「夜のお誘いは無理...」東京で独身を謳歌していた女が、“母”として送る一通の苦悩LINE

「夜のお誘いは無理...」東京で独身を謳歌していた女が、“母”として送る一通の苦悩LINE

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  • 更新日:2019/08/19

ワーキングマザー。

それは働きながらも子育てをする母親の総称。

独身を謳歌するバリキャリ女子でもなければ、家で夫を待つ専業主婦でもない。

“母親”としてだけでなく、1人の働く女性としてキャリアを積みたい、と願う女性たちのことである。

だがそんな彼女たちに待ち受けるのは、試練ばかり。

青山の専門商社で働く翠は、産休を取得し念願の息子、颯太を出産するが、慣れない育児に疲弊していく

また医師から、颯太にアレルギー疾患があると告げられるが、夫の大樹と連絡が取れず茫然とするばかりだった。

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「小麦アレルギーですか…。残念ながら、うちでは受け入れていません」

iPhone越しの男の言葉に、翠は大きくうなだれた。

―また断られた…。これで何軒目だろう…。

リビングのガラステーブルに置いているデカフェのコーヒーは、すっかり冷めきっている。

出産前、近くのスタバでまとめ買いしていたカフェインレスのコーヒー豆の消費が、最近激しい。これは全て東京に戻ってすぐに始めた、保活のせいだ。

もし全てダメだったらベビーシッターを雇うか、会社を辞めるしかない。ベビーシッターを雇えば翠の月収がすべて消えてしまうため、現実的ではなかった。

つまり保活は、絶対に負けられない戦いなのである。

翠は颯太を背負いながら区役所を訪問したが、アレルギー対応しているかは、各園に自ら電話で問い合わせて欲しい、と素っ気なく言われた。

30以上もある保育園に順番に電話する。考えるだけで気が遠くなったが、やるしかない。だが先ほどのように、あっさり断られることがほとんどだった。

ひとまず明日また他の園に問い合わせよう、そう気を取り直し翠はパソコンを閉じた。お腹が空いたのか、颯太がぐずり始めている。

ぐずる颯太にご飯を食べさせ、自分は慌ただしくキッチンで夕食をとったあと、急いでお風呂に入れ寝かしつけているとiPhoneが震えた。

―颯太の調子はどう?今日はちょっと遅くなるから夕飯大丈夫。

小麦アレルギーが発覚して以来、夫の大樹はマメに連絡をくれるようになったが、相変わらず仕事は忙しいようで帰りは遅い。

―うん、大丈夫。じゃあ先に寝てるね。

いつもなら大樹が遅く帰ってきても、翠は1回起きて今日あった出来事などを話していたが、この日はそんな気力も湧かず、何とかそれだけ返信すると颯太とともに泥のように眠りに落ちた。

保活に奮闘する翠だったが、意外な人物からの情報に救われる…!そして独身を謳歌していた女たちの葛藤・”夜の誘い”を断る切なさ

その後も、翠は寝る間を惜しんで保活をした。

インターネットでの情報収集、区役所で応募状況の確認、すべての園の見学…やることは山ほどある。家から通えてアレルギー対応してくれる園は、なかなか見つからない。

保活がうまく進まない翠は、またしても孤独を感じていた。

―誰も味方がいない…。

ふとそんな気持ちが襲ってきた。実家から離れ、夫の大樹ともゆっくり話せない状況も、追い打ちをかけて翠を孤独にさせるのだった。

妊娠したときは、周囲の皆に心から祝福されていると感じた。なのに子どもを産んで社会に戻ることは、あまりにもハードルが高い。

だが隣で眠る颯太の横顔を眺めていると、こう思い直すのであった。

――颯太のためだもの、こんな弱気になっちゃダメだよね。この子を幸せにして、仕事もできるように頑張ろう。

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ピンポン―。

ある日の午後、マンションのチャイムが鳴りモニターを確認してみると、そこには会社の先輩ママである池田絵里の姿があった。

絵里は2人の子を持つワーママで、入社当時からお世話になっている。

「翠ちゃん、久しぶり!仕事で偶然近くを通りかかったから寄ってみたの。子育てどう?忙しい??」
「絵里さん…!ありがとうございます!ちょっと散らかってるけど、入ってください」

麻のスーツを着て、にっこり微笑む絵里はそれだけで眩しく見えた。昔から面倒見のいい性格で、信頼している先輩だ。「突然お邪魔したのに申し訳ない」と恐縮する絵里を喜んで迎え入れ、近況を報告し合う。

保活がなかなかうまくいかない状況を訴えると、絵里はこんなアドバイスをしてくれた。

「認可の保育園ばかりに目が行きがちだけど、最初から認可外狙いでもいいと思うの。点数稼ぎもしなくていいし、申し込みさえできれば後が楽だから」

絵里の言葉は、目から鱗だった。認可外保育園なら先着順のためその場で入園が決定する。

その後は子育ての悩みや会社の噂話など、絵里が持ってきてくれた冷たいゼリーをいただきながら、2人でおしゃべりに興じた。1時間弱という短い時間だったが、翠にとっては大きなリフレッシュとなった。

その後翠は絵里のアドバイス通り認可外に的を絞り、大樹と交代で入園受付に徹夜して並んだ末、やっと入園の切符を手に入れた。

でも、これでようやくスタート地点に立ったばかりだ。

会社に復帰して、すべての試練はこれからやってくる。そんな予感を前に、翠はすでに覚悟を決めようとしていた。

そして職場復帰まで1カ月を切ったある日、不意に同期の健太から連絡がきた。

健太は翠が入社当時に2年ほど付き合っていた元カレで、同期の中ではリーダー的存在である。

―元気?来月から会社来るんだよね。来週、同期で飲み会するからよかったら来なよ。

LINEのメッセージとともに、ジョッキを持った写真が送られてきていた。翠はその写真を見て、相変わらずの健太の様子に、思わずくすりと笑った。別れたあとも仲のいい同期として、何かの折にふと連絡がくるのだ。

もう2年近く、お酒は飲んでいない。颯太にはまだ母乳を与えているから、当然まだ飲むことはできない。

独身の頃、日付が変わったのも気にせずワイワイ飲み歩いていた頃のことを思い出す。仕事や恋愛の話は終わりがなくて、東京の夜はただ楽しく、この日々が永遠に続くような気がしていたのに。

ずいぶんと遠いところに来てしまったように思えた。正直、少し寂しい気持ちがない訳ではない。

―連絡ありがとう!子どもの面倒見なきゃいけないから、夜の飲み会には行けないんだ。復帰したら、またよろしくね。

復帰してもきっと、いつ同期会に行けるかは正直分からない。

健太にそうLINEを返してキッチンに戻り、翠は颯太の離乳食作りを黙々と再開した。

満を持して1年ぶりの職場復帰!周囲の反応は予想外にも・・・?

今日は育休明け、初めての出勤日。

翠は久しぶりにお気に入りのマノロのパンプスを履き、背筋を伸ばした。

上司との話し合いの末、翠の仕事内容は、営業から事務中心に変更することになり、10時から16時までの時短勤務を選択した。

とはいえ様子を見ながら、フルタイムに戻していきたい。時間の制約はあっても産休前と同じパフォーマンスを発揮したい、という意欲があった。

保育園まで自転車で颯太を送り届け、満員電車に飛び乗ると、不思議なほど身が軽い。満員電車の窮屈さも苦ではなく、スマホでニュースを見たり新書を読んだりできることが嬉しくて仕方がないのだ。

それはまさに、久しぶりに手にした“自由”だった。

こんなことに感動するなんて、子どもがいない頃は気づきもしなかった。

しかしその解放感もつかの間、1年ぶりに青山一丁目の駅に到着する頃には緊張で手が震えはじめた。

産休前の自信や誇りはどこかに忘れてきてしまったかのように心もとない。フロアに到着し深呼吸してからドアを開けると、周囲の視線が一気に翠に集まった。

「おかえり!」「待ってたよ!」

見渡す限り、皆笑顔だった。いつもあんなにも無口だった上司の上田さんが笑顔で出迎えてくれたことに驚きを隠せない。

「長い間お休みいただいて、ご迷惑おかけしました……!」

予想外の暖かい雰囲気に涙が出そうになるのを我慢しながら、自分のデスクまで歩こうとしたとき、ポンと肩を叩かれた。

「翠、おかえり。今日から仕事たくさん用意してあるからね」

同期の中でも一番の美人、と言われている秋山凛だった。今日から翠は、凛と同じチームで働くことになる。

特別親しくしていたわけではなかったが、これからは一番身近な同僚だ。「よろしく」と返事をしようとした、そのときだった。

ブルブルブル―。

スーツのポケットでスマホが震え、慌てて画面を確認する。保育園からの電話だった。

「颯太君のお母さんですか? 颯太君、急に熱が上がってしまって、至急、お迎えに来てもらえませんか?」

翠は、はい、と答えることしかできなかった。上司である上田さんに事情を説明し、フロアを飛び出した。仕事を再開するまでもなく、保育園までとんぼ返りだ。

颯太を心配する気持ちと、帰らなければいけない悔しさで、胸が締め付けられた。

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「翠!」

エレベーターの前で呼び止められ振り向くと、凛が追いかけてきていた。

「ごめん、ちょっとこれから保育園に行かないといけないから急いでて」

そう言うと、凛はわざとらしくため息をついた。

「仕事は? 翠が休んじゃうと私の負担になるんだよ。颯太君もかわいそう」

凛に近づき、好戦的な彼女の視線をとらえた。

「仕事は、申し訳ないと思っている。でも何であなたに、かわいそう、って言われなきゃいけないの……?」

そう言い返し、翠はぎゅっと固く口を結んだ。

▶Next:8月21日 水曜更新予定
いよいよワーママになった翠の不満が爆発する!その意外な行動とは?

▶明日8月15日(木)は、人気連載『美女失脚』

~恵まれたルックスで、男もお金も思い通り、モテまくりの女の人生が、30歳を前に徐々に予想外の方向に向かっていく…。彼女の奮闘が気になる方は、明日の連載をお楽しみに!

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