【映画評】アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男

【映画評】アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男

  • アゴラ
  • 更新日:2017/01/12
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1950年代後半の西ドイツ・フランクフルト。検事長フリッツ・バウアーは、ナチス戦犯の告発に執念を燃やし奔走していた。しかし、政治の中枢に元ナチス党員が深く入り込み、捜査はなかなか進展しない。そんな時、数百万人のユダヤ人を強制収容所に送ったナチス戦犯で、逃亡中のアドルフ・アイヒマンが偽名でアルゼンチンに潜伏しているとの情報をつかむ。バウアーは危険を顧みず、イスラエルの諜報特務庁・モサドに極秘情報を提供し、アイヒマンを逮捕してドイツ国内で裁こうとするが…。

ナチスの最重要戦犯アドルフ・アイヒマン捕獲作戦の影の功労者でユダヤ人のフリッツ・バウアーの孤独な戦いを描く社会派サスペンス「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男」。アドルフ・アイヒマンに関しては、劇映画や記録映画で何度も描かれてきたが、彼の逮捕に貢献したフリッツ・バウアーの執念を描く本作は、戦後のドイツの暗部と深い遺恨を浮き彫りにする点が特筆だ。戦後は、ナチスは裁かれて、新しいドイツが誕生したイメージを持っていただけに、政治や経済、司法の場に返り咲いた元ナチ党員がたくさんいて、ドイツ国内外に巣食うナチス残党がバウアーをことごとく監視・妨害していたという事実を、本作で初めて知った。バウアーの戦いは、想像をはるかに超えて、孤独で困難なものだったのだ。アイヒマンが結局イスラエルで裁判にかけられたのは多くの人が知っているが、バウアーは、これは復讐ではなく、新しいドイツを作る若者たちが真実を知る権利があるという信念で行動している。だからこそ、ドイツ国内で裁判にかけることに最後まで執着していたのだ。物語は、暗い歴史ドラマだが、国家反逆罪に問われかねない方法で、アイヒマンを追い詰める語り口が非常にスリリングで、飽きさせない。ただ一人信用できる部下カールは、実は同性愛者のバウアーと同じ性癖の持ち主。あまりのストレスからか、美しいクラブ歌手の誘惑に勝てず罠にはまるが、そんな彼が、正義と信念に目覚める瞬間は、感動的である。ドイツ映画は、常にナチスの新事実を描く作品を作り続けるが、過去の歴史を風化させまいとしているのだろう。それがどれほどむごい歴史の恥部だとしても目をそらさない姿勢が、あの国にはある。ちなみに、アイヒマンを描いた多くの作品の中で「アイヒマン・ショー」と「ハンナ・アーレント」を、本作と併せて観れば、より深く歴史を理解できるのでおすすめだ。
【70点】
(原題「THE PEOPLE VS FRITZ BAUER」)
(ドイツ/ラース・クラウメ監督/ブルクハルト・クラウスナー、ロナルト・ツェアフェルト、リリト・シュタンゲンベルク、他)
(歴史秘話度:★★★★☆)

この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年1月11日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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