アメリカの法学者が、日本の「表現の自由」侵害を本気で心配している

アメリカの法学者が、日本の「表現の自由」侵害を本気で心配している

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/07/12
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法に縛られたメディア

「テレビは政治的に公平でなくてはならない」

そう法律で決められているのをご存知だろうか。他にも「公安および善良な風俗を害しないこと」「報道は事実をまげないですること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」などが定められている。

この法律とは、放送法4条のことだ。今、この4条をめぐり、政府とテレビ界が水面下で大きく揺れている。米国の法学者で、「表現の自由」の専門家である国連のデイヴィッド・ケイ特別報告者から4条の廃止を勧告されているためだ。

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4条は一見、素晴らしい法律であるように思える。なぜ、国連側は問題視するのか?

それは、報道機関であるはずのテレビを法律が縛り、政府が監視するということが特異なシステムであるからだ。この4条が、政府が放送局に停波(電波の送信を停止すること)を命じられる根拠になっている。

ケイ氏は「4条は報道規制につながる法律」と厳しく指摘している。なるほど、現行法だと、与党側の総務相が、気にくわないテレビ局に「政治的に公平ではない」などと4条違反のレッテルを貼り、停波を命じることも可能である。こんな法律、ほかの先進国には存在しない。

独裁国家か後進国か

ケイ氏の勧告は2017年に11項目にわたって出され、4条廃止はそのうち一つだった。ところが、政府が4条廃止などを実行しなかったため、このほどケイ氏は新たな報告書をまとめた。

だが、政府はこれに反発。菅義偉官房長官(70)は今年6月5日の記者会見で、「極めて遺憾」と強い不快感を示した。それは怒るだろう。もし、本当に政府が法律で報道規制を行っていたら、まるで独裁国家か後進国だ。

とはいえ、ケイ氏は怯まなかった。同26日、パリで行われた国連人権理事会でも「4条廃止が不履行のまま」と主張し、日本の報道の自由には懸念が残ると警鐘を鳴らしたのである――。

ケイ氏の勧告どおりに4条が廃止されれば、テレビ界は自由な政治関連報道が出来るようになり、自民党や総務相の影にも怯えずに済むようになる。4条廃止は望むところであるに違いない。

「現状維持のほうがいい」

ところが、NHKの上田良一会長(70)は2018年4月の定例会見で「4条はニュースや番組を制作するうえで遵守すべきものだと信じている」と発言。民放はというと、これまた各局とも放送改正に反対している。

一体、どういうことなのか? ベテランのテレビマンらに話を聞いたところ、「4条廃止と同時に何が起こるか分からないから、現状維持のほうがいい」という。また、4条が廃止されれば、テレビ界に規制緩和の波が押し寄せる公算が大きい。廃止と軌を一にして国から受けてきた庇護をいっぺんに失う恐れがある。実のところ、チャンネルさえ得られれば潰れないテレビ界は「最後の護送船団方式」とも呼ばれているのだ。

起こり得る規制緩和の一つは、電波の利用料を競争入札化する電波オークション制度の導入。こちらも先進国では半ば常識化しているのだから。政府は既に検討を済ませている。テレビ局の電波利用料として現在は計数十億円が総務省に支払われているが、オークションが導入されると、それが少なくとも数倍になることが見込まれている。そもそも、テレビ各局は携帯電話会社の2分の1以下程度の電波利用料しか支払っていない。このため、携帯電話会社側から「不公平」との声が上がっているのだ。

メディアの質は下がるのか

視聴者側には「4条がなくなり、フェイクニュースや俗悪番組が増えたら、どうするのか」という不安もあるに違いない。だが、それには政府や政党とは一線を画した独立放送規制機関を設けて、対応すればいい。法律で縛り、政府が監視するのとは別次元の話だ。事実、よその先進国はそうしている。

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独立放送規制機関としてアメリカにはFCCがあり、イギリスはOfcomを持ち、フランスはCSAを擁する。これらの組織は強い権限を持ち、一方で政府や政党は介入できない仕組みになっている。

これらの独立放送規制機関は、テレビ局が視聴者を裏切る嘘をついたり、下品な放送を行ったりすると、厳格に対処する。免許取り消しや停波の権限も持つ。罰金を科すこともある。法律や政府がテレビ局を縛らなくなろうが、テレビ局がいい加減な放送をできるようになるわけではない。

日本にも独立放送規制機関ができたら、BPOも役割を終える。テレビ界が自分たちで資金を出し合い、スタッフを選び、苦情に対応する組織を設けているのも特異なのである。世界的に類を見ない組織なのだ。だから、どんなに厳しい判断を下そうが、自民党や視聴者から「甘い」と言われてしまいがちだ。

「公平」な番組なんてない

一方、各国の政治的公平への取り組みには少し温度差があり、フランスのCSAこそ政党ごとの扱い時間などを調べているが、アメリカなど大半の国は自由だ。政治的公平など問われない。そもそもテレビ界の政治的公平は絵に描いた餅だろう。言葉の意味を考えただけで、政治的公平が至難であることが分かる。

【公平】自分の好みや情実で特別扱いする事が無く、すべて同じように扱うこと(「新明解国語辞典」三省堂)

そんな番組、あるのだろうか? 自民党、あるいは野党の悪口ばかり言うコメンテーターもいる。出来もしないことが法律で定められていて、国連側から撤廃を求められているというのが現状だろう。

そもそも、新聞や雑誌には政治的公平を定めた法律などない。後発のネットも同じ。テレビ界は法律がないと、大きく逸脱してしまうのか? それでは情けないだろう。

ケイ氏の主張の核心もここにあるはずだ。メディアは自分たちで「正しい報道」を判断すべきであり、法律で縛られたり、政府から監視されたりするものではない。

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