鳥栖、因縁の残留争いへ。「トーレス・フィーバー」とは何だったのか

鳥栖、因縁の残留争いへ。「トーレス・フィーバー」とは何だったのか

  • Sportiva
  • 更新日:2019/11/23

J1第31節、サガン鳥栖が松本山雅を1-0で下した試合後だった。

「少しも気は抜けませんね」

鳥栖のエース、豊田陽平はそう言って気を引き締めていた。

鳥栖にとっては本拠地での大きな1勝だった。14位に順位をひとつ上げ(16位がプレーオフ、17、18位が自動降格)、残りは3試合、「あと1勝で残留は確定的」という状況にはなった。

しかし、途中出場で流れを変え、”クローザー”のような役割をした豊田は、表情を変えていない。

「喜ぶのは今日だけで十分ですよ。選手もみんなわかっていると思います」

そう言って、次戦に向けて準備していた。

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どん底の状態からチームを立て直した金明輝監督(サガン鳥栖)

11月23日の第32節。鳥栖は同じく残留を争う名古屋グランパス(12位)に挑む。敵の指揮官は、かつて鳥栖を率いたこともあるイタリア人マッシモ・フィッカデンティ。昨シーズン、チームを低迷させて去った監督であり、負けられない相手だ。

スペイン人スーパースター、フェルナンド・トーレスはすでにチームを去った。大口スポンサーも消えた。鳥栖は極めて現実的な戦いを強いられている。この状況でもしJ2に降格したら――。

そもそも、なぜ鳥栖は昨シーズンに続いて残留争いに巻き込まれてしまったのか?

今シーズンの鳥栖は、スペイン人ルイス・カレーラスが監督に就任したスタートの時点で、苦戦必至だった。

「何をやりたいのか、まったくわからない」

選手にこれだけ見放された監督もいないだろう。すでにキャンプの時点で、完全に求心力を失っていた。

「相手のプレスを回避するために、バックラインはダイレクトパスでつなげ!」

そんな無理な注文を出し、選手は困惑するばかりだった。当然だが、相手を引きつけないでボールを回すだけでは、どこかでプレスをはめられてしまう。非論理的な指導によって、多くの選手のプレーレベルが低下。起用法もいびつになった。

「フェルナンド・トーレスの元チームメイト」

カレーラスは、その肩書だけで就任したようなものだった。スペインでも監督としては失敗続きだ。その迷走はほぼ必然だったのである。

つまり、鳥栖はチームマネジメントの出発点で失敗していたのだ。クロアチア人DFニノ・ガロヴィッチ(古巣のディナモ・ミンスクに期限付き移籍)のように、多くの新戦力も満足に稼働していない。ポジション別に見ても、豊田、トーレス、金崎夢生、趙東建、ビクトル・イバルボ(V・ファーレン長崎に期限付き移籍)などストライカーばかり集める一方、パサーやセンターバックは極端に乏しい陣容だ。昨今の補強のゆがみの積み重ねで、編成バランスは著しく悪かった。

その結果は、開幕10試合で1勝1分け8敗。1得点16失点と、内容も惨憺たるものだった。ボールを持たされることはあっても、少しも相手に怖さを与えていない。結局、パスをひっかけられ、脆弱なディフェンスを打ち抜かれた。

頼みのトーレスも10試合無得点。見ていて気の毒になるほどのありさまだった。

「前から守備はしなくていい。ゴールのパワーを貯めておけ」

カレーラス監督からそんなお墨付きをもらっていたトーレスだが、すでにトップフォームではなく、シュートは明後日の方向に飛んでいくことがままあった。全盛期のトーレスでは考えられないような外し方だった。腰がぐらぐらし、フォームが崩れてしまう。上半身は筋力をつけており、ヘディングシュートなどは圧巻の威力を見せたものの、下半身は膝を中心にした故障で、思いどおりにはならない状態だった。

あまりの体たらくに、クラブはようやくカレーラスのクビを飛ばした。

この苦境に、金明輝監督が”再登板”することになった。昨シーズン、フィッカデンティの後任として残り5試合の時点で監督に就任すると、3勝2分けという成績で、奇跡的にチームをJ1に残留させた。選手の信望も厚かった。

そして今シーズンも就任するや、失意に沈んでいたチームの成績を、9勝4分け8敗と勝率五分にまで戻している。短期間のうちにプレーの仕組みを整え、公平に選手を扱った。トーレスでさえ、特別扱いをしなかった。豊田なら高さを生かすなど、シンプルに選手の特長を生かす編成を相手に応じて決定。興味深いのは、金監督体制でトーレスのシーズン初得点が生まれている点だろう。

すなわち、今季の鳥栖は、クラブとしてわざわざ難しい戦いを選んでいたことになる。

マネジメントのミスはいまも禍根を残している。カレーラス監督は複数年契約だったことで、これからも高額のサラリーを払い続けるという(それは名古屋の監督に就任するまでのフィッカデンティについても同じだった)。経営はすでに悪化しているとされ、これからも苦しくなると予想される。シーズンが終われば主力選手の引き留めに苦労するだろうし、新戦力を獲得する資金的余裕もないのではないか。金監督が続投することに、一縷の希望はあるが……。

<トーレス・フィーバー>

それはひとつの宴だった。だが、いまとなっては、すでに夢や幻だったかのように思える。足元にはすでに崖が迫っている。

名古屋戦を、鳥栖はJ1残留を決めるために戦う。

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