文在寅とトランプ「かみ合わなかった米韓首脳会談」の舞台裏

文在寅とトランプ「かみ合わなかった米韓首脳会談」の舞台裏

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/04/16
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トランプ大統領の頭の中

先週、4月11日という日は、朝鮮半島にとって盛りだくさんの一日だった。

韓国では大韓民国臨時政府(日本植民地時代に上海で亡命政府を宣言)の100周年記念式典が開かれた。また北朝鮮では、年に一度の最高人民会議(国会)が開催された。一方、ワシントンでは、ドナルド・トランプ大統領と文在寅大統領の米韓首脳会談が開かれた。

それぞれの場で、朝鮮半島情勢を左右する3人のキーパーソン――文在寅大統領、金正恩委員長、トランプ大統領が、それぞれ「自説」を述べた日だった。

この3首脳の中で、いま最も優位な立場にあり、フリーハンドなのは、トランプ大統領である。トランプ大統領の意向次第で、3回目の米朝首脳会談も開けるし、逆に北朝鮮との交渉を打ち切って、空爆することだって可能だ。そのため、トランプ政権の対北朝鮮外交を分析することが、今後の朝鮮半島情勢を見通すために、第一義的に重要だ。

トランプ政権の外交指針は、2017年12月18日に発表した「国家安全保障戦略」で、明確になっている。その骨子は、以下の4点である。

①アメリカ本土の防衛
②アメリカの繁栄の推進
③アメリカのパワーによる世界の平和構築
④アメリカの世界での影響力拡大

このうち、トランプ大統領に「重要なものを二つ選んでほしい」と頼んだら、即座に①と②に印をつけるに違いない。

では、マイク・ペンス副大統領に頼んだら? 「二つなんか決められない、4つすべてが重要だ」と言いそうだ。つまりペンス副大統領は、トランプ大統領と比較すると、③と④に力点が置かれている。

このように、トランプ政権の外交は、「トランプ大統領的な考え」と「ペンス副大統領的な考え」の「二重奏」になっているのが特徴だ。それは、「目先の利益」を最優先するか(短期的アプローチ)、「恒久的な理念」を最優先するか(中長期的アプローチ)と言い換えてもよい。これは、対北朝鮮外交、対中国外交、対ロシア外交、対EU外交など、すべてに当てはまる。

そのことを念頭に入れながら、まずはアメリカ東部時間の4月11日昼に行われた、トランプ大統領と文在寅大統領の米韓首脳会談を見てみたい。

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〔PHOTO〕gettyimages

テタテ会談は2分だけ

この会談は、一風変わったものだった。まず日程である。ワシントンの外交関係者が明かす。

「2月27日、28日のハノイでの米朝首脳会談が決裂した後、米朝の『仲介役』だった文在寅政権は、アメリカ側に米韓首脳会談の早期開催を要請した。それは、米朝間に生じた亀裂を、一刻も早く修復したいという目的からだった。

トランプ大統領は、北朝鮮とはすでに直接交渉しており、別に韓国大統領から助言が聞きたいとは思っていなかった。それで当初、難色を示していたが、ある『秘策』を授けられて、応じることにした。

それは、4月11日に、韓国では大韓民国臨時政府100周年の記念式典が開かれ、北朝鮮では最高人民会議が開かれる。そこで、この日に米韓首脳会談をぶつけて、ホワイトハウスから強いメッセージを出せば、朝鮮半島において引き続きアメリカが主導権を握れるというものだった。

だが、この日程を突きつけられた『青瓦台』(韓国大統領府)が、今度は難色を示した。大韓民国臨時政府100周年の式典は、文在寅大統領にとって、大変重要なものだからだ。それでもアメリカ側は『この日しか空いていない』として応じない。最後は文大統領が、しぶしぶこの日程で受け入れた」

ちなみに、大韓民国臨時政府100周年の記念式典は、次期大統領の座を狙う李洛淵(イ・ナギョン)首相が主催した。「1919年」を強調するため、わざわざ夜の19時19分に式典を始めたが、文在寅大統領が欠席したため、盛り上がりに欠けるイベントになった。これは文政権が仕掛けた一連の「反日イベント」の一つのため、日本にとっては救われたことになる。

話を米韓首脳会談に戻すと、その形式も、「3段構え」という珍しいものとなった。すなわち、最初にテタテ会談(両首脳に通訳を交えただけの会談)をオーバル・オフィス(大統領執務室)で30分、次に互いの側近を交えただけの少人数会合を、隣のキャビネット・ルーム(閣議室)で30分、そしておしまいに実務担当者を含めた拡大会合を同室で60分、計2時間というものだ。ワシントンの外交関係者が続ける。

「韓国側は特に、『テタテ会談を重視したい』と要請してきた。つまり文在寅大統領が、金正恩委員長の意向を直接、トランプ大統領にだけ伝え、大統領自身を口説き落とそうという算段だ。

これにアメリカ側は難色を示したが、やはり『秘策』を考えて受諾した。それは第一に、テタテ会談の冒頭で記者団を入れるが、その時間を最大限長くとって、トランプ大統領のメッセージを、テレビカメラを通じて、アメリカ国民と平壌に伝えること。第二に、テタテ会談にメラニア夫人を入れて互いに夫人同伴とし、『秘匿性』と『非公式性』を薄めることだった。

この日のトランプ大統領は、千両役者だった。30分のテタテ会談のうち、記者との応答に、何と26分も使い、残りはたったの4分。移動時間や通訳が訳す時間を除けば、文大統領が切望したテタテ会談は2分だけだった」

こうした背景のもとで、表面的には同盟国らしく友好的なムードだったが、実際にはギクシャクした米韓首脳会談となった。

冒頭のトランプ大統領と記者たちの26分のやりとり全文は、ホワイトハウスHP内の以下のアドレスで見られる。

https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-president-trump-president-moon-jae-republic-korea-bilateral-meeting/?utm_source=link&utm_medium=header

そのうち、前述の「トランプ大統領的発言」と「ペンス副大統領的発言」を赤色と青色で書き分けながら、米韓両大統領の発言要旨を、以下に訳出してみる。

「金正恩と私の関係は、非常に強い」

トランプ大統領: われわれ(米朝)は、まだ望むものがすべて満たされたわけではないが、それでも多くの意味で、合意に向かっていくだろうと確信している。

私と金(正恩)委員長との関係は、ご存じのように非常によい。そしてこれからもよい関係が続いていくと思う。

われわれ(米韓)は、貿易や兵器購入について話し合っている。韓国は非常に多くの装備品を、特に軍事装備品をわれわれ(アメリカ)から買ってくれる。

われわれは新たな、非常に大きな貿易上の取引を韓国と終えたところだ。そしてそれが、まさに効果を出し始めている。

文大統領と韓国は、とてつもない額のわれわれの軍備品を買ってくれると約束したのだ。ジェットファイターからミサイルまでだ。これを評価したい。とても大きな買い物だ。

私が言いたいのは、偉大なプロセスが展開しており、偉大な関係が北朝鮮とも築かれているということだ。金正恩のことは、私はよく知っていて、尊敬もしている。私が希望するのは、そして信じているのは、これからしばらくの間に、多くの素晴らしいことが起こるだろうということだ。

北朝鮮は、とてつもなく大きな潜在力を持っていると思う。そして文大統領も、そのことに合意するだろう。そしてわれわれはまさに、潜在的な会談、この先の北朝鮮、金正恩との会談について議論していくのだ。

そのため、韓国の国民によろしく伝えたいし、金正恩と北朝鮮の国民に対しても同様だ。オバマ政権の時代、また私がこのオフィスにやって来た時とは、関係は大きく異なり、改善されているのだ。

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〔PHOTO〕gettyimages

文在寅大統領: 私と妻をホワイトハウスに招いていただき、感謝申し上げたい。特に、昨晩はブルールームで、あなたが直筆でサインを入れた花を見て、あなたのお心遣いに、とりわけ妻の方が感動した。

今日はすべての韓国人にとって、特別の日だ。なぜなら大韓民国臨時政府の100周年記念日だからだ。アメリカの上下院とも、この重要な日を祝う決議を始めたと聞いている。そのことであなたに感謝したい。

昨年6月12日に、あなたがシンガポールで金委員長と会って以降、われわれは朝鮮半島の政治状況の劇的な転換の証人となった。それまでは、度重なる北朝鮮の核とミサイル実験によって、軍事的緊張は最高潮に達し、われわれは不安定な状況に陥った。

しかし、あなたが金委員長と会い、あなたが金委員長との個人的な外交を主導してからは、朝鮮半島の軍事的緊張は劇的に、目に見えて減り、いまも平和が続いている。また北朝鮮の核問題も、あなたが対話を通して解決できると、いま韓国人は信じている。私が言いたいのは、われわれが証人となったこの劇的な転換は、あなたの強いリーダーシップにかかっているということだ。

その意味で、ハノイの首脳会談は、絶望に終わったのではなく、より大きな合意へ向かう、より大きな過程の一部なのだと信じている。重要なことは、現在の対話のモメンタムを維持し、楽観的な展望、すなわち3回目の米朝首脳会談について、それが近く行われるということを、国際社会に向けて示すことだ。

そのため、あなたが金委員長に対する信頼を示し続けてきたことに、高い敬意を表する。また、北朝鮮が対話の道から逸脱しないことを、あなたは確約させた。そのことにも感謝申し上げたい。

トランプ大統領: ありがとう。それから、国境でいろいろとやってくれた中国にも感謝を述べたい。同じくロシアにもだ。

金正恩と私の関係は、非常に強いものだ。私は他にも強い関係を持っている人たちがいるが、金正恩との関係は、とてもとてもよいものだ。そのことは分かるだろう。

何が起こるか見てみよう。究極的には、世界の誰にとってもよい偉大な解決に終わってほしいものだ。なぜならこれは地域の問題ではなくて、世界の問題だからだ。

あなた(文大統領)のリーダーシップにも感謝したい。あなたのリーダーシップは傑出したものだ。それは他の事も同様で、特にあなたが買ってくれる装備品のことだ。だからあなたのリーダーシップに感謝したいのだ。

「何が起こるか見てみようではないか」

ここから、記者との質疑応答に入った。

記者: (トランプ)大統領、南北の経済プロジェクトを許容する気はあるか。韓国は北朝鮮と、もっと経済プロジェクトを推し進め、経済制裁を緩和させていきたいと考えているが。

トランプ大統領: そうだな、ある種の人道的なものについては、いま話している最中だ。それはOKだ、正直言って。OKと言わざるを得ないだろう。韓国はそれで食糧やいろんな他の物を送って助ける。また他の事についても、再度、われわれは話し合っている。

(この後、ウィキリークスの創始者アサジシ氏が、ロンドンのエクアドル大使館で逮捕された事件についての問答が長々と入るが省略)

記者: (トランプ)大統領、北朝鮮の委員長と3回目の首脳会談を行う気は?

トランプ大統領: それはあり得るだろう。3度目はあり得る。かつ一歩一歩だ。会談ありきではない。必ずあるとは言わない。一歩一歩だ。

私は首脳会談を楽しんでるよ。委員長といるのを楽しんでいる。会談は非常に生産的だと思う。

そして本当に、一歩一歩だ。急いではいけない。長い間言ってきた通りだ。急ぎすぎては必要な交渉ができない。

記者: 南北首脳との3者会談はあるか?

トランプ大統領: そうだな、それもあり得るだろう。思うに、それは主に金委員長次第だ。なぜなら文在統領は必要とあれば乗り気だろうからだ。

北朝鮮は、金正恩のリーダーシップのもとで、とてつもない、本物の潜在力を持っている。何が起こるか見てみようではないか。

記者: (トランプ)大統領、ここ数週間、金正恩と連絡を取っているのか?
トランプ大統領: そのことについてはコメントしたくない。だがとてもよい関係を築いている。

(この後、ロシアゲート問題の問答が長々と続くが省略)

記者: 在韓米軍の費用負担の問題は、毎年更新ではなくて、長期の合意を考えているのか?

トランプ大統領: それは長期で話している。常に長期だ。そうでなければいけない。韓国との関係は特別なものだ。長期でのみ考えるべきものだ。OK?

記者: 開城工業団地の再開を含む文在寅大統領が後押ししている北朝鮮への経済協力を、どの程度サポートするのか?

トランプ大統領: そうだな、それにふさわしい時期が来れば、大きくサポートするつもりだが、いまはその時期ではない。

だが、それにふさわしい時期が来れば、北朝鮮に大きなサポートをする。大きなサポートだ。

韓国、そしておそらく日本、それにアメリカなど、多くの国が援助するだろう。中国も必ずや援助する。ロシアもだ。多くの国が援助する。

正しい交渉がなされた時、すなわち核兵器が消え去った時、北朝鮮はこれまで見せたことがないほどの潜在力を持つことになる。

(北朝鮮は)信じられない場所に位置しているではないか。両側を海に囲まれて、片方にロシアと中国があり、もう片方に韓国がある。これ以上はない、素晴らしい土地だ。素晴らしい潜在力だ。

記者: 北朝鮮が本当に、完全な非核化に関するロードマップを提出するなら、この問題を今日の首脳会談で話し合うか?

トランプ大統領: 話し合う、必ず話し合うとも。それは今日の会談の最重要課題だ。そしてそうなることを願うものだが。それでいいかい?

記者: あなたの立ち位置は、北朝鮮が非核化するまで経済制裁を続けるべきだというものか? それとも対話が続くなら経済制裁を緩和することを考えているか?

トランプ大統領: いや、経済制裁はいまのまま続ける。そして正直言って、経済制裁をもっと強化する選択肢も持っていた。

だが、金正恩との関係があるので、私はそれをしたくなかった。したくなかったのだ。必要とも思わなかった。知っての通り、数週間前にそれを差し戻した。

だが経済制裁は、いまやかなりのレベルにあると思う。

そして、何かとても重要なことが起こると、私は本当に信じている。制裁はいつでも引き上げることができるが、現時点ではそれをしたくなかった。

記者: (トランプ)大統領、あなたは文大統領が言っている「プロセスを前に進める」小さな取引に応じるつもりはあるか?

トランプ大統領: それは、取引が何であるかを見てみないといけないだろう。いくつもの小さな取引が、おそらく起こりうるからだ。いろいろ起こる。仕事は一歩一歩、少しずつだ。

だが現時点で、大きな取引についても話している。核兵器を取り除くための大きな取引だ。

(この後、マスターズ・ゴルフの長い問答になって終わるが省略)

所詮アジアの事など二の次

以上である。この米韓テタテ会談の代わりに行われた問答から見えてくるのは、以下のようなことだ。

・トランプ大統領は、この場を借りて、アメリカ国民と金正恩委員長に、メッセージを発したかった。

・トランプ大統領は金正恩委員長に対して「仲間意識」があって、あまり無碍なことはしたくないと考えている。

・一方で、ペンス副大統領以下、周囲の強硬派もいるので、いまはそちらの言うことを多く聞くようにしている。

・韓国については、トランプ大統領にとって一番の関心事は、韓国に武器を売って儲けること。韓国とはそのような存在である。

・眼前の文在寅大統領にはまるで無関心。アサジシ氏逮捕、ロシアゲート、果てはマスターズ・ゴルフの方が大事である。

・文大統領は、作り笑いを浮かべるばかりで、ほとんど発言できなかった。それは、トランプ大統領と違って、北朝鮮への積極的な関与(経済制裁緩和など)を発言したかったが、もうしそうしたらトランプ大統領の不興を買い、米韓首脳会談が台無しになるリスクがあったためである。それで自重した。

その他に、私が感じたのは、以下のようなことだった。

これはトランプ大統領に限らず、前任のオバマ大統領や他の歴代の大統領時代から同様だが、アジアの指導者たちにとっては、アメリカ大統領のひと言で、自国の政局が大きく左右されるため、必死になってワシントン詣でをして、大統領の信任を得ようとする。だが当のアメリカ大統領にとっては、アジアの事など二の次なのだ。

以前、こんなことがあった。2012年12月、再登板を果たした安倍晋三首相は、1日でも早くオバマ大統領と会談をしようと全力を尽くし、2013年2月に、再選を決めたばかりのオバマ大統領と、ホワイトハウスで初会談を果たした。その直後に、ある民主党系の知人のアメリカ人大学教授(政治学)が来日し、会食した。

その時、私は、「オバマ大統領は安倍首相と初会談し、民主党から自民党へと政権交代した、新たな日本との関係をどう考えているのか?」と質問した。彼は「う~ん」と言って答えない。私が二度三度、同じ質問をしたら、彼はついに口を開いた。

「正直言って、オバマ大統領の頭の中は、9割が内政のことだ。残りの1割で外交のことを考えているが、中国があり、ロシアがあり、EUがあり、中東があり……。日本のことは、外交の中で、おそらく5%くらいしか考えていないだろう。

1割の中の5%だから、全体で言えば0.5%だ。つまりほとんど、どうでもよい。実際、先日の米日首脳会談のニュースなど、ほんのベタ記事で、ほとんどのアメリカ人が、日本の首相が来たことすら知らなかったはずだ」

今回の文在寅大統領の訪米も、これと大同小異だろう。文在寅大統領としては、何とか体面を取り繕うために、多額の武器などを買わされた米韓首脳会談だった。

金正恩委員長の演説から見えるもの

次に、同じく4月11日に平壌で開かれた最高人民会議についても見ておこう。ここで最も注目されたのは、金正恩委員長の発言内容と、新たな人事だった。

人事については、金委員長が新たに「最高代表者」なる称号を得た。また、91歳の金永南最高人民会議常任委員長がようやく引退して、崔竜海副委員長が後任に就いた。朴奉珠首相は党副委員長となり、金在竜慈江道書記が首相を引き継いだ。

金正恩委員長の演説は、非常に長いものだった。まず冒頭で、「金日成・金正日主義化」の徹底を呼びかけ、全国民の引き締めを図った。

「同志たちよ! すべての社会の金日成・金正日主義化の旗を高く掲げ、社会主義の偉業を完成させることは、共和国(北朝鮮)政府に提起された重大な歴史的任務だ。すべての社会を金日成・金正日主義化することは、わが党と共和国政府の最高綱領であり、社会主義国家建設の総体的な方向、総体的な目標である。

金日成・金正日主義を国家建設や活動に徹底的に具現化させてこそ、わが共和国を永遠に偉大な金日成・金正日同志の国家として強化、発展させ、領袖(金日成主席)と将軍(金正日総書記)の意志と念願通りに、わが人民の自主的要求と理想を輝かしく実現できるのだ。

わが共和国政府は、すべての社会を金日成・金正日主義化するための闘争を一層力強く展開し、社会主義の偉業の遂行において、決定的な勝利を収めていく」

このように、きつく前置きした上で、国連の経済制裁が短期的に解除されない見通しであることを受けて、「自主・自立・自力・自衛・自強」を訴えた。

「社会主義国家はあらゆる活動において、自主的な芯を確立して、主体的立場を確固として堅持してこそ、国の尊厳と人民の運命を守護し、自らの実情に即して、自力で社会主義を建設し、完成させることができる。

わが共和国は、自主を朝鮮革命の生命、国家建設の根本的な礎として前面に掲げ、事大と教条、外部勢力の強権と圧力を断固排撃し、革命と建設をわれわれ式に前進させてきた偉大な領袖と偉大な将軍の賢明な領導のもとで、自主・自立・自衛の社会主義国家として建設され、発展してきたのだ。

現在も自主の強国として、世界にその尊厳と威容を、高く轟かせている。国家建設や活動において、自主の革命路線を堅持することは、わが共和国の一貫した立場である。

わが共和国は今後とも、東風が吹こうが西風が吹こうが、いかなる挑戦と難関が前に立ちはだかっても、わが国家と人民の根本の利益に関連する問題においては、わずかな譲歩も妥協もしない。かつ、あらゆることを自力・自強の原則で解決し、われわれ式、われわれの力で、社会主義強国の建設を推し進めていく」

金日成・金正日時代にも、「自力更生」は言っていたが、これほど強く念押しするのは、昨年トランプ政権に期待をかけて、今年2月にハノイでハシゴを外されたという苦い経験に基づくものだろう。

韓国の保守派を悪者にするワケ

詳細は省略するが、金委員長は、工業や農業など各分野における外国に頼らない経済発展を、具体的に指示した。

その後、韓国との南北関係について言及した。

「われわれが昨年、3回にわたって歴史的な北南首脳会談を行い、北南宣言を採択して北南関係で劇的な転換をもたらしたのは、日増しに戦争に近づく重々しい情勢を逆戻りさせ、祖国統一のための新たな旅程の出発を宣言した、非常に意義深いことだった。

わが民族のすべての者たちは現在、歴史的な『板門店宣言』と『9月平壌共同宣言』が、徹底的に履行され、朝鮮半島の平和的な雰囲気が持続し、北南関係が切れ目なく改善されていくことを切に願っている。

だが南朝鮮の保守勢力は、民族の志向と国際社会の一様な期待に対して、あまりにも不 誠実な言動で応じており、北南関係を『板門店宣言』発表前の時期へと逆戻りさせようと、必死になっている。これによってわれわれは、朝鮮半島の緊張を緩和して北南関係改善の雰囲気を継続させていくか、そうでなければ戦争の危険が色濃くなる中で、破局へと突き進んできた過去に逆戻りするかという重大な情勢になっている。

すでに表明している通り、南朝鮮と手を取り合って、北南関係を持続的かつ強固な和解と協力の関係へと転換させ、すべての同胞が同じように願っている通り、平和で互いに繁栄する新たな民族お歴史を記していこうということは、私の確固不動たる決心だと、いま一度闡明しておく。

私は南朝鮮が、真に北南関係改善と平和および統一を望むなら、板門店での会談と9月の平壌での会談時の初心に戻って、北南宣言の誠実な履行によって、民族に対して負っている自身の責任を果たすべきであると考えている。

南朝鮮は、情勢をうかがって右顧左眄し、慌ただしい行脚を早めつつ、差し出がましい『仲裁者』『促進者』の振る舞いをするのでなく、民族の一員として気を確かに持ち、自身が言うべきことは堂々と言って、民族の利益を擁護する当事者になるべきである。

南朝鮮が、真に北南関係改善と平和および統一の道へと進む意向ならば、わが方の立場と意志に共感して歩調を合わせるべきであり、言葉ではなく実践的な行動によって、その誠意を示す勇断を下すべきである」

韓国に対する発言は、微妙である。トランプ政権を御しきれない文在寅政権に対しては、北朝鮮として、相当フラストレーションが溜まっている。だがそうかといって、文在寅政権と袂を分かつことはできない。

なぜなら、北朝鮮に対して大変厳しい国際情勢の中で、文在寅政権はほとんど唯一の味方だからだ。それで文在寅政権への非難はひとまず封印し、韓国の保守派を悪者にしているのである。

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35歳の若い指導者らしく

続いて、金正恩委員長は、アメリカとの関係――期待と失望について、自分の心情を、比較的正直に吐露した。

「同志たちよ! 世界の脚光を浴びる中、昨年6月にシンガポールで史上初めて行われた朝米首脳会談は、炎と炎が行き交っていた朝鮮半島に、平和を定着させる希望を抱かせた画期的な契機となり、『6・12朝米共同声明』は、世紀をまたいで敵対関係にあった朝米両国が、新たな関係の歴史を記していくことを世界に告げた、歴史的な宣言となった。

朝鮮民主主義人民共和国は、核実験と大陸間弾道ロケットの試験発射の中止をはじめとする重大で意味のある措置を主導的に講じ、朝米の敵対関係解消のカギとなる信頼構築の第一歩を踏み出した。

しかし、この2月にハノイで行われた第2回朝米首脳会談は、われわれが戦略的な決断と大勇断を下して踏み出した歩みが、果たして正しかったのかについて、強い疑問を呼び起こした。そして、アメリカには心から朝米関係を改善しようとする考えがあるのか、警戒心を抱かせる契機ともなった。

わが方は、第2回朝米首脳会談で、『6・12朝米共同宣言』の履行のために必ず経なければならない必須の段階と経路を、朝米双方の利害関係に合致するよう設定し、さらに貴重で信頼ある措置を講じる決意を披歴し、それに対するアメリカの回答を期待していた。

ところがアメリカは、まったく実現不可能な方法についてのみ考えを巡らせて、会談場に訪れた。換言すれば、わが方と対座して問題を解決していく準備ができておらず、明確な方向も方法論もなかった。

アメリカは、そのような心づもりでは、百回、千回わが方と対座したとしても、わが方を少しも動かすことができないだろうし、自分らの利益を少しも得ることができないだろう。

私はこのような流れを、大変不快に思う。風が吹けば波が起きるように、アメリカの対朝鮮敵視政策が露骨化すればするほど、それに応じたわが方の行動も伴うことになる。

アメリカは最近、第3回朝米首脳会談を再検討しており、対話を通じた問題解決を強く示唆している。だが、新たな朝米関係樹立の根本である敵視政策の撤回からは、依然として顔を背けており、逆にわが方を最大に圧迫すれば屈服させるられると、誤断している。

アメリカが対話を通じて問題を解決しようとしつつも、わが方に対する敵対感を日増しに高潮させていることは、油によって燃えついた炎を鎮火するのと変わらない、愚かで危険な行動である。

アメリカは現在、第3回朝米首脳会談の開催について多くのことを言っているが、わが方は、ハノイの朝米首脳会談のような首脳会談が再現されることは歓迎せず、行う意欲もない。しかし、トランプ大統領が引き続き言及している通り、私とトランプ大統領の間の個人的な関係は、両国の関係ほど敵対的なものではない。われわれは依然として、きちんとした関係を維持しており、思いつけばいつでも互いに安否を尋ねる書簡も、やりとりすることができる。

アメリカが、正しい姿勢を持ってわが方と共有することができる方法論を見いだした時に、第3回朝米首脳会談を持ちかけてきたなら、わが方としても、もう一度は行う用意がある。しかし現在、この場で考えてみると、制裁解除とやらの問題のために切実な思いになって、アメリカとの首脳会談に執着する必要はないと思う。

いずれにせよ、今年の年末までは、忍耐心を持ってアメリカの勇断を待つ。だが前回のように よい機会を再び得ることは、明らかに困難だろう。

今後、朝米双方の利害関係に同様に応え、互いに受け入れ可能な公正な内容が文書に載ってこそ、私は躊躇することなく、その合意文書に署名するだろう。それは全面的に、アメリカがどんな姿勢でどんな計算法を持って出てくるかにかかっている。

明らかなのは、アメリカが現在の政治的な計略に固執するなら、問題解決の展望は暗いし、極めて危険だということである。私は、アメリカが賢明な判断を下すと期待し、やっとの思いで停止させた朝米対決の秒針が、永遠に再び動かないようになることを望んでいる」

重ねて言うが、金正恩委員長は、35歳の若い指導者らしく、正直に心情を吐露している。こうした点は、トランプ大統領と通じるところがあり、だからこそ互いにケミストリーが合うのだろう。

だが、トランプ大統領の周囲には、ペンス副大統領以下、強硬派がズラリいる。金正恩委員長の周囲も、強硬な朝鮮人民軍幹部たちが取り巻いている。米朝関係は、停滞期に入ったと見るべきだろう。

そうした中で、金正恩委員長があれほど切望していた元山葛麻(ウォンサン・カルマ)海岸観光地区の完成は、再び延期され、来年に遠のいてしまった。「自力更生」はかなり厳しく、その間に北朝鮮内部で何が起こるか分からない。

【今週の新刊推薦図書】

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銀行員は生き残れるか
著者=浪川攻
(悟空出版、税込み1,404円)

私は週に一度、明治大学で約300人の学生を相手に、東アジアの国際関係論を講義しているが、このところ学生たちが努めて行きたがらないのが銀行業界である。「未来がない」と言うのだ。
浪川氏の昨年のベストセラー『銀行員はどう生きるか』(講談社現代新書)を読んで納得した。金融業界を40年も地道に取材し続けている浪川氏にとって銀行員とは、「金太郎飴」だったのだ。世界的に銀行の個性化が求められる時代に、「金太郎飴」の集団は、没落あるのみというわけだ。
そこのところをさらに取材し、かつ解決の道まで導いてくれるのが本書だ。銀行も人間も同じで、AI時代には個性と創造力を磨かないと滅ぶということが、本書を読んでよく分かった。

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