日米「ゴルフ外交」の意外な効果についての話をしよう

日米「ゴルフ外交」の意外な効果についての話をしよう

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/05/27
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中国だって気にしているはず

去る25日(土)から、トランプ米大統領が令和初の国賓として訪日している。宿泊はパレスホテルだ。26日午前中には千葉県茂原カントリー倶楽部でゴルフ、午後は国技館で大相撲観戦、夕食は六本木の田舎家東店で会食。さらに27日は、午前中に皇居で天皇、皇后両陛下に謁見し、その後迎賓館で日米首脳会談。午後は北朝鮮による拉致被害者家族との面会を行う。夕食は宮中晩餐会だ。

28日には横須賀基地で海上自衛隊ヘリコプター搭載「護衛艦かが」に乗艦し、大統領専用機で離日する予定だ。

この日程をみると、すぐ分かるのが、安倍首相とトランプ大統領のツーショットの「絵」ばかりであることだ。この「絵」が作られることで、言葉なしで強固な日米関係を国際社会にアピールすることができるので、現時点では日本の外交ポイントは望ましい形で上がったと言えるだろう。

トランプ大統領は就任以来「アメリカファースト」の姿勢を打ち出し、その結果、各国と揉めている。そのような中でも、安倍首相とトランプ大統領との個人的関係は極めて良好であり、日米関係はかつてないほどに強固になっている、といえるだろう。

世界各国から見れば、日米関係は羨ましく見えるはずだ。おそらく、貿易戦争でボコボコにされている中国の習近平主席は、安倍首相には複雑な感情を抱いているだろう。筆者は習主席が、米中貿易戦争におけるトランプ大統領の強気の背後に、安倍首相の存在を感じているのではないかと読んでいる。

例えば米中貿易戦争について、マスコミは両国の関税の報復し合いに焦点を当てている。しかし先週の本コラム<米中貿易戦争 検証して分かった「いまのところアメリカのボロ勝ち」>にも書いたように、この勝負は、相手国からの輸入品価格について、どれほど物価が上がるかがポイントなのだ。

この点から米中貿易戦争を見てみると、アメリカの物価はほとんど上がっていない。これはアメリカが中国からの輸入品に関税をかけても、中国からの輸入品は代替可能なので、かけられただけの関税を商品価格に上乗せすることができず、その負担を輸出元の中国企業が背負っている。このため、結果的に中国経済への打撃は大きくなっている。

一方、中国の物価は、特に食品が上がっている。これは関税の分がそのまま輸入品の価格に上乗せされたからで、結局、中国の消費者が割りを食っているのだ。企業も消費者も負担が増えているのだから、このままでは中国はボロ負けを喫することになる。

といって、アメリカがいま中国に要求しているのは、産業補助金などの見直しなど共産党による一党独裁を根底から覆すようなもので、中国政府が簡単に応じられるわけもなく、結果、出口が見えなくなっている。そのうえ、アメリカはファーウェイ(華為技術)排除に本気になっている。この一件でも中国側の不利は否めない。

もっとも、2018年4月、トランプ政権は現在の対ファーウェイ戦略同様、中国企業「ZTE」へのアメリカ製品の輸出禁止を発表したが、その翌5月、トランプ大統領は「習近平主席への個人的な好意」を理由としてZTEへの制裁を取り下げるとした。結局、ZTEには10万ドルの罰金とZTE内に米国監視チームを設けるという条件が課されたのみだった。今回も、中国は同様な措置を期待しているはずだ。

6月に日本で開催されるG20までに、なんとかファーウェイの排除措置を取り除きたいと思っているだろうし、そのためには、トランプ大統領との固い友情関係を見せた安倍首相の助けも借りたいくらいだろう。

ファーウェイの排除措置がどうなるかは甚だ予測が困難だ。なぜならアメリカ議会においては、民主党も共和党とともに中国に対して強硬姿勢を示しているからだ。来年11月に米大統領選挙も控えており、ここでトランプ大統領が中国に変な妥協をすると、民主党に政権攻撃の材料を与えてしまう。ZTEのようにすぐに制裁解除になるかどうかは、予断を許さない状況なのだ。

ゴルフと外交

いずれにしても、各国はアメリカ第一主義を批判する一方で、アメリカとの修復策を模索してもいる。それが外交である。その時、トランプ大統領へのパイプ役として、安倍首相の存在感は大きくなるはずだ。

去る15日、イランのザリフ外相が急きょ来日し、安倍首相との面会を求めたことをご存じだろうか。イランは現在、アメリカと抜き差しならない関係になり緊張が高まっているので、イランは日本に仲介役を担ってもらいたく、藁をもすがる気持ちで尋ねてきたのだろう。

日本側も、いまが安倍政権の国際的なプレゼンスを上げるチャンスだと分かっている。日米の強固な関係を国際社会に示すためには、会談は不要であり、それよりも「蜜月」をアピールする「絵」のほうが必要だと考えたはずだ。このため、「令和初の国賓」「ゴルフ」「相撲観戦」「護衛艦乗艦」というテレビ映りのいい「絵」をつくることが優先されたのだろう。

ここで筆者は、安倍政権批判をしたいマスコミはこれに不満を抱くだろうなと思っていたが、フタをあけてみたらやはりそうだった。

<とうとうトランプ大統領の運転手に。。。いやいや、きっと深い外交の話をされているのでしょう。>

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朝日新聞霞クラブのツイッターより(https://twitter.com/asahi_gaikou/status/1132479436484251648)

とつぶやいていた。

この瞬間を切り取って批判的なツイートをするとは、あまりにも想定ドンピシャリの行動だったので、筆者も思わず、

<朝日クオリティ。使用人とも書かれていたが…‥アメリカでは二人乗りカートでトランプが運転だから(筆者註:安倍首相がアメリカでゴルフをやった際には、トランプ大統領がカートの運転をしていた)。日本では安倍さんが(運転するのが)当たり前。日本では(カートを)運転して目的地につれていくのは日本だと思えないのかね。共産主義者はゴルフを毛嫌いするからなのかねえ。習近平、金正恩はゴルフをやれないし(笑)>

朝日新聞のツイッターの「中の人」は、ゴルフマナーをまったく知らずに、安倍憎しという気持ちだけで書いてしまったようだ。

これ以外にも、大統領とのゴルフを揶揄する声は、メディアにもネットにも少なくなかった。しかし、そもそも安倍首相が「ゴルフ外交」できることの意味を考えてみたほうがいい。まず、戦後、日本の首相でアメリカ米大統領とゴルフをしたのは、安倍首相の祖父・岸信介とアイゼンハワーの1回だけしかない。安倍首相はこれまで5回もゴルフをしている。この記録は、今後誰も破れないだろう。

「回数がどうした、ゴルフは遊びだろう」という人もいるかもしれないが、アメリカ人のゴルフはちょっと特別だ。ビジネス経験のある人ならわかるだろうが、アメリカ人は、ビジネスランチは比較的誰とでも行うが、ゴルフは基本的には好きな人としかやらない。アメリカ人がゴルフをするのは、その相手に好意を持っている証だともいえるだろう。日本のビジネスでの接待ゴルフとはちょっと感覚が異なるのだ。揶揄したり批判したりするのもいいが、そういう観点からも物事を考えてみてはどうだろうか。

米中貿易戦争で頭の痛い中国の習近平主席も、決裂した米朝首脳会談を早く修復したい北朝鮮の金正恩委員長も、ゴルフはやらないだろうから、安倍首相をうらやましくおもっているのではないか。

余談だが、金正恩委員長の父である故・金正日総書記には、はじめてコースに出たときにホールインワンを11回したという「伝説」がある。もし存命だったとしても、とてもトランプ大統領とゴルフはできなかっただろう。

また、習近平主席はゴルフ嫌いといわれている。中国政府高官の汚職や接待の温床の原因がゴルフにあると思い込み、習政権以降、多くのゴルフコースが閉鎖されているのはよく知られた話だ。

2014年11月、北京郊外で「APECアジア太平洋経済協力会議」がゴルフコース会場で開催されたが、オバマ大統領をはじめその他外国首脳に一切ゴルフをさせなかったし、2015年11月には、共産党員にゴルフ禁止令を出しもした。最近では、中国のゴルフ選手も海外で活躍しはじめており、少しずつ変化しているのかもしれないが、それでも急な方向転換は難しいだろう。

揶揄するばかりでなく

習主席とは違い、ゴルフ好きの首脳は多い。ゴルフは18ホールで3時間程度も時間がかかるが、逆に言えば、外交の場として利用すれば、とても濃密な話ができる。アメリカ大統領を相手に十分な時間をとるのは、至難の業である。従来の日本の首相クラスであると、首脳会談で1時間とれればいいくらいだ。

それなのに、2017年2月は27ホール(フロリダ)、2017年11月は9ホール(埼玉)、2018年4月は18ホール(フロリダ)、2019年4月は18ホール(ワシントン)、今回2019年5月は16ホール(千葉)……とこれまで計88ホールも、安倍首相はトランプ大統領とゴルフをしている。

これだけで、15時間程度の時間を取ったともいえる。先日、韓国の文大統領はトランプ大統領との会談の時間が「たった2分」しかとれなかったというが(https://www.zakzak.co.jp/soc/news/190412/soc1904120015-n1.html)それとは雲泥の差だ(文政権は否定しているようだが)。

このゴルフ外交の効果はすでにいろいろなところで表れている。たとえば拉致問題についてみても、トランプ大統領は歴代大統領の中でも一番といっていいほど熱心になって、北朝鮮に圧力をかけている。

貿易摩擦でも、米中間の対立はガチンコ勝負の真っ最中なのに、日米はいまだに大きな問題にはなっていない。これは、本来は日本に向かうべき矛先が中国に向かったと思われるのだ。

今回、首脳会談にはつきものの共同声明は見送られる見通しだ。これをマスコミは「貿易交渉が困難を極めており、日米両国で隔たりがあるからだ」と説明しているが、これについてもやや疑問だ。今回のトランプ大統領の訪日は、貿易問題を先送りするための一環であったと考えられる。

ゴルフ翌日の27日の予定をみても、首脳会談は天皇・皇后への謁見と拉致家族との面会に挟まれている。これは実質的な会議をしないことを前提としたスケジュールだ(本格的な議論になると、時間超過が起こり得る。このスケジュールは時間超過を前提としていないので、そもそも実質的な会議をしないということが分かる)。

貿易交渉が困難を極めているというが、まだ本格的な交渉は実質的にスタートしていない状況で、この点は、中国とは格段の違いがある。貿易問題では、時間を稼ぐのも立派な成果であり、国益につながる。この意味でも、今回の大統領来日を「ゴルフ外交」と揶揄するばかりではなく、国益という観点から考えることも重要だと筆者は考えている。

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