写真をもって南米にいく。アルゼンチンなどでは、印籠ですよ。写真見せたら、泣き出すおじさんもいます。ぼくの宝ですよ。宝!

なぜ外国人監督を選ぶのか?

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2018年ロシアW杯(ArtemKovalenco/iStock)

風樹 Jリーグができてからの代表監督は、日本人は加茂 周さんと岡田武史さんだけです。なぜ日本人ではなく外国人監督なのでしょうか?

都並 ぼくの感覚からすると、指導内容、采配面とかまだまだ外国監督のほうがずっと上です。間違いなくです。ただ、日本人の特性、日本人のことは日本人が一番わかるわけですから、もうそろそろ日本人の監督に変わる時期が近付いているのではないかとは思います。

風樹 日本を撃破したコロンビアは、ぺケルマンの元で華麗なサッカーから別のサッカーになって強くなった。でも、同じスペイン語で選手は直接会話できます。通訳は忖度したり、喧嘩になるようなことは訳さなかったりすることがある。都並さんも代表のときはオフト監督の元でプレイしていたわけで、通訳がはいるとコミュニケーションに難があるのでは。その点どうでしょうか?

都並 通訳の能力によるのではないでしょうか。空気を読んで、必要なことを言って、不必要なことは割愛するとか。でも、日本人のほうがまどろっこしくてわかりにくいことが多々あります。自分のサッカーを簡潔に分かりやすく伝える言葉、方法論、練習法などは世界レベルの監督さんのほうがまだまだ上です。歴史のある国はサッカーが言語化されています。

風樹 たとえばどういうところでしょうか?

都並 攻撃でいえば、ツートップの動きについても、日本語では「1人が裏にいって1人が足元でボールを受ける、それを繰り返しなさい」と言うんですが、どの場面でそれをやるのかわかりにくい。でも、鹿島のオリヴェイラ元監督は「8の字を書くように2人で動け」と言うわけです。すると分かりやすい。これが言語化なんです。防御にしても日本で「チャレンジ・アンド・カバーをして」と言われてもよくわからない。アルゼンチンに行ったときにびっくりしたけど、ディフェンスのブロックは、メディアルナ(=半月)の形、クロワッサンの形を作りなさいって言うんです。「おー、そういうことか、なるほど」って分かるわけです。アルゼンチンでは子供でも知っています。これが歴史の深さです。

風樹 サッカーはプロになってから25年ほどですから、先輩の野球、あるいは伝統ある相撲、柔道、空手(日本文化の神髄は一対一の対決だ!)などとは違うのかもしれませんね。

都並 今治FCのオーナーになった岡田武史さんが「岡田メッソド」というのを作っているところです。日本にはまだサッカーのメソッドがない。プレイモデルがない。だから指導がばらばらになってくる。そこが外人と日本人の違い。

友森(「WEDGE Infinity」編集長) JFAや代表に日本の目指すサッカー像ってあるんですか?

都並 いや、まだないようです。いろんな勉強をしている段階で、あるときはスペインサッカー、あるときはメキシコサッカー、あるときはフランス。技術委員が変われば全部変わってしまう。それだと、強くなれない。

守備文化はないのか

風樹 野球でいえば、野村監督は1対0で勝つ試合が理想だとおっしゃっていましたが、サッカーでも守備こそが大事と思うけど、マスメディアで持て囃されるのはやっぱり点を入れた場面です。たとえば、ブラジル大会では練習試合で3対1で日本に敗れたコスタリカは、ウルグアイ、イングランド、イタリアのいる死のグループを1位抜けして、ギリシアに勝ってベスト8まで進出しています(筆者がスタジアムで見たオランダ戦で0対0延長後、PK戦で敗北)。名キーパーのケイロル・ナバス(現リアル・マドリッド)がいたからだと思いますが、日本でもこうやって点を防いだとか、そういう防御が脚光を浴びるにはどうすればいいのでしょうか?

都並 粘り強く守って楽しいというのもあるんですが、そういう守りの文化は簡単には日本では見つからない。

風樹 「おしん」みたいな、耐えて耐えて勝つようなのも日本にはありますが。

都並 心理的にはありますね。ぼくもそれほど歴史を知るわけではありませんけど、戦争などで何度も攻められた国は、まず守備からはいっていくというメンタリティがあるのではないでしょうか。

風樹 国民の半数が戦争で玉砕したパラグアイ(参照「憲法改正を押しとどめたパラグアイ国民の意外な方法」)がまさにそうで、フランス大会では決勝トーナメント1回戦で徹底的な守備戦術で、延長までもつれてフランスを苦しめました。でも、イタリアが引いて守れば伝統のカテナチオといわれるけど、日本やイランなどが守備的にやると弱者のサッカーなんていわれる、おかしいですよ。

都並 弱者ということはないと思います。勝つための戦法ですから。でも、今の日本がかつてのパラグアイのように引いて引いて守っても、やられるだけになってしまう可能性があります。

開催地に合わせたサッカーはできないのか

風樹 ワールドカップでいえば、開催地によって随分気候なども違う。ブラジルだったら暑くて、広くて各スタジアムは離れている。ロシアはさほど暑くないし、今回はヨーロッパ側にスタジアムが集中してブラジルのときほどは離れていない。次の次のカタールは冬季開催となった模様ですが、ともかく暑い(筆者はワールドカップのための電力供給プラントに一時従事)。暑いと不可能なサッカースタイルもありますね。開催地に合わせたサッカーとかってできないものでしょうか?

都並 それぞれ柔軟に対応できるのが理想だけど、現実それが足りないのが日本のサッカーです。監督がうんぬんというよりも気候や環境にあわせて、個人も組織も柔軟に対応できればいいのですが。それができるようになるには、子供のうちからの育成にすべてかかっています。たとえば人工芝のグランドだけでやっていたら、小学校の芝のグランドではうまくできないとか。アルゼンチンではあえてぬかるみでやる、イタリアでは泥だらけのところを走らせる、スペインでは土のグランドで練習する。わざとそういうこともやらせています。逆にぼくは古い選手だから環境が悪くてもできるということがあった。今はちょっと過保護で、それを取り戻すところなのかな。これも歴史です。

マネージメントは大丈夫か

風樹 ワールドカップでは、監督や選手が注目されますが、勝負の半分は、スカウティング、キャンプ地選び、医療体制、食事などのマネージメントやロジスティックスにかかっているのではないかと思っています。日本はどういう水準ですか? 前回はキャンプ地が適切ではなかったと批判されていますが。

都並 昨今はサッカー先進国を学んでそのような面もかなり配慮しています。でも歴史のある国はもっと奥が深いですね。たとえばですが、クラブハウスにしても、アルゼンチンはイタリアのノウハウを持ってきて、トレーナールームからバスルームまで裸で歩いて行けるとか、動線もファンと混乱なくほどよく接することができるようになっているとか、やっぱりレベルが違うんです。

友森 岡田さんが新聞でおっしゃっていたけど、今治でスタジアムを中心とした街づくりをしたいと。

都並 ヨーロッパだったらお金をかけることができるし、中南米だったら、お金がなくてもうまくやるわけですよ。メキシコだったら、スタジアムの売店も観客に配慮して作ったり、ハ―フタイムに子供たちのために小運動会をやったり、そのための設備をあっという間に作ってあっという間に撤収するとか、日本では考えられないノウハウがある。ちょっとしたことで大拍手とか、お金のないクラブはとっても参考になる。その点でぼくは中南米が好きなんです。

友森 お話をうかがってわかったのは、日本サッカーに必要なのは成熟ということのようですね。

風樹 まだまだお聞きしたいことがありますが、時間がきてしまいました。都並さんの今後の抱負はどのようなものですか?

都並 今後もサッカー人としてこだわりをもって生きていきたいですね。サッカーの解説をするのも大好きなので、それが日本のサッカーの発展に貢献すればこんなうれしいことはありません。あとはもう一度監督をやってみたい。今下部組織の選手を見ているので、ブリオベッカがJリーグに上がったときに、もう一度、チャンスがあればいいなと思っています。

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