「主文後回し」裁判所の狙いとは...死刑に限らず「無期懲役」の場合も

「主文後回し」裁判所の狙いとは...死刑に限らず「無期懲役」の場合も

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  • 更新日:2017/11/14
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写真はイメージです(bee / PIXTA)

NHKが判決主文言い渡し前に「死刑」のテロップを流すミスが発生した。11月7日、京都地裁で開かれた連続青酸変死事件の判決公判、中川綾子裁判長は主文を後回しにして判決理由の朗読を開始。主文が言い渡される前にNHKは「青酸化合物による高齢男性連続変死事件 筧千佐子被告に死刑 京都地裁」というテロップを流し、直後の正午のニュースでお詫びした。

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通常、判決は主文、理由の順で言い渡されるが、主文が後回しにされることもある。主文が後回しにされることの意味はどのようなもので、報道はどう対応すべきなのか。刑事弁護を数多く扱い、死刑を求刑された裁判も多く弁護している村木一郎弁護士に聞いた。(ジャーナリスト・松田隆)

●無期懲役でも主文後回しも

ーー死刑の場合、被告人が動揺するから主文を後回しにすると言われることが多いですね

「一般にそのように言われていますし、裁判官も同じ思いなのだろうと考えています」

ーー主文が後回しになる時は死刑だけでなく無期懲役の時もあると聞きます

「私は、これまで死刑を求刑された事件を8件担当しました。そのうち4件が一審で無期懲役です。記憶は必ずしも鮮明・明瞭ではありませんが、少なくとも2件については主文言い渡しが後回しにされたと記憶しています」

ーー無期懲役の場合、なぜ主文を後回しにすることがあるのでしょうか

「裁判所の心情を慮りますと『無期』と、いきなり言い渡すと死刑を覚悟していた被告人の気持ちが緩みっぱなしになって、判決理由を良く聞いてくれないのは困るという思いはあるのではないでしょうか。

死刑求刑に対し一審裁判所が無期懲役を言い渡した場合、検察官控訴があると高裁、とりわけ東京高裁は一審判決を破棄して死刑を言い渡す可能性があります。現に、私の担当した上記無期懲役4件のうち2件は検察官控訴があり、東京高裁はいずれも一審を破棄して死刑としました。

このように一審の裁判官にとり死刑求刑事件で無期懲役を言い渡すのは、大変な『覚悟』が必要です。そのような『覚悟』を決めて、いわば腹を括って無期を言い渡す以上、裁判官としては、なぜ死刑ではなく無期を選択したのかを被告人にきちんと理解してもらいたいと思うはずです」

●背景に「一秒でも早く」との脅迫にも近い心理状況

ーー今回、NHKは、判決理由中の「死刑の合憲性」という言葉を主文と取り違えたと説明しています。NHKのミスについてどのように感じられますか。

「現場の記者が『とにかく他社より一秒でも早く〈死刑言い渡し〉を報道したい』との脅迫にも近い心理状況の中で起こったのではないかと思います。迅速性も重要ですが、ジャーナリズムの基本中の基本である正確性を疎かにしてしまったという点は反省すべきと思います。

当該記者が本件裁判の最終場面、すなわち検察官の論告・求刑、弁護人の最終弁論をきちんと傍聴し、その内容を把握していれば弁護人が『死刑の合憲性』の論点、すなわち死刑の違憲性を述べていたことを当然に把握できたでしょう。それを踏まえれば裁判長が『死刑の合憲性』の争点に触れた際、それを主文と取り違えるようなミスを犯すことはなかったものと思われます。その意味ではジャーナリストとして取材を疎かにしていたと指摘されても仕方がないのではないでしょうか」

(以上が村木弁護士の解説)

●判決は主文と理由、「主文後回し=死刑」ではない

判決には「主文」と「理由」がある。主文は被告人に科される刑罰の内容を示すもので、死刑の主文は通常「被告人を死刑に処する」である。理由で主文を導き出した具体的根拠が示される。

法文を見ると「裁判には、理由を附しなければならない」(刑事訴訟法44条1項)、「判決の宣告をするには、主文および理由を朗読し、又は主文の朗読と同時に理由の要旨を告げなければならない」(刑事訴訟規則35条1項)とあるものの、その順番は法定されていない。

どちらを先にするかは裁判長の裁量に任されており、一般には「死刑判決の場合は主文が後回しになることが多い」と言われる。死刑の主文を最初に宣告すると、被告人が動揺して理由をよく理解できないままに聞くことになってしまうためと説明されることが多い。もっとも無期懲役の場合でも主文が後回しにされることはあり「主文後回し→死刑判決」、「死刑判決→主文後回し」のどちらも常に成立するわけではない。その意味で、NHKのテロップによる速報は重大な誤報となりかねない危険性を持っていたことになる。

なお、判決の宣告(刑事訴訟法342条)によって判決が外部的に成立するため、主文どころか理由も全部を告知していない状態では判決は外部的には成立しておらず、「死刑」と確定的に報じるのはそれだけで根拠のない報道(誤報)である。

厳密に考えると、裁判所が自ら宣告した内容に拘束される(変更、訂正ができなくなる)のは判決言い渡しのための公判期日が終了するまで(最判昭和51年11月4日)のため、閉廷以前に確定的に報じるのは危険。しかし主文の宣告で「死刑」とした後で裁判長が「先ほど死刑と言いましたが、無期懲役でした。主文を訂正します」などということは容易に想定できないため、主文が言い渡された段階で確定報として報じられているのが実情である。

【取材協力弁護士】

村木一郎(むらき・いちろう)弁護士

早大法学部卒業。裁判員裁判を中心に刑事弁護専門。これまでに担当した事件として、埼玉愛犬家連続殺人事件、本庄保険金連続殺人事件、ドン・キホーテ連続放火事件、元厚労省事務次官連続殺人事件、オウム真理教逃亡犯菊地直子事件など

事務所名:法テラス埼玉法律事務所

URL:http://www.houterasu.or.jp/saitama/access/saitama-lo.html

【プロフィール】

松田隆(まつだ・たかし)

1961年、埼玉県生まれ。青山学院大学大学院法務研究科卒業。新聞社に29年余勤務した後、フリーランスに転身。主な作品に「奪われた旭日旗」(月刊Voice 2017年7月号)。

(弁護士ドットコムニュース)

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