80年代にあえて着物を売った会社の「逆張り」経営術

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/12/07

無料のきもの着付け教室を全国に展開し、和服の販売仲介を行う日本和装ホールディングスの創業社長・吉田重久氏(55歳)を取材した。'80年代後半、既に日常で使われる機会が減っていた和装の業界で起業し、東証上場、経団連入会を果たすまで事業を拡大できたのはなぜか。その歴史を聞いた。

「和装」の市場は成長途上

【逆張り】

21歳の時に舶来品の輸入販売の事業を立ち上げ、洋服も扱ったのですがなかなかうまくいかずに四苦八苦しました。そんな折、きもの屋を営む知人に「なぜきものを扱わないの?」と聞かれました。

確かに、洋服を輸入しても袖丈などを補正しなければならず「シルエットを崩して販売するのも……」という葛藤がありました。ただ、当時からきものを着る人は減っていて、人に相談すると必ず「やめておけ」という返事が返ってきました。しかし「人がやらないからこそ、ここにチャンスがあるのではないか」と逆から考えることにしたのです。

【創造力】

業績を伸ばすことができたのは、きものとともに「きものの良さ」を売り込んできたからでしょう。自動車の運転免許がない人に対して車は売れません。同じように、きものの着付けができない人に対して和装品は売れないのです。そこで、無料の着付け教室をひらき、きものを着る人を増やすことから始めました。

当社はきものの生産者、問屋と、着付け教室の会員の仲介をしてきました。いまでは、これに留まらず「きものゆうゆう保険」や、無理なくきものを買っていただくためのクレジット会社も立ち上げました。新規参入だけに、既存の企業とは別のアプローチをとったのです。

輸入販売はやめてよかったですね。いまでは、日本と海外でブランド品の価格差がなくなっているので、そのまま続けていたら、どこかで行き詰まっていたでしょう。

一方、日本の文化と日本人の体に合った「和装」の市場は成長途上にあります。事業を転換した時には父にも反対されましたが、上場したときにやっと「よくやった」とほめてもらえました。これはうれしかったですね。

育成のために必死で休んでいる

【新参者】

きものが着られなくなった一因には「古い慣習」があります。例えば、厳しい流派では、帯のたたみ方にまで決まりがあります。細かい決まりがたくさんあるために、いまだ「着付けは難しいもの」というイメージが残っているのです。

また、きものの仕立てにも「関東仕立て」「関西仕立て」「京仕立て」と様々な仕立てがあります。縫製仕様は統一されるべきだと考えた私は「先生」と呼ばれる方たちに「関西・関東・京仕立ての定義を教えて下さい」と伺ったのです。すると「先生」方は「昔からこうだったんだ!」と強弁するだけでした。

業界は、成立して時間が経てば経つほど、正すべきことも出てきます。これを変えるために最も必要だったのは「新参者が!」となじられてもへこたれない「勇気」でした。

【家系】

起業したのは「何かを興すのが当たり前」の環境で育ったからだと思います。父は、日本で初めてマグロを空輸するなど、様々な事業を興しており、兄も福岡でバイクショップを3店舗経営しています。

実は、私は二人から「お前は経営のプロじゃない」と言われ続けてきました。自分でも、社員の気持ちに敏感なタイプではないと思います。でも、社員といい付き合い方をする方法は1つだけではないでしょう。私は「社員に嘘をつかない」「やりたいことは明確に言う」。この2点だけは守ってきました。

【必死】

最近、凝っているのはオートバイです。先日は4日かけて東京から福岡に行ってきました。監査法人から「万一のことがあったらどうするんだ」と止められましたが「全国の拠点をまわって社員に元気な姿を見せたいのです!」と理由をつけ、飛び出してしまいました。

確かに少し危ないかもしれませんが、スリリングな状況に身を置くことで、若い頃の頭や体の感覚を取り戻したかったのです。

あと、最近は「必死で」休んでいます。私が出過ぎると人材が育たないと考え、歯を治したり、英会話を学んだりして出社時間を減らしたのです。うれしいことに会社はうまくまわっていました。何でも自分でやりたい性格だから、自分が手を動かせないのはどこか怖い。でも「今こそ信頼する人たちに任せるべきだ!」と命がけの思いで休んでいます。

【汗】

最近「和装を世界遺産にするための全国会議」というNPO法人を立ち上げました。和装は日本の風土や暮らしが培った、世界に誇る伝統文化。四季折々の季節を模る文様、日本の草花で彩られた染物……すべてに「日本そのもの」が息づいています。

セオドア・ルーズベルトの言葉に「真に賞賛しなければならないのは、泥と汗と血で顔を汚し、実際に現場に立つ者」というものがあります。いまの私の目標は、まさにこれです。汗を流し、後世の人に「あの人たちがいたから今もきものの文化が残っている」と言ってもらえたらうれしいですね。

(取材・文/夏目人生法則)

『週刊現代』2017年12月9日号より

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