韓国・文在寅政権が「決められない政治」と「自己矛盾」に陥った理由

韓国・文在寅政権が「決められない政治」と「自己矛盾」に陥った理由

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/01/19
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裏切られた期待

1月14日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は大統領府で年頭の記者会見に臨んだ。内政から外交まで幅広い質問が飛び交うなか、文氏は日韓関係にも言及した。

だが、その内容は悲しいかな、先祖返り、原点回帰という内容だった。日韓間の最大の懸案事項となっている徴用工判決問題について、文氏は「韓国政府はすでに数回にわたって解決策を提示してきた。日本も解決策を提示しながら韓国と一緒に考えるべきだ」と語った。

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安倍晋三首相は、まだ1カ月前にもならない昨年12月24日、中国・成都での日韓首脳会談で、こう呼びかけていた。「韓国政府の責任で問題を解決してほしい」。

日本政府は過去、日本企業に元徴用工らへの損害賠償を命じた韓国大法院(最高裁)判決が、1965年の日韓請求権協定を破壊すると主張。韓国が自らこの問題を解決してほしいと訴えてきた。

日本が徴用工判決の解決に乗り出せば、この主張を覆すことになる。だから、徴用工訴訟原告団が1月6日に、問題を解決するための日韓の民間レベルによる協議体新設を呼びかけた際も、評価するコメントを出さなかった。

文氏は12月の日韓首脳会談で「お互いに知恵を出すべきだ」「司法判決に行政は介入できない」と繰り返したものの、安倍首相の呼びかけについて「重大な問題だと認識している」と答えてもいた。

首脳会談に先立ち、韓国政府の1人は日本側に対して「文在寅大統領は正しい情報があれば、正しい判断ができる人だ」と説明していた。「情報が不足しているだけだから、安倍首相が直接、日本の立場を伝えてくれれば、文大統領も考えを変えるかもしれない」という趣旨だった。

また、文氏は昨年10月、側近だった曺国(チョ・グク)氏を法相から事実上更迭するに先立ち、ソウル市中心部で行われた大規模市民集会について「国民の多様な声を厳粛な気持ちで聞いた」とも語っていた。11月には、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を寸前で回避した。

こうしたなか、日本側の関係者の一部には「今度こそ、文氏は姿勢を変えるかもしれない」という淡い思いがあった。その期待が、14日の記者会見で、見事に裏切られる結果になった。

追い詰められるまで決定しない

どうしてこんなことになったのだろうか。曺国氏の更迭劇、日韓GSOMIA破棄騒動、徴用工問題。さらには韓国内で、日本と同様に問題になっている韓国軍の中東派兵問題。こうした文在寅政権が直面する、あるいは直面した課題への対応ぶりには共通点がある。

それは、「追い詰められるまで決定しない」という点だ。

曺国氏の問題では、曺氏一家のスキャンダルが浮上してから更迭に手間取ったため、大規模な市民集会を引き起こした。日韓GSOMIAの維持を決めた韓国政府の発表は、失効6時間前に行われた。

中東への派兵問題も、米国は昨年5月に起きたホルムズ海峡でのタンカー襲撃事件以降、日韓両国に派兵を迫ってきた。日本は昨年末、防衛省設置法の「調査・研究」に基づく自衛隊の独自派遣を決めたが、韓国は決めきれない。1月になってイラン幹部らの爆殺事件を契機に米国・イラン関係は極度に緊張し、韓国内では派遣反対の世論が更に強まるなど、文在寅政権は逆に苦しい立場に追い詰められている。

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なぜ決められないのか。日本政府関係者の1人は、文大統領に「政治家としての哲学が足りないのではないか」と語る。

文大統領は14日の記者会見で、「被害者の同意が必要だ」と語り、元徴用工らに配慮する姿勢を示した。「司法への不介入」という立場も示している。だが、この日本政府関係者は「すべて断片的な主張。論理に一貫性がない」と語る。

確かに、文氏の主張を貫こうとすれば、日韓請求権協定の修正を求めざるを得なくなる。だが、文氏は一方で請求権協定を重視する姿勢を示しており、自己矛盾に陥っている。

韓国保守の論理を「拝借した」?

韓国では長く、米国に安保を頼り、日本に経済支援を求める保守と、それに反発する進歩(革新)という政治対立の構図が続いてきた。進歩は保守と対立する行きがかりから、保守を支援する日米には批判的な姿勢を取り、保守と対決した北朝鮮に親近感を示してもきた。

ところが、文氏は昨年11月、テレビに出演して実施した「国民との対話」で、進歩勢力として理解に苦しむ論理を展開した。

文氏は日韓GSOMIA破棄問題について、日本に責任があるという論陣を展開。その際に、「韓国は日本の安全保障において防波堤という大きな役割を果たしている。日本は米国の安保の傘と韓国の防波堤によって防衛費を削減し、自国の安全保障を維持している」と語ったのだ。

この主張を聞いていた日本政府関係者らは驚いた。韓国保守の伝統的な論法だったからだ。

実際、全斗煥(チョン・ドゥファン)政権は1980年代、この論法を駆使して、当時の中曽根政権に巨額の円借款を迫ったことがあった。これに対し、文氏は1月14日の記者会見でも述べたとおり、南北融和を最重要政策課題としている。「反共の防波堤」という論理を使うこと自体、「保守の論理を拝借した」と言われても仕方が無いだろう。

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全斗煥大統領(左)と米レーガン大統領(Photo by gettyimages)

日本政府関係者の1人は「政治哲学に一貫性がないから、政策を決めきれない。結局、時間切れになったとき、世論や対外関係でその場しのぎの決定をしてしまう。文政権の政策決定はその積み重ねでしかない」と語る。文在寅政権は、日本の一部専門家が指摘するような「レッドチーム」に入ることは決してないだろう。南北融和を標榜しているからと言って、論理的に動く政権ではないからだ。

確かに、曺国法相の更迭は、曺氏のスキャンダルに怒った大規模市民集会への懸念から決まったと言えるだろう。日韓GSOMIAの延長は、米ホワイトハウスのポッティンジャー大統領副補佐官が、韓国大統領府の金鉉宗(キム・ヒョンジョン)第2次長と日本の林肇官房副長官補にそれぞれ働きかけた結果決まったものだった。

もちろん、文在寅大統領1人が悪いわけではない。文氏は盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代に民情首席秘書官と大統領秘書室長を務めた。資料の一枚一枚も最後まで丁寧に目を通すスタイルだったため、非常にストレスがかかり、歯が10数本抜けてしまったという逸話も持つ。

丁寧な性格故の優柔不断なのであれば、周囲が政治的に導けば良い。文氏自身、望んで大統領の職に就いたわけではない。徹底したリアリストで日米にも接近した金大中(キム・デジュン)元大統領のように、豊富な経験に基づく政治哲学を持ち合わせているわけでもない。

そもそも、文氏の大統領選出馬は、自殺した盧元大統領の政治的な復讐劇という進歩勢力の望みを受けてのものだった。それだけに、周囲には文在寅大統領を政治的に補佐する責任がよりあると言えるだろう。

保身に汲々とする側近たち

韓国大統領府が司令塔としての役割を果たせないのは、文大統領を補佐する人々に理論的支柱となる人物や、あるいは逆に安全保障や外交で徹底的な現実路線を取ることを勧める人物がいないからだ。

すでに「日韓首脳会談『中身ゼロの45分間』と、韓国外交の深刻な機能不全」で紹介したとおり、韓国大統領府で外交と安全保障を担う国家安保室が最近、著しく混乱している。事実上の責任者とされる金鉉宗第2次長は、とその部下である崔ジョンゴン平和企画秘書官と対立し、影響力が低下しているとされる。この対立を仲裁すべき、鄭義溶国家安保室長は保身に走ったのか、外交安保上の判断よりも進歩勢力としての損得勘定に走る場面が目立っているという。

盧英敏(ノ・ヨンミン)大統領秘書室長も、1月14日に新しい首相に任命された丁世均(チョン・セギュン)前国会議長も、外交安保について文氏に忠言できる人物としては物足りない。みな、自らの政治的地位を維持したり獲得したりすることに夢中なのだ。

結局、大統領府が機能しないから、実際に交渉にあたる外交省も役割を発揮できない。日本外務省によれば、茂木敏充外相は14日、米サンフランシスコ近郊で康京和(カン・ギョンファ)外相と会談した。茂木氏は徴用工判決問題について「韓国側の責任で解決策を示すよう改めて強く求めた」という。従来の日本の姿勢を強調したわけだが、結論は、「今後とも、外相レベルを含め、外交当局間の意思疎通を継続していくことで一致した」というものだった。これは12月24日の日韓首脳会談の結論と全く同じで、何ら具体的な進展がなかったことを意味している。

日本もいま一度冷静な判断を

韓国側にも言い分がないわけではない。

日本政府が「韓国側の責任で解決策を示して欲しい」と主張するのは、日本が徴用工判決問題に関与すること自体が、1965年の日韓請求権協定の否定につながりかねないという懸念があるからだ。ただ、文在寅大統領は過去、「日韓請求権協定は維持する」と語っている。韓国外交省も同様の考えを日本外務省に伝えている。

韓国政府関係者の1人は、日韓協議に意欲を示す文大統領の発言について「日本に責任を押しつけるのが目的ではない。日韓で対話して、韓国側が負担する形の解決策を求めれば良いではないか」と語る。安倍首相も昨年12月の首脳会談の際、文大統領との間で「日韓間の外交チャンネルなどで対話を増やしていこう」と合意している。

安倍首相や菅官房長官らが「韓国側の責任で解決策を示して欲しい」と突っぱねる背景には、日韓間の懸案についての解決策をこれまで示せなかった文大統領に対する政治的な不信感がある。不信を招いた文大統領の責任は大きいが、だからと言って「俺はもう知らない」と突き放す事が良いのか、更に粘り強く説得を続ける事が良いのか、日本側もいま一度冷静な判断が必要だろう。

その判断にあたって重要になるのは、徴用工判決で損害賠償を求められている日本企業に被害を与えないということだ。被害が発生すれば、それは一企業の問題にとどまらず、日韓請求権協定の破壊につながる。

4月の総選挙がもたらす影響

文在寅大統領は1月14日の記者会見で、徴用工判決問題について「強制執行手続きによる強制売却で、(日本企業の韓国内資産に対する)現金化が行われるまでに時間的な余裕がそれほどない」「韓日間の対話がもっとスピード感を持って進めば良い」とも語った。実際、4月15日の韓国総選挙によって5月には新しい国会が招集される。そうなれば、徴用工問題を巡って文喜相(ムン・ヒサン)議長が主導した「文喜相法案」の審議結果も明らかになる。

現時点で、韓国野党は文喜相法案に反対する姿勢を示しており、廃案になる可能性が高い。韓国司法もこの結果を受け、いよいよ現金化命令を下すだろう。その数カ月後には現金化の最終局面がやってくる。

ただ、この見立ては、あくまで日本政府の見立てであり、韓国司法関係者が確約した見通しではない。実際、明日にでも現金化命令を下すことも法理的には可能だ。

日本政府関係者の1人は「これまでの文政権の行動パターンをみれば、現金化直前まで、何も決められないだろう」と悲観的な見方を示す。この発言は「当面は、4月の総選挙が文在寅政権にどのような影響を与えるのか、日本側は静観するしか術がない」という意味でもある。

日韓関係を改善しようという機運は、日韓両国で当面、盛り上がりそうもない。

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