「その手術、やっぱりやめます」と言ったら、医者はどう思うか

「その手術、やっぱりやめます」と言ったら、医者はどう思うか

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/01/12
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「怖くなるのは当たり前」

神奈川県在住の橋本行夫さん(65歳・仮名)は、2年ほど前から偏頭痛のような症状があった。時折、右側の視野が歪むような感覚もあったが、眼鏡が合っていないことが原因だと思い、放っていた。

しかし、その後、眼鏡を替えても症状は治まらず、総合病院でMRI(磁気共鳴画像)検査などを受けたところ、脳腫瘍だと診断された。橋本さんが語る。

「幸い初期(グレード1)だったこともあり、医者は『手術をして取ってしまいましょう』と言いました。妻や娘からも強く勧められ、手術を受けることになった。

でも、脳腫瘍は、手術中に血管や神経を傷つけて、失明などの後遺症が残る可能性があると聞いたんです。それと、頭にメスを入れるのは単純に怖いという気持ちもありました。

しかし、もう入院して、あとは手術日が決まるのを待つだけという状態になってしまった。とても、いまさら手術をやめたいとは言い出せない状況になってしまったんです」

いざ病気が見つかると、患者は次々と決断を求められる。この検査を受けるか受けないか、いつから入院するか。その最たるものが手術を受けるか、受けないかだ。

患者本人の心の準備ができないまま、どんどん物事は進んでいき、後戻りができなくなる。

「私も患者さんから『やはり手術は受けたくない』と言われたことが何度もあります。手術を逡巡される理由は様々ですが、根底にあるのは恐怖ではないかと思います。

医師としては、医学的な判断によって手術を勧めているのですから、『受けたくない』と言われれば『仕方がないな』という諦めのような感情になりますね」(昭和大学横浜市北部病院・循環器センター教授の南淵明宏医師)

病院のベッドでも悩み続けた橋本さんは、手術日が決まる直前、家族がいないタイミングで主治医に伝えた。

「やっぱり手術をやめて、放射線治療に切り替えたいのですが……」と言うと、主治医は少し慌てていた。翌日、あらためて主治医と家族も交えて話し合った。

橋本さんが「お恥ずかしい話ですが、やっぱり怖いんです」と伝えると、主治医も家族も納得してくれた様子だった。その後、通院しながら、放射線と薬物による治療を行い、現在までに腫瘍はかなり小さくなったという。

患者が手術をやめたいと言った時、医者はどう感じるのか。くどうちあき脳神経外科クリニック院長の工藤千秋医師が話す。

「手術を勧められた時、患者さんがためらったり、不安になるのは当然のことだと思います。患者さんが『手術を受けたくない』と仰った場合、私は最低でも2~3回は面談をするようにしています。

患者さんがこちらを信頼し、納得してくれているかは、不思議と手術の結果にも表れます。どちらかが手術に前向きでないと、結果もうまくいかないことが多いのです」

「それは誰のアドバイス?」

国際医療福祉大学消化器外科学教授の羽鳥隆医師は、その決断が一体誰の意思であるかが重要だと語る。

「私は患者さんが『手術をやめたい』と仰った場合は、もちろんご本人の意向を尊重します。ただ、その決断が本人ではなく、家族や知人、あるいはまったくの第三者のアドバイスによる場合は、あまり好ましくないと思います。

よくあるのは、高齢者の方など、手術後にお子さんに生活のサポートをしてもらう可能性が高いから、お子さんたちが勧める選択肢を選ぶというケースです。

このような場合、結果的に患者さんが後悔するという例が多いのです。私はこの点を患者さんに説明するようにしています」

大阪府在住の井上勝治さん(58歳・仮名)の同居していた父親は、まさにこのケースだった。井上さんが振り返る。

「4年前、当時80歳だった父が肺がんのステージⅢだと診断されました。腫瘍の大きさは3cm程度で、私は手術を勧めました。

しかし、最初、父は頑なに放射線治療にこだわっていました。いま思えば、以前、別の病気で入院した際、足腰が弱ってしまったことを気にしていたのだと思います。トイレに行くにも一苦労でしたから。

手術を受け、長期間の入院生活を送ったら、退院後に日常生活が送れなくなると不安だったのでしょう。しかし、私が強く勧めたこともあり、結局は手術を受けることになりました」

肺がん手術は無事終わったが、入院生活は3ヵ月に及んだ。退院後、不安視していた通り、父親はほとんど自力で歩くことができなくなったのである。

井上さんは独身で、母もすでに他界。仕事をしながら父の介護、通院をひとりで行わなくてはならなくなってしまった。寝たきり状態になった父親には認知症の症状も出始めた。

介護のために、一時仕事も休職。結局、父親は1年ほど前に肺炎で亡くなったが、井上さんはいまだにあの時の選択を自問している。

「結局、がんは再発しませんでしたし、手術を勧めたことを後悔してはいません。しかし、退院してからの父は常に辛そうな表情をしていましたし、毎日のように私に当たってきました。手術をするか、しないか、どちらがよかったのかはいまだにわからないままです」(同前)

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やっぱりやめます──。

たしかに言いにくい一言だ。医者は困惑するだろうし、モンスター患者扱いされるかもしれない。だが結局、手術の選択は自分の人生の一大事である。思う存分悩む権利が、患者にはあるはずだ。

加えて、医者だって常にベストな治療法を提示しているとは限らない。医療法人社団「進興会」理事長の森山紀之医師が解説する。

「一番の問題は医者が自分の専門領域に固執し、手術至上主義になってしまっている場合があることです。

たとえば食道がんなど、手術が難しいとされていますが、進行がそこまで進んでいなければ、放射線治療でも手術でも結果はほぼ同じという報告があります。

しかし、外科医は手術が専門ですので、放射線治療の話はしないで『手術しかありません』と説明するケースがある。

外科医だけでなく、内科医や放射線科医など、いろいろな科が集まって一人の患者さんを治療する、チーム医療が確立されている病院でセカンドオピニオンを聞くといいと思います」

チーム医療体制が敷かれていれば、たとえ外科医が気分を害したところで、他の専門医の目があるので、安心していいだろう。前出・工藤氏はこう語る。

「患者さんの不安を取り除くのも医師の役目です。患者さんも、主治医に率直に不安に思っていることを聞いてみるのもいいでしょう。

そして、その時の医師の態度をよく見ることです。その医師がきちんと誠実に対応しているのかどうか、それを判断してから、手術を受けるか、受けないかを決めても遅くはないと思います」

「週刊現代」2018年11月17日号より

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