【岩貞るみこの人道車医】「無資格検査」問題で見えた、日産の甘さと裏切り

【岩貞るみこの人道車医】「無資格検査」問題で見えた、日産の甘さと裏切り

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  • 更新日:2017/10/12
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日産自動車の完成検査工程における法令上の不備は国内6拠点でおこなわれていた(写真は追浜工場)

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【車】なんのための制度で、なんのための有資格者なのか

RELEASE。英語の辞書を開くと、いくつかの意味が載っていて、新型車を「発表する」というときにも使われる。「ニュースリリース」と、発表資料を指すときもあり、我々メディアの人間には馴染みのある言葉だ。だけど、私はときどきこの言葉を、「放つ」という意味として受け止めることがある。

一度釣った魚を海に「放つ」。怪我をした野生動物の手当をして、野に「放つ」。いずれの場合も、自然の厳しさのなかで、どうか無事に生きていきますようにという祈りにも似た思いが込められ、そうっと手から放たれていく。新型車の試乗会で、開発者の方々の話を聞くたびに、いかに新型車が彼らの思いと人生の時間を注がれて作られてきたのかを思い知る。彼らにしてみれば、世の中に送り出すときは「発表する」よりも、どうか愛されるクルマに育ちますようにと「祈りを込めてそうっと放つ」気持ちの方が強いのだと思う。

日産自動車の完成検査工程における法令上の不備について、私は、日産の甘さに納得ができない思いでいる。

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西川廣人社長は「手続きがきちんとしていないだけで、点検作業自体は行われている。使用する上で問題はない」と言っているけれど、そんな言葉では、ユーザーの不安は消えないと思う。というか、嘘ついてごまかしていた人たちがなにを言うか、という気分だ。

確かに、私のまわりのジャーナリストのあいだでも、「今はほとんどコンピュータで行われているのだから、制度自体が古い。制度を変えるべき」といった意見もある。日産に同情的な記事や発言も多く見かける。そうかもしれない。でも、敢えて言う。だったら、制度自体を変えるように働きかけるのが先じゃないんですかと。そもそも、認定検査員は社内基準で決めているんだから、そんなに簡単で、だれでもできるような検査だったら、補助検査員に講習を受けさせて認定検査員にとっとと格上げすればいいじゃんと思うのである。

もともと、なんのための制度で、なんのための有資格者なのか、立ち返って考える必要があると思う。例えば、レストラン。開業するためには、食品衛生責任者の有資格者がいなければならない。例えば、保育所。一定数のこどもを預かるには、それだけの保育士の有資格者がいなければならない。これらについて、「みんな家ではふつうに食事作って食べているんだから、食品衛生責任者じゃなくても問題ない」とか「子育てなんて、だれでもやっているんだから、保育士なんていらない」という話にはならないだろう。だれでもできるからこそ、安心と安全のためにきちんと責任をもって、食に、こどもに対峙する資格制度があるのだと思う。

◆完成検査は「プライド」を刻印する場所

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9月29日、この第一報が出た直後に、某家電メーカーの工場関係者と話をする機会があった。彼は、「完成検査は仕事としては簡単だ。やることをやるだけなら、たぶん誰にでもできる。だけど、もしもそこで不具合を見つけることができなかったら、不良品が市場に出回ることになる。完成検査は、品質を保証するための最後の砦。ここをないがしろにすることは、あり得ない」と言っていた。その言葉のなかには、不良品を絶対に世に送り出さない決意と、自分たちが作り上げてきた製品への誇りが込められているように感じた。

彼らにとって製品は、単に組み立てるものではない。それまでの長いあいだ、商品開発者が丹念に市場を見つめ、技術者が思いを込めて開発し、デザイナーが線を引き、生産技術と一体となって組み立て工程を考える。製品に携わった多くの人たちの思いがそそがれて、ようやくできあがるものなのだ。最後の検査を終え、やっと「RELEASE」できる大切なもの。完成検査とは、最後の最後で「プライド」を刻印する場所なのである。

今回の件は、ユーザーはもちろん、制度を作り信頼して任せていた国交省への裏切り行為である。そして、なにより開発してきた仲間の気持ちを踏みにじるような行為だと思う。「スイッチひとつで、自動運転」をはじめ、日産の電気自動車戦略には、言いたいことはたくさんあるけれど、少なくとも、開発陣は、技術は人の生活を便利で豊かにするものと日々、がんばっていたはずだ。

今回の件は、ユーザーとして、そして、多くの技術者と向き合う仕事についている一人として、本当に残念である。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家

イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。9月よりコラム『岩貞るみこの人道車医』を連載。

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