日本の手術トレーニングで世界の肺がん患者を救え

日本の手術トレーニングで世界の肺がん患者を救え

  • JBpress
  • 更新日:2017/12/07
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模擬臓器を用いた肺がんの手術トレーニングの様子。人材育成はどのように行われるべきだろうか。

日本人の死因のトップを占める「がん」。その中でも肺がんは、部位別に見たときの死亡率は男性で1位、女性で2位と上位に位置している(2015年)。高齢化が進む日本では、これらの疾病への対応が追われているが、高齢化社会を迎えるのは日本に限った話ではない。

人口の増加がめざましい東南アジアでも、肺がんへの関心は高まってきている。現時点での肺がんの罹患率はまだ日本には及ばないが、患者数の増加率はタイなどでは日本の倍以上であり、今後たくさんの患者を抱えることが予想される。だが、人口あたりの医師数も少なく、また設備の遅れなどから、肺がんに対する外科手術も進んでいないのが現状である。

そのような背景の中、ジョンソン・エンド・ジョンソンは海外から医師を招き、模擬臓器を使用した教育プログラムを開催している。豊富な手術経験をもつ日本の医師が講師となり、海外の医師にその技術を伝え、母国での医療の発展に貢献してもらうというものだ。

今回は、タイから4人、フィリピンから3人、ミャンマーから2人の医師が、このプログラムに参加した。1日日は日本の医師が実際の患者に手術をするのを見学し、2日目に模擬臓器を用いたトレーニングを行った。

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肺がんの「安全な手術」

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国立がん研究センター東病院の坪井正博先生

そもそも、肺がんの手術はどのように行われ、そこにどのような難しさがあるのか。

今回の研修で講師を務めた国立がん研究センター東病院の坪井正博先生によると、手術の基本動作は、剥がす(剥離)、切る(切開)、分ける(展開)、結ぶ(結索)の4つ。これらを組み合わせて、皮膚の下の脂肪をめくり、その下にある血管を処理しながら、がんの組織を取り除いていくという。

こう聞くと単純な流れのように思えるが、実際はどうなのだろうか。ジョンソン・エンド・ジョンソン インスティテュート(東京サイエンスセンター)の高瀬守氏は、その難しさを説明する。

「一番必要とされるのが、いわゆるトラブルシューティング。肺の血管というと、肺動脈や肺静脈など非常に血流が豊富で、ひとたび傷つけると非常にリカバリーするのが難しくなります。血管の周りをどういう具合に、きれいに剥いて血管だけを露出させていくか、血管をクリップや自動縫合機で止めるかなどがカギになります。そのような血管の処理と、肺の気管支の処理をいかにうまくやって、実際にがんのある部所を取り除いて、無事に手術を終わるかということですね」

そのために、実際の手術はどのような心がけで行われるのだろうか。坪井先生はこう語る。

「訳も分からず切っていくと、大きな血管を切ってしまうこともあります。最近は3Dの画像構築も進んできましたが、実際そこに何があるか想定しないといけません。そしてもう1つ、手術は両手でやるものです。胸腔鏡の手術で助手の先生が左手代わりになったり、胸を開く手術でも助手の先生がうまく展開してくれたりするので、右手だけで手術する先生が増えてきました。しかし、そういう人はとっさのときに左手が動かないから、大出血に対応できず、それで大事故になっていきます。だから手術の基本は右手と左手を上手に使うということ。イメージと体で会得しないといけません」

「日本メソッド」の模擬臓器

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今回のトレーニングで用いられたものと同じ模擬臓器。

今回の研修プログラムでは、実際の患者の代わりに、日本国内の企業が開発した模擬臓器を使用した。どのようなモデルなのだろうか。高瀬氏はこう説明する。

「トレーニングに用いるためには、臨床の人の臓器に限りなく近いものでなければなりませんので、日本人の臨床のCTデータを元に、3Dプリンターで型を起こしています。普通にシリコンで作られているものはすごく固くなってしまうのですが、これはPVA(ポリビニルアルコール)という材質と組み合わせて、触った感じもリアルに表現してあります。膜は膜、脂肪は脂肪と、それぞれの固さの加減が違いますし、血管の強度も動脈と静脈の固さの違いがあります。なるべく人の臨床に近いように作っている模擬臓器を使っています」

このモデルを用いる際には、カメラシステムや無影灯など実際の手術室に近い環境にすることで、医師の没入感を高めることができるという。そうすることで、トレーニングの効果をより高めることができるようだ。

「たとえば、半年後に同じようなトレーニングをしたときに、自分の腕が上がっているのかどうか、前回と何が違うというのも、同じモデルを使うことによって再現性が高くなります」(高瀬氏)

手術のトレーニングには献体を用いるものがあるが、再現性の高さは模擬臓器ならではの利点だろう。

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ジョンソン・エンド・ジョンソン インスティテュート(東京サイエンスセンター)の高瀬守氏

「こういうモデルが何故できるのかというと、日本人の先生方が協力してくれるからです。日本人の先生方は、こういったトレーニングであってもディティールにすごくこだわります。いいものができたら、さらにこうしようとかさまざまな意見を、フィードバックしてくれるのです。日本の先生のいろいろな思いが詰まっている模擬臓器が、日本の職人さんと融合して、それがいいものになっていく」(高瀬氏)

この模擬臓器のトレーニングは、モデルを作って終わりではなく、医師が使っていくことでさらにブラッシュアップされていく。その先にはどのような展開があるのだろうか。

「実際、それが “日本メソッド”として世界に輸出され使われていてきています。我々のこの日本でやっているトレーニングの仕組みというのは、東南アジアや中国だけでなく、本家本元の米国やドイツも注目しています。今回のこのモデルも、我々の同じようなインスティテュートがあるアメリカのシンシナティとドイツのハンブルグに送って、向こうで現地の医者や従業員が評価をしています。米国はこういう改善をしてほしいとか、ドイツはもっとこうだという意見をもらいまして、また日本でブレンドして、改良して、また出していきます」(高瀬氏)

次の世代の医師を育てる

「私が医者になった30年前は、手術は見て覚えるものでした。誰も細かいことは教えてくれませんでしたし、その頃は肺がんの手術について詳しい本がありませんでした。だから自分で見ていって、これがいいなというのを見つけるしかありません。あるところで血の出ないすごくきれいな手術を見たので、どうやってこんな血の出ない手術ができるかと考えて、研究して、自分の技術に応用しました」(坪井先生)

かつては見て盗むしか上達する術はなかったが、今では、今回のような取り組みも含め、さまざまな教育体制が整ってきている。

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東南アジアから来た医師たちがトレーニングに取り組んでいる。

坪井先生がこうしたプログラムで講師を務めるのは、来年で10回目になるという。目的のひとつは実臨床へのフィードバックだが、こうやって交流を持つことも大事だと語る。

「言い方は悪いですが、大学の中には強いヒエラルキーがあって、井の中の蛙になりやすいのです。よその施設でどんなことをやっているか知ることによって、自分の世界は必ず膨らみます。今日も、私の知らないミャンマーやタイ、フィリピンの先生方の考え方を聞き、彼らがやっているのを見て学ぶことが輪を広げるし、コミュニケーションを広げてくれる。それは私の患者さんにも最適なことだと思っています」

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フィリピンから研修に参加したラモンJr.・インペリアル・ディアズ先生

フィリピンから研修に参加した、ラモンJr.・インペリアル・ディアズ先生は、今回の研修で得たものについて、

「坪井先生や国立がんセンターのスタッフのような、手術のエキスパートとのコネクション作り。彼らは専門性とホスピタリティを見せてくれた。スキルと技術を学べて嬉しかった」

と語っていた。

「この教育というのは、臨床へのフィードバックとともに、輪を広げていくことによって、自分が新しい情報を得て、また新しいスキルを身につけ磨いていくチャンスだと思ってもらえたらいいと思います」(坪井先生)

肺がんへの対応は、もはや各国それぞれの問題ではなく、世界全体で取り組むべきものになってきている。このような輪がさらに広がっていくことで、東南アジアでの肺がん治療の水準が高まり、さらには日本の医療へのフィードバックも進んでいくだろう。

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