アサヒビールがシェアNo.1を守り続けられる理由

アサヒビールがシェアNo.1を守り続けられる理由

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2016/12/01
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アサヒビール 平野伸一社長

アサヒビールが元気だ。今夏、チューハイ「もぎたて」が大ヒット。ビール類のシェアナンバーワンも堅持している。

同社を牽引するのは、豪放磊落で、いかにも「カリスマ社長」といった雰囲気の平野伸一氏(60歳)。現場主義を掲げ「社員との密接な関係が大切」と語る平野社長だが、同社に勤める若手の名を出すと「ああ、先日、社員食堂で隣だったよ」と答えるほど、現場を知り尽くしたトップだ。

前社長の衝撃の判断力

夕日ビール

「スーパードライ」発売前、当社の業績は低迷し「夕日ビール」と揶揄されるほどでした。そんな状況にあった'82年、元住友銀行の村井勉さんが社長に就任しました。入社4年目だった私はこの人事に「また外部の社長か」と醒めた気持ちでした。ですが、トップが変わると社が変わったのです。

まず、雲の上の存在だった社長が、工場や得意先はもちろん、私の支店にも来て、意見に耳を傾けてくれました。しかも、とにかく明るく元気! 次の樋口廣太郎社長は「売れ残って古くなったビールはすべて店頭から引き上げて破棄しろ」と、当時の我々にはありえない指示を出しました。

「古いビールが残っていたら鮮度が高いビールを売れない」という、今思えば当然の理由でした。大ヒット商品「スーパードライ」が出たのはその直後。大規模なマーケティングの勝利のように言われますが、根本にはトップによる改革があったのです。

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全国の各支店や工場を訪ね、社員を鼓舞する。研究所訪問時の写真で、左から2人目が平野氏

NG

トップは不器用でいい、と思います。当社はRTD(そのまま飲用可能な缶チューハイなど)の分野が弱く、カクテルなどに活路を見出してきました。そのようななか、あえて「ど真ん中を攻めよう」と、最も市場規模が大きいレモン味、グレープフルーツ味のチューハイを開発しはじめたのです。

商品には「負い目」があったら負け。味の良さを数値化する「官能評価」で同じ市場のどの商品よりいい結果を出し「本当においしい」と自信を持てるものができなければ、営業もお客様をごまかすことになります。

開発期間は約3年の長きにわたりました。現場が持ってきた試作品にも「まだできる!」とNGを出し続けました。

その結果、担当者は「農園で果実をもいで24時間以内に搾った果汁を使う」など、材料の調達の分野まで変革し「もぎたて」を完成させたのです。トップの仕事は不器用に、妥協も温情もなく「やる!」と念じたことをやり遂げるのみです。

地味な部署が作ったヒット商品

遠き栄冠

大学生の時、日本拳法部に所属していました。友人に「格闘技の中で最強だぞ」と誘われ入部したのです。この競技、7人のチームが総当たりで戦って勝敗を決めるのですが、私たちの部は選手層が薄く、私を含む4人以外はまったく勝てなかったのです。選手権の時も、すべて4勝3敗で勝ち上がり、王者決定戦も4人が勝てば優勝できる、と確信していました。

ところが戦ってみると、4人の成績は3勝1分け。残りも負けて、優勝を逃してしまったのです。当時は「個人最強だったら、私たちの誰かだ」と悔しがったものですが……。でも、今思えば優勝できなくてよかった。なぜなら、組織の強さは、全員の力の総和だからです。

「スーパードライ」だって、マーケティング担当、中身の開発者、工場の担当など全員でつくったもの。悔しい敗戦からは、大きな学びがありました。

百年構想

歴史が好きです。若い頃は信長の革新性に憧れましたが、今は家康に共感します。最近読んだ『家康、江戸を建てる』という小説によると、彼は秀吉から関東八州への国替えを打診された時点で、石高が約束通りの240万石はないことも、干潟を埋め立てれば240万石以上の豊かな国になることも知っていたようです。

そして、戦で功名をあげた武将でなく、当時は一段低く見られていた官僚肌の人間を抜擢して干拓と治水事業を任せました。

このように、家康は情報収集や人材の抜擢が上手く、しかも、天下をとったあとの政権構想、長期ビジョンも持っていました。のちに、豊臣家を破ったのは必然だったのかもしれません。

積み重ね

今後の目標はずばり「全カテゴリーでナンバーワンを目指す」です。そのために当社は、技術力を高め、人材を育てていく、まっすぐな戦略をとります。

技術力でいえば、例えばビールの香りの成分を分析する機械は当社が最先端。根っこにある技術力が高いから、味が良いものができるのです。

マイナス2度に冷やした「スーパードライエクストラコールド」の機材を開発した研究部門は、以前、包装を担当する地味な部署と言われていました。でも今は、商品が売れ、自信が漲り、どんどん新たな機材を出してきます。

このような地道な積み重ねが、業績に反映されるのです。だからこれからも、私は各支店や工場を駆け回って全社を鼓舞し続けますよ。ただ、私は自分のことを「カリスマ」ではないと思っています。若いころから、相手の反応を見ながらきちんと話してきた積み重ねがあるだけのことではないでしょうか。

(取材・文/夏目幸明)

平野伸一(ひらの・しんいち)
'56年、広島県生まれ。早稲田大学教育学部を卒業し、'79年にアサヒビールへ入社。営業、人事、経営企画部門などで実績を残し、'08年に執行役員埼玉支社長に就任。'11年に常務取締役営業統括本部長、'13年に専務取締役、'15年に取締役副社長、'16年に代表取締役社長へ就任、以来現職

週刊現代』2016年12月3日号より

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