ゴーン事件で「日産珠玉の技術」の中国流出が防がれた可能性

ゴーン事件で「日産珠玉の技術」の中国流出が防がれた可能性

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/12/07
No image

産業革命か打ち上げ花火か

ドイツメディアが日本車を褒めるということは、極めて稀だ。ところが、日産の電気自動車「リーフ」がEUに上陸したとき、ドイツのメディアが控えめに褒めた。つまり、これはほとんど「絶賛」に等しい。

あんまりびっくりしたので、私のように車に興味のない人間でさえちゃんと覚えているほどだ。日産の、いや、日本の電気自動車の技術は、おそらく世界中でも超一流なのだろう。

一方、今、ヨーロッパのメーカーで電気自動車というと、真っ先にルノーという名が挙がる。

もう20年以上も前のことだが、幼稚園に迎えにきている母親の一人が白い小さなルノーに乗っていた。車体に曲線が少なく、なんだか冷蔵庫のような車だと思った。合金を曲げる部分を減らせば生産コストが下がり、安い車ができるのだとあとで聞いて、妙に納得したものだ。

当時、ドイツ人がルノーと聞いて連想したのは、「労働者がストばかりしている、なんだか効率の悪そうなフランスの国営会社」だった。実際にはF1で活躍し、今や様々なスポーツカーを世に送り出してもいるが、それでも、ドイツの自動車市場には自国製品の選択肢が豊富にあるため、ルノーの入り込む隙間はあまりない。

一方、ルノー車の新興工業国への輸出は伸びている。ただ、購買力平価(各国の換算物価がほぼ均等になる為替レート)で見た世界経済力ランキングでドイツに遠く及ばないフランスが、ドイツと同じユーロレートで競争するのは明らかに不利だ。つまり、いくら売っても儲けにつながらないというジレンマがある。

ドイツが、自国の経済力にとっては安いユーロレートで儲け過ぎているのとは正反対の現象で、マクロン大統領の歯ぎしりが聞こえてくるようだ。彼が、何が何でもユーロ圏における財政統合を進めようと躍起になっているのは、そういう尤もな理由がある。

No image

〔PHOTO〕gettyimages

ところが、そのルノーの電気自動車が、ヨーロッパでは雄なのだ。

その陰には、傘下の日産の多大な功績があっただろうということは想像に難くないが、いずれにしても、「電気自動車ならば、自動車大国ドイツの優勢を覆すことも夢ではなくなった」と、そうフランス政府が考えたとしても不思議ではない。ルノーの筆頭株主はフランス政府である。

そのせいか、フランスは電気自動車普及に向かって、信じられないほど前のめりだ。すでに去年、2040年までに国内においてガソリン車もディーゼル車も販売を禁止すると発表している。産業革命の宣言に等しい。

ただ、それまでに本当に給電スタンドが完備するのか、バッテリーの供給が追いつくのか、わからないことが多過ぎる。しかも電気自動車は、ガソリン車やディーゼル車よりも簡単に作れるので、関連会社が少なくて済む。これまでの自動車産業が抱えてきた膨大な雇用を到底吸収できない。

そう考えれば、この宣言は実は産業革命ではなく、単なる政治的な打ち上げ花火かもしれない。

電気自動車市場の現状

打ち上げ花火では、しかし、ドイツ政府も負けていない。すでに2010年の時点で、2020年までにドイツの道路に100万台の電気自動車を走らせるという目標を打ち立てた。そして、その一環として、電気自動車を買った人にかなり潤沢な補助金を出している。

当初は、その膨大な補助金で潤うのが、ドイツではなく、フランスや日本の自動車メーカーになったらどうしよう? と懸念されたが、蓋を開けてみたらすぐ、それは取り越し苦労だということがわかった。いくら補助金をつけても、ドイツでは電気自動車はまだそれほど売れていない。

2018年9月現在、登録されているのが、プラグイン・ハイブリッドを含めても14.3万台。あと2年で100万台の目標が達成できるとは思えないが、しかし、状況は急激に変わり始めた。2015年に降ってわいたディーゼルゲートや気候温暖化問題で、人々の考えが揺れ動いているからだ。

「いったい自分たちは、どの自動車を買うべきか?」

No image

〔PHOTO〕gettyimages

一方、電気自動車がすでに急速に増えている国もある。たとえばノルウェーでは、2017年、新規に登録された車の約4割が電気自動車だった。伸びの原因は補助金のつき方が半端でないこと(優遇措置が終われば、どうなるかはわからないが)。

また、国家優遇策といえば、チャンピオンはもちろん中国。こちらは、補助金が直接、中国の自動車メーカーに入るため、メイド・イン・チャイナの電気自動車の価格が下がる。そのおかげで、世界で一番売り上げの多い自動車メーカーは、1位も2位も中国の会社だ(日産6位、ルノー11位、テスラ23位)。2017年、すでに世界の電気自動車の4割が中国で走っている。

とはいえ、中国での新規登録に占める電気自動車の割合は、まだわずか2.2%。中国の市場は地平線が見えないほど巨大なので、つまり、需要はまだ無限にある。これから電気自動車を売ろうとしている世界中の自動車メーカーの視線が、ひたすら中国の方を向くのは当然のことだ。

2017年12月、ルノーグループが華晨中国汽車(ブリリアンスチャイナ)と電気自動車生産のための合弁会社を設立すると発表した。また、BMWと華晨中国汽車の合弁会社であるBBAも、中国での生産を急速拡大する予定。そのほか、ダイムラー、VW、ボッシュなども、軒並み、現地生産を増やす方向で突き進んでいる。

電気自動車の肝はバッテリーだが、現在、ヨーロッパの電気自動車が積んでいるバッテリーは、すべてアジア製だ。ヨーロッパのメーカーは、ぼんやりしているうちに開発に乗り遅れ、市場に入り損ねた。ただ、アジア製といっても、多くがCATL(世界最大の中国のバッテリーメーカー)など中国製。だから、中国としては、自国の電気自動車が売れても、他国の電気自動車が売れても、必ず儲かる。

今年の夏、李克強氏が訪独してメルケル首相と会ったとき、CATLのバッテリー工場のドイツ誘致も決まった。電気自動車を中国で生産するなら良いが、ヨーロッパで生産する時には、バッテリーの調達に時間と手間が掛かり過ぎるからだ(バッテリーは危険物なので飛行機では運べない)。

CATLが旧東独のチューリンゲン州に得た建設予定地は80ヘクタールで、サッカー場にすれば112面。初期投資額が2億4000万ユーロ。アウトバーンのインターチェンジに近いので、製品は、どの自動車メーカーにも数時間で運べるとか。

ドイツ政府はというと、この工場が東欧ではなく、ドイツに来てくれたと小躍りしそうな勢いだった。BMW社は早くも、ここで最初に作られたバッテリー15億ユーロ分の発注を出した。

「アメリカvs.中国」の拡大

かくしてEUと中国の経済の結びつきは固い。

しかもドイツ政府は、中国への技術の流出に、少なくともこれまではそれほど目くじらを立てなかった。だからこそ、最先端ロボット技術を誇るKUKA社など、多くの重要な企業が中国に買収された。今、中国の工場では、KUKAのロボットがせっせとドイツ車を作っている。

ルノーグループと華晨中国汽車の合弁はすでに決まっているのだから、さらにルノーと日産が正式に合弁すれば、華晨中国汽車と一体になる。新組織における日産の権利は縮小し、珠玉の電気自動車テクニックも、あっというまに中国の手に渡るだろう。EUと中国はさらに渾然一体となっていく。

一方、まさにこういう状態を看過できないと思っているのが、アメリカだ。

現在の米中貿易戦争は、中国による知的財産権侵害を絶対に許さないというアメリカ人の強い意思によって支えられている。トランプ大統領の気まぐれや、ましてや失政などでは決してない。

今回のカルロス・ゴーン氏逮捕は日本の検察のアクションだったとはいえ、アメリカ政府の方針と合致している。ひょっとするとこれにより、失われるはずだった知的財産が一つ、守られるかもしれない。

No image

〔PHOTO〕gettyimages

なのにドイツ政府は、トランプ大統領の対中国政策を非難して、「公平で自由な貿易を守るため、中国とドイツが協力して、アメリカに警告を出さなければいけない」などと、ピント外れなことを言い続けている。

トルコやポーランドなど、曲がりなりにも議会政治をしている国のことを、民主主義を逸脱していると非難しながら、選挙さえない国がOKとは、まことに不思議な現象だ。

いずれにしても、これからもアメリカは本気で、中国の膨張を防ごうとするだろう。軍事も、ハイテクも、そして、マネーも。その対決の構図は、すでにアメリカvs.中国だけではなく、アメリカvs.EUでもある。

ただ、ドイツでは、そんなことは誰も気にかけない。ゴーン事件も、最初からほとんどニュースとして取り上げられなかった。

景気の良いドイツ。町は賑わい、人々はクリスマスの買い物に無我夢中。ルノーは、昔も今もドイツ人の視野には入っていないようだ。

No image

欧州の高齢国ドイツが苦しむ介護と医療の問題を紹介し、日本と徹底比較。在独35年超の著者が日本での両親の入居施設探しに奔走した経験などを交えつつ綴る、介護・医療の国際比較ルポ。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

中国・韓国・アジアカテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
日本の態度が変わった?徴用工判決めぐる河野外相の「融和的発言」に注目集まる
日本で制作された「日中戦争を題材にしたドラマ」、中国人は赤面せざるを得ない=中国
「宗主国」の日本人へ~モンゴル人からのあるメッセージ
日本に来たことを後悔する中国人、「中国の友人との差が・・・」=中国メディア
中国人が日本で医師刺すも「中国人患者の受け入れ断ることはない」、中国ネットはあることにビックリ
  • このエントリーをはてなブックマークに追加