“軍事行動”か“降伏”か 北朝鮮にどう対抗すべきか

“軍事行動”か“降伏”か 北朝鮮にどう対抗すべきか

  • 文春オンライン
  • 更新日:2017/09/17

15日早朝、Jアラートが再び鳴り響く。国連による制裁決議が採択された直後にもかかわらず、北朝鮮はミサイルを発射した。大胆かつ不可解な北の行動をどのように読み解くべきか。軍事戦略研究、安全保障論の専門家であり、ホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーを歴任したエドワード・ルトワック氏による最新の情勢分析。

◆◆◆

北朝鮮への脅し

トランプ大統領が習近平国家主席と4月に首脳会談を行ったことは皆さんの記憶にも新しいはずだ。私も当時の様子を間近で見ていたが、ワシントン(と東京)の政界では、「北朝鮮はすぐに核実験をするはずだ」と考えられていた。

この会談の席で、トランプは習近平に対して「もし北朝鮮が核実験をして、それでも中国が普段通りにビジネスを行うのであれば、アメリカは中国からの輸入に規制をかける」と述べていた。

このトランプの要求を受け入れた習近平は、すぐに北朝鮮に連絡をとって核実験の停止を求めており、それに従わなかった場合には中国からの北朝鮮への輸出を制限すると脅している。

このメッセージは聞き入れられて、北朝鮮は核実験を止め、平壌の中で噂が広がって人々はガソリンスタンドに群がった。

しかも中国政府は、北朝鮮からの輸入も止めている(ただし海産物の輸入は続いていた。中国国内の北朝鮮政府経営のレストランは相変わらず営業していたからだ)。

ただしこれがミサイル発射実験への対抗措置であったのかは不明だ。

私は6月に中朝国境の町である丹東を訪れたが、たしかに貿易は目に見えて減っていた。現地の人間とも話を交わしたが、彼らも「商売あがったりだ」と苦々しそうに話していた。

ところが北朝鮮の核実験が停止、つまり北からの声明はなかったが、目に見える行動がなくなった次に起こったのは、米・中・日が逆に弾道ミサイルの実験の方に関心を寄せはじめた、ということだ。

しかもここでは、ミサイル発射実験と核実験の重要度のバランスは、何も変わっていない。

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弾道ミサイル「火星12」の発射訓練を視察する金正恩朝鮮労働党委員長。北朝鮮の労働新聞が8月30日に掲載(コリアメディア提供・共同)©共同通信社

米国の外交的「大勝利」

7月28日の北朝鮮のミサイル発射実験に対して、国連安全保障理事会は全会一致で決議案2371号を可決したが、これははじめて核実験を行った2006年から6度目の制裁決議であり、その中でも最も厳しいものであった。

それは北朝鮮から石炭、鉄鉱石、銅、そして海産物という、彼らが物的に輸出できる商品のすべて(衣類を除く)を禁止するものであり、労働者のさらなる受け入れも禁止(といっても現在の雇用は今後も継続)するものであった。

しかもこの時の安全保障理事会のメンバーは、5カ国の常任理事国だけでなく、「過激」なボリビア、北と伝統的に友好国であるエジプト、そして長期的に外交関係を持っているスウェーデンなどが含まれていたのだ。

そういう意味で、この国連の安保理決議はアメリカにとって外交的な大勝利であり(といってもトランプ自身に手柄があるとは認められていないが)、アメリカが長年中国から得ようとしていた「大きな譲歩」であった。

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11日、ニューヨークで開かれた国連安全保障理事会で、北朝鮮制裁決議案を採択。©getty

究極の選択:軍事攻撃か降伏か

あいにくだが、それほど重要ではないミサイル発射実験に対応したおかげで、中国は北朝鮮の核実験を止めるための外交的なレバレッジを使い切ってしまっていた。そしてまずいことに、北はすでに核実験を再開している。

外交カードがなくなれば、残りの手段は軍事行動しかなくなる。

ところがそれよりも最悪のシナリオは、北朝鮮を核保有国として認め、金正恩が思いついた時に、いつでも韓国と日本を脅せるようになることを受け入れることだ。

さらに、北朝鮮はイランに対して行ったように、核兵器や弾道ミサイルの部品などをいつでも海外の国々に売却できるようになる。

これは私がいう「降伏」の一つの形態だ。われわれは核武装して周辺国を脅すことのできる北朝鮮を受け入れて、その脅威の下で生き延びるしかないのだ。

何もしない韓国、尽きる外交カード

ところが、アメリカの統合参謀本部も、在韓米軍も、太平洋軍司令部も、軍事的なオプションを何も提示しておらず、目の前の問題とは関係のない「韓国を守る」ことしか宣言していない。

もちろんこの理由は、ソウル周辺が北朝鮮の(非核)ロケットや砲撃に弱いからだ。この事実は韓国を麻痺させているわけだが、同時に米軍の指揮系統にもそれ以上の非合理的な問題をおこしている。

これに関して、以下のような三つの事実を列挙しておきたい。

――韓国政府は、1975年から78年の危機の後も、政府機能や企業のソウル以外への分散化について何も行動を起こしていない。

――韓国政府は、攻撃にさらされる危険が高い地域があるにもかかわらず、そこに対する防御策を講じていない。

――韓国政府は、技術的にも可能であった対空兵器等の購入を拒否している。

ここで指摘しておくべきなのは、北朝鮮の核施設を、イラクとシリアの施設に対して行われたように攻撃するというのであれば、そのチャンスははるか以前に過ぎさってしまっているという点だ。

ただし北朝鮮は、今日においても空からの攻撃に対抗できるような、統合された防空網を持っていない。レーダーは40年以上前のものであり、それをつぶすのは簡単だ。

また、北朝鮮は即時発射式の核弾頭搭載型ミサイルを持っているわけではない。しかも核弾頭を飛行機で運搬できるわけでもないのだ。

当然ながら、既知の、もしくはその疑いのある核施設に対する空からの攻撃は、拡大的な被害や核物質による汚染を引き起こすはずだ。

それに対抗して、やはり北朝鮮は韓国の脆弱な地域に対して多くのロケットを発射するだろう。

ところが「軍事行動を起こさない」ということは「何も行動しない」ということを意味する。外交的な手段は尽きてしまったからだ。

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長距離か、中距離か。恫喝は日本にも向けられている。©iStock.com

トランプ政権内のミスマッチと韓国の代償

そのような中で、トランプ大統領の北朝鮮に対する政策には大きな問題がある。なぜなら、その軍事アドバイザーたちは、ほとんどがアラブやアフガニスタンのように、ろくに反撃できない相手と戦っていた経験を持つ人々だからだ。

ところが北朝鮮は対抗手段をもっている。そうなると戦略のパラドックス、つまり攻撃をしかける側とそれに対抗する側との作用と反作用が起こるため、戦略の計算が非常に困難になってしまうのだ。

トランプ政権の軍事アドバイザーたちは、果たしてこのようなダイナミックな関係性を考慮した上で、軍事的なオプションを本気で考えられるのだろうか?

もちろん彼らの考える軍事オプションはいくつも存在するのだが、それらには一つの条件がある。

それは、韓国が何十年間にもわたる自分たちの無責任な態度に大きな代償を支払うことを、本当に受け入れられるかどうかである。

ところが現在の彼らのオプションは、ただ単に「金正恩に得をさせる」というものなのだ。北朝鮮をめぐる情勢は、今後もしばらくは予断を許さないままだろう。

訳 奥山真司

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エドワード・ルトワック博士

エドワード・ルトワック(Edward N. Luttwak)
ワシントンにある大手シンクタンク、米戦略国際問題研究所(CSIS)の上級顧問。戦略家、歴史家、経済学者、国防アドバイザー。1942年、ルーマニアのトランシルヴァニア地方のアラド生まれ。イタリアやイギリス(英軍)で教育を受け、ロンドン大学(LSE)で経済学で学位を取った後、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で1975年に博士号を取得。同年国防省長官府に任用される。専門は軍事史、軍事戦略研究、安全保障論。国防省の官僚や軍のアドバイザー、ホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーも歴任。著書に『中国4・0』『自滅する中国──なぜ世界帝国になれないのか』『クーデター入門──その攻防の技術』ほか多数。

訳者 奥山真司(おくやままさし)
1972年生まれ。カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学卒業。英国レディング大学大学院博士課程修了。戦略学博士(Ph.D)。国際地政学研究所上席研究員。著書に『地政学──アメリカの世界戦略地図』、訳書にルトワック著『中国4・0』『自滅する中国──なぜ世界帝国になれないのか』(監訳)など。

(エドワード・ルトワック)

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