トヨタとソフトバンクが狙う完全自動運転時代の王座

トヨタとソフトバンクが狙う完全自動運転時代の王座

  • JBpress
  • 更新日:2018/07/19
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米ラスベガスで開かれた家電見本市CESで「イー・パレット」を発表するトヨタ自動車の豊田章男社長(2018年1月8日撮影)。(c)AFP PHOTO / MANDEL NGAN〔AFPBB News

自動運転技術を巡る競争激化を象徴するニュースが飛び込んできました。

アップルで自動運転プロジェクトに関わっていた元社員が、アップルの技術データを不正に持ち出し、出国直前に逮捕されたというニュースです。この元社員、中国の自動運転のスタートアップ企業に転職することになっていたといいますから、FBIによる逮捕がもう少し遅れていたら、アップルの技術情報が中国企業に流出していたことは想像に難くありません。

こうした違法な技術情報の奪取が企図されるほど、自動運転技術における競争は過熱化しているのです。

そこでわれわれが気になるのは、「日本の企業は自動運転の世界をリードできるのか」ではないでしょうか。従来の自動車メーカーだけではなく、米テスラのような電気自動車(EV)に特化したニューカマーもいれば、グーグルやアップル、アマゾンなどのメガテック企業など異業種からの参入組もいるのが完全自動運転の世界です。

日本の産業界をけん引してきた自動車メーカーがその中で埋もれてしまうようでは、日本経済の未来も一気に視界不良に陥ってしまいます。

自動運転の世界で、日本の自動車メーカーはどこまで来ているのか。まずはトヨタ自動車の動きから解説してみましょう。

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EVシフトにトヨタは出遅れたのか?

1997年に世界初の量産型ハイブリッド車「プリウス」を市場に投入したトヨタは、「エコカー」の先駆者でした。プリウスは世界中から高い評価を受け、環境に対する意識が高いハリウッドスターなどもこぞって愛用しました。

ところがトヨタが好調なハイブリッド(HV)や、その後発売した燃料電池車(FCV)、プラグイン・ハイブリッド車(PHV)に注力している間に、世界には急激な電気自動車(EV)化の波が押し寄せていました。「世界のEVシフトにトヨタは出遅れた」。そんな見方が定着していました。

この状況に誰よりも危機を自覚しているのはトヨタ自身です。2017年11月の人事に関するニュースリリースには、「現在のトヨタを取り巻く環境変化はこれまでに経験したことがないほどのスピードと大きさで進行しており、一刻の猶予も許されない、まさに『待ったなし』の状況であると認識している」という文言が刻まれています。

このリリースでは、豊田章男社長の言葉として、「自動車業界は100年に一度の大変革の時代に入った。次の100年も自動車メーカーがモビリティ社会の主役を張れる保障はどこにもない。『勝つか負けるか』ではなく、まさに『生きるか死ぬか』という瀬戸際の戦いが始まっている」という危機意識まで披露されています。

人事に関するリリースでこんな強烈な文章は見たことがありません。

その危機感を跳ね返すように、トヨタは今、次々と手を打っているのです。

トヨタ、デンソー、アイシン精機で自動運転に3000億円投資

その1つが、今年(2018年)1月にラスベガスで開催されたCES2018で発表されたモビリティ・サービス専用の次世代EV「e-パレット・コンセプト」です。

e-パレットは、一見すると単なる箱型のEVですが、その実態は、EV、シェアリング、自動運転といった次世代自動車の技術の全てを取り込み、用途に応じて柔軟に形を変えるプラットフォームなのです。

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『2022年の次世代自動車産業』(田中道昭著・PHPビジネス新書)

例えば、朝夕はライドシェアリングとして、昼間は宅配サービスや移動店舗、移動オフィスとして、といった具合に「パレットのように」姿を変えられるとしています。

今後、アマゾン、中国のライドシェア企業である「滴滴出行」、ピザハット、ウーバー、そしてマツダをパートナーとして実証実験を進め、2020年の東京オリンピックの際には大会のモビリティとして貢献する、と宣言しています。

またEV開発では、国内各社との協力体制も構築しました。2017年10月、トヨタ、マツダ、デンソーの3社で新会社「EV C.A. Spirit」を設立。後に、スバル、ダイハツ、スズキ、日野自動車が合流し、「オールジャパン」体制を整えました。各社からエンジニアが集結し、EVの基盤技術の開発に当たっています。自動車の開発において、初期段階から複数のメーカーが協力体制を取るのは異例です。

2019年1月には、IT子会社3社を統合し、新会社「トヨタシステムズ」を設立します。クルマがEV化し、自動運転化していく流れの中で、ITは極めて大きな役割を果たしていきます。3社を統合してIT部門を強化することで、この分野での存在感も高めていく狙いがあります。

自動運転技術では、さらに注目したい動きがあります。

デンソー、アイシン精機と共同で、新会社「トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスド・デベロップメント」(TRI-AD)を都内に設立したのです。

トヨタは2016年にアメリカで、「トヨタ・リサーチ・インスティテュート」(TRI)を設立しています。シリコンバレーにヘッドクオーターを置き、スタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学、ミシガン大学などと協力して人工知能技術を研究する機関です。用意された予算は10億ドルという破格のものでした。

今回新たに設立されたTRI-ADは、このTRIの日本拠点という位置付けです。トヨタ、デンソー、アイシンの3社で3000億円を投資するというのですから、さらにスケールがアップしています。CEOには、TRIのチーフ・テクノロジー・オフィサーで、かつてはグーグルのロボティクス部門長を務めていたジェームス・カフナー氏が就いています。エンジニアも1000人規模になるといいますから、非常に強力な態勢です。

これらを見るだけでも、トヨタがいかに本気になっているかが分かります。

次世代自動車でも圧倒的に強いトヨタの量産技術

そしてトヨタには、欧米の自動車メーカーやメガテック企業にはない強みもあります。

1つはEVの生命線である「電池」です。

2017年12月には、電池の開発でパナソニックとの提携を検討すると発表しました。両社はすでに合弁で「プライムアースEVエナジー」を設立し、HV用の電池を生産していますが、この関係をEVでも深めていくようです。

電池はEV車のコストの大半を占め、EV事業を黒字化する際のボトルネックになるもの。パナソニックとの協業で、EV事業の黒字化を急ぐ構えとみられます。

両社はさらに、次世代電池「全固体電池」の共同開発も検討すると言います。全固体電池は、小さく軽量でありながら航続距離の長さや充電時間の短さ、安全性で現在のリチウムイオン電池よりも優れています。ここでライバルよりも先行できれば、EVでは相当な優位性を保てるでしょう。

もう一つの強みは、「トヨタ生産方式」そのものです。EVの先駆者は米テスラですが、実は量産化で非常に苦しんでいます。製造に関しては、EVはエンジン搭載車に比べて格段に簡単と言われますが、テスラの事例を見るまでもなく、長年にわたって自動車メーカーが積み上げてきた量産化の技術は、一朝一夕では追いつけないのです。

中でもトヨタには、カンバン方式に象徴される最高水準の量産技術があります。ここでの勝負となればトヨタはライバルを圧倒するでしょう。

こう見てくれば、確かにEV化、自動運転化では「出遅れた感」があったトヨタですが、先行するIT巨人や欧米自動車メーカーらを猛追する態勢が整いつつあります。ましてや電池や量産技術には強力なアドバンテージを持っている。次世代自動車産業でも覇者になる条件は十分揃っていると言えそうです。

次世代自動車の全レイヤーに投資するソフトバンク

自動車メーカーではありませんが、もう1社、注目すべき企業が日本にはあります。孫正義氏率いるソフトバンクです。

実はソフトバンクは、次世代自動車産業の全レイヤーに対し、すでに「投資をし終わっている」という状態です。通信はもとより、エネルギー、ライドシェア、自動運転などなど。それも、日本、欧米、中国の各地で、くまなく手を打っているのです。

ウーバー、アリババ、滴滴出行、ARM、NVIDIA――。ライドシェアやIT企業、そして半導体と業種はさまざまですが、いずれも次世代自動車産業のカギを握る企業。これらは全てソフトバンクが出資、あるいは買収した企業です。同社が次世代自動車産業にどれだけ本気で取り組んでいるかがよく分かります。

そしてすでにソフトバンクは、ヤフー、先進モビリティ株式会社と合弁で設立した「SBドライブ」を通じて、自動運転に取り組んでいます。

このSBドライブは、フランス企業・ナビヤ社の自動運転EVバスを導入し、国内で実証実験を繰り返しています。今年(2018年)4月から、東京電力が福島第一原発内でナビヤの自動運転バスの運行を開始しましたが、その運行管理をサポートしているのもSBドライブなのです。限られた地域内での運行とはいえ、自動運転の実用化という意味では、ソフトバンクグループは一歩先んじていると言えます。

これらのことから見えてくるのは、孫正義会長の先見性の高さです。ソフトバンクは、巨額の投資を通じて次世代自動車産業のあらゆるレイヤーに出資領域を広げることで、各レイヤーから着実に利益が入ってくる仕組みをすでに整えているのです。通信、自動運転、半導体、EV、電力・エネルギーと各レイヤーの主要プレイヤーに残らず投資をしているため、「ソフトバンクは、誰が勝っても儲かる仕組みを構築しようとしている」と見られています。

次世代自動車産業は、単なるクルマ産業ではなく、IT、AI、通信、半導体、ライドシェアやサービスをはじめとして、われわれの生活のあらゆる場面に関わってくる産業になっていきます。この巨大な産業構造の転換期にどれだけ大きく関わっていけるかは、今後の企業の盛衰に直結します。

日本を代表する製造業の雄・トヨタ自動車と、わが国屈指の起業家・孫正義氏率いるソフトバンクがどれだけ次世代自動車産業で主導権を握れるか――。その成否は、間違いなく日本経済の将来にも大きく影響してくるのです。

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