成熟期を迎えたこれからの日本に必要なこと|出井伸之

成熟期を迎えたこれからの日本に必要なこと|出井伸之

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2017/09/15
No image

人生は岐路の連続。最良の選択でチャンスを呼び込むためには、自身と深く対話し、自分の中の価値観をつくり変革していくことが重要である。この連載は、岐路に立つ人々に出井伸之が送る人生のナビゲーション。アルファベット順にキーワードを掲げ、出井流のHOW TOを伝授する。

今回は、D=Dalida。国境を超えフランス人を魅了した歌姫ダリダに共感した背景にあるものとは(以下、出井伸之氏談)。

先日、海外出張での機内で、フランス駐在時代を思い出させる映画を観た。今年フランスで公開され興行成績2位を記録した映画「Dalida」だ。1イタリア系の移民として、1933年にエジプトの首都カイロで生まれ、のちにフランスに帰化した歌手ダリダの一生を描いた作品である。

ダリダは、幼少期にかかった目の病を手術で克服したことがきっかけで自らの美しさに磨きをかけ「ミス・エジプト」にも選ばれた。その美しさをフランスで生かそうと女優を目指し渡仏。しかし、エジプトからきたよそ者に対する風当たりは厳しく、やっと花開いたのは歌手に転身した20代前半だった。彼女のイタリア訛り独特の発音と、溢れんばかりの美しさにフランス中の男性が熱中した。

しかしプライベートではうまくいかず、愛した男性がことごとく自殺。彼女自身も自殺未遂を図ったが、自分を表現できる歌に全身全霊を注ぎ、歌い続けた。歌手としてはフランスで大成功を収めただけでなく、イタリアやエジプト、さらにアメリカなど世界を周り、幸せの絶頂にあるとメディアに言わしめた。その一方、「Je suis malade(病の果てに)」という曲を歌い、自ら精神病であることを告白。本人は虚ろな存在であると度々口にしていた。

そんな二つの側面を持つ彼女に、私は心惹かれている。フランス駐在中に、一度だけダリダが出演したオランピア劇場でその歌声を聴いたことがある。ポップミュージカルやシャンソン歌手のコンサートが上演されるこの劇場は、フランスで「音楽の聖地」と呼ばれている。最初の自殺未遂後、ダリダの歌と彼女の生きざまに恋をした多くのフランス人が、この劇場に溢れる異様な熱気に酔いしれていた。衝撃的だった。その後年、彼女は苦悩のうちに自殺し波乱に満ちた生涯を54歳で閉じた。

なぜこれほどまでにダリダがフランス人の心を魅了するのか。その答えは、彼女の自信と脆さという二面性、そして彼女の歌にある。ダリダ特有のアクセントは、国境を超える強さを、そして、彼女の感情むき出しの歌詞は人生とは何かを人々の心に訴えてくる。だからこそ死後30年経ったいまも、彼女の歌は国境を超え人々の心の深みに触れ共感される。

1960〜1970年代、エジプトから来仏し女優や歌手を目指した彼女に向けられた目は相当厳しいものだったろう。しかしダリダは、誰に何を言われようと意志を貫き、世間の目を恐れず自分をさらけ出した。フランス人はその姿に心を打たれ、彼女の歌に涙し、拍手を送った。そして私もそのうちの一人だ。彼女の生き方は、多くのファンの生き方に多大なる影響を与えた。

フランスの心を知り、こじ開けていった

私が、ダリダに共感するのはフランス駐在時の経験があったからだ。階級社会が色濃く残るヨーロッパ、さらに日本に対し門を閉じていたときに私はフランスにいた。いくつもの壁が立ちはだかり、「この街にどうやって切り込めばいいのだろう」と、エッフェル塔を眺めながら幾度も思った。

日本企業の直接投資が許されなかった時代、数年かけて試行錯誤のすえ、ソニーフランスを立ち上げた。製品販売の規制から、発想を工夫し、やっとの思いでシャンゼリゼにソニーショールームをオープンさせた。このように、ひとつひとつ、強固なフランスの扉をこじ開けていった。これは、エジプトから来たダリダが徐々にフランス人の心に入っていったことと似ているのではないか。

盛田昭夫さんの著書「メイド・イン・ジャパン」に記載されている一文がある。

──フランスにわが社の販売会社を作るのには非常に苦労をした。それが実現するまでの苦しい二年間の”戦い”の間に、出井はよく冗談に言ったものだった。「フランス女と手を切るのがこれほど難しいものとは知りませんでしたね」──

ローマ法に起源があるヨーロッパの法というのは、アメリカと違って、法律をより「人と人との約束」のようにとらえる節がある。だから、契約の条項が終わったとしても、その「スピリット」だけが継続するということがままあるのだ。

私も盛田さんご自身もソニーフランスの経験からそれを実践的に学び、グローバライゼーションの多様性というものを理解した。

成熟した国における個と組織

日本は十分に成長し、すでに成熟期に入っている。一方、私が駐在していたとき、フランスは「個」の成熟が感じられる国だと感じた。成熟とは、個が独立して立ち、意思を解き放てる存在だ。その個が集まって、国があると。一方、日本は企業や国という組織の中に「個」がある。日本もフランスのように、それぞれの「個」が成熟していかなければならないと思う。

なぜなら、成熟からは「寛容」が生まれるからだ。フランスでいくつもの扉をこじ開けた経験から見えてきた真のフランスの姿は、成熟した個に裏打ちされた、寛容的社会でもあった。つまり、自身の「個」を際立たせることは、他人の「個」を許容することに等しい。そこは、人々がより幸せを感じやすい、心豊かな場所であったとも言える。

国境を超えた歌姫ダリダは、強烈な「個」というものをさらけ出し、フランスはそれを受け入れた。個と組織。そのバランス感というものを、私はフランスという国での経験を通じて学んだ。

次回、Eに続く。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

芸能カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
木梨憲武が原因じゃなかった? スギちゃん、テレビから消えた本当の理由を激白
文句なしの完璧ボディ!Fカップ9頭身グラドル・松嶋えいみ、妖しく光るセクシービキニで朝から悩殺!「おはよう!朝から刺激がぁ!」
「新しい地図」に寄せられたSMAPファンの悲痛な叫び
aikoが安室とのプリクラを公開、芸能界に広がる“あむロス”
東京03・豊本、入籍とミス・モンゴルの妊娠を発表
  • このエントリーをはてなブックマークに追加